戦闘描写はこれからの大きな課題です。楽しいけれど難しい。
ちょっとずつ上手くなっていきたいものです。
「さぁ、みんな。準備はいいな?」
迷宮の最奥。ボス部屋にてディアベルがゆっくりと扉を開いた。
ボスの名前はイルファング・ザ・コボルド・ロード。中で待ち構えるその姿はなるほど、ボスっぽい。
武器は……斧と盾か。
「まぁ、俺らの受け持ちはこいつらだけどな」
ルイン・コボルド・センチネル。このボスの取り巻きで、まぁ、雑魚モンスター扱いだ。それでも普通の雑魚よりかは動けそうではあるが。
「全軍! とつげきぃぃぃっ!」
ディアベルの声に全員が向かっていく。なんかあいつ、叫ぶと声が材木座みたいだな。
と、そんな場合じゃない。
「キリト、先行して斬るぞ」
「任せた!」
一瞬。地を蹴って俺たちの標的に向けて接敵した後、取り巻き全員に一太刀ずつ浴びせる。
これで取り巻きのヘイトは俺へと集められた。
「速い……」
全軍から一気に突出して横へ逸れたからか、誰かの声が聞こえた。
よそ見してんな。と言いたい。
「キリト、アスナ」
「……うん」
「ああ、やるぞハチマン!」
ボス戦……笑うもなくもここからだ。やるぞ、やるしかねぇ。死ぬわけには、いかない。
―――――
「終いだ、ほら」
もう何体斬ったかわからない。幾ばくかの取り巻きを全滅させて俺達は一旦小休止に入る。
ポーションを使って体力を回復させておく。俺は何よりも身軽にしている分だけ、アスナやキリトよりも脆い。
同じだけ攻撃を受けても、俺は二人よりも体力の減りが多くなってしまう。
「……気が遠くなるくらい速いわね、ほんと」
「お前もな。突破する速さなら俺より速いかもな」
「どうだか……」
「案外余裕だな、二人とも」
「雑魚処理だけならな、アレがあいつら全員倒しでもしたら焦るぞ」
「なら大丈夫だな。もうそろそろ武器チェンジしてくるけど、それはつまりあと少しの証拠だ」
さすがベータテスター。まぁ、ここのボス自体はガイドブックにも載っていたし、一応知識としては俺も知っている。
あのボスはHPが残り少なくなるとタルワール……曲刀と呼ばれる武器に切り替えてくる。注意が必要だが、あの人数でやってれば負けないだろう。
思った以上の出来に、俺は少し心で安堵した。
――多分、それがいけなかったんだろうな。
「来るぞ、武器チェンジ」
ボスの咆哮が聞こえて、斧と盾を投げ捨てる。同時に取り巻きが復活して、俺は剣を構えた。
さぁ、ラストスパートだ――
「みんな、下がれ!」
「……あ?」
ディアベルの、状況には不釣り合いな声。
今、あいつはなんつった?
