ハリー・ポッター -Harry Must Die- 作:リョース
ハリーは一人、息を潜めていた。
透明マントを身にまとって姿を消し、遠視魔法で五〇〇メートル以上先を見ていた。
両目の前にレンズ状の魔力反応光が浮いているため、まるで丸眼鏡をかけているような姿のハリーは俯せになったままじっとしている。
さらには金魚鉢を頭にかぶったようにシャボン玉を纏っているため、どうにも間が抜けている。
しかし目は真剣そのものであり、淀みの欠片も見当たらない。
「………………、……」
視線も届かぬ視界の先には、骨と皮だけの灰色の生き物。
こんなに遠いというのに、遠近感が狂ったような大きさをしている。
四足の、大型の獣。
尻尾の毛は禿げて細く弱々しい。
毛並みも荒れに荒れており、元は黒真珠のように美しかったろうに今や見る影もない。
骨ばってごつごつしており、あまりに肉がないのか、皮が張り付いて薄っぺらだ。
眼窩は落ち窪んでおり、片方の目が真っ白に白濁して目脂で固まっている。
粘着質な唾液が二筋、口の端から垂れて揺れているが、それを気にした様子もない。
――ヌンドゥだ。
確かに、ひどく老いている。
ハリーは今は亡きフィッグ婆さんの家で死を目前にした猫を見たことがあるが、それとそっくりだ。
微動だにしないわけではなく、ゆっくりと、空気を揺らすような動きで暇を持て余している。
ハリーに気付いた様子は、まだ、ない。
「……………………、………………、……」
だがその脅威は、遠視しているだけでもよくわかる。
老ヌンドゥはどうやら、もう立ち上がる元気もないようだ。
後ろ足の筋肉がすっかり衰え、本当に骨と皮だけにしか見えないほど細く痩せている。
しかし彼の周囲を見てみれば、そこにはネズミや蝙蝠がひっくり返ってその骸を晒していた。
それと同じくらいの白骨が、ヌンドゥの周りに山を作っているのが見て取れる。
ヌンドゥの吐く息は激烈な病をもたらす。
その伝説に違わず、小動物を病死させてその肉を喰らって生き延びてきたのだろう。
光を映さぬ白い目が、所在なさげに揺れている。
「………………、…………、…………」
今ここで倒すしかない。
彼ないし彼女が陣取っているのは、このパイプ状の通路のど真ん中。
一本道だったため、他に道はなかったことは確認している。
通るためには奴を倒すか、無力化させるかしかないのだ。
(……『オルクス』、見通せ)
無言呪文でスペルを唱え、さらに遠視の倍率を上げる。
ロンが託したフレッドの鞄は、今まさにハリーの命を救っていた。
《気配消失薬》という悪戯グッズは、どうやら凶悪な魔法生物にも効果があるようだ。
だが残り時間は十数分。恐らくこれで違いはない。それ以上は命のタイムリミットである。
姿を消して気配を殺し、息を潜めて匂いを抑え、気取らせないまま遠距離から抹殺する。
それがハリーの導き出した、ヌンドゥへの戦い方だ。
要するに、狙撃である。
「………………、…………」
本で読んだ見よう見まねでしかないものの、それでも魔法の力でハリーは完全に隠れていた。
汚泥を見つけたのでそれに寝転がって匂いを消し、透明マントで姿を覆い隠して物理的な視認を遮断した。気配についてはどうにもならなかったが、フレッド・ジョージの魔法薬で解決だ。
使用する呪文については、直前まで悩んでいた。
ヌンドゥに関する情報があまりにも少ないのだ。
何かしら呪文を通さない分厚い皮を持っているという可能性を考慮し、初めから魔力の宿った攻撃は効かないものとして物理的な狙撃をするべきだろうか。しかし本物の銃など触ったこともないハリーは、その反動に耐えきれる確証がない。身体強化呪文を使えば耐えきるどころか両手に持って乱射しても平気だが、そも銃がない。仕方がない。
今後に備えて魔力を温存しておきたいが、全力を出さねば即座に狩られるという此度の戦闘。
「………………、……」
ここでハリーは、己の腕を信じるという選択肢を取った。
自身を信じられなくてこの先生き残れるとは思えない。
若干十二歳にしてとんでもない発想だが、しかしそれでいて理にかなっている。
ここでダメなら後々どうせ死ぬ。
ならばとハリーは賭けに出たのだ。
「……、……」
一撃で仕留めるのはまず無理だ。
ならば。二撃はどうか。それで無理なら三撃。四撃。五撃。
相手が死ぬまでここから動かず、狙撃し続けるのみ。
「……、」
ここから先は、一対一の真剣勝負。
いざ。
「――ッ」
根競べだ。
(『ステューピファイ』、麻痺せよ!)
