紅蓮の男   作:人間花火

19 / 52
だいぶ遅れまして申し訳ありません。


19発目 虚実交錯

「紫藤さん」

「………………」

「なぁ」

「…………」

「…………参ったなぁ」

 

長身痩躯の赤服が頭を一つ掻く。

黒歌の奇襲は、戦闘中に入った横槍でとりあえずの終息を見た。

 

襲来してきた彼女の目的――――「ある」組織への登用、勧誘。 要は引き抜きである。

ヴァーリからの刺客として、そしてパイプ役として黒歌はナインの前に現れた。

 

そこに第三者である人間の介入により追い払うことに成功した。

――――本人は偶然だったようだが、結果的にいい方向に転んだと言える。

 

だが、「追い払う」というよりはあちらから「退いた」と言った方が正解だ。

ナインは息を吐くと腰に手をやって笑う。

 

「それにしてもさすが猫、逃げ足が速い。 脱兎でしたねまるで」

 

しかし、戦況を瞬時に見定め、不利を悟れば迷わず退却―――敵ながら見事な逃げっぷりだった。

かくしてその横槍の本人は、かつての任務――――聖剣奪還任務で行動を共にした栗毛の可愛らしい少女、紫藤イリナだった。

先ほどからナインが声を掛けてもそっぽを向いて完全に無視。

どうやら黒歌のキスが気に入らなかったのか、あからさまに鼻を鳴らして取り合わない。

 

気になる男の子が他の女と…………確かに付き合って無いし本人は自分に眼中無しといった具合だが。

やはり気に入らないものは気に入らない。

 

「むぅ…………」

 

そう考えるとまた頭に浮かんできた、ナインと黒い和服の女性の影がわずかに重なった瞬間を。

そうもやもやしているイリナをナインは横目に見る――――肩を竦めた。

 

「…………滅茶苦茶面倒くさいなぁ、これ」

 

この状況にもいい加減辟易してきたナインは、聞えよがしにそう言った。 すると、イリナの体がピクリと跳ねる。 

 

「…………」

 

一度涙目でこちらを一瞥したあと、またもやそっぽを向く。

 

ナインはそんなイリナの様子を見兼ねてソファーから立ち上がった。 面倒臭くはあるが、まぁあちらにも大事な用事があるのだろう。 仕方なくナインから話の口火を切るのだった。

 

「頬に口付けくらい、別になんてこともないでしょう、ねぇ」

 

明後日の方向を向く彼女の横に、ナインは若干の距離を開けて座り込む。

普段ならこの状況を他人事のように捉えた挙句、放置を決め込む姿勢を取るのだが、別に気になる事があった。

 

「!」

 

閑静な部屋に鳴り響く着信音。 可愛らしい音楽が始まると共にイリナは先にも増して体を跳ねらかす。

白いローブの中からごそごそと携帯を取り出すと、イリナの瞳が少し開けた。

 

「さっき電話を寄越したの、あなたでしょ? 紫藤さん」

 

声に気づきスッと振り向く。

ナインが自分の携帯の画面をイリナの方に向けて微笑していたのだ。

 

「やっとこちらを向いてくれた」

「…………!」

 

ナインが不敵にそう言うと、イリナの顔がみるみる内に赤みがかっていく。

湯気が出そうなほど頬を赤くする彼女は再び顔を逸らす――――が、

 

「おっと」

「あう」

 

阻止された。 ナインはイリナの華奢な顎を掴み、無理矢理向かせる。

なだめるのも面倒だと言わんばかりに。

眉を上げると、溜息を吐いてイリナを諭すように口を開いた。

 

「これ以上話を切り出すためのネタを考えるのは面倒なんで、機嫌を直しなさい」

 

まぁ、いっそ話を聞いて返答もしてくれるなら無理に顔を合わせなくても良いですよ、とやる気なさげにそう言うと、先と同じ質問をイリナに投げかけた。

 

「私にかけてきた用はなんですか」

「…………」

 

