紅蓮の男   作:人間花火

9 / 52
9発目 紅蓮vs灼熱

「ケルベロスの頭はあと二つ。 もう二撃行けますかゼノヴィアさん」

「造作も無い――――が、私はいまのいままで一人で動いていたわけじゃないんだ」

「?」

 

疑問符をナインが浮かべた直後、ケルベロスの胴体が下から突き上げられる。 剣山地獄のように魔獣を串刺しにしたのは、数十本にも昇る剣の山だった。 黒いオーラで包み込まれた数多の魔剣が地面から勢い良く召喚されていく。

 

「木場!」

「木場さん!」

 

最後の一匹のケルベロスが消滅すると、代わりにその魔剣の主が降り立った。 金髪を揺らして魔の剣を構えたのは、木場祐斗。

 

「ほぉ…………」

 

にやけたナインの目の前にすたり、と着地する祐斗。 余裕の笑みで佇む紅蓮の男を見据える。

 

「まさか、教会と共同戦線を敷くことになるなんてね……。

何より、キミが共闘に賛同するとは思えなかった」

「…………ふっ」

 

そんな問いに目を瞑って小さく笑うナインは、無言で祐斗を通り過ぎた。 そして、振り向かずに口を開く。

 

「愚問というんですよそれ。 その方がややこしくなくていいんでしょう?

あなたの敵は……バルパーさんなのに、この期に及んで私も敵? いまこの状況で、あなた方にとってそーんな絶望的な三つ巴を望んで何になる?」

 

それとも……と、振り返って不敵な笑みを祐斗に投げた。

 

「悪魔側全員壊滅がお望みですか。 それはそれでなかなか…………」 

「キミがひどく捻くれた性格の人間だというのは解ったよ」

「おや、あなたの憎悪の矛先ほど見当違いではないと自負していますがね」

 

まぁいい、と手を振って話題を失くそうとするナインは、コカビエルとバルパーの方へ見据えた。

 

「あの通り、本丸はあんな感じに文字通り高見の見物。

まずは外壁からゆるゆると切り崩していくのがいいかと」

「賛成だよ。 バルパー・ガリレイやフリード・セルゼンには問い正したいことが山ほどあるからね」

「あげます」

「質問だけれど、フリードの左腕は一体?」

「先日私が貰いました」

 

その返答に不敵に笑んだ祐斗は魔剣を構える。 ナインは付け加えた。

 

「彼が片腕とはいえ、油断は禁物。 いろいろと体も弄っているみたいなので――――」

 

しかし、言おうとした瞬間、校庭の真ん中を巨大な光の柱が立ち上った。

目を覆いたくなる程の極大の光のオーラが校庭を……ついには学園を包み込む。

 

「まぶしっ――――なんだこりゃ!」

「む、この光は……あらら」

「――――――完成したぞ……ついに我が悲願が…………っ」

 

手で目を覆う一誠たちのわずかの視界には、崇めるように立ち上がっているバルパー・ガリレイの姿が映った。

その喜悦の表情は、波の高さの違いはあれど、己が趣味の絶頂に至ったときのようなあの――――紅蓮の男に似通ったもののようだった。

 

もっとも、バルパーの方が現在が最高潮の喜びであろうが。

 

「ああ、ついにできた……ふははっ」

 

三本のエクスカリバーを一つにする。 それは、古の大戦で七つに別れた真なる聖剣エクスカリバーにわずかではあるが迫ったということになる。

 

聖剣を病的なまでに愛するこの元大司教。 この男にとって、この偉業とも言える聖剣錬成はエクスカリバーを盗んだときの喜びよりもひとしおだ。

 

錬成を完了したバルパーは、まばゆく光るエクスカリバーを背にしてナインたちに体を向けた。

 