ハリーが槍のように構えた杖先から、細く小さく凝縮された魔力反応光が飛び出す。
赤い魔力反応光の光度は、仄暗く輝く程度に抑えられている。
狙撃するのならば、着弾までバレてはいけない。特に相手はヌンドゥという規格外の怪物だ。
老いて死の淵に腰まで浸かっているとはいえ、どれほど動けるのかは分からない。
まして本来なら戦闘に通じた大人の魔法使いが一〇〇人単位で挑むような怪物。
未熟で幼い魔女が一人だけで挑むからには、それだけのハンデがあってもなお足りないのだ。
音もなく飛来した魔力反応光は、狙い違わずヌンドゥの右目へ向かっている。
右は、盲いている方だ。
完全な死角になっているはずである。
だが。
ハリーは。
光を宿さないはずの右目が、確かにこちらを向いたのを見た。
(――、――――――ッ!)
ぶわ、と嫌な汗が全身から噴き出す。
バレた。いや、まだわからない。
狙い通りに右目へ着弾した魔力反応光は、赤い光を撒き散らして四散した。
麻痺して失神してくれればいいのだが、そううまくはいくまい。
現に、ヌンドゥがゆらりと首を動かして鬱陶しそうに身震いしているではないか。
(フラッフィーみたいに毛皮には魔法が通じにくい魔法生物は多々いるだろうけど、まさか眼が平気だっていうのは予想外だった。眼球とか内臓を鍛えられる生物なんているわけがないのに……)
冷静に思考を浮かべながら、ハリーは次の魔法の準備をする。
幸いヌンドゥは今すぐこちらへ飛び掛かってくる、というわけではないようだ。
ならばニ撃。仕留めねば、こちらの命がない。
なにも確殺しなくともいいのだ、無力化さえ成し遂げれば問題ない。
(『ソムヌス』、眠れ!)
淡い桃色の魔力反応光が射出される。
五〇〇メートルもの距離を、重力に負けず真っ直ぐ飛ぶのは実にいいことだった。
本来の狙撃は、重力で銃弾が落ちることも計算に入れて行わなければならないという。当然、横風も天敵だ。ほんの一ミリでもズレた場合、着弾点が何十センチもズレるか分からないとのことだ。
しかし魔力反応光は読んで字の如く魔力でできているので、物理的な干渉はほとんど無意味だ。
せいぜい反応光を避けるか逸らすか、着弾点に障害を置いて妨害するかしかないだろう。
今度も狙い違わず、ハリーの放った魔の弾丸はヌンドゥの右目に向かっていく。
いまは、眠らせてしまえばいい。
戦士団が来るというのならば、始末は彼らに任せればいい。
今ハリーはあの通路を通ってジニーを助けねばならない。
嫌な予感がする。刻一刻と、悪寒が脳を浸してゆく。
まるでジニーが一寸刻みで殺されているような。
そんな、邪悪な予感がしてならないのだ。
(眠れ! 倒れろ!)
ハリーの願いは、残念ながら通じなかった。
またも目に着弾した魔法は、たいした成果が見られなかった。
ヌンドゥがとろんとした瞳になったときは歓声をあげそうになったが、かぶりを振れば元通り。
それに、まずい。
――今度こそ、気づかれた。
目が合っている。
姿も匂いも消しているというのに、確実にこちらへ目を向けている。
言外に「お前の仕業か」と、眼前を飛ぶうっとうしい羽虫を見るような目だ。
(……ッ、『ドロル・ドロル』、苦悶せよ! 『エクスペリアームス』、武器よ去れ!)
こうなれば、もはやとにかく魔法を撃つしかない。
無言呪文は言葉を使わず魔法を行使できるという利点の他に、威力が減衰するという欠点がある。
だからヌンドゥには効いていないのかと問われれば、答えは否だ。
単純に通じていない。
厄介だ、そして恐ろしい。
これが。これが、ヌンドゥ。病魔の王。
(くっ、まずい……ッ! 『シレンシオ・ミー』、音喰らい!)
ヌンドゥがゆっくりと起き上がり、こちらに体を向けて歩み始めた。
ハリーは自分の動作から発生する音を消す静穏呪文を使い、素早く別の方向へ駆ける。
息を荒げてはいけない。声を出すなどもってのほか。この呪文は、声までは消してくれないのだ。
五〇〇メートルは先に居るはずのヌンドゥが、ひどく恐ろしい。
心臓がばくばくと暴れ、ひょっとして聞こえてしまうんじゃないだろうかという怯えが大きい。
しかし立ち向かわねば、結果はついてこない。
(『ディフィンド』、裂けよ!)
ハリーは移動した先で、透明マントから腕がはみ出ないように細心の注意を払いながら、大きく振りかぶって切断呪文を放った。
目指すはヌンドゥの真上にある、氷柱のように見える岩。
杖先から刃状の魔力反応光が飛び出して、ヌンドゥの真上へと向かってゆく。
これまたダークブラウンという地味な色であるため、かなり視認しづらいはずだ。
「ぎゃあうッ! ぎゅりる、るるるる……」
岩が根元から切断され、ヌンドゥの首筋あたりに落下した。
かなりの大きさと重さを誇るため、体勢を崩したヌンドゥは地に這いつくばる。
――初めて攻撃が通用した!