自分の顎から離そうとするナインの手を無造作に掴んだイリナは、ゆっくりと話し始めた。 徐々に力がこもっていく御手の抱擁――――ああ、また会えたと、イリナ自身気づかないが、その心の内では間違いなく再会を祝している。

 

そして口を開いて話し始める。

三大勢力首脳の会談のこと。 各勢力、会談直前に迫ったなら顔を合わせておくこと。

何より――――

 

「アンタと会ったのは、この話が決まる前だったから……私もその頃は、トップ会談に出席することになるだなんて夢にも思わなくて…………」

 

確かに、彼女とナインが最後に顔を合わせたのはヴァチカンで、しかも会談の件も未定だった。

実際かの地でミカエルと初対面をしてその旨を伝えられたときも、会談の日程どころか開くかどうかも決まっていなかったのが本当だ。

 

イリナの優しい手が離れると、ナインも自分の手を引っ込めた。

 

「なるほど、ミカエルさんの差し金ですか」

「差し金って…………アンタね」

 

大天使に向かってなんという言い草だろう。 世が世なら追放どころか処断も免れない話だ。

現在も信徒であるイリナも顔を引き攣らせてナインを見た。

 

「そういえば、現在のあなたの立場は如何なもので? どうやら加護は受け続けているようですが…………」

 

笑みから一転。 訝しげにナインはイリナを見詰めて詰問する。

会談に出席するならば、あのことも知っている上であろうことを前提にナインは話を切り出した。

 

まるでなんてこともないように、しかし問われた本人は死にたくなる程の苦痛。 信じたくない真実。

それをナインは、軽口でこう言った。

 

「――――神は死んだ、もう居ない」

「―――――ッ」

 

察したのか、イリナの顔は陰った。

 

「…………ミカエルさまから、直接聞いたのよ。 だからなのか、私は異端とされていない」

「色々と疑問点が浮上してきましたねぇ、まったくどうなっているのやら」

 

ソファーを立ち、首をコキリを一つ鳴らすとナインは続ける。

 

「神の不在を知った我々はその時点で即異端認定でした。 聖書の神が居ないことをですよねぇ紫藤さん?」

「え、ええ…………」

 

すると、口元を上げて笑う。

まるで爬虫類を思わせる口の裂け方に、イリナは生唾を呑み込んだ。

 

「こりゃおかしい。 知らされた内容は同じなのに、なんであなたに加護がある」

「ご、ごめん…………」

 

汐らしくなってしまうイリナ。 罪悪感か。

もしゼノヴィアにこのことを指摘されても、悪魔になったからでしょうと一蹴していただろう。

だがナインは違う、いまも――――人間、なのだ。

 

「別にあなたを責めるつもりはない」

「でも……ナインの言ってることは事実で――――」

「『加護』とは、人間にとっては素晴らしい付加効果でした。 光の剣を精製するにも、通常の拳銃に祓魔弾を装填、発砲するにも、どれもこれも、これ失くしては作り出せない代物だ」

 

疑問だらけだ。 「神の加護」は、聖書の神が直に信徒たちに与えているのではないのか、ナインはいままでそう思っていたし、教会でもそう習った。

しかし、いまこの現状。

 

神の不在を知ったゼノヴィアとナインは異端とされ、加護は無くなった――――普通はこの時点でおかしい。

 

「我々に『加護』を与えていたのは、聖書の神ではなく、他の者がそれを執り行っていた?」

 

神が居なくなった時点で、「加護」は消失するはずなのではと、ナインは推測。

しかし、イリナが熟考するナインにおずおずと横合いから話しかけた。

 

「…………し、システムがどうとか、言ってたと思う。 私もよく分からなかったけど、そんな単語が出て来たような気がしないでも…………」

 

その瞬間、すべての神秘のベールが外れてナインの中で何かが合致した。 同時に飛ぶように笑い始める。

そうかそういうことかと。

 

神の不在。 加護。 異端。 そしてシステム。

錬金術師であるナインにとって、最後のピースは、答えを教えているかのようにピタリと嵌った。

 

