紅蓮の男   作:人間花火

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誤字脱字、ございましたら。  ごめんなさい。


47発目 鉄の意志

覇龍。 通称”ジャガーノート・ドライブ”

これは赤龍帝と白龍皇、同二天龍に備わる神器(セイクリッド・ギア)の力。

 

「イッセー!」

「イッセーくん!」

 

曰く、あれは技などではなく暴走状態。 理性が消し飛び、ドラゴンの破壊本能が全面に押し出されて見境なく暴圧を奮うようになる禁じ手である。

 

「ぐぎゅああああああッ!」

「イッセー! そんな…………」

「僕たちの声が聞こえていないのか…………っ!」

 

とはいえ、獣の方がまだ可愛かろう。 一誠のいまの状態は仲間の声も届いていない。 怒りで我を喪い、周囲を破壊していく災害(ジャガーノート)と化している。

 

「暴走はともかくとして、ヴァーリさんにもこの力があると考えた方が良いですね…………」

 

まったく二天龍は天井知らずだ。

そんな状況を鼻で笑うナインは、四足で地に立つ獣と化した一誠にゆっくりと向き合った。

 

「とりあえず話しかけてみますか……お~い」

「ぎゅあぁぁぁぁぁぁッ!」

 

当然だ、いまの一誠は正気を失っている。

そんな分かり切っているはずのことを試している。 理性的に分析しようとするナインらしさが出ていると言えるだろう。

 

「あ~…………ダメだこりゃ」

 

通じない。

 

仕方ないなと、頭をがしがしと掻いた。

まさに一触即発の一誠に言葉は通じない。 ただ一つ言えるのは、彼はナインしか見ていないことだ。

 

「…………正気を失おうとも標的は嗅ぎ分けますか」

 

仲間だから危害を加えないのではない、目の前に標的が居るからそれに的を絞っている。

正気だったときの最後の思考が、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に働きかけてナインを狙っているのだ。

 

「会話ができたら面白そうだったんですけどね。 ハァ…………この分だとドライグさんも引っ込んでしまいましたか…………」

 

残念そうに首を振りつつ息を吐く。 獣どころか、災害には言葉は通じない。

やるしかないか、と意識を戦闘へと切り替える。

 

両腕をだらりと弛緩させる…………すると、怒れる赤龍の眼が怪しく光った。

ナインのだらしなく緩みきっている腕。 だが、あの赤い龍はそこにこそ狂気の源を感知したのだ。

 

――――あの両手は普通じゃない。

 

不気味なほどに鎮まり返る神殿。 先ほどの咆哮や奇声が嘘のように消える。 しかし、これはここに居るすべての者たちに、嵐の前の静けさを想起させた。

 

「本当の……獣みたいだ」

 

つぶやいた祐斗の手は汗を握り、脂汗が噴き出ている。

剣呑そのものが空間を支配していく。

 

「―――――もはや是非も無し」

 

先に動いたのは―――――ナインだった。

 

ナインと一誠、両者をピンと張り詰めていた糸が完全に切れる。

 

グバンッ! 足元の瓦礫を踏み砕き、舞い上がらせる。

同時に両手より迸る錬成の稲妻――――本来ならば対象に触れることで錬金術は初めてその力を発揮するが、この男の錬金術はもはや違った。

 

両手を繋ぐように走る電光は、舞い上がった瓦礫の一部に流れていく。

 

手も触れず、迸る雷が対象物を打つ。 この一連の動作は間違いなく錬金術の法則のそれを逸脱していた。

一種の超能力的なものに近しいものがある

 

「そらっ!」

 

そのまま重力に従って落ちる瓦礫を一誠に向かって正面に蹴り飛ばした。 それは一個の爆弾と化し、見えぬ導火線に火を付ける。

しかし――――

 

「ぐぎゃぁぁぁぁぁおッ!」

 

赤龍帝は、目にも止まらないスピードを持ってそれを躱した。

獣の身体能力は未知数である、人間の動体視力ではどうあっても追いつけない。

 

「避ける気はあるのかい、少しやりづらいですね」

 

錬成爆弾を避けざま、上下の咢で突進してくる怪物。 それを間一髪で回避したナインは歯を食い縛って踏み止まった。

 

「ぎゅああああああああああああッ!」

 

一方的な突進攻撃。 ナインの周囲を文字通り超高速で駆け続け、一拍ごとに攻撃を加えていく。

そこに人間的な動きは一切なく、獣のごとく速度を落とさずに、意志あるサイクロンを形成していた。

 

「…………!」

 

交差させた腕で目元と顎を守るナインに降り注いでくる衝撃。

”錬気”の付加効果で鋼鉄の防御を有していると言っても、この怪物の物理攻撃は強力だ。 そんなものに、いくらナインでも真正面から肉弾戦を挑むわけにはいかなかった。

 

しかし、一つ一つの衝撃で体を揺さぶられるなか、腕の中でナインはつぶやく。

 

「確かに、獣は計り知れないほどの身体能力を持っています。 ただまぁ言わせていただきますと…………」

 

そう言い、ふっ――――と防御していた腕を解除した。 背後から迫り来るドラゴンの咢は、ここぞとばかりにナインの喉元を噛み千切ろうと襲い掛かった。

 

「…………短絡」

 

ごんッ―――――!