やはり魔力を通さないタイプの魔法生物のようだ。
強力な魔法生物はこんなのばかりだと心中で悪態をつきながら、ハリーは攻撃を物理手段へ切り替えた。
(『レダク――)
途端。
先ほどまでハリーが居た場所が爆ぜた。
何が起きたのかと振り返れば、そこには前足を振り下ろした姿のままのヌンドゥ。
まさか、二体目か!?
振り返って先ほどまで見ていた個体を確認すれば、そこに姿はなかった。
ただ小動物の死骸や骨が撒き散らされ、一直線に道ができている。
つまり。この一瞬で五〇〇メートル余の距離を音もなく詰め、そして凶刃を振り下ろしたのだ。
ぎぎぎ、とパイプの床を爪でひっかくと火花が散っている。
あの爪はひょっとして鉄以上の硬度を誇っているのではないだろうか。あの死に体で、あの強度。
そして間近で見ればわかるこの巨大さ。おそらく体高三メートルはあるだろう。全長ともなれば、もうわからない。それにあまり想像したくもない。
若く元気であるとはいえ、少なくとも熟練した魔法使い一〇〇人単位で挑まなければいけないという話に真実味が帯びてきた。あれは確かに、一人や二人では手に負えないだろう。
ハリーは距離を取りながら思考する。
(まずいぞ。いざとなったら身体強化魔法で駆け抜けてしまうつもりだったけど、この異常なスピードだと追いつかれてしまうかもしれない。いや、追いつかれると見ていい。ぼくの姿が見られるか、魔法薬の効果が切れて気配を気取られるか、声を聴かれるかしたら、その瞬間、ぼくの死は確定したと思ってもいい。なんて無茶なことをしているんだろうね、ぼくは)
ハリーは念のため静穏呪文を重ね掛けし、掠っただけで即死級であるヌンドゥの肉体から少しでも離れようと静かに移動を始めた。
ヌンドゥは自分の前足の裏になにもないことが不思議なようで、とろんとした目で肉球を見つめている。
その口内からは、景色が歪むような吐息が漏れている。
城で広まっているのは風邪程度であるが、もしかしたら吐かれた直後では致死性があるのかもしれない。
早く離れねばと結論を出したハリーは、その瞬間、恐怖で失禁するところだった。
――見ている。
ヌンドゥがこちらを見ている。
明らかにハリーの動きを目で追っている。
何故だ? 何故バレた。
気配はまだ消えている。透明マントから何かがはみ出ているということはない。
声だってあげていないし、念のため息も潜めている上に、静穏魔法で動作音も消している。
では、なぜ。
と、焦燥に熱のこもった頭で、風に揺れる透明マントが効いていないのではないかと不安を抱く。
しかし、そこで。
(――待て、風だと)
ハリーの胸や背中が、冷や汗で濡れはじめた。
恐ろしい考えだ。だが無視するわけにはいかない、命に直結する大事な思考だ。
(あいつ、ひょっとして、空気の流れがわかるのか? つ、まり、これって……)
ならば。
先ほどから動き回っているハリーの周りの空気は、どうなっている?
あいつからは、どう見えている?
そして、いま立ち止まっているハリーの周囲は……、
(ヤッ、ヤバい! 『アニムス』! 我に力を!)
なりふり構わずハリーが身体強化呪文を唱えたのと、ヌンドゥが身をかがめたのはほぼ同時。
知覚が一気に加速したハリーが次に目にしたのは、こちらに飛び掛かってくるヌンドゥの姿だった。
全力で床を蹴ったハリーは、二〇メートルは離れた天井近くまで跳びあがる。
ヌンドゥの爪がパイプの床を抉った。
しかしその盲いていない方の目は、確かにハリーの方に向いている。
やはり空気なのか? いや今はどうでもいい。とにかく、位置がバレている!
(とにかく物理的に攻撃しないと! 『レダクト』、粉々!)
ハリーは天井付近にある岩から適当なものを選び、ヌンドゥの真上にあるものを破砕した。
がらがらと落ちてくる巨岩をヌンドゥにあてようと思ったが、後ろに跳ぶことで避けられてしまう。
そしてヌンドゥは骨と皮ばかりのようでどこから力を出しているのかわからない後ろ足に力を籠め、こちらに一足飛びにこちらへ向かってくる。
だが、それは悪手だ。
(『コンフリンゴ』、爆ぜよ!)
ハリーが唱えた魔法は、爆発呪文。
対象はヌンドゥではない。いま、彼ないし彼女が通り抜けようとした先ほどの岩だ。
爆発した岩は飛礫を飛び散らせてヌンドゥの柔らかい腹を狙う。
案の定突き刺さった岩片に、ヌンドゥは尻尾を踏まれた猫のような悲鳴を上げてしまう。
腹にいくつか深く刺さったようだ。びゅるり、と少量の血と体液が噴き出している。
一切容赦する気はない。殺さねば、殺されるのだ。
狙い通りとは言えないが、それでもほんの少しでも突き刺さってくれたのは僥倖。
おそらく老いと飢えによって腹の中身が少なく、皮膚も薄かったからかもしれない。
怪我を負ってくれただけでも上々だが、幸運にも突き刺さってくれた。
(もう一度だ、『コンフリンゴ』!)