「逃げよ……逃げるがいい! この錬成の完了によって、コカビエルのかけた大地崩壊の術も同時発動した――――あと二十分もしないうちにこの町は崩壊するだろう」

「俺たちの町が…………崩壊!?」

「その術を解除するには、俺を斃さねばならん――――貴様らにやれるか?」

 

依然コカビエルは、フリードと葛西という厄介極まる壁に囲われている。

 

「もっとも、そいつらを斃さなければ話にならんのだが」

 

そんな中、バルパーによろよろと力無く近づく者がいた。 怪我をしているわけでもない、疲労困憊というわけでもないが、何かに絶望したように歩き近寄る。

 

「む?」

「…………バルパー・ガリレイ。 僕は聖剣計画の生き残りだ……いや、正確にはあなたに殺された身だ」

 

木場祐斗。 確かな憎悪を持ち、バルパーに歩き迫る。

 

「悪魔に転生してこうして生き長らえた――――僕は死ぬわけにはいかなかったからね。

僕に幸せはいらない。 その代わり、死んでいった同志たちのためにあなたの首を飛ばす」

「…………計画の生き残り―――なるほど」

 

バルパーが嫌らしく笑むと、葛西とフリードが前に立ち塞がった。

葛西は無表情にタバコの煙を吐くと、にやける。

 

「お伽噺の設定みたいだな。 まぁ同情するぜ兄ちゃん」

「キミらには感謝しているよ。 おかげで計画は完成したのだから」

 

祐斗は歯を食い縛りながら訝しげにバルパーを睨みつけた。

 

「完成? 僕たちを失敗作と断じ、処分したじゃないか」

 

本来、聖剣はエクスカリバーに限らず、因子の数値によって使用者が選出される。

因子とは、偶然か運命か、その人間が生まれ持った物のこと。

当然のことながらその因子の数値も人によって異なり、聖剣を扱うにはそのボーダーラインにまで数値が至らなければならなかった。

 

祐斗は因子を持っていたはずだった。 が―――

 

「キミたちの因子は、聖剣を扱えるまでの数値を現さなかった。 私は教会の錬金術師たちと三日三晩聖剣のことで議会を開いて話し合ったよ。 どうにかして因子の数値を人工的に上げることができないかとな。 そこで、一つの結論に至った」

 

無表情のナインを横目で見たバルパーは、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「被験者から因子だけを抜き出す! そして――――」

「結晶化。 その因子を、ある程度適性の高い者の体内に挿入。 これを繰り返せば、人工的に何人もの聖剣の適性者を作り出せるということ……紫藤さんもそれに該当しますかね確か」

「その通り」

 

嬉しそうに言うバルパーだが、ナインは馬鹿らしいと言う風に地面に唾を吐いた。

 

「私はそんな作業的な計画が嫌で嫌で仕方なかったんですよ。 『つまらない』、これに尽きる。

抜いて殺して…………足して、その繰り返し。 まるで自慰のように同じことの繰り返し、つまんないですよも~」

「なぜそこまで理解しておいて、お前は他の錬金術師たちよりも聖剣に対する情熱が冷めているのだ! 聖剣の素晴らしさがなぜ解らない!」

「…………」

 

祐斗はナインを見詰めた。 薄笑う紅蓮の男。 台詞からして聖剣計画に一枚噛んでいた男のようだが、どうにも様子が変だ。 バルパーとは馬が合わなかった…………? 祐斗がそんな疑問符に包まれる。

 

「そもそも私が教会に入る前提の理由からしてあなたたちとは話が合わない」

「なにぃ!?」

 

ナインは自分の手の平をすりすりと擦り始める。

 

「………………ああ、いい形だ」

 

いつからかこの錬成陣がナインの唯一の相棒だ。

剣士が刀を大事にするように、武闘家が拳を大事にするように。

 

この男も、己が両手に刻まれた紅蓮の錬成陣を愛で、日ごろから手入れを欠かしていない。

だからこそ訴えたのが、教会への愚痴だった。

 