 

その直後、突っ込んできたであろうそれを、なんとナインは素早く振り向き、思い切り蹴り飛ばしたのだ。 その際インパクトの瞬間、みしりという嫌な音は強靭を誇るはずの赤い鎧からしていた。

 

「獣の本能などこんなものだ。 すぐ釣られ、無駄な動きも多い」

 

あの暴風のような高速移動をする赤い龍に蹴りをねじ込む荒唐無稽。

壁を破壊しながら吹っ飛んでいく赤い鎧を目に止めたナインが、忌々しそうに舌打ちをした。

 

「でかい図体でよく動く…………少しは落ち着きなさい」

 

いまの一誠は理性と引き換えに膨大な力を手にしている。

だがそれがどうした、そんな些細な事で怯む要素は皆無である。 そうナインは目で語っていた。

 

戦っている二人以外では目視できないほどのスピードバトルであったが、これにより可能となった。

ピンボールのように蹴飛ばされた一誠は、やや空中ですぐに態勢を立て直し、四足で地面を噛む。

 

「ぎゅ…………あああ、ぐぎゅああああああッ!」

 

先ほどの一撃で覇龍状態の一誠の警戒レベルが上昇していく。 いや、理性が無いいま、それは本能からの警報だった。

 

――――ただの力押しでは、この男には勝てない。

 

「ぎゅ、ぐあああああああああああッ!」

 

咆哮で再び地面にひびが入る。 音にすら殺意が篭った衝撃を受けながら、ナインは目を細めていた。

 

「会談でヴァーリに激怒したとき以上だ…………!」

 

戦場よりやや離れた場所。 祐斗がそうつぶやくと、すぐにリアスたちのもとに駆け付けた。 そして叫ぶ。

 

「―――――『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』!」 

「祐斗ダメ! まだイッセーが!」

「いまは危険です、部長! このままではあの二人の戦いに巻き込まれます!」

 

グレモリー眷属たちの周りを次々と囲んでいく祐斗の聖魔剣。 彼の判断は正しいのだろう。

あの戦場とここは距離が近すぎる。

 

離れればいいと思うだろうが、この状況で聖魔剣というバリケードから抜けたらどうなるか。

運が良ければ離脱に成功するだろう、だが、余波に当たれば一発アウトだ。 それほどいまの兵藤一誠は危険域の中心となっている。

 

ゆえに、ナインと一誠以外の者たちはそこから二人の戦いを覗き込むことしかできなかった――――そして、終わる事を願うしか…………。

 

「イッセーは、アーシアが居なくなったのはナインの所為だと思っているのよ…………」

「…………部長は違うんですか?」

 

祐斗の問いにリアスが首を横に振った。

 

「分からないわ…………! 祐斗は、ナインがアーシアを殺したと思う?」

「…………シャルバ・ベルゼブブを爆風だけで吹き飛ばすほどの威力です。 巻き込まれたと考えるのが、普通だと思います」

 

ナインは紅蓮の錬金術師。 目の前に資源があれば爆弾へと作り替えて吹き飛ばす。

あの男の前では、鉄血すべて紅蓮に消える。

物も人も、そしてそれは悪魔ですら例外ではない。 それは先刻、ディオドラが身を持って証明してしまった。

 

ナインの錬金術は、種の垣根すら超えて来たのだ。

 

「ただ一つ言えることは…………いまのイッセーくんは、誰にも止められない」

「…………ナインさんが斃れない限り、イッセーくんはあのままということですの!?」

「それは…………」

 

朱乃が縋る様に訊くと、祐斗が目を逸らす。

その彼の反応に、ハッとして黙り込んでしまった。 祐斗もこの状態の一誠を知らない。

ここにいる誰もが、憶測でしかいまの状況を計れないのだ。

 

「いったい、どうすれば…………」

 

二人の戦いを見守る。

自分たちにはこれしかできない。 すると、リアスが静かに声を上げた。

 

「なっ、あれは…………」

 

見ると、ナインと対峙する赤龍帝の翼が眩しく光り輝いたかと思うと、聞き慣れたドライグの音声で有り得ない力が引き出されていた。

 

Divid(ディバイド)Divid(ディバイド)Divid(ディバイド)Divid(ディバイド)Divid(ディバイド)!!』

 

白龍皇ヴァーリの半減の力を、赤龍帝である一誠が使っている。 かつて会談でヴァーリと戦った際に一時的に取り込んだ力であった。

それはナインが駆動させる錬金術を徐々に半減させていく。 赤龍帝の真下から突き上げてきた紅蓮の波動もその力を失う。

 

「…………」

 

会談でのナインは、赤白の戦いが始まる前にその場より離脱してしまっている。

赤龍帝である一誠が、白龍皇の力を行使したことに驚くのも無理は無かった。

 