爆発呪文。
今度爆発させるのは、ヌンドゥの腹に刺さった岩片だ。
突き刺さったまま勢いよく爆発した岩は、その傷口を大きく広げた。
同時に小さく裂かれた内臓や、少なくない血がばら撒かれる。びちゃびちゃと不愉快な音を立てるヌンドゥは、完全に怒り狂った顔でハリーを探し回っている。
空気の流れを感じ取れなくなったか。これは好機だ。
このまま殺す。
無傷で勝つのが最低条件だ。
(傷口を掻っ捌いてやる! 『アナプニオ』、気道開け!)
決して小さくない傷を狙って、ハリーは気道確保呪文を放った。
これが当たれば、腹の傷口を気道として認識して構築した魔法式が作用して、ヌンドゥの腹は完全に裂ける。あとは腹圧によって内臓を吐き出して、そのまま死に至るだろう。
だが。
ここでハリーはミスをした。
戦闘での興奮、死への緊張感、優位に立った気の緩み、終わりへの安堵。
それらすべてが作用して、ほんの一瞬気が緩んだ。気道確保呪文の魔力反応光を、ヌンドゥに見られてしまったのだ。つまり、正確な位置を知られてしまった。
空間全てを押し潰すような殺気と共に、ヌンドゥはその爪を振り抜く。
標的たるハリーの姿は見えておらず常に移動していたために、運よく空振りに終わる。
だが。
その爪が起こす暴風のような余波が飛ばした他愛ない塵が。
ハリーのシャボンに、小さな穴を穿った。
(――――――ッ、ご、ぶあ)
途端にハリーはとてつもない嘔吐感に襲われ、胃の中の物をすべて戻してしまう。
吐瀉物の重みで完全にシャボンが割れ、外気が直接ハリーの口腔を刺激する。
ヌンドゥの吐息が混じった、汚染された空気。
(が、ぁぁあ……ッ、い、痛い! 痛い痛い痛い!? な、んだよこれ!?)
それがここまでのものだとは思わなかった。
即死効果はなかったのは幸いだ。しかし、しかしこれで相当な弱体化をしている。
本来ハリーが喰らうはずだった『激烈な病』とはどれほどのものだったのだろうか。
(ぎ、ぃ――。く、そっ。ま、だ。死んで、ない。殺、す。そう、だ。殺そう)
視界が真っ赤に染まる。
動物相手に殺意を振り撒けば己の位置を教えるようなものだが、もうやめだ。
隠れるのは、やめた。やめにしよう。
どうせこれ以上は息もできない。あと一度でもしたら、間違いなく昏倒する。
殺す。
こいつを斃せば死なずに済む。
殺す殺す。
これ以上ダメージを受けると行動できなくなる。
殺す殺す殺す。
ならば攻撃は最大の防御として、疾く抹殺あるのみ――!
ヌンドゥからすれば、何もない位置から何者かの胃液の匂いがすることだろう。
鼻が利くヌンドゥにとって、それは丸見えも同然。当然飛び掛かり、爪を突き出した。
しかし身体強化をしているハリーにその動きは見えた。
(『プロテゴ』、『プロテゴ』、『プロテゴ』! 守れ、三重の盾!)
跳びながら盾の呪文を重ね掛けした分厚い盾を作り出したハリーは、その表面で受け流すように爪の一撃を凌いだ。そして空中で体勢を整えると、ヌンドゥの伸びきった前足に着地。二層分削ぎ取られた盾を構えて疾走した。
骨ばった腕を駆け上がられるヌンドゥは、その身を大きく震わせた。
酷い足場を駆けて、ハリーは巨大な肩の上まで移動する。そして杖を構え、練り上げた魔力を放つ。
(『ランケア』、突き刺せ!)
杖から飛び出したのは、円錐状の魔力反応光。
あたかも本物の突撃槍のように、光の穂先は怪物の背を穿った。
ごり、という感触から擦るに骨へダメージを与えることにも成功しただろう。
本来ならばここまで深く突き刺してしまえば、槍を引き抜くことにもひと苦労することは間違いない。ハリーのように非力な少女ならばなおさらだ。しかし《刺突魔法》によって形成された槍は、ただの魔力の塊。よって魔力供給を途絶えさせれば槍は消える上に、栓となっていた穂先が消えたことで傷口から夥しい量の血があふれ出した。
(『ランケア』! 『ランケア』! 『ランケア』! 『ランケア』ァァァ――ッ!)
次々と突き刺される槍に耐えかねたのか、ヌンドゥはハリーを振り落そうと大きく身をよじる。
ハリーもしばらく槍に掴まって踏ん張っていたものの、汗で手が滑って杖を落としてしまっては元も子もないので、諦めてヌンドゥの背から飛び降りた。
(ちぃっ! いいところを!)