「このまま俺が仕留める!」
「なっ……」
あの野郎! 何をいきなり……周りの連中もどうして下がってやがるんだ。
「あいつ、まさかラストアタックボーナスを……っく」
「ハチマン!」
よそ見しすぎた……真正面から一発受けて半分ほどHPを削られる。くそ、こいつら……
「邪魔くせぇっ……」
二撃目を与える隙間なく切り刻んで、俺のところの取り巻きを倒す。
キリトも倒したらしい。二人してディアベルを見れば、そこには驚愕の表情を浮かべたディアベルと――
――大きな太刀を持ったボスが立っていた。
「……違う! 避けろディアベルッ!」
芯から迫るようなキリトの叫びは虚しく響き、ディアベルは真正面から太刀の一撃を受けて、そのまま返す刀、二撃目も受けて吹き飛んだ。
「ディアベルッ!」
慌ててそちらへかけて行くキリト。一旦ボスの攻撃が止まった。
……それは、つまり……
「――!」
「……」
キリトといくつかの言葉を交わして、ディアベルはポリゴンとなって消えた。
つまりそれは……
「ディアベルはんが……死んだ……」
キバオウの言葉はこの場をパニックにさせるには充分だった。
当たり前だ。指導者が死ねば取り巻きはパニックになる。何もそれはあいつらモンスターだけではない。俺達人間も変わらない。エギルや数名のプレイヤーは立て直そうと必死だが……違う、そうじゃない。
プレイヤーじゃだめなんだ、こういうときは、自分達の敵を決めて、そして、その敵を……そいつへ、立ち向かわないといけない。
「……」
「行くの?」
「……って言ったらどうする?」
「カバーする。あそこの彼も、そのつもりみたい」
キリトもボスを睨んで剣を握っていた。それはそうだろう。
何度だって言ってやる。やるしかねぇ。スタートからこけるわけにも、いかない。
「死ぬかもしれないぞ」
「……それでも、負けたくない。この世界にまで、負けたくない」
「……はっ、それもそうだな。じゃあ、まずはあれくらい倒さないとな」
こくりと。フードが頷いた。なら、もう後には引けない。
俺も剣を握って、隠蔽スキルを使って一足で駆け出した。
「……っらぁっ!」
「影が……あいつは……」
「ハチマン!」
ステルスヒッキーよろしく。ボスに反応すらさせずに一太刀入れて、キリトの前に着地する。アスナも来たな……よし。
「キリト、動ける連中に指示出しとけ。それ終わったらすぐに来てくれ」
「ハチマン……わかった!」
「俺、本来こういう役目じゃないからさ、死ぬまでには戻って来てくれよ」
「バカ、そういうときは倒しておくからって言っておけよ」
「ばっかお前、それこそ死亡フラグじゃねぇか」
軽口を言い合って、少しの余裕が生まれる。
相手の体力はあと三割ほど。俺も、体力に関わりなく受けたら即おしまいだろう。
……だからなんだ。
「……アスナ、いいか?」
「任せて」
やる。俺らしく、真正面からなんて言わない。正々堂々と不意打ちで、集団で。俺はディアベルほど愚かじゃない。
こっちから、一方的に。
「――お前を殺すぞ、化け物野郎」
……後で振り返って黒歴史にならないといいな、これ。
「はぁっ!」
初撃。アスナが突進からの突きでヘイトを引き受ける。AIは並みなのか、アスナの方へ振り向くそいつの首へ、俺はソードスキルを振った。
手応えはある。ある、が、ここにきて武器の耐久が限界近くに来てたらしい。斬ったと同時に二つに折れてポリゴンへと消えた。
「チッ……」
レアドロではなかったけど、それなりに愛着あったんだけどな……
と、感傷に浸るのは後だ。予備の武器をストレージから構える。ランクがさっきのより低いが仕方ない。
俺の戦い方ではこれが限界だ。
「リニアー!」
細剣の基本ソードスキル。アスナの敏捷ならそれは剣速が見えるのすら危うい。
あれ、俺も使えないかな……無理?
