ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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長くなってしまいました。
戦闘描写はこれからの大きな課題です。楽しいけれど難しい。
ちょっとずつ上手くなっていきたいものです。


Episode1,part4

「さぁ、みんな。準備はいいな?」

 

 

迷宮の最奥。ボス部屋にてディアベルがゆっくりと扉を開いた。

ボスの名前はイルファング・ザ・コボルド・ロード。中で待ち構えるその姿はなるほど、ボスっぽい。

武器は……斧と盾か。

 

 

「まぁ、俺らの受け持ちはこいつらだけどな」

 

 

ルイン・コボルド・センチネル。このボスの取り巻きで、まぁ、雑魚モンスター扱いだ。それでも普通の雑魚よりかは動けそうではあるが。

 

 

「全軍! とつげきぃぃぃっ!」

 

 

ディアベルの声に全員が向かっていく。なんかあいつ、叫ぶと声が材木座みたいだな。

と、そんな場合じゃない。

 

 

「キリト、先行して斬るぞ」

 

 

「任せた!」

 

 

一瞬。地を蹴って俺たちの標的に向けて接敵した後、取り巻き全員に一太刀ずつ浴びせる。

これで取り巻きのヘイトは俺へと集められた。

 

 

「速い……」

 

 

全軍から一気に突出して横へ逸れたからか、誰かの声が聞こえた。

よそ見してんな。と言いたい。

 

 

「キリト、アスナ」

 

 

「……うん」

 

 

「ああ、やるぞハチマン!」

 

 

ボス戦……笑うもなくもここからだ。やるぞ、やるしかねぇ。死ぬわけには、いかない。

 

 

―――――

 

 

「終いだ、ほら」

 

 

もう何体斬ったかわからない。幾ばくかの取り巻きを全滅させて俺達は一旦小休止に入る。

ポーションを使って体力を回復させておく。俺は何よりも身軽にしている分だけ、アスナやキリトよりも脆い。

同じだけ攻撃を受けても、俺は二人よりも体力の減りが多くなってしまう。

 

 

「……気が遠くなるくらい速いわね、ほんと」

 

 

「お前もな。突破する速さなら俺より速いかもな」

 

 

「どうだか……」

 

 

「案外余裕だな、二人とも」

 

 

「雑魚処理だけならな、アレがあいつら全員倒しでもしたら焦るぞ」

 

 

「なら大丈夫だな。もうそろそろ武器チェンジしてくるけど、それはつまりあと少しの証拠だ」

 

 

さすがベータテスター。まぁ、ここのボス自体はガイドブックにも載っていたし、一応知識としては俺も知っている。

あのボスはHPが残り少なくなるとタルワール……曲刀と呼ばれる武器に切り替えてくる。注意が必要だが、あの人数でやってれば負けないだろう。

思った以上の出来に、俺は少し心で安堵した。

――多分、それがいけなかったんだろうな。

 

 

「来るぞ、武器チェンジ」

 

 

ボスの咆哮が聞こえて、斧と盾を投げ捨てる。同時に取り巻きが復活して、俺は剣を構えた。

さぁ、ラストスパートだ――

 

 

「みんな、下がれ!」

 

 

「……あ?」

 

 

ディアベルの、状況には不釣り合いな声。

今、あいつはなんつった?

 

 

「このまま俺が仕留める!」

 

 

「なっ……」

 

 

あの野郎! 何をいきなり……周りの連中もどうして下がってやがるんだ。

 

 

「あいつ、まさかラストアタックボーナスを……っく」

 

 

「ハチマン!」

 

 

よそ見しすぎた……真正面から一発受けて半分ほどHPを削られる。くそ、こいつら……

 

 

「邪魔くせぇっ……」

 

 

二撃目を与える隙間なく切り刻んで、俺のところの取り巻きを倒す。

キリトも倒したらしい。二人してディアベルを見れば、そこには驚愕の表情を浮かべたディアベルと――

――大きな太刀を持ったボスが立っていた。

 

 

「……違う! 避けろディアベルッ!」

 

 

芯から迫るようなキリトの叫びは虚しく響き、ディアベルは真正面から太刀の一撃を受けて、そのまま返す刀、二撃目も受けて吹き飛んだ。

 

 

「ディアベルッ!」

 

 

慌ててそちらへかけて行くキリト。一旦ボスの攻撃が止まった。

……それは、つまり……

 

 

「――!」

 

 

「……」

 

 

キリトといくつかの言葉を交わして、ディアベルはポリゴンとなって消えた。

つまりそれは……

 