「…………なるほど、これは面白い」

 

己の形成する爆発の錬金術を無効化されてなお笑いは絶やさない、それはなぜか。 楽しんでいる……わけでは無かった。

 

「…………フェンリルは理性ある獣でした。 いままでの私の敵中、もっとも恐れを抱いた相手です」

 

再び錬成を行使すると、今度は赤龍帝の周囲を囲むように爆発の火柱が立ち昇る。

それでもやはり、半減の力が機械的な音とともに働いている限り、その火柱も瞬く間に消し止められてしまう。

 

「しかし、あなたから恐怖は感じない」

 

――――ごりッ。

白龍皇の力を最大限に使用し、爆発の威力を無効化させることに成功したその直後、赤い鎧の背中に、いつの間にか巨大な砲身が突き付けられていた――――回避不能。

 

「ぎゅああぁぁ―――――!」

 

鋼鉄の戦車が、紅蓮の火を噴くと同時に破滅の一撃を撃ち出した。

無距離で直撃した赤龍帝の体は、その赤い鎧を粉砕させながら一直線に吹き飛んでいく。

 

――――ティーガー戦車。 ナインが作り上げた生ける鋼鉄。 その破滅の砲が、時間差でもって赤い龍の背中を撃ち抜いていたのだ。

 

立ち上がりながら修復していく赤龍帝の纏う鎧。 だが、ダメージは確実に加算されている。

単純に、暴走状態であるゆえに痛みをさほど感じていないのだろう。

 

「ぐぎゃああぁぁぁぁぁあッ!」

「見ているこちらが痛々しい」

 

ついには戦車に掴みかかる赤龍帝。 だが、その戦車には感情は無く、恐怖も抱かなければ怯みもしない鋼鉄の戦争兵器だ。

砲塔を素早く旋回させ、赤龍帝の横面を弾き飛ばす。 そして照準、砲撃。

 

少しずつ減っていく赤龍帝の体力、力。 感情があり、考える頭があれば戦車など目もくれず奏者であるナインを狙っていただろう。

 

だがいまの一誠は、破壊しか頭に無い――――そして、鋼鉄の虎と戦っている赤龍帝に、ナインも素早く接近していた――――。

 

スっ。

 

折れぬ砲身に躍起になっている赤龍帝の足に、その手は触れた。

 

「残念です。 以前のあなたの方が、戦っていて私は楽しかった――――ヒトには感情がありますからね」

 

流れていく紅蓮の術理――――編み込まれていく紅蓮の錬金術。 ドラゴンだろうと、力の塊だろうと、その肉体に血が流れている限り逃れられない「爆」の一文字。

 

「ぎゅあああッ!」

 

それに対して警戒はしていた、だが、頭が働いていない――――遅すぎる。

 

錬金術はもう成った。

素早く離脱したナインは、意識を鋼鉄へと向けて指令を下す――――Feuer(フォイア)、と。

 

ゴォンッ!

 

刹那に、二度目の砲撃で吹っ飛ばされる一誠。

それでも立ち上がり、砕けた鎧を再生していく。 力ある限り、このドラゴンは止まらない。

 

しかし、すでに異変は訪れていた。

 

再び立ち上がろうと赤龍帝は足に力を込める――――だが。

 

「があぁぁぁあぁあぁッ!!」

 

片足が一気にぐにゃりと歪み、持ち主の重みで潰れ崩れた。 再生しようにもできない、修復不能。

元に戻すには、錬成の仕組みを理解しなければ戻せない。 これも、ナインの力によるものだ。

 

――――私を理解できなければ、その錬成を解くのは不可能だ。

 

「ぐ…………ぐるるるる…………!」

 

ギロリと、鎧越しに光る眼光。 それはナインに向けられていた。

 

「…………」

 

その鋭い視線に気づいたナインは、肩を揺らして笑う。

 

「あなたの足は、いまゆっくりと大気中の酸素を吸収しています。 それはもうゆっくりね」

 

しかし、そんなことも構わず、赤龍帝は翼で飛び上がる。 足が使えないなら翼がある――――そう言わんばかりにナインに突撃していく。 しかしその攻撃も、ナインにはすでに読まれていた。

 

「片足を失って私を捕らえられると思っているのですか」

 

片手をポケットに入れたまま、その攻撃を軽く横に受け流されてしまう。

飛ぶには翼だけで事足りる。 ならばそのコントロールもすべて翼で賄えるかと言われれば実はそうでもない。

 

片足を失っているのだ、方向感覚が狂い、いつも通りの飛行ができないのも当然だった。

攻撃を躱され、着地した赤龍帝。 瞬間、その覚束ない足に更なる追い討ちがかけられる。

 

ごしゃあッ!