「ふふふあはは。 ふはっ、あはは…………アッハハハハハ、ふふ、ああなるほど」

「え、え…………え?」

 

突然仰け反ったと思ったら、向かいのソファーに勢い良く体を落としたナインに戸惑うイリナ。

人差し指を立て、その整った顔がイリナに接近する。

 

「要はこういうことだ。 『加護』を与えていたのは聖書の神であって聖書の神に在らず。

(うえ)にはそういった『システム』を司る装置がある」

「…………う、うそ。 『システム』ってそういう?」

 

しかし、違うと自分に言い聞かせながらイリナはナインの推測を否定した。

 

「…………う、嘘よそんなの。 『システム』はそんな機械装置みたいなものじゃ……なにかの喩えとか、そう、ミカエルさまたちがそう呼称している『力』とか、そういうものじゃないの!?」

 

すると、ナインは弾けるようにイリナから顔を離し、ソファーにふんぞり返った。

 

「機械装置じゃないにしても、そういった『物』が天界にはある。 考えてもみなさい、なぜ神が死んだ今でも『加護』は機能している? いま尚、あなたは与えられている? そして、私やゼノヴィアさんの『加護』を取り払えるのだ?」

 

考えれば、術者――――加護を与える者が居て、さらにそれが死んで居なくなったのならその業は消失するのが普通で――――

 

「死んでからも永続的に信徒たちに加護を与え続ける? ああ、それこそ奇跡の御業でしょうよ。 しかしだ、」

 

特定の誰かの信徒の加護を取り払ったり、そういったことをする辺り――――まるで操作しているようで。

 

「フリードも、はぐれになった癖にして尚も神の加護を受け光を生み出していました――――まぁ、これはいま思い出したことですがね」

 

神が居なくなったときから、明らかに加護をかける人選がおかしいことにナインは気づいた。

 

「悪魔の傷を回復できる力…………神の不在を知る者」

 

他の信者は知らない事実と、敵である悪魔への慈悲は、大勢に悪影響を及ぼしかねない。

アーシア・アルジェントと、自分とゼノヴィア。 もしそのシステムとやらをミカエルが操作維持できていなかった場合、十分に考えられることなのだ。

 

すると、イリナは俯いた。 栗毛が垂れ下がる。

 

「じゃあ……ゼノヴィアは、主が存在しない事実を知ってしまったから、追放されたの?」

「ああ、そういえばその件についてはあなたにお話ししていなかった」

 

イリナの肩に手を置き、ナインは口を開いた。

 

「ゼノヴィアさんは、件の内情を知ってしまったゆえに異端とされたのだ。 今でこそ悪魔になっているようですが、少なくともそうなったのは追放された後のことであって」

「―――――」

「考え無しの彼女のこと、きっと後先考えず自棄になって悪魔へと転生したものであると」

「…………私、ゼノヴィアが裏切ったと思って! なのに人間のナインに近づいてるのを見て、私…………!」

 

イリナは今度は、羞恥心に顔を紅潮させた。

ああ、自分は……かつての親友同志になんということを。 誤解とはいえ自分の中で悪魔であるというだけで吐き捨てるように扱っていた、恥ずかしい。

 

「悪魔のくせに、ナインに近づくなんて許さないって思って…………」

「すべては思い違い…………というかあなた、そんなこと考えてたんですか」

「だって……ナインは人間だし、悪魔や堕天使とは程遠いのに…………」

 

しかし、それは致し方の無いことだとナインはイリナに言い聞かせる。 それが信者にとっては「普通」なのだと。 呆れるように息を吐き、笑った。

 

「それが信仰心という名の呪いだ。

集団心理……いや、群集心理とも言うのかねぇ。

人間を治せるが、悪魔も治せる能力などおかしいと誰かが言った。

皆が知らない神の不在は、私たちごとき末端の教徒が知ってはならない事柄だと誰かが言った。

そうして思想というのは広まって行き、知らぬ間に彼らの鉄則のルールとして確立してしまうのだ、いやぁ、恐ろしい」

「ならアーシア・アルジェントも、あの信仰心は背徳からではなく、本当に主を信仰していただけ…………」

「でしょうよ」

「うわぁ…………」

 