身体強化の恩恵で難なく着地したハリーは、心の中で悪態をついた。
しかしヌンドゥがハリーの居た位置に爪を薙ぎ払ってきたので、慌てて駆け出す。
ネズミや蝙蝠とすれ違い、ばたばたと倒れていく。彼らには申し訳ないことをしていると思うが、逃げねばこちらが死ぬのだ。そして、呼吸も限界に近い。あと十秒……いや、それより少なく見積もろう。五秒だ。五秒で殺す。
(『アニムス』!)
ハリーは身体強化に充てていた魔力を、必要最低限を残してすべてそちらに回した。
途端、世界から色が抜け落ちた。
モノクロの世界をハリーは駆け抜ける。壊れた機械のように速過ぎたヌンドゥの動きが、よく見える。体の節々が痛い。特に足の関節がヤバい。股関節が痛いとか乙女としてどうかと思う。正直叫んで転がりまわりたい。だが。今は殺す。奴を殺す。
反転。
右足で急ブレーキをかけて、急制動をかける。踏み抜いた床がへこんで、ちょうどいい足場になった。
膝を曲げて、思い切り蹴りぬく。砲弾のように体が飛び出した。
――残り五秒。
こちらに向かってくるヌンドゥ目掛けて一跳びに接近し、まず前足を支える足の付け根にドロップキックを放つ。べぎごぎばぎごが、と冗談みたいな感触と共に骨が砕ける感触が足の裏から伝わる。同時にハリーの膝からも嫌な音が響いた。間違いない、痛めた。下手したらヒビが入っている。
そしてその勢いのままヌンドゥを蹴って跳びあがると、天井に
身体が回転するように天井を蹴って、そのまま踵落としを決めようとする者の、このスピードの世界においてヌンドゥはついてきた。なんと首を振って、ぎりぎりでハリーの蹴りを避けたのだ。
――残り四秒。
強靭な生命力をフル回転させて行われた回避行動にハリーは驚くも、掠めた際に左目を引き裂くことに成功した。むわ、という灼熱の空気の中を通ったので、おそらくヌンドゥの呼気だろう。戦闘が終わった後、即座に着衣を捨てて焼かなければまずいかもしれない。
血を吹き出して苦しがるヌンドゥを尻目に着地したハリーは、びきびきと鳴った両足の感覚から今度こそ骨の損傷を確信する。まだ魔力運用が甘かったようだ。速度強化と肉体強化が釣り合っていないため、自分の行動にダメージが入るのだ。もっと、もっと最適化しなければ。
――残り三秒。
ハリーは駆け出した。足首や膝、股間からの異音は気にしていられない。出来るだけ速く早く足を動かして疾駆しなければならない。ヌンドゥの股の間を潜り抜け、ハリーは弓を引き絞るように杖を構えた。
(『アナプニ――う、わっ! くそっ!)
自身より速く動き始めた人間に危険を感じたヌンドゥが、その長大な尻尾を振るった。
骨と皮にちょびちょびと毛が生えたようなみすぼらしい尻尾だが、鞭のような強靭さは変わらない。
前転することによって下半身を狙って飛来してきた尻尾を避けると、床に手をついて跳びあがる。
――残り二秒。
目の前にはヌンドゥの後ろ足がある。ハリーは咄嗟に杖を向けて縄魔法を撃ち込んだ。
ばしゅ、と突き刺さったそれは肉を貫通して、しっかりと固定された。
多大なスピードを得たハリーの身体は、遠心力のせいでぐるりとヌンドゥの身体を周る。
高速世界においてさらに高速である中、ハリーは最大に引き伸ばされた知覚を総動員して、縄の長さを調節する。ちょうど、着地地点がヌンドゥの腹になるように。
――残り一秒。
首を振って妨害しようとするヌンドゥだが、奴の身体は大きい。奴の牙がハリーの身体を貫く前に、ハリーはヌンドゥの腹へ盛大に着地した。どむ、という鈍い音と共に、布が裂けるような音がする。傷口が広がり血が溢れ、ピンクと赤のグロテスクなものがちらりと見えたその先に、ハリーは勝機を見る。
――残り零秒。
自らに課した制限時間は越えた。これでダメなら本当に最期だ。
ハリーは力を振り絞って杖を向け、
(『アナッ、プニオ』ォォォオオオオオオッ!)