 

「ぎゅ…………ぎゃあああああああ、つあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

回避行動から瞬時に攻勢へと転じていたナインの踵落としが足上に落とされる。 鋼鉄と成ったその足技は、さながら巨大な釘打ちである。

 

苦悶に沈みつつある赤龍帝に、すかさずその魔手を伸ばした。

 

「次は翼…………」

 

瞑目しつつ、物憂げな表情で、赤龍帝の片翼を再び爆弾へと作り替えてしまう。

真っ赤で雄々しかったドラゴンの翼。 その片翼は、闇に融けるようにどす黒く染まっていく。

 

黒色火薬の錬成は、対生物に最適な錬成法ゆえにナインは重宝している。 

木炭、硫黄、酸化剤として硝酸カリウム。 それらを混合して成る火薬の一種。

 

人間に限らず肉体を持つ生物には、爆発物となり得る元素を持ちすぎる。 例外はあるが、そちらの方がごく少数だろう。 ほとんどがナインの錬成に嵌ってしまう。

ドラゴンも肉があり、骨があり、血液も流れている。

 

錬金術で神秘に指をかけつつあるナインにとっては、悪魔も人間も同じく紅蓮の理で吹き飛ばすことができる。

 

そして、爆発四散した無残な翼の残骸は、避難しているリアスの目の前で飛び散った。

 

「…………あ、ああ……。 イッセー…………やめて、もう…………やめて、ナイン…………お願い…………」

 

これは断じて戦いなどではない。

途中こそそうであったものの、いまは違う。 ほとんど作業的におこなわれるナインのペースだ。

 

足も使えなくなり、翼も潰される。 身動きの取れない状態に陥った赤龍帝だが、なおも紅蓮の男にその鋭い眼光を向けている。

 

憎悪、怒り、哀しみ。 すべてが籠った龍の眼光がナインに注がれる。

 

「………………」

 

だがそれでも、ナインの心と姿勢は一時も怯むことは無い。 逆に哀れみ、獣へと堕してしまった赤い龍から視線を逸らして、そして言った。

 

「でもまぁ、こんなものか」

「ぐ……が…………あ…………あぁ……」

 

ついに、その真紅の体は地に伏した。

力が尽きたのだろう。 もともとは暴走だったため、過剰に体力を消費しすぎた。

歩み寄っていくナインは、何の躊躇いも無くその両手を合わせる。

 

祈り? 違う。 何度も言うように、祈る暇があるなら行動する男だ、ならば真意は一つしかない。

 

いまここで、この男を―――――

 

「………………」

 

―――――赤龍帝、兵藤一誠を殺す。 否、爆発させる。

一般人には過ぎたる力がその手に渡った。 その結果が暴走であるのなら、最期は「死」という結末を迎えるのが良いだろうと。

 

制することができない力など力ではない。 結局のところ、彼は神器(セイクリッド・ギア)という神からの賜り物に振り回されるだけの人生だった。

 

本人はそう思っていなくとも、ナインはそう思い、少なからずこの少年の運命にも同情はしていた。

 

「過ぎる力は持ち主を滅ぼす。 まったく真理だ」

 

爆発の元力を引っ提げ、虫の息となった覇道のドラゴンにその手を伸ばしていく。

もしかしたら、彼は知らない方が幸せだったかもしれない、と苦笑も乗せながら。

 

「―――――」

 

だがそれは、ナイン個人の気持ち、判断である。 そこにヒトが在る限り。

そこに仲間が居る限り、その男の言い分などどう足掻いても一人分にしかならないのも、また真理だった。

 

「………………」

 

その「死」に待ったをかける者たちがそこに居る、存在する。

 

戦いから逃れた安全圏で物を言う、身の程を知れ、邪魔だどけ。 敗者に生死いずれかを下せるのは勝者のみ。

だが、その者たちはそんなことはお構いなしに―――――

 

「させない…………イッセーは殺させないわ!」

 

覇龍状態が解け、元の姿に戻った一誠に覆いかぶさるように守るリアス・グレモリー。 それだけではない。

 

「…………すまない、ナイン。 だが、止めてくれ…………っ」

「…………黙って仲間を殺されるくらいなら、手始めに僕が相手する」

 

ゼノヴィアが巨大な青き刀身を、祐斗は漆黒と光、両属性を有する刃を、それぞれナインの首元に交差させるようにその動きを止めさせる。

 

「…………」

 

そして、両手に力を込めてナインの腰にしがみ付く者も居た。 それは小柄で健気な少女――――小猫だった。 彼女は終始無言だが、込める力からナインに聞こえぬ言葉として伝わって来る。

 

「む…………」

 

本当ならばそれくらいのことで歩みを止めるわけがないのだが、他にも、この紅蓮の前進を阻む者が存在した。

 

黒い闇をこさえた影が、ナインの足元を完全に停止させている。

 

「…………い、イッセー先輩は、や、やらせません!」

 

停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロールビュー)』 まだ未熟ではあるものの、足元のみにその力の重きを置くことでナインの前進を止めていた。

 

「動いたら、ナインさんと言えども問答無用に、私の雷で頭を吹き飛ばします! だから……………………お願い動かないで……」

 

