機動戦士ガンダム00AGE 【劇場版ガンダム00×ガンダムAGE(四世代目)】 作:山葵豆腐
人類は愚かである。
それは地球の重力を抜け出して、真空の支配する宇宙へと飛翔した今でも、変わらない。
思想の対立、身勝手な保身、底知れぬ復讐心、それらにより争いは起きてしまう。人類はそれを知っているはずだ。だが、争いは止まらない。
知っているだけでは無意味であるのだ。
故にこの先も人類は無数の争いを起こして、その命を虚空へと四散させるだろう。
それでも今は、平和である。
平和を勝ち取ったのも人類なのだ。
だとするならば、人類は愚かであっても、最後には賢明な選択をする、ということを示しているのだろうか。
少なくとも、今回はそうである。
しかし、その賢明な選択をしたのは人類だけではない。
兵器である。
兵器を用いて人は争い、人は争いを止めさせる。
それができるのは健やかな心を持った〝子供〟と、人の願いを体現した兵器〝ガンダム〟である。
人類によって造られた〝ガンダム〟が、人類を導く。
導かれた結果、大多数の人類は真の平和を手に入れた。
未だに憎しみを抱く人類の魂も、いずれは導かれるであろう。
ガンダムによって、人と人との争いは、避けられるのであると。
そう願いたい。
次の世代を生きる無垢な子供の魂に、兵器を背負わせたくはないのだ。
AG201年、人類は確かな平和を手にしていたはずだった。
二年後。
憎悪によって宇宙が汚染されていた。
『―――我々の悲願は地球種の殲滅である』
『これは訓練のはずです! 学生の僕たちが―――』
『私が……〝みんな〟を守ります!』
悲劇を起こしたのは少女ではない。
ただ単に、少女は悲劇に巻き込まれたのである。
そう思わずにはいられない。
トリガーを握る少女の手は震えていた。肩まで伸びた金髪は無重力の中で揺れ、口から吐き出される息は荒々しい。
殺してしまった。
人を……。
眼前にて機能を停止している、深緑色の竜の形をしたMSの頭部からはみ出している人の手が、それを表していた。グシャグシャに潰れたコックピット、中に入っている人間が原型をとどめていないことなど、一目瞭然であった。
「はぁ……はぁッ! はぁッ! 死んで、ない、よ、ね……」
それでも少女は現実を受け入れられないでいた。この宙域にいる誰よりも、そのパイロットが死んだことを知っているはずなのに。
「あれは幻聴だったんだ……回線を繋いでいないのに、声が聞こえるはずがない!」
少女は己が操る黄色の装甲の訓練用MS、アデルの右腕を、その潰れたコックピットへと伸ばす。五十年も前の機体を訓練用に流用したもので、今の時代では珍しく頭部の半分を覆うバイザーを備えている。
「あ……ああ……あ……」
見なければよかったものを、彼女は見てしまった。アデルの右手が触れると、潰れたコックピットハッチは四散し、中から肉片が飛び出してきた。おそらくあれが頭で、あれが脚なのだろう。としか思えないぐらいに、めちゃくちゃに破壊されたもの―――。
要するに、人がミンチになっている状態である。
それが少女の錯乱する心を、さらに加速させる。心臓の鼓動はありえないほどに高まり、胃の奥から上昇してきた〝酸味〟が、青白く輝くサブモニターにぶちまけられた。
仕方がない。あの時は、みんなを守るのに必死で、相手が人間であることを忘れていた。そもそも、相手から攻撃を仕掛けてきたわけで、正当防衛だ。
しかし、少女が殺したことに変わりはない。
そんな少女の精神状態を無視して、メインモニターの右側から通信が入ってきた時のウィンドウが開かれた。そこには軍服を着た大人が、笑みを浮かべながら、少女を賞賛していた。
『訓練中に現れたヴェイガン残党から、学友を守るとは。さすが、救世主の娘、アリサ・アスノですな』
その日から、少女はMSに乗るのをやめた。
正確には、乗れなくなってしまったのだが。
【AGE本編終了後の年表】
164年 連邦軍とヴェイガンの間で停戦協定が結ばれる
165年 火星圏浄化計画開始 フェーズ1(EXA-DBを活用した、マーズレイ中和粒子の研究)
火星移民者、正式に地球へ帰還
170年 キオ、火星圏にて中和粒子の研究に参加
地球連邦、平和維持のために必要最低限の戦力しか持たないと宣言
セカンドムーン解体、ヴェイガンは連邦の火星圏浄化計画に参加
174年 フェーズ2(中和粒子の人体投与)
178年 フェーズ3(中和粒子の散布と、中和状況の確認。詳細な散布データをAGEシステムに送るため、ガンダムAGE-4が開発される)
179年 フェーズ4(大型粒子散布コロニーイヴァース1建造開始)
キオ、地球圏へ帰還、軍から退役
180年 エイナ・アスノ誕生
184年 アリサ・アスノ誕生
201年 フェーズ4完了、イヴァースシステムにより火星圏の浄化完了
夏、ヴェイガン解体、戦争は真なる意味で終結
AGEシステム、EXA-DB、ともに封印
フリット・アスノ死亡
戦争の終結を記念して、ブルーシアにガンダム記念館建造
冬、火星圏に謎の地球外金属体が飛来。連邦政府、外宇宙勢力の存在を確認
同時刻、何者かによってEXA-DBのシステムが破壊される。データの九割を喪失
202年 反政府勢力が活性化、各地で武装蜂起
それを機に、連邦政府は軍備拡張を宣言
203年 MSアカデミーの訓練生が、ヴェイガン残党による奇襲を受け、訓練生五人が死亡
当時、訓練生であったアリサ・アスノによって鎮圧される
205年 そして現在
※独自の解釈と、オリジナル設定が含まれています。