「充実した研究施設。 錬金術の技術を学ぶならここしかないと思って入ったヴァチカン直属の錬金術協会。 ああ、なんのことはない、待っていたのはただの奉仕活動。 蓋を開ければ年がら年中せーけんせーけん言ってるバカばかり。 まったく勘弁して欲しかったですよ」

 

だから、とナインは両手を天にかざした。

 

「もう、どーでもよくなってしまってね。 ぜーんぶ吹っ飛ばしてスッキリした――――あとはなるようになれでしたよ」

「…………ぐッ、く、くそっ! この欠陥人間めっ!」

 

激怒するバルパーだが、にやにやと笑みを浮かべながらナインは肩を揺らす。

しかし、平静を装うようにバルパーはフリードに目配せをして言った。

 

「まぁいい。 目障りな貴様も、被験者も、悪魔も、皆、この新生したエクスカリバーで殺し尽くしてくれる。 フリード!」

「はいな!」

 

前に出てくるフリード。 先日ナインに吹き飛ばされた左腕は無いが、右手だけでも軽々とそのエクスカリバーを素振って見せた。

 

「まぁずは、テメェから逝っちゃいますか、爆弾野郎――――と? どけよ葛西のおっさん、あれは俺っちの獲物だっつの!」

「おじちゃんに見せ場くらい作ってくれてもいいじゃんか」

「はぁ!?」

 

そんな呑気な葛西の発言に、フリードが彼の胸倉を掴み上げる。

 

「おいおい……」

「あいつはな、あいつは……あいつだけはぶっ殺す!」

「おーい、フリードくん?」

「俺の左腕ぶっ飛ばしやがったんだぞ、譲る訳がねぇだろうが! おっさんはバルパーのじいさんの護衛だろ、引っ込んでろや!」

「聞いてねぇし」

 

傷つけるのは楽しいが、自分が傷つくのは面白くない。 殺すのはいいが、殺されるのは勘弁なフリード・セルゼン。 悪魔は絶対に殺すが、自分のプライドを傷つけた奴なら人間だろうと万倍返し。

 

はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)、元ヴァチカン直属の少年神父は、この思想でいままで戦ってきた。 ゆえに譲れない――――。 しかし、その瞬間フリードの視界がブレた。

 

「――――落ち着けよクソガキ」

 

ゴシャァ! 地面に顔面がめり込む。

無造作にフリードの顔が地に落ちた。

 

「が――――はぁっ――――おぶぁぁ…………!」

 

胸倉を掴んでいた手は自然と離れる。

後頭部を掴まれていたことに気づかなかったフリードは、そのまま校庭の硬い地表に顔面からモロに打ち下ろされていた。

 

「な――――仲間……じゃないの…………っ!?」

「………………あのおっさんも、フリードと同じようにイカれてるってことかよ!」

 

彼の周りだけに蔓延する煙の幕。

その煙の中でにやけた葛西は、同じように笑むナインにゆっくりと歩いて向かって行く。 まるで名残惜しそうに煙が葛西の体に纏わり付き、切らせることを許さない。

 

「よ、兄ちゃん。 お前、おじちゃんと同じ匂いするんで、ちょっと強引に対戦カードを組ませてもらったけどよ、いいよな」

「………………」

 

にやけた顔をしかめさせたナイン。 片手を神父服に突っ込んだまま、目を細めて目の前の中年男を見据えて口を開く。

 

「…………なるほど」

 

爆弾魔 VS 放火魔――――開戦。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ―――あいつも葛西のおっさんもうっぜえ!」

 

ボコォっと地面に埋まっていた自分の顔を引き抜くと、校庭の中心にある三本を一つに統合された聖剣エクスカリバーを手に取った。

 

「あーイラつく。 でもま、素敵仕様になったエクスなカリバーちゃんを使えるんだし、いいか」

「フリード・セルゼン。 お前もまた、同志たちの因子を取り込んだ。

作られた人工聖剣使い。 分かっていてなお、お前は悔い改めようともしない。

聖剣計画について、同志たちについて、もう少し話してもらう…………!」

 