紫電をうねらせて両手に雷撃を込めているのは「女王(クィーン)」の朱乃。 背後からナインの頭にしっかりとその手を照準している。 その表情も皆と同じ複雑だ。

 

そして――――

 

「…………私は、ナインがやったわけじゃないと思っているわ。 それが本当で、もしイッセーの思い違いで、あなたに攻撃をしたなら、それはきっと許されない……けど…………」

「………………」

「けど、お願い…………殺さないで…………」

 

最後は消え入るような声で懇願する。 リアス・グレモリーは、一誠を庇いながらナインと向き合った。

 

「………………」

 

無表情に向き合った後、全員を見回していくナイン。

 

『…………っ』

 

その視線に、その場全員の背筋が凍りつく。

先ほどは複数人で取り押さえると言ったが実際のところ、この場の誰一人としてナインを止める術や算段、計略を持ち合わせていないことを全員が解っていた。

 

この男がその気になれば、この場を本当の平地にできる。 誰一人残さず、曇りも無く、この場を諸共吹き飛ばし、生物は大地に消える屑と果てる。

 

しかし、そのナインは大きなため息を吐いた。

 

「私は――――」

「ナイン、いい加減そいつらを苛めるのも程々にしてやればどうだ?」

『―――――!?』

 

声のした方に、ナインも含めて全員が注目した。

 

「兵藤一誠が『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を暴走状態で発動させたと聞いて来た――――随分と派手に壊したが…………ほとんどナインだな?」

 

笑いながら降りて来たのは、白龍皇――――ヴァーリ・ルシファーだった。

 

「まったく、暴走した赤龍帝よりも、お前は辺りを吹き飛ばし過ぎだ」

「…………ヴァーリさん」

「うわ、また派手にやったねぃ」

「知らないの? ナインに掛かれば、一生懸命建てた豪邸も一日で均されちゃうのよ?」

「…………エクスカリバーに匹敵する破壊力……これは凄まじいですね」

 

その傍らには、錚々たるヴァーリチームの面々が四人揃っていた。

美猴と、アーサー。 そして黒歌だ。

 

すると、ナインは美猴の抱えている何かを見付けた。

 

「よく助けられましたねぇ」

 

美猴の腕には、爆発で死んだと思われていた金髪の聖女――――アーシア・アルジェントが可愛い寝息を立てて眠っていた。

 

「アーシア!」

「アーシア!」

 

泣き付いてくるグレモリー眷属たちにアーシアを渡しながら、美猴は得意げに胸を張る。

 

「次元の狭間で捜し物してたんだけどねぃ、偶然にもこの金髪の嬢ちゃんを見付けてな」

「良かったな、あのままでは『無』に中てられて死んでいたぞ」

「…………ありがとう!」

 

安堵に暮れるなか、まだ一誠を庇っていたリアスにもヴァーリは言い放つ。

 

「そちらはむしろナインに感謝することだ。 あのまま暴走が続いていたらそちらこそ死んでいた――――あの暴走を阻止できる男が居てくれて良かったな、リアス・グレモリー。 覇龍は解除されているため、もう大丈夫だろうさ」

「………………!」

 

現在のところ彼はリアスたちにとって敵という立ち位置だが、同じ二天龍である白龍皇のお墨付きなら間違いは無いだろう。 リアスはここで、アーシアと一誠が無事であることを再認した。 眷属たちに遅れる形で安堵の溜息とともに崩れ落ちた。

どうやら腰が抜けたようだ。

 

そんな一転変わった光景を見て、ナイン・ジルハードは肩を竦めた。

あのままであれば、この男は確実に兵藤一誠を殺していた。 では、邪魔をされて苛ついているのか? 否だった。

 

「ごめんなさい、そしてありがとう、ナイン。 あなたは、アーシアを殺してはいなかった」

「…………まぁ、曖昧に答えたのは私ですしねぇ」

 

結果としてアーシアの死は免れ、犯人はナインではない事が分かった。

しかし、あの場ではあえてどっちつかずな答え方をしたのも自覚しており、事実だった。

 

暴走ではあったもののアーシア・アルジェントの仇討ちをとナインに刃を向けた一誠に罪は無い。

 

なにより、この男はそんなこと……微塵も気にしてはいないのだから。 他がどう言おうと、当事者がなんとも思わなければそこでこの話は幕引きだ。

 

「実のところ途中で、ああ、私は嵌められたのだと気付きました。 シャルバさんは戦闘よりも頭で動いた方が良いと思うよ、ふふふっ」

「あれは、シャルバ・ベルゼブブの仕業だったの?」

 

すると、ヴァーリが割って入ってきた。

 

「いいや、シャルバ・ベルゼブブにそんな力は無い。 おそらく、今回の計画を裏でサポートしていた輩の仕業と思う。 それも、神滅具級(ロンギヌスクラス)のな」

「…………神滅具(ロンギヌス)。 やはり他にも存在していたのね」

「もっともシャルバは、赤龍帝とナインをぶつけるつもりは無かったと思うがな。 単に、分が悪いと見てナインの爆破と同時に姿を消したのだと思う……策というより偶然が多く重なった結果だろう」