傷を裂き切った。
途端、溢れるように血と臓物がはみ出してきて、ヌンドゥが長々と悲痛な悲鳴を上げる。
元々体力がなかったのだ。本来ならばここからが本番であったはずだが、ヌンドゥの身体はもう限界を迎えていた。
勢いよく崩れ落ちる巨大な豹の身体から飛び降りると、ハリーは身体強化魔法がかかっているうちに全力で駆けだした。背後で水っぽい音が鳴り響くも、振り返る余裕はない。
息が、息がもたない。
苦しさのあまりぼろぼろと涙をこぼしながら、ハリーは駆け抜けた。
走って、走って、走り続けて、足元の小動物の骨を踏み砕いて滑って転がった。
幾度かごろごろ無様に転がり続けたのち、自分の身体から力が抜けていくのが分かる。
強化魔法が切れたのだ。
だめだ、息を吸いたい。アレから大分離れたはずだ。もういいはずだ。
「ぶっはぁあッ! があっは、げほっ! げえっほ! う、ぐ、ッあ、は。げほっげほっ!」
周囲に人がいたら絶対にできないだろう無様さで、ハリーは新鮮な空気を貪欲に吸う。
視界が狭まっている。まずい、酸素が足りない。
落ち着いて深呼吸しようとして、咳き込んでしまうので我慢しようとして。何度も呼吸に失敗してから、ハリーはようやくまともに息を吸えるようになってきた。
涙と洟水と汗で顔がぐちゃぐちゃだ。
ハリーはさっさと服を脱いで全裸になる。念のため靴もショーツも含めて本当にすべてだ。
どうせ誰もいないんだ、恥ずかしがることはない。
脱ぎ捨てた服はすべて一か所に投げ捨てて、クロウラーと同じ目に遭わせるため
「『スコージファイ』、清めよ」
ハリーはまず自分の裸身を綺麗にした。
泥と体液だらけでぐちゃぐちゃだった身体が、元の白を取り戻してゆくのは素直に嬉しい。
魔法空間から引っ張り出したショーツをはいて、私服の黒い長袖シャツを着る。セットで買ったジーンズもちゃんと穿いている。靴は無骨な安全靴だ。色気の欠片もない。
これでもう、痴女みたいな格好にはなっていない。
「ぐ、うぶ。おえ……ッ、う、ううう。何も出ない。なのに気持ち悪い」
ローブを羽織ろうとした際に襲ってきた盛大な吐き気に四つん這いになるも、出るのは唾液ばかりで気持ち悪さが出て行かない。仕方なくハリーは杖を取出し、自分の胸にあてて呟いた。
「『ディアグノーシス』、全身診断」
診断魔法。自分の身体のことを知るには、これが一番だった。
ハリーの目にのみ映る文字が、ぱぱぱ、と表示される。
まず重度の熱があるようだ。四〇度はあるらしい。死んでしまうぞ、こんな熱。
次に眩暈に嘔吐感、寒気に免疫力の低下がある。体力も徐々に削られているようだ。
「う、まずい……本気で辛い。使えるか? いや理論は習ったし……」
自覚して気付いたが、自分の体調があまりにも悪いことに驚く。
今すぐふかふかのベッドに寝転んで二、三日は眠りこけていたい気分だ。
ハリーは震える指で杖を握り、恒例のスネイプによる課外授業で習った呪文を唱え始める。
「『エピスキー』、癒えよ。『モルブスサナーレ』、病よ癒えよ。『フェブリスサナーレ』、熱冷まし」
途端に全身がムースのようなものに包まれ、とろりとした液体に浸ったような気分になる。
冷たくて暖かくて、柔らかいお湯のようでふわふわの泡のようで、とても気持ちがいい。
ハリーは造りだしたムースの上に寝転んで、体力と魔力の回復に努めた。
早くジニーを助けないといけないが、いまはこのまま道なりに進むしかないようだ。
「『モビリコーパス』、さっさと動け」
適当な調子でムースに移動呪文をかけると、ふよふよと移動を始める。ハリーが軽くランニングするくらいのスピードなので、大して変わらないだろう。傍から見ればやる気を疑われる格好だが、先も思ったように誰もいないから楽して体力回復に努めるべきだ。
盛大にだらけながらもハリーは、先の戦闘を思い出す。
未熟だった。あまりにも稚拙だった。
いくら相手が凶悪な魔法生物であったとはいえ、他に何かやりようがあったのではないだろうか。
あれは一歩間違えれば死んでいた戦い方だった。
しかもこんなに魔力を使って、もはや枯渇寸前ではないか。
一年生のときのように、枯渇してもなお使い続けて、大事な場面で使えなくなるなどというのは、もう二度とごめんだ。
ハリーは魔法空間にしまっていたフレッドの鞄を取出し、最後の栄養ドリンクを飲み干す。
バーノンとペチュニアの教育によってポイ捨てすることに強い抵抗を感じるハリーは、ごみをわざわざ魔法空間内に放り込んだ。そして起き上がると、大分体が軽くなっていることを感じる。
しかし健康状態とは程遠い。
いつものように飛んだり跳ねたりするのは難しいだろう。
魔法効果が切れてムースが消え、ゆったりと床に足を着けたハリーはそのまま歩き出す。
……だめだ、膝が痛い。
骨に入ったヒビは治したはずだが、完治とは言えないのだろうか。
仕方なくハリーは、自分の胸に向けて呪文を唱える。
「『レウァーメン』、鎮痛せよ」
淡い緑色の魔力反応光が、ハリーの胸に這入り込む。
途端、膝の痛みを感じなくなった。
これは痛覚を遮断する魔法であり、あまりいい魔法ではなかった。
聖マンゴはこれの使用を非推奨しており、できる限りなら人生で使わない方がいいとまで言う。
理由は単純なもので、痛みというのは体の発する危険信号なのだ。
もし痛みがなければ、傷を負ったことに気付かないまま、たいしたことのない傷を悪化させて死んでしまう。などということになりかねないからだ。