こちらでも、再び戦闘が勃発した。 闇夜の中の月が照る中、木場祐斗とフリード・セルゼンの、そしてナイン・ジルハードと葛西炎条が火花を散らし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナインvs葛西――――校庭を外れて体育館傍まで迫る戦火は、普通の一対一とは思えないほど範囲は拡大していた。

爆弾と炎がぶつかり合う。 紅蓮の爆風が炎を阻み、逆も然りだった。

 

そこに、炎上する体育館入口から躍り出て来たのはナイン。

赤いスーツの上着を靡かせるのを止め、立ち止まって片膝を地に落とす。

地面に片手を突き、ボコボコと葛西の足元に爆発の錬金術を伝道させた。

 

―――――爆発。

 

「ヒュー、あっぶねぇ」

 

しかし爆風を軽やかに避けるさまは、ナイン同様に軽業師のごとく。

着地した直後にその地面も盛り上がっていくのを嬉々として見て更に身を引いていく。

 

「火山の噴火かよ、おっかねぇ――――じゃこっちもそろそろ燃えるかね」

 

身を引いた矢先、葛西の手が燃え始める。 同時にくわえていたタバコも、煙ではなく火を発し始めた。

 

「いくぜ――――」

 

煙を切って炎の軌跡を描きながら一直線にナインに肉薄した。 火を纏った拳が轟と横薙ぎに振るわれる。

「む、熱い」などと当然なことを呟いて葛西の火拳を受け流したナイン。 そのまま地面に向かって軌道を逸らした。

 

「ふはっ、ワビサビが微塵も無い。 私は日本人というのを少し誤解していたみたいですね」

 

刹那に、ズゴバァッ、と地面が根こそぎ吹き飛んだのだ。 圧倒的な火力で振るわれた炎の拳は物凄いスピードで大気を引き裂いて地面に着弾後、エクスプロージョンを引き起こして地表に大きな爪痕を残す。

 

黒焦げに抉られた大地を横目に、ナインは苦笑いをした。

 

「あなた、いったい何者なんですかね。 見たところ魔法でも魔術でも無いようだ……」

「一応、そういう能力だ――――神器でも無いぜ。 あとは――――」

 

自分で考えな、と再び手を薙いで炎の鞭を飛ばしてくる。 鞭のようにしなってくる炎の鞭打。

 

「ふはっはッ――――楽しい!」

 

笑いながら空転して炎の鞭を避けるナイン。 傍にあった体育館は、二人の戦いで全壊状態に瀕し始めていた。

 

 

 

 

 

 

木場祐斗vsフリード・セルゼン――――改めて聖剣計画の真実を知った祐斗は、よろよろと歩を進める 。

先の話はナインの話に逸れてしまったため、祐斗は改めてバルパーに問い正した。

 

その後すらすらと自分の悪行を悪行とも思わないようなバルパー・ガリレイの態度。

聖剣への偏愛と狂った研究の一端を語られ、祐斗は絶望を知る。

 

「これは聖剣計画で作られた時のものだ。 三つほどフリードに使ったため、最後の一つになってしまったがね」

 

そう言いながら、バルパーは手に輝く球体を取り出す。 ダイヤモンドのように輝く因子。 あの中に同志たちの因子が集約されていると思うと、悲しさとともに怒りがこみ上げてくる。

 

そんな祐斗にフリードは自慢するように口を開く。

 

「ヒャハハ! 俺以外の奴らは途中で因子に身体が付いていけなくて死んじまったけどな! そう考えると俺様かなりスペシャル?」

「この因子の結晶は貴様にくれてやる。環境が整えばいくらでも量産できる段階まで来ている」

 

バルパーはそう言って吐き捨てるように、結晶を祐斗の足元に投げつけた。 ころころと儚く転がってくる因子の集合体である結晶に祐斗は震える手を伸ばす。

 