 

なにはなくとも、シャルバはすべてにおいて誤算が多すぎた。 ただ用意周到が彼にとって功を奏した結果と言える。 まんまと逃げ果せているのだから侮れない。

 

「とはいえ、旧魔王派はほぼ瓦解だな」

「ほぅ?」

 

ナインは首を傾げた。

 

「それは早計では? 旧魔王派は未だカテレア・レヴィアタン一人しか喪っていませんし」

 

すると、ヴァーリは不敵に笑んで向こう側に視線を遣る。

その先には、遅れて到着してきたアザゼルがサーゼクスを連れて手を振っていた。 後ろには、どういうわけか白い翼で浮遊しているイリナも一緒だった。

 

「よぉ、ヴァーリチーム主要メンバーお揃いで。 テロの打ち合わせかぁ?」

「俺が旧魔王派の計画に乗っかると思っているのか、アザゼル」

「それもそうか」

 

では戦闘の意思は無いということ。 何気なく交わされた会話だが、周りの者からしてみれば剣呑だった。

ここでヴァーリが「まだやる」といえば再び戦う羽目になる。

 

「今回は俺ももう面倒くせーや。 旧魔王派の一角を落として疲れちまったよ」

「アザゼル…………」

 

後ろで溜息を吐く美丈夫――――現魔王、サーゼクス・ルシファー。

 

「や、わりぃわりぃ。 斃したのはサーゼクスだったな」

「おや、そちらにも古い方が現れていたのですか。 誰です?」

 

しれっとした顔で話題に入ったナインは顎に手を添えながら発言した。 それにアザゼルは小さく笑う。

 

「古い方って……旧魔王派のことか。 まぁ、クルゼレイ・アスモデウスだな。 サーゼクスが始末した」

「…………やむなく、な」

 

物憂げな表情でそう短く返すサーゼクスからは、やはり少しばかりの後悔の念を感じた。 優しい魔王であるがゆえの苦悩だろう。 かつて同胞だった者をその手で葬り去るのは心が痛む。

 

「なるほど、レヴィアタンに続き、アスモデウスまで失ったということかい…………この短期間で大打撃ですねぇ、可哀そうに…………」

「絶対可哀そうなんて思ってねぇよこいつ、で――――」

 

ありゃ、なんだ。 と目元を引きつらせながら――――空を見上げる。

いや、空ではない。 空に空いた大きな穴から、さらに空を覆い尽くしそうな程の巨体が存在している。

 

「いつの間にあんな穴…………と、いうか大きいですねぇ」

 

――――グレートレッド。 黙示録のに記される赤いドラゴン。 ヴァーリは、ようやく会えたと、待ちくたびれたぞと言わんばかりに嬉々として口を開いた。

 

「…………ヴァーリさん、あなた、ここに来たのは兵藤くんの状態を聞きつけたからではなかったんでしたっけ?」

「それもある。 が、第一の目的はこれだよナイン。 ああ、いつ見ても掻き立てられるよ」

 

穴の向こう――――次元の狭間に住まう真紅のドラゴン、グレートレッドに、ナインは首を傾げていたが、そんなことはヴァーリは知らない。 本当にまっすぐな瞳で、その錚々たる姿を見ていた。

 

――――「真なる赤龍神帝(アポカリプスドラゴン)

 

「ナイン、あのドラゴンはな、遥か太古よりこの次元の狭間を飛び続けているドラゴンだ」

「ふ~ん」

 

ここで空返事。

ヴァーリは話す相手を間違えたと言って良い。

 

と、そこに小さな姿が現れる。

 

「―――――我は、いつか静寂を手にする」

 

その姿は小さいなれど、影は計り知れない無限の龍神。 いま象っている姿も、おそらく仮の姿。

姿形など彼にとってみれば何の意味も持たないのだ。

 

「さーて、オーフィス。 やるか」

 

その小さな姿をした少女に向け、光の槍を突き付けるアザゼル。 だが、オーフィスはそれを一瞥しただけで興味無さげに元の視線に戻した。

 

「何度も言った。 アザゼルでは我を殺せない」

「だから、さっきも言ったろ。 俺一人でやるつもりはないって」

「それでも、我を滅ぼし切ることはできない」

 

そんな彼らのやり取りを、ナインは無表情で観察し始めた。

そう、この男は、オーフィスと会うのは初めて。 ゆえに、話し掛けるのも当然だった。

 

「やぁ」

 

初対面のナインはオーフィスの背後でそう挨拶をした。

振り向いたオーフィスは、ナインをじっと見つめる。

 

「……………………」

「……………………」

 

目を細めるナイン。 読めない、オーフィスの表情には感情が感じられない。

 

「…………『セフィロトの樹』を理解できれば、更なる深部へ」

「………………」

 

そう一言、オーフィスは言った。

 

ポケットに手を突っ込んだまま、身を翻し消えていくオーフィスの姿を見送るナイン。 その表情は何を意味しているのか。

ただ、いつも不気味に笑っていたナインは居ない。

 