しかし今はこれが必要になる。
継承者と戦うにしろ、例のバジリスクと戦うにしろ、いちいち足を痛がっていてはあっさりと殺されてしまうのは、まず間違いないことだ。ならばまたダメージを受けても平気なように、使っておくのも悪くはないのではないか。そう考えた末の行使である。
(……水の音がするな)
まだ他の怪物がいるかもしれないのだ。
言葉に出さず、ハリーは耳を澄ませて情報を得る。
水の音、そして何かが擦れる音。誰かが歩く音。蝙蝠の飛ぶ音に、ネズミの足音。
この中で一番問題なのは、歩く音。
まず人間のものだ。苛立つような足音が響いている。
継承者だろうか。警戒が必要だ。
そして何かが擦れる音。ひょっとしたらロンの言っていたバジリスクかもしれない。
目と目が合うとき恋ではなく命を落とす、というロンのよくわからない冗談も一緒に思いだしたが、そんな致死性の高い魔法生物を相手にするのは少し怖い。
だが対抗策は、ハーマイオニーが教えてくれていた。
これもロンから説明されたことであるが、ハーマイオニー以下、石化してしまった者たちは総じてバジリスクの目を直接見なかったことが原因だろうとのことだ。
ミセス・ノリスは水浸しになっていた床に反射した状態で。コリン・クリービーはカメラのレンズ越しに。監督生たちもノリスと同じく水に反射したバジリスクを見たと思われるが、全員が全員それというのは少し妙だ。恐らくあの中の誰かは、クロウラーの体液が混じったお湯にでも触れてしまったのではないだろうか。もしそうであるならば、是非とも念入りに身体を洗って欲しい。
さて。
透明マントを纏ったまま、ハリーは遂に行き止まりに辿り着いた。
蛇が絡まり合った彫刻がある。その蛇の目には、大粒のエメラルドが嵌め込んである。
何をしたらいいのかなど、分かりきった事だ。
【邪魔だ。道を開けろ】
蛇語を唇から滑らすと、岩が擦れる音とともに蛇がうねうねと動き始めた。
それらは複雑に絡んだ胴を綺麗にほぐすと、するりと壁の中へ消えていく。
この先が、秘密の部屋だ。
扉が溶けるように消え去り、ハリーに道を示した。
姿を消したまま部屋の中へ侵入すると、なるほど趣味が悪い。
あちらこちらに蛇の石像が置いてあり、部屋の中は水で満たされていた。
美しく飾られただろう室内はいまや石の肌をさらけ出しており、灰色と黒に支配されている。
部屋の中央にそびえ立つのは、一人の屈強な魔法使いの石像だ。
その特徴から恐らくはサラザール・スリザリンその人の像だとは思うが、もしそうならばサラザールという男は酷いナルシストであったようだ。自分の巨像が立つ秘密のお部屋を女子トイレの奥に設置するとはいったい如何なる考えなのか、ハリーには全く理解できない。
あまりにひどい趣味に辟易していると、ハリーの目に燃えるような赤毛が飛び込んできた。
スリザリン像の足元に、その身を投げ出して横たわっている。
「ジニー……!」
思わず駆け寄って、彼女の真っ白な肌にびっくりした。
酷い。まるで死体のようだ。
慌てて脈を取ってみれば、弱々しいが確かにある。
死んではいない。しかし、この不健康な肌の色はいったい……?
「来たね、ハリエット・ポッター」
何者かの声に、そこでハリーはようやく継承者が居るかもしれないということを思い出して素早くその場から飛びのいた。途中で床に手を突いて倒立回転のようにアクロバティックに起きあがると、腰から杖を抜き放ち、声の主へ突き出した。
ここにいる以上、ただものではない。
相手が誰であるかを確かめる前に、ハリーは一瞬で練った魔力で魔法を放った。
「『ステューピファイ』、麻痺せよ!」
「『プロテゴ』、護れ」
ハリーの赤い閃光は、何処からともなく聞こえた声によって盾の魔法で防がれる。
盾が解除されて光の粒へと消えた時、その顔が露わになる。
黒髪にすっと通った鼻。口元は自身に満ち溢れたように吊りあがっていた。全体的にハンサムに整った顔である。顔だけを見ればハリーも嫌いではない顔立ちをしているが、意思が強いというより我の強そうな目が嫌いだった。あの目で見られるのはあまり好きじゃない。
見覚えがある。
「トム……? トム・リドルか!」
そうだ。
あの日記の所有者。トム・マールヴォロ・リドルその人だ。
ハリーより三つ四つ年上の風貌を持つが、あの日記の日付が正しければ五〇年以上前に生きていた人物である。それなのにこんな……十六、七歳のままの姿だなんて。
「そうだよ、ハリエット。ようやく会えた。日記越しに見るよりずっと可愛らしいよ」
「そいつはどうも。……君は、ゴーストか?」
ぼんやりと輪郭のぼやけた姿に、透明度が低いとはいえ向こう側の景色がほんの少し透けて見える。ハリーがそう思ってしまうのも仕方ないだろう。
「記憶さ。このぼくが日記に封じ込めた、十六歳当時の記憶」
「そんな、まさか。五〇年も前の魔法がまだ生きてるっていうのか……?」
有り得ない話だ。
通常では魔法をかけたとしても、込めた魔力が切れればそのまま効果もなくなる。
だというのに半世紀も持たせる魔力運用など、ハリーは知らない。
禁術レベルの魔法を用いているのか、それとも単純に彼の技術か。
「まあ、いいさ。ぼくはあの日記から出てきてるから、これから時間はいくらでもある」
リドルが指差した先には、ジニーの胸の上におかれた黒い本。
あれは……リドルの日記だ。何故こんなところにリドルの日記が?