「ソニックリープ」
上への突進技のソードスキルを発動して真正面から一撃、そのままいつも通り、通常攻撃をひたすらに叩き込む。
……くそ、ここにきて自分の露骨な弱点に気づいちまった。
「二人とも、下がれ!」
「遅いぞキリト」
「レイジスパイク!」
ガン。とボスのHPが削れた。やっぱり、か。
俺の弱点、剣速や身体の速さならアスナより上だろう。けれど、武器が合わない。片手剣はこういった戦い方には合わない。雑魚処理ならレベルさえあればどうにでもなる。というだけだった。
……熟練度、結構上げたんだけどな。
「キリト、アスナ、そのまま聞け」
「どうしたんだハチマン」
「俺じゃ、あれに致命打は入れられない。決定的に武器と俺の相性、ボスの耐久が噛み合わない。
だから、なるべくヘイトは俺が稼ぐ。あとはわかるな?」
「……無理はするなよ?」
「無理させる前に倒してくれ。そうすれば俺が楽できる」
「ハチマン……お前ってやつは……わかったよ、アスナ、行けるか?」
「もちろん!」
アスナの言葉を皮切りに、俺は一気にボスへ迫った。耐久なんて知らん。このボス戦が終わったら武器ごとチェンジだ。なら、壊れるまで使われてくれ。
「スイッチ!」
後ろで見ていたキリトが敵の攻撃に合わせて掛け声をあげる。範囲攻撃か。俺は一目散にキリトよりも後ろへ引いて、攻めていく二人を見つめた。
「はぁぁっ!」
間一髪で横凪ぎを躱すアスナ。フードが切れて素顔が露になる……って、あいつ……あんな顔してたのか。
雪ノ下や由比ヶ浜クラスの美形なんじゃなかろうか。って、そうじゃねぇ。
「―――――!」
ボスの咆哮から、タメ無しの範囲攻撃。
くそ、最後のあがきってやつか。
「くっ……」
「きゃあっ……」
尻餅をつく二人。まずい……
「うおおおっ!」
「エギル!?」
「お前達にだけやらせるか! 早く退勢を立て直せ!」
どこからいったのか、エギルが斧で一撃を与える。
ここが正念場ってやつか……行くか。これで終わらせてやる。
「後ろ、取ったぞ」
「ハチマン!」
「バーチカル・アーク」
片手剣のソードスキル。縦に二回連続の斬撃を入れるこれは、やはりボスにトドメを刺すには至らなかった。
なら……
「っらぁっ!」
通常攻撃の乱打。リキャスト切れを待ってからの……
「シングルシュート!」
投剣の初期ソードスキル。投擲可能な武器を投げれるそれは、この武器にも適応する。
元々これはそのためのものだし、このスキルは敏捷性が関わるものだから、おそらく俺の技で最大威力になるだろう。
「やれ、キリト!」
「うおおおっ!」
残り少しまで削れたボスがこちらへ振り向く。最後の最後に、一番強い攻撃を持つ相手に背を向けて、所詮はAIか。
俺は、おそらく笑ってただろう。どんな笑みかはわからないが。
「バーチカル・アークッ!」
先程俺が行った縦二連撃。その比にならない威力を以て、ボスはポリゴンへと姿を変えて消滅した。
「……やった、のか」
おいやめろ、それフラグだぞ。
なんて言おうと思ったら浮かぶコングラチレーションの文字。どうやら、勝ったらしい。
「や、やった……やったぞ!」
誰かの声を皮切りに四方から喜びの声が聞こえる。
ディアベルは死んでしまったが……あれは自業自得の部分も大きい。
ラストアタックボーナス欲しさに、目が眩んだか。
「やったな、ハチマン」
「ああ。あと、ラストアタックボーナス、おめでとう」
「あ、ああ……」
「……ディアベルのことなら仕方ないだろ。自業自得だ。お前は悪くない。
立役者なんだから堂々としてろよ」
キリトは頷くと、ラストアタックボーナスより得た黒いコートを羽織った。黒を基調とするこいつに良く似合っている。
「……なんだか、上手く行けそうだな」
「……ああ」
ゲームクリアという目標。明確な敵の存在。これは、最初から団結して、上手くいけるかもしれない。
ぼっちらしからぬ淡い期待もしてしまいそうな、そんな気持ちすら抱いて周りを見る。
……変わって、いけるのかもな。この中でなら。
この異常な場所だが、変わらざるを得ないなら、変わっていくしかない。選挙の時に自分を変えれたんだから、きっと――
「……なんでや!」
「……あ?」
「なんでや! なんでディアベルはんは死んだんや!」
そんな想いは、すぐに裏切られる。自分で言ったんじゃないか。人の本性はもう少し進まないとわからない。明確な大きな敵がいたからみんな集まっていたに過ぎない。
……やはり、俺が期待を抱くことはまちがっていた。そう、結局はそこに行き着くことになるのを、まだ、少しだけ俺は知らない。
はい、次回でEpisode1が終わります。
オリジナル展開が増えつつ、おそらく八幡はやっと原作らしくなるかと思います。
とはいえ、あまりにもヒッキー過ぎてしまうと進まないのでやんわりヒッキーですがそこはご容赦を。
ではでは、またの時によろしくお願いします。