共に神を信じて奉仕してきた信徒時代。 どんな苦行にも耐え、計画の際はこれも主のためだと言い聞かせていた過去の自分。 それを思い出し、消えていく。 同志も、消えて行った。

 

「みんな……」

 

祐斗の頬を、涙が伝っていく。 

同志たちの集まった結晶体を拾い上げると、一滴の涙が同志たちに滴った。

 

結晶にある同志たちの魂が、祐斗の周りに現れる。

 

『聖剣を受け入れるんだ―――』

『怖くなんて無い―――』

『僕たちの心はいつだって―――』

 

「―――ひとつだ」

 

光り輝く祐斗の体。

祐斗は意を決したようにバルパーに向かって言い放つ。

 

「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕達が生まれかねない」

「ふん、研究に犠牲はつきものというではないか。 お前も元信徒なら、それが神に対する貢献だとなぜ解らない」

 

その発言に、祐斗も遂に堪忍袋の緒が切れる。 そのとき、後ろから大切な仲間たちの声援が送られてくる。

 

「木場ァァアァァッ! フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けェェエェェ!」

「祐斗! やりなさい! 自分で決着をつけるの!」

「祐斗くん、信じてますわよ!」

「……祐斗先輩!」

「ファイトです」

―――温かい。 祐斗は背中に仲間の熱を感じながら、自身の異変を受け入れていた。

しかし、不思議と驚かない。

 

「――――僕は剣になる」

 

持っていた魔剣を黒い気とともに光のオーラで輝かせ始める。 聖は光、魔は闇。 本来交わることの無い二つの存在が、混じり合う。 それは、世界の均衡が不安定であることを証明し、さらにその流れに逆らうことを意味していた。

 

「―――禁手(バランス・ブレイカー)、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めると良い!」

祐斗がフリードめがけて走りだした。 金属音が鳴り、フリードのエクスカリバーと鍔競り合う。

が……フリードのエクスカリバーを覆うオーラが祐斗の剣によってかき消されていくのを見て、瞠目した。

 

「ッ! 本家本元の聖剣を凌駕すんのかよ! その駄剣が!?」

 

驚愕の声を出すフリード。

量産する程度の――――数と速さに強さを任せきりの神器に、世界で唯一のエクスカリバーが劣る? そんなバカな。

 

「真のエクスカリバーだったら勝てなかっただろうね―――でも、魔に堕ちた偽りの聖剣では、僕と同志たちの想いは絶てない!」

「チィ!」

 

フリードの体が宙を無軌道に動きながら迫ってくる。

――――天閃の聖剣の能力。

だが、祐斗は四方八方の攻撃を全て防いだ。 

 

「なんでさ! なんで当たらねぇぇぇぇぇぇ! 無敵の聖剣さまなんだろう! 昔から最強伝説を語り継いできたんじゃねぇのかよぉぉぉぉ!」

 

フリードが焦りの影を見せてくる。 が、また追加の聖剣の能力を使ってくる。

 

透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』の力。

しかし、冷静さを取り戻している祐斗は、難なくそれを打開する術を見出した。

殺気の飛ばし方を変えなければ、いくら刀身がみえなくても見えるのだ。

 

透明な刀身と祐斗の剣が火花を散らす。フリードの不可視の剣戟の攻撃をすべていなす。

 

「――――ッ」

 

フリードは目元を引きつらせた。

 

「そうだ。そのままにしておけよ」

 

直後、横殴りにゼノヴィアが介入してきた。 静観していた彼女だったが祐斗の横を走り抜けて参戦していた。

彼女は破壊の聖剣を地面に突き立て、右手を宙に広げる。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

空間が一瞬いびつにたわむ。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する―――デュランダル!」

 

青い刀身が姿を現すと、それを手に取るゼノヴィア。

彼女の持つ破壊の聖剣とは比較にならない大きさの聖剣を見て、バルパーは目を見開いて焦燥した。

 