 

「ディアベルはんが……死んだ……」

 

 

キバオウの言葉はこの場をパニックにさせるには充分だった。

当たり前だ。指導者が死ねば取り巻きはパニックになる。何もそれはあいつらモンスターだけではない。俺達人間も変わらない。エギルや数名のプレイヤーは立て直そうと必死だが……違う、そうじゃない。

プレイヤーじゃだめなんだ、こういうときは、自分達の敵を決めて、そして、その敵を……そいつへ、立ち向かわないといけない。

 

 

「……」

 

 

「行くの?」

 

 

「……って言ったらどうする?」

 

 

「カバーする。あそこの彼も、そのつもりみたい」

 

 

キリトもボスを睨んで剣を握っていた。それはそうだろう。

何度だって言ってやる。やるしかねぇ。スタートからこけるわけにも、いかない。

 

 

「死ぬかもしれないぞ」

 

 

「……それでも、負けたくない。この世界にまで、負けたくない」

 

 

「……はっ、それもそうだな。じゃあ、まずはあれくらい倒さないとな」

 

 

こくりと。フードが頷いた。なら、もう後には引けない。

俺も剣を握って、隠蔽スキルを使って一足で駆け出した。

 

 

「……っらぁっ!」

 

 

「影が……あいつは……」

 

 

「ハチマン!」

 

 

ステルスヒッキーよろしく。ボスに反応すらさせずに一太刀入れて、キリトの前に着地する。アスナも来たな……よし。

 

 

「キリト、動ける連中に指示出しとけ。それ終わったらすぐに来てくれ」

 

 

「ハチマン……わかった!」

 

 

「俺、本来こういう役目じゃないからさ、死ぬまでには戻って来てくれよ」

 

 

「バカ、そういうときは倒しておくからって言っておけよ」

 

 

「ばっかお前、それこそ死亡フラグじゃねぇか」

 

 

軽口を言い合って、少しの余裕が生まれる。

相手の体力はあと三割ほど。俺も、体力に関わりなく受けたら即おしまいだろう。

……だからなんだ。

 

 

「……アスナ、いいか?」

 

 

「任せて」

 

 

やる。俺らしく、真正面からなんて言わない。正々堂々と不意打ちで、集団で。俺はディアベルほど愚かじゃない。

こっちから、一方的に。

 

 

「――お前を殺すぞ、化け物野郎」

 

 

……後で振り返って黒歴史にならないといいな、これ。

 

 

「はぁっ!」

 

 

初撃。アスナが突進からの突きでヘイトを引き受ける。AIは並みなのか、アスナの方へ振り向くそいつの首へ、俺はソードスキルを振った。

手応えはある。ある、が、ここにきて武器の耐久が限界近くに来てたらしい。斬ったと同時に二つに折れてポリゴンへと消えた。

 

 

「チッ……」

 

 

レアドロではなかったけど、それなりに愛着あったんだけどな……

と、感傷に浸るのは後だ。予備の武器をストレージから構える。ランクがさっきのより低いが仕方ない。

俺の戦い方ではこれが限界だ。

 

 

「リニアー!」

 

 

細剣の基本ソードスキル。アスナの敏捷ならそれは剣速が見えるのすら危うい。

あれ、俺も使えないかな……無理?

 

 

「ソニックリープ」

 

 

上への突進技のソードスキルを発動して真正面から一撃、そのままいつも通り、通常攻撃をひたすらに叩き込む。

……くそ、ここにきて自分の露骨な弱点に気づいちまった。

 

 

「二人とも、下がれ!」

 

 

「遅いぞキリト」

 

 

「レイジスパイク!」

 

 

ガン。とボスのHPが削れた。やっぱり、か。

俺の弱点、剣速や身体の速さならアスナより上だろう。けれど、武器が合わない。片手剣はこういった戦い方には合わない。雑魚処理ならレベルさえあればどうにでもなる。というだけだった。

……熟練度、結構上げたんだけどな。

 

 

「キリト、アスナ、そのまま聞け」

 

 

「どうしたんだハチマン」

 

 

「俺じゃ、あれに致命打は入れられない。決定的に武器と俺の相性、ボスの耐久が噛み合わない。

だから、なるべくヘイトは俺が稼ぐ。あとはわかるな?」

 

 

「……無理はするなよ?」

 

 

「無理させる前に倒してくれ。そうすれば俺が楽できる」

 

 

「ハチマン……お前ってやつは……わかったよ、アスナ、行けるか?」

 

 

「もちろん!」

 

 