とはいえ、あれから出てくるなど、いくら魔法界でもあまりに荒唐無稽だ。
「そしてぼくは君に聞きたいことがあったんだけれども、うん。後でいいや。それより君に恋い焦がれた人がいるみたいだから、ひとまずそっちが優先かなあ」
「恋い焦がれた人……?」
いったい何を言っている、と言おうとしたその時。
頭の天辺がぞわりとした感覚に襲われ、ハリーはその場で身を低くして飛び退いた。
微かな殺気を振りまいて頭上を通り過ぎたのは、幾匹かの蝙蝠。
それらがリドルの近くで集まっていく様を見て、ハリーは思わず呻いた。
まさか、こいつが出てくるとは完全に予想外だ。
「……、ああ……会いたかったぞ……」
蝙蝠が一つのコールタールのようなドロドロになった後、一気に練り上げられ形を作る。
紫のターバンで顔の半分を覆った、ハリーにとってトラウマの象徴ともいえる男。
もはや完全によれよれになったスーツを着込んだままの、あの時あの場所でのまま。
声の主はそのままゆらりと立ちあがり、ハリーを見据えた。
「会いたかったぞ、ポッターァ……」
「なぜあんたがここにいる……いや、どうやって生きてるんだ!」
ハリーの目の前に現れたのは、昨年度ハリーが殺したはずの男。
クィリナス・クィレルその人だった。
【変更点】
・ヌンドゥ戦。既に死にかけの御老体なのにこの強さ。理不尽。
・描写されていないだけで、スネイプの課外授業は続いています。
・クィレルは死なん! 何度でも蘇るさ!
【オリジナルスペル】
「オルクス、見通せ」(初出・23話)
・目に魔力を集中させて遠見を可能とする魔法。
元々魔法界にある呪文。一年生で習う基礎的な呪文。
「ソムヌス、眠れ」(初出・23話)
・睡魔を増幅させる魔法。当然ながら生物以外には効果がない。
元々魔法界にある呪文。一年生で習う基礎的な呪文。
「ドロル・ドロル、苦悶せよ」(初出・23話)
・単純に苦痛のみを与える魔法。これをもとに《磔の呪文》が考案されたとされる。
元々魔法界にある呪文。若干闇の魔術寄りな特性を持つ。
「シレンシオ・ミー、音喰らい」(初出・23話)
・動作により発生する音を消す魔法。中世フランスで排泄時の消音のため開発。
元々魔法界にある呪文。昔は壺に用を足す時代だったので必須とされた。
「ランケア、突き刺せ」(初出・23話)
・刺突魔法。杖に硬質化した魔力を螺旋状に纏わせて、槍と化す呪文。
元々魔法界にある呪文。魔力をランス状に固めて使い捨てることも可能。
「ディアグノーシス、全身診断」(初出・23話)
・自分の体調を確認する魔法。病巣の早期発見により魔法族の平均寿命が伸びた。
1942年、アルバス・ダンブルドアが開発。
「モルブスサナーレ、病よ癒えよ」(初出・23話)
・軽い体調不良を治す魔法。寝不足や眩暈程度なら綺麗さっぱり。
1975年、マダム・ポンフリーが開発。
「フェブリスサナーレ、熱冷まし」(初出・23話)
・風邪の症状を軽くする魔法。微熱程度ならば完治する。
1971年、マダム・ポンフリーが開発。
「レウァーメン、鎮痛せよ」(初出・23話)
・痛覚をシャットアウトする魔法。痛みを感じなくなるため、少々危険。
元々魔法界にある呪文。聖マンゴではなるべく使わないよう勧告している。
というわけで、23話はどうにも新出魔法が多い。
ヌンドゥの倒し方は本当に難産でした。一番手っ取り早いのがバジリスクをけしかけるとか牙でブッ刺すなんですけど、そんなお手軽な方法は取らせません。今後のためにハリーには頑張ってもらいました。老ヌンドゥの激烈な病は、RPGでいうバッドステータスを一気に全部付与される感じだと思って下さい。
リドルと共に再登場、クィレル先生! だいたい挿絵のままです。どうやって生き延びたのか、とかは次のお話で。どうせお辞儀さんの系列なんだし、ろくなもんじゃありませんよ。