「貴様! エクスカリバーの使い手ではなかったのか!」

 

デュランダルの登場にバルパーばかりかコカビエルもさすがに驚きを隠せない。

 

「残念。 私は元々、聖剣デュランダルの使い手だ。 このエクスカリバーは兼任していたにすぎん。 私は人工聖剣使いと違って、天然ものだよ」

 

「てっきり服役中のナインに聞いていたと思ったのだがな」と不敵に笑うゼノヴィア。

当時、爆破事件のナイン粛清に加わった際、破壊の聖剣ではあの爆発力に勝てないという教会上層の判断で、そのときだけデュランダルを抜いていた。 もっとも振ることは一切なかったが、ナインはそれを見ていた。

 

「そんなんアリですかぁぁぁぁ!? ここにきてまさかのチョー展開! クソッタレのクソビッチが! そんな設定いらねんだよぉぉぉ!」

 

フリードがゼノヴィアへ向けて斬りつける。 懲りずにも、再びラピッドリィの力で押し返そうとする。

 

「甘い」

 

たった一薙ぎで、聖剣が砕かれる。 根元から叩き折られたエクスカリバーは宙を舞った。

 

「マジかよ! 伝説のエクスカリバーちゃんが木端微塵!? これはひどい!」

 

殺気の弱まったフリードに祐斗は一気に詰め寄った。 聖魔剣を受けようとするフリードだが、もうすでに勝負は決している。

得物であるエクスカリバーを失ったフリード。 しかし、なおも執念深く持ち前の光の剣で防御の姿勢を取る。

 

「マジか…………こんな奴に…………!」

「――――見ていてくれたかい? 僕らの力はエクスカリバーを超えたよ」

 

フリードは斬り払われる。 光の剣とともに、一刀のもとに祐斗に斬り伏せられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利を確信した祐斗。 清々しい気分に浸る彼は、憑きものが落ちた晴れやかな表情をしていた。

しかし、そんな余韻も束の間だった。

 

「うっ――――?」

 

突如発生した突風に、祐斗が片手で顔を覆う。

 

気絶したフリードが強烈な風で吹き飛ばされる。 折れた聖剣もその爆風で吹き飛んでいってしまう。

何事かと目を向けた祐斗とゼノヴィアは、土煙の中で拳を競り合わせる男が二人いることに目を見開いた。

 

「ナイン…………と、放火の男」

 

燃え盛る炎の拳に触れぬよう、腕を掴んで止めるナイン。 葛西も同様にナインの腕を掴んで揉み合っている。 綱引きのような膠着状態を維持している二人は、不敵に笑い合う。

 

「すげぇよ兄ちゃん。 お前マジで未成年? 動きが半端ねー」

「…………花火になってくれなくて私はいい加減焦れてきました」

「そりゃどうもおらッ」

 

全身を燃え上がらせる葛西から離脱して後方に飛ぶナイン。

 

「ナイン!」

 

膝を突いて止まるナインは、ゼノヴィアの声に耳だけ傾けた。

 

「やあ、ゼノヴィアさん。 そちらは終わりましたか」

「ああ、この通りな……と言っても、フリードもエクスカリバーも、お前が吹き飛ばしてどこかに飛ばしてしまったから分からんと思うが」

 

それを聞いて不敵な笑みを浮かべるナインは、立ち上がって葛西に向く。

 

「予想以上。 あれは人間じゃないですよ」

「体育館を一発で丸焼けにするほどだ、尋常ではないことは遠目からも確認できた」

 

しかし、その人外級の人間を相手に立ち回るお前も大概だろうという言葉をゼノヴィアはすんでのところで呑み込んだ。

いまなお不気味な煙に包まれている葛西炎条に視線を向けたが、突然、バルパーが合点がいったように叫び始める。

 

「そうか、分かったぞ!」

 