両手で顔を隠す。

ナインはテーブルの上で両手を組み、含み笑いを零す。

 

ナインも人間、若い女同士の言い合いなど見たくない。 見て見ぬフリはやろうと思えばできるのだが、如何せん場所を考えるとそうもいかない。

余所でやれとも言いたくなる。 しかし自宅で年頃の女同士の冷戦、雰囲気が悪くなる一方である。

 

「揺るがぬ意志も良いですが、固過ぎるとあらぬ方向にいったとき修正が利かなくなるので注意をした方がいい」

「…………ん、そうする」

「お友達は大事にね」

 

パシパシと、彼女の背中を叩く。

何事も柔軟性は大事であるとナインは言うのだった。

そして、いま一番信頼できる異性の言葉である助言に、イリナも反省とともに頷いた。

 

「それと、少し大事なことが」

「…………なぁに?」

 

ツインテールを揺らして首を傾げる。 疑問符を浮かべるイリナに、ナインは正面から言い綴る。

 

「私、裏切るのでよろしく」

「…………は?」

 

意味が解らない。 話が変わったと思えば何を言い出す。

イリナは困惑しながらも笑ってナインの背中を叩いた。

 

「…………は、は。 なに言ってんのよバカ。 冗談もほどほどにしなさいよね」

「冗談ではないのですがね」

「はいはい」

「あー…………」

 

タタッ、と入口まで歩いて行くと、イリナは振り返ってナインに微笑んだ。

 

「これからも一緒。 首脳会談が終わったら…………問題無く終わったら、ゼノヴィアと一緒に近くのファミレスに行こうね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

マンション宅前。 夕方になろうと夏の暑さは当たり前のように健在。

にも関わらず、イリナはローブを、ナインは赤いスーツを、涼しい顔で着こなしたままエレベータを無言で降りた二人は別れを告げていた。

 

「それじゃあナイン、次は首脳会談の席で会お」

「ええ。 ですが本当に泊まって行かないのですか?」

「ええっ!?」

 

唐突なナインの言葉に、イリナは驚く。

ここまで見送っておいてそうくるのかと、イリナは困惑しながらもその実、胸がときめいていた。

冗談も冗談。 ナインの悪戯は性質が悪い。 そんなこと、いままで付き合って来て分かっているはずなのに。

 

イリナの脳内は期待と混乱で渦巻いた。

 

「…………嘘です」

「じょ、冗談…………そ、そうだよね、アンタがそんなこと自分から言うわけないよね、アハハ……ていうかからかったの!?」

 

しかし、イリナ自身期待はあったのだ。 任務の間だけだったとはいえ、ゼノヴィアと三人で居た時が忘れられない。

そんなことを思っていると、イリナは思いついたように帰路に付こうとする踵をナインの方向に返した。

 

「ごめんナイン、初めに言わなきゃいけなかったんだ」

「ん?」

 

ピッ、と、何かの札を投げ渡される。

水平に向かって行ったその札は、ナインの二本指で受け止められた。

 

「これは…………」

「明日、ミカエルさまが姫島神社に来てって。 アンタのことだから、場所はもう把握してるんでしょ?」

「はぁ、まぁ」

「じゃ、それ持って神社に入ってね。 …………ナインは、追放された身の上だから神社に張られてる結界内はキツイだろうからって」

 

語尾を少し伏し目勝ちになって言うイリナに、ナインは渡された札をポケットに仕舞いながら、問う。

 

「そんなに強力な結界なのですか」

 

すると、イリナは首を横にふるふると振った。

 