アスナの言葉を皮切りに、俺は一気にボスへ迫った。耐久なんて知らん。このボス戦が終わったら武器ごとチェンジだ。なら、壊れるまで使われてくれ。

 

 

「スイッチ!」

 

 

後ろで見ていたキリトが敵の攻撃に合わせて掛け声をあげる。範囲攻撃か。俺は一目散にキリトよりも後ろへ引いて、攻めていく二人を見つめた。

 

 

「はぁぁっ!」

 

 

間一髪で横凪ぎを躱すアスナ。フードが切れて素顔が露になる……って、あいつ……あんな顔してたのか。

雪ノ下や由比ヶ浜クラスの美形なんじゃなかろうか。って、そうじゃねぇ。

 

 

「―――――!」

 

 

ボスの咆哮から、タメ無しの範囲攻撃。

くそ、最後のあがきってやつか。

 

 

「くっ……」

 

 

「きゃあっ……」

 

 

尻餅をつく二人。まずい……

 

 

「うおおおっ!」

 

 

「エギル!?」

 

 

「お前達にだけやらせるか! 早く退勢を立て直せ!」

 

 

どこからいったのか、エギルが斧で一撃を与える。

ここが正念場ってやつか……行くか。これで終わらせてやる。

 

 

「後ろ、取ったぞ」

 

 

「ハチマン!」

 

 

「バーチカル・アーク」

 

 

片手剣のソードスキル。縦に二回連続の斬撃を入れるこれは、やはりボスにトドメを刺すには至らなかった。

なら……

 

 

「っらぁっ!」

 

 

通常攻撃の乱打。リキャスト切れを待ってからの……

 

 

「シングルシュート!」

 

 

投剣の初期ソードスキル。投擲可能な武器を投げれるそれは、この武器にも適応する。

元々これはそのためのものだし、このスキルは敏捷性が関わるものだから、おそらく俺の技で最大威力になるだろう。

 

 

「やれ、キリト!」

 

 

「うおおおっ!」

 

 

残り少しまで削れたボスがこちらへ振り向く。最後の最後に、一番強い攻撃を持つ相手に背を向けて、所詮はAIか。

俺は、おそらく笑ってただろう。どんな笑みかはわからないが。

 

 

「バーチカル・アークッ!」

 

 

先程俺が行った縦二連撃。その比にならない威力を以て、ボスはポリゴンへと姿を変えて消滅した。

 

 

「……やった、のか」

 

 

おいやめろ、それフラグだぞ。

なんて言おうと思ったら浮かぶコングラチレーションの文字。どうやら、勝ったらしい。

 

 

「や、やった……やったぞ!」

 

 

誰かの声を皮切りに四方から喜びの声が聞こえる。

ディアベルは死んでしまったが……あれは自業自得の部分も大きい。

ラストアタックボーナス欲しさに、目が眩んだか。

 

 

「やったな、ハチマン」

 

 

「ああ。あと、ラストアタックボーナス、おめでとう」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「……ディアベルのことなら仕方ないだろ。自業自得だ。お前は悪くない。

立役者なんだから堂々としてろよ」

 

 

キリトは頷くと、ラストアタックボーナスより得た黒いコートを羽織った。黒を基調とするこいつに良く似合っている。

 

 

「……なんだか、上手く行けそうだな」

 

 

「……ああ」

 

 

ゲームクリアという目標。明確な敵の存在。これは、最初から団結して、上手くいけるかもしれない。

ぼっちらしからぬ淡い期待もしてしまいそうな、そんな気持ちすら抱いて周りを見る。

……変わって、いけるのかもな。この中でなら。

この異常な場所だが、変わらざるを得ないなら、変わっていくしかない。選挙の時に自分を変えれたんだから、きっと――

 

 

「……なんでや!」

 

 

「……あ?」

 

 

「なんでや! なんでディアベルはんは死んだんや!」

 

 

そんな想いは、すぐに裏切られる。自分で言ったんじゃないか。人の本性はもう少し進まないとわからない。明確な大きな敵がいたからみんな集まっていたに過ぎない。

……やはり、俺が期待を抱くことはまちがっていた。そう、結局はそこに行き着くことになるのを、まだ、少しだけ俺は知らない。

 




はい、次回でEpisode1が終わります。
オリジナル展開が増えつつ、おそらく八幡はやっと原作らしくなるかと思います。
とはいえ、あまりにもヒッキー過ぎてしまうと進まないのでやんわりヒッキーですがそこはご容赦を。
ではでは、またの時によろしくお願いします。

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