祐斗に向いて叫ぶバルパー・ガリレイは、嬉々として話し始める。

 

「聖と魔、相反する力が交わることなど本来有り得ないこと! だが、魔だけでなく、聖の流れもこの世界で均衡が崩れているとしたら説明が付く!」

「おい、ナイン!?」

 

突然、バルパーのもとに歩き始めたナイン。 息を吐きながらスタスタとバルパーの目の前まで行く。

その不可思議な行動に、訝しげにする葛西が反応する。

 

「行かせん!」

 

走り出すのを見て、ゼノヴィアは舌を打った。

 

「速い!?」

「そっちは遅いぜ、嬢ちゃん」

「ナイン、背を向けるな、行ったぞ!」

 

抜けられた。 素人に劣る鍛えられ方をしてないはずだが、ゼノヴィアは一瞬にして葛西に横を通過することを許してしまう。

 

「何をしようとしているのかしら、ナイン・ジルハードは……!」

「でも、尋常じゃない雰囲気というのは確かです!」

 

リアスとその眷属たち全員で葛西を止めるべく駆け始めた。

 

「古の戦争で、魔王だけではなく――――な、なんだ貴様」

 

跪くバルパーは、自身の目の前にナインがいることに戸惑う。 その後、ナインは薄笑って肩を揺らした。

 

「やはりあなたは優秀だ」

 

その直後、自分の肩に無造作に置かれた両手を見て瞠目した。

 

バルパーは、この行動の意味をいち早く理解する。

鼓動が高鳴った。 心臓が飛び出そうなほど嫌な悪寒に囚われる。

 

ナインの両手を振り払おうとする――――だが、どんなに身をよじろうとこの紅蓮の手から離れられない。

彼の両腕を掴んでバルパーは怯えの表情で暴れた。

 

知っているのだ、バルパーは。 この男の真の恐ろしさは知っている。

唐突に仲間をも爆殺するような残虐なところが恐ろしいのではない。 残虐な行為を、残虐とも思わないこの男の狂った感覚が恐ろしい。 いや、おそらくは。

 

――――それすらも自覚しているが、楽しすぎて止められないのだ。

 

錬成する際、この男の瞳は遊ぶ子供のそれに変わる。

 

「――――ぐっう、クソっ! 離―――せっ…………!」

「やはり、ただの建物や地面では圧倒的に硫黄が足りないのです。 困ったものだ、色々な物質を含んでいる人体の方がよほど良い花火になる」

 

もう、すぐ背まで迫ってきた葛西の炎の拳に気にすることなくナインは語り続ける。 嘆くように、しかしこれから起こるとてつもなく楽しい自分の趣味を思い浮かべ――――。

 

「葛西炎条――――彼の炎は普通とは違うんですかね。 超能力……といったものを邪推してしまうのですが、火力も自在だ、正直わからない。 うーん、しかし悲しいことにこちらは錬金術。 材料によって爆発力が左右される――――非常に残念だ」

 

そう言った瞬間、葛西の炎が轟音を伴って振るわれる。 背を向けるナインは目を瞑ってほくそ笑んだ。

 

「私の役に立っていただけますね? バルパーさん」

「余所見すんなよ、兄ちゃん!」

「クソっ――――」

「朱乃! 小猫とイッセーも祐斗も、行くわよ!」

「分かっていますわ部長!」

 

朱乃がバチバチと手元で雷を迸らせると、それ以外のリアス眷属たちが走り出す。

そしてゼノヴィアも、いままさに葛西の拳が落とされようとするナインのもとまで、全速力で駆け出したのだった。




ナインの両手に刻まれた陰陽または水銀と硫黄の錬成陣。 あれは片手でも錬成可能ですが、やはり手パンして錬成した方が威力は増し増しです。 あまりそういった威力の描写はしていませんが……。

最近、ハガレン一期が夕方やってて作者歓喜。 スカー戦はよ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告