では、はじまります。
――side 雪乃――
「比企谷くん、誕生日おめでとう」
病室に眠る彼に、私はそっと声をかけた。あの事件から半年と少し経って、彼は誕生日を迎えていた。
既にもう何人か参ったようで、置いてあるものの数を見ればだいたいいつもの人達が来ていたことが予想できる。
「あなたは今、何をしているのかしらね。案外、戦っていたりするのかしら」
最後にまともに言葉を投げかけたのが、あの選挙の時。心から悔やまれる。
わかってくれるものだとばかり思っていた? 違う。彼なら私を理解して、察してくれるものだとばかり思っていた。それほどまでに彼に甘え、頼りきっていた。
「……たくさんは望まない。いつも通りでいい。だから、帰ってきて、比企谷くん。その時にこそ、お話をしましょう。あなたに伝えたいことも、言いたいことも、謝りたいこともあるの」
失ってから気づく。どれほどまでに彼が私にとってなくてはならないものだったのか。
「……ふふ、由比ヶ浜さんもライバル、と言うことになるのかしら」
川崎さんや戸塚くんも怪しいわね。……戸塚くんはちょっとそうあってほしくはないけれど。
あなたが囚われてから、あの二人も悲しんでくれたわ。まったく、どこがぼっちなのかしら。
ざい……財津くんも、うるさいくらい泣いていたわよ?
と、そうそう、もう知ってるかもしれないけれど、小町さんは見事私達の後輩よ。奉仕部に入ってくれてるわ。
「……比企谷くん。私は負けず嫌いなの。あなたも知っているでしょう?
だから、早く帰ってきて。勝負を勝ち逃げすることは許さないわ。そして、私を勝負の土俵に立たせて」
酷く不安ではある。あるけれど、それでも……それでも比企谷くんならクリアしてしまいそうな気がする。
いいえ、そんなことしなくてもいい。死なないで、生きて帰ってきて。
「……どうか無事で、比企谷くん」
――side 八幡――
「……ハッピーバースデー、俺」
21層の迷宮内で、ふと思い出したように呟いた。
1層のクリアから半年とちょっとで俺達は20層までクリアしていた。
やはりクリアできる。ということが大きなモチベーションとなったのか、前線へと上がるプレイヤーが増えた。
ディアベルのことがそれなりに堪えたのか、ボス討伐においては今のところ死者もゼロだ。
俺はと言えば相変わらずのぼっち生活。ボス討伐の度にキリトにはパーティに誘われフレンド再申請を出され続け(もちろん断っている)、素顔を出してすっかり人気者、攻略をまとめるアスナからは最重要アタッカーのポジションに任命させられ(断っているつもりではある)なかなか面倒な立ち位置に取らされそうにはなっているものの、それなりにやっている。
「……っと、あぶねぇな」
ザン。と小気味いい音を立ててモンスターを両断する。
あれ以来、片手剣を捨てた俺はクラインと同じ曲刀……タルワールを持った。その説明に一撃離脱のスキルもあると書いてあったからだ。しばらく熟練度を上げること幾月か、この曲刀から派生するらしいエクストラスキルの"刀"が俺の主武装になっていた。
連撃が多く、かつその連撃の数が多いほど上位のスキルとなることが多いこのSAOにおいて、刀のソードスキルは一太刀によるダメージが高いものが多い。
これは俺との相性がよく、好んで使っている次第である。
5層のボスのラストアタックボーナスで取得した大きいマフラーで口と鼻を覆うとまるで幕末辺りの人斬りっぽくなる。今の防具も軽装の和服だしな。
刀の情報を鼠女やクラインには流しておいたら、クラインもすぐに刀を取れたらしい。あいつ野武士みたいな格好だからかなかなか似合ってる。
「……この辺りにしておくか」
マッピングはあまり進まなかった。が、まぁこんなものか。
それなりに焦らずやれているだろう。今はギルドもそれなりに作られて、攻略への力の注ぎ具合もよくなっているし。
代表的なのはアインクラッド解放軍か。アイテムの分配を計り、安定した供給の元に攻略を進めていく。現在規模的にはかなりのものではあるはずだ。
キバオウもそこに所属しているため、俺はあまり良く思われていなさそうだ。更に付け加えれば少し増長している奴もいるらしく、最近あまりいい噂を聞かないな。
次点では意外なことにクラインが率いる風林火山。リアルフレンドを率いているらしいが、少人数ながら軍より役に立つまである。接しやすい、というのもあるのだろう。
最後は聖龍連合。それなりにレベルの高い攻略ギルドだが、レアアイテムハンターでもあるらしく手段を選ばないとの噂もある。
遭遇したことがあまりないから深くは言えないが。
それ以外はソロか、俺ら最前線――通称"攻略組"にいるのはそいつだけで、それ以外は中位のギルド。ってのが多いな。俺? ソロに決まってるだろ。
「あれ、ハチマンくん?」
「あ?」
白を基調とした装備に茶髪の美少女。おそらくマッピングに来ているであろうアスナがいきなり目の前に現れた。
……びっくりした。
「こんにちは。キミもマッピング?」
「終わったとこだがな。これから帰る」
こいつ、コミュ障なのかと思ったらむしろ超リア充。
ギルドが仕切りやすいボス討伐の時のソロ組をまとめて、かつ本人はあの見た目であの実力だ。今や大人気アイドル扱い。
……一部で攻略の鬼、とかとも言われているとか。まぁ、アスナの案が中心になったら結構強引な策とかあるからわからなくもないが。
「え、もう?」
「今日は気分がそこまで乗らないから帰る。あとは適当に頑張ってくれ、じゃあな」
今日が誕生日となると、いくら俺でも心に来るものがある。だから帰って、適当に散歩して寝るのがいい。
そう思って歩き出す俺の肩に手を置かれ、ぐいと引っ張られる。
……これ、つい何日か前にもやったよな確か……
「……なんだよ、俺は寝るんだ」
「却下します。ハチマンくん、私とパーティ組みましょ?」
強引に帰る手段などあるわけもなく、俺はもうしばらくマッピングすることが確定したようだった。
今はまだ現実世界編は書くことが少なすぎてしまうせいか、ほんとに短いです……主軸になる時は必ず来るのでそこで輝かせたい……
休日パワーでまた書いていこうかなと思います。では、ありがとうございました。