しかし、訳が分からぬと怒りもせず、何を言っているのだと疑問も返さず。 ただただ、思案顔に暮れていた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇそこの教会コンビ、ちょっと良いかにゃん?」

「な、なんだ…………?」

 

身を屈めながらこそこそと近づいてくる黒歌に、ゼノヴィアとイリナは身構えた。

龍神から告げられたよく解らない言葉のせいで思案に暮れるナインの横顔。 それをチラッと見た黒歌は、ひそひそ声で二人に訊いた。

 

「二人はぁ、ナインとは長い付き合いなのかにゃ?」 

「なんでそんなこと聞いてくるのよ」

 

イリナが訝る。 かなり怪しんでいるようだ。

 

「そうだ。 それに、素直に答えてやるほどお前とは仲良くない」

 

黒歌は人差し指でチッチッ、と笑みを浮かべた。

 

「解らないかにゃ~? こうしてお互いのナインの情報を交換し合って、もっとナインを知るためのいわば作戦なのよ?」

「な、なに!」

「そこで喰いつかない」

 

ゼノヴィアは相変わらずだが、イリナは堅かった。 ゼノヴィアを手で制す。

ダメ?と、黒歌は舌をペロっと出した。

 

「私、これまでナインに付いて来たけど、表面的な部分しか分からないのよねぇ。 聖剣研究、錬金術、称号。 あと、ナインの好きな事はだいたい理解して来たんだけど…………」

 

腰に手を当てつつ、イリナ、ゼノヴィアの二人を指差す。

 

「やっぱり、私としてはナインと出会う以前のことを知りたいわ。 ナインは、教会ではどんな男だったの?」

 

うっ、とそのとき二人の嫌なうめき声が見事にシンクロしたのを黒歌は見逃さなかった。

 

「知ってるんだぁ。 訊かせて訊かせて、ねぇいいでしょ~?」

「や、やめろ! 戦闘服を引っ張るな! 破けやすいんだぞこれ!」

「残念だけど」

「んにゃ?」

 

ゼノヴィアと黒歌の間に冷静なイリナが入ってきた。

 

「ゼノヴィアと私も、ナインの教会時代なんて知らないわ。 人伝や、噂程度でしか聞いたことが無いのよ」

「え? なに? ってことは、あなたたち二人とも、コカビエルの聖剣強奪のときが初めての共同作戦だったの!?」

「そうだよ」

「うぇ~、使えな」

「かっちーん」

 

頭の血管にピキリと来たイリナは、黒歌に詰め寄る。

 

「そもそもあなただってナインのこと何も知らないでしょ! 私たちのこと言えないじゃない! な~にが、『情報を交換し合うにゃ』よ!」

「む、私そんな言い方してないにゃー。 安易ににゃーにゃー言ってれば良いってものじゃないのよ?」

「それこそどうでもいいこと!」

 

女二人の醜い争いが繰り広げられる。 ぬぐぐ、と二人して額を突き合わせて睨み合う。

しかし、そんななかゼノヴィアが思いついたように頷いた。

 

「そうだ。 確かに我々はナインの教会時代を知らない。 しかし黒歌よ」

「にゃによ」

「果たして、以前のナインを知っている者など居るのか?」

 

黒歌とイリナはそれを聞き、はたと取っ組み合いを辞める。 そして、目を見開いた。

 

「そういえば、嘘か本当かは解らないけどフリード・セルゼンがよく教会時代のことでナインに突っかかってた記憶がある」

「だが、そのフリード・セルゼンは今さっき斃されたぞ」

 

驚愕するイリナに、ゼノヴィアが重々しく、そしてゆっくりと頷く。

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』に入ることで生き永らえていた。 が、殺された」

「殺―――――」

「ああ、ナインが相手だったからな。 半端は好まない」

「ああそれで…………ってちょっと待ってよ、じゃあ…………」

 

ナインの過去を知る者。 ヴァチカン時代を知る者。 つい前まではごく少数に存在していた情報源だが…………

 

「他にも、聖剣計画の件でもナインとのつながりがあったと思われる元大司教バルパー・ガリレイ」

「ああ、その名前は知ってるにゃ。 ヴァーリが言ってたし」

 

ゼノヴィアの視線が黒歌に向く。

 

「バルパーも、ナインによって殺されている…………」

「…………死んでるってのは訊いてたけど、そいつもナインに?」

 

ナインを知る者が……居ない。 知っていた者はことごとく殺されている。 黒歌もさすがに口が引き攣る。

 

教会入信から、悪魔祓い(エクソシスト)従軍、聖剣研究員。 どれもこれも漠然としか伝わらない単語ばかり。

ナイン・ジルハードの教会時代。 悪魔滅殺で手を組んでいたフリード・セルゼンは死亡。 聖剣研究チームに組み込まれていたとき、指示していたであろう首謀者のバルパーも死亡している。

 

「これ以上、ナインを知っている者はいるのか…………?」

「教会に行けばあるいは…………」

 