「入れないことはないけど、異端認定されたナインは、結界内に入ると色々と不調が出てくる可能性があるの」

「不調…………」

「頭痛がしたり、体のあちこちが痛んだり、とかね。 背徳者には特に効果てきめんみたいだから」

「ふーん」

「………………神を信仰してなかった自分には関係ないことだって顔してるんですけど、そこのところ」

 

ジトリと、目を細めたイリナはナインに詰め寄った。 なんだかんだと、やはり信者であるイリナ。

信仰心の無い教徒を洗脳…………もとい導く役目を持つ。

 

「背徳など感じない」

「ほらこれだよもー。 それでも、教会に所属してたっていう経歴は残ってるから一応それ持ってってってこと!」

「てってってってってー」

「ふざけない! てか話まだ終わってないのに帰らないでよ、ちょっとナイン!」

 

マンション一階の自動ドアが閉まっていく。 閉まる直前、ナインは涼しい声で言った。

 

「―――――有り難く使わせてもらいます、わざわざ伝言どうも、紫藤さん」

 

後ろ手で別れを告げるナインに、イリナは口をへの字に曲げた。

しかし、曲げたそれはすぐに緩んだ。 

 

「ナインに会えた……」

 

立場は変われど、いつもと変わらないやり取り。 無気力感満載の声音。

でもいつからだろう、その声を聞くと安心する。

 

ナインだからこそ、そんな低くノロそうな喋りにも愛着を感じる。 どんなにマイペースでも、実力が裏付けられているから安心できる。

 

「まぁ、それが怖くもあるんだけどねー、危ないこと好きだし」

 

――――強さとは、単純でいて真理でもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あら」

「やあ、姫島さん」

 

翌日。 夏の日照りを受けながら、階段の掃き掃除をする一人の巫女服の女性とあいさつを交わす。

その巫女姿の女性は、声にした方に振り向くと微笑してその男を迎えた。

 

神社特有の長い階段。 二人の間にある高低差により、男――――ナイン・ジルハードは巫女服の女性を見上げる形であいさつをする。

 

「おはようございます、今日はよろしく」

「こちらこそ。 あ、先に上がっていてください」

 

その返答に、ナインは苦笑して彼女―――姫島朱乃の横まで上る。

立ち止まって言った。

 

「一緒に来てくれないのですか」

 

私ここ初めてなんですが、とナイン。

 

「…………イッセーくんがまだですので」

「左様で」

「札、貰って来ていますか?」

「ん? ええまぁ」

 

行こうとするナインを、朱乃は呼び止めた。

札とは、昨夜イリナに投げ渡された例の物だ。 向き直ったナインは朱乃に疑問を浴びせる。

 

「あの鳥居の先、結界は張られていないようですが?」

 

教会然り、神聖な力場というのは存在する。 神社や寺もそれと同じように、人間外の不浄な存在の侵入は許さない。

しかし、ナインの感じたこの姫島神社というところを見たときの感想はというと――――何も感じない、と言ったものだ。

 

イリナの言うには結界が張られているものかと思っていたが、そうではないようだ。

そのナインの投げた問いに、朱乃は答えた。

 

「この神社は裏で特殊な条約が交わされているので、悪魔は通れるようになっていますわ」

「でも、異端者と悪魔は違う括りなんですねぇ。 異端者はこんな不気味な札持って入らなきゃならないなんて」

 

参りました~、とひらひらと札を出して遊ぶナイン。

その様子にあらあらと、笑顔で返す朱乃。

 

「それとこれとは話は別なのです。 不便でしょうが、どうかご容赦を」

「はーい」

 

ナインにしては素直に短く返事をすると、さっさと鳥居を潜って行った。

 

要は、この神社は悪魔は通れるよう契約を交わしはいるが、教会から異端と認定された者にとっては非常に入りづらいものなのだということだ。 なんとも差別的な扱いを感じるが、ナインはなんら問題ないような顔をしていた。

 

そのときだった。

 

姫島神社の上空に、目を覆いたくなるような光が出現――――それはゆっくりと降下していった。

 

「よろしく、大天使」

 

独り言――――ナインは笑みを浮かべてそれを見遣ると、階段の途中で止めていた足を、再び動かすのだった。

 

三大勢力、首脳会談前日。 場所は姫島神社。

会談前の前哨戦。 主催は言わずと知れた天使長、ミカエル。 次いでリアス・グレモリーの女王(クィーン)姫島朱乃。 兵士(ポーン)の兵藤一誠。

 

そして、元ヴァチカン法王庁直属の国家錬金術師。 異端認定の規則に基づいて、称号剥奪を余儀なくされた錬金術師、ナイン。

 

――――前座が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァーリ、あの話は滞りなく進んでいるのですか」

 

「珍しいな、今回の会談襲撃の首魁がわざわざ俺の前に」

 

「御託はいいのです。 それよりも、」

 

「分かっているさ、”紅蓮の錬金術師”ナイン・ジルハードの引き抜きだろう?」

 

「では――――」

 

「――――無理だ」

 

「…………なぜ」

 

「俺も正直驚いた。 まさかああいう奴に限ってああも身持ちが堅いとは予想外も甚だしい」

 

「…………」

 

「そんな怖い目で見るな。 真面目にやったさ」

 

「あなたは戦いでしか己を見出せない男、そして、満足しない男。 いち錬金術師の引き抜きなど熱心に取り組むとは思えないのですが」

 

「そんなに引き抜きたい割には小評価なんだなぁ、よく分からんよ、お前たち旧魔王は」

 

「黙りなさい! その呼び名で呼ぶな!」

 

「蔑称だったか、悪いな」

 

「…………その男、教会に不満があって先の爆破事件を引き起こし、大量虐殺をおこなったと聞いています。

ならば、三大勢力がこれからやろうとしていることにも不満を持つはず。 ミカエルのお抱えになったようですが、忠誠心はまだ落ち着いていないと思ったのです」

 

(俺はその前から目を付けていたから、なんてことは言えないな。 下手なことを言うと面倒臭そうだ。

それにしても浅慮だな、教会に不満があったから三大勢力にも不満を持つなど、なにを根拠に言えるのだ)

 

「奴らが会場にする建物を吹き飛ばす役を担わせようと思ったのですが、この調子だと当日までに間に合いそうにありませんね」

 

「先日、俺の仲間をナインに遣った」

 

「…………それで」

 

「まぁお察しの通り失敗、だよ」

 

「殺しましたか」

 

「いいや」

 

「誰を遣わしたのですか! 半端な者を遣わしたのなら、それこそあなたの采配も程度が知れると言う――――」

 

「黒歌だ」

 

「―――――っ」

 

「あいつを遣っても、説得どころか殺すこともままならなかったそうだ。 互いに思わぬ増援が来たのもあったが、それを差し引いても、黒歌はナインに100%勝てん」

 

「…………」

 

「もっと話そうか。 色仕掛けもおこなったみたいだぞ。 俺にやったときのように――――いや、本人はそれ以上に気合いを入れてヤったと豪語していたが、それも失敗。 一国が一国を謀るも良し、攻めるも良し、だが、女で釣るのは一番の愚策――――という言葉があったな、それだな」

 

「…………!」

 

「あれはただの人間じゃない。 悪いことは言わん、お前たち旧魔王はあの錬金術師からは手を引いた方がいい」

 

「言われなくてもそうします。 猶予がありませんからね」

 

「…………引き抜く事に成功したらしたで、使い捨てにされるのはむしろお前たちの方だったかもしれなかったから、いい結果に転がったのかもしれんな」




やっとナインくんのアナザーウェポンを思いつきました。 賢者の石ではないにしろ、それと並び立てるくらいの武力を持った武器を我らが大天使ミカエルさんから贈呈させたいと思う。
ただし、リーサルウェポンは変わらずボム技。 ボムギ

次回の更新もだいぶ後になると思います。

次回、イッセーくんと朱乃さんと膝を交えてお話し、です。 あああとミカエルさんね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告