考え込んでしまう二人に対して、黒歌は溜息を吐くだけだ。

 

「だーれも知らない。 知ってた人は死んじゃった…………どうすんのよこれ」

「ちょ、直接訊くというのは?」

「ダーメ。 ナインは自分で自分のこと話したがらないもの…………爆弾のこと以外はね」

 

”人間なんてそんな大したものじゃない”

 

彼の真の心情は”人間が”ではなく、”自分が”大したことが無い存在だと思っている。 そのため、ナインは己の事を明かさない、口に出さない。 自分はこの世界で異端であり、脆弱であり、悪党であるという自覚。

 

もっとも、低位置に身を置くがゆえにより高いところへと手を伸ばさんとしているその姿勢が、あの男の錬金術を結果として超常の域にまで召し上げているのだ。

 

「まぁ、仕方ないかにゃー」

「だが、なぜ急にそんなことを言いだした」

「ん~」

 

豊満な胸の下で腕を組み、そして得意げに言った。

 

「好みの男を知りたいと思うのは当然じゃないの? 嫌いな相手なんて別に知りたくもなんともないし」

 

そんなイキイキとした、そして恥ずかしげも無く言い放つ彼女に、イリナは自分の拳を影で握る。

 

「くっ、ときどきこの女の気楽さが恨めしいわゼノヴィア!」

「イリナはまだましだ。 私なんて、想いを告げたら『感情論です』のたった一言で斬られたんだぞ」

「ありゃりゃ、カワイソー」

「うっさいこの妖怪乳女、盗み聞きとは趣味が悪いわよっ」

「妬みにゃーん?」

 

ほれほれーと、黒い和服から今にも零れ落ちそうな巨乳を見せ付ける黒歌。

デートもした、キスもした。 そして何よりも、やることをやっている彼女には余裕があった。

 

するとそこに、三人を覆う影――――

 

「――――黒歌さん、出ますよ」

 

噂をすればなんとやら。

 

リアスやアザゼルたちと話していたナインが、いつの間にか三人の間に入っていた。

黒歌の肩を叩いたナインは、イリナとゼノヴィアに向けて、いつもの笑みで手を挙げる。

 

「やぁ、ゼノヴィアさん、紫藤さん。 聖剣の具合はどうですかね」

「…………まぁ、上々だ」

「転生天使になってから、ミミックの扱いが上手くなったんだよナイン!」

「それは良かった。 今度、私に見せてくださいね」

「うん!――――って、それダメじゃない!? 次会うときって、また敵同士だよね? わーん!」

 

泣きそうになっているイリナの言葉に、後ろ手に振りながらナインはそれを肯定していた。

戦う理由は、いまは無し。

 

「別れの言葉は済ませたか、ナイン」

「ああ、私は最後で良い。 あと一人言っておかなければならないことがある女性がいましてね」

「ふ…………お前は、なんだかんだと、女との繋がりが多いな」

 

不敵に、不気味に笑みを浮かばせながらナインはヴァーリたちの後を付いて行く。

そのとき、本当にすれ違いざまに、ある人物に寄って耳打ちした。

 

それは、揺れる紅髪。 不機嫌そうにこちらを睨んでくる美女、リアス・グレモリーだった。

 

「…………デートの件ですが」

「な……なによ」

 

立ち止まり、美しい紅髪に隠れた耳元に、ナインはそっと近づいた。

 

「あの話、無かったことにしましょう」

「え…………」

 

その言葉に面食らったリアスを内心嗤いながら、ナインは肩を竦める。

 

「今の私の言葉に、あなた自身一番安堵しているはずだと思うけどね」

 

そうナインの視線は、未だ気絶し、倒れている赤い少年に注がれる。

 

「じゃあね、リアス・グレモリー嬢。 これに懲りて、感情で物を言わないことだ、ククク…………ふふはっ…………」

 

唖然とするリアスを横目に、ナイン・ジルハードは次元の狭間に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、イリナはどうしてアザゼル先生たちと一緒に居たんだ?」

 

「それは…………あはは、色々事情があってね」

 

「事情? なんだそれは」

 

「いや、これは言えないことよゼノヴィア。 絶対!」

 

「なぜだ、私くらいには教えてくれてもいいではないか」

 

「ゼノヴィアでもダメなのー! リアス先輩には特に―――――あ」

 

「ほぅ、リアス部長には絶対に言えないことなのか。 なるほど」

 

「ダメ、ダメよゼノヴィア! 待って止まって!」

 

「リアス部長、実はイリナが―――――」




ちちりゅーてーの歌が華麗にスルーされました。

アザゼル以下、作詞作曲者涙目の今回の結末ぅっ! 果たしてリアスとドライグの今後の運命や如何に!CV.千葉繁

デートも無くなりました。 楽しみにしていた方、すみませんねぇ(ゲス顔

オーフィスって、ギャグ抜きでやれば完全にメルクリウス枠だよな。
でもいまは、次元の狭間(部屋)に引き籠りたいアウトドアニートだもんね。


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