ユイはアインクラッド編では出ませんが……後々で出そうか悩んでおります。
「……で、だ。これからどうするんだ?」
「えっと……18層で団長が協力者を用意してくれているみたい。まずはその人と会わないとね」
「なるほど」
「……あの、ハチくん。どうかな、これ」
「あ? あー、そういやなんで服変えてるんだ?」
アスナは今いつもの服ではなく、色合い的には俺に近い青を基調にした軽装の鎧だ。
なんとなく察しはつくものの、一応理由を聞いてみることにする。
「血盟騎士団の服だと、目立ちすぎちゃうからって。
性能は悪くないものだと思う。その、変じゃないかな」
「別に大丈夫だろ。お前、見てくれはいいんだしよっぽどのものじゃなければだいたい似合いそうだがな」
「うわー、なんか凄くなげやり……」
「俺にそういう話を期待するなよな。事実を述べてるんだからいいだろ」
「それはそうだけど……ハチくん、ぼっちを自称するわりにこういうの耐性高くない?」
歩きがてら、やたら話しかけてくるアスナを横目に俺は一息ついた。
耐性か……耐性って言っていいものなのか。
「前に言ったろ、俺のいた部活の部長。そいつが自分で自分のこと「私、可愛いから」とか言うやつで、しかも実際学校一の美少女扱いされてるんで言い返せなくてな。まぁ、そういったものには耐性がある」
雪ノ下も由比ヶ浜も、見てくれに関しては間違いなくどちらも凄いからな。
「……ふぅん」
なんだよ、その半目ってかジト目みたいなのは。
いや、ぼっちを自称する俺がそんな知り合いがいるのはおかしいかもしれないが。
「まぁ、俺とそいつは友達ですらなかったけどな」
友達ですらなかった。なかったけれど、俺の中では想像以上になくてはならない存在だった。
雪ノ下も由比ヶ浜も、あの場所も含めて俺は本物を欲した。
男女となると色眼鏡もあるし、確かにあの二人は美人だが、そんなの関係ないと、今の俺なら断言できる。
「大切な人なの?」
「少なくとも、俺がこのゲームをクリアしたい最も強い理由であることは間違いない」
アスナはそれっきり、何か考えてるようで話さなくなっていた。
いや、俺もその方が助かるからいいんだけどさ。
―――――
「で、来たはいいが協力者ってのは……」
「よう、お二人さん」
「待ってたゾ、ハッチ、アーちゃん」
「エギルにアルゴ……お前らか、協力者ってのは」
「そういうことだ。俺はデュエル大会に出ないからな。とは言え、ヒースクリフから要請を受けたわけじゃない。……一応な」
「どういうことだ?」
「話すと少し時間がかかる。場所を移そう」
18層にて、エギルとアルゴに合流した俺達は、ひとまずエギルの案内に合わせて喫茶店へ向かっていた。
なるほど凄い。目立つはずのアスナがいつもの格好でないだけでここまで溶け込めるのか。
血盟騎士団のユニフォーム、目立つからな……
「で、どういった理由でお前らがここに?」
「オレッチはアーちゃんのとこの団長からの要請だナ。オレッチの知名度的に大々的な動きはできないかラ、ギリギリまで名前を明かさないように動かせてもらってるけどナ」
なるほど。だからヒースクリフも協力者としてしか言わなかったのか。
まぁ、鼠のアルゴが軍を探ってるなんて、こいつが表で活動すりゃすぐに広まっちまう。それほどまでに攻略組にとって重要な情報屋だからな、この鼠女は。
「それで、エギルさんは?」
「ヒースクリフからではなかったんだが、遠回しにあいつからってことになるのか。
――俺は、ユリエールから救援要請を受けた」
「……意外な名前だな。あいつ、シンカーに代わって一応オウルと軍の頭してるだろ」
「そのシンカーを助けてくれ、とのことだ。事情は一切知らん」
「おいおい、さすがに適当過ぎないか?」
「仕方ないだろう。ヒースクリフが調査のついでにユリエールとの連絡手段を見つけたとかで、自分では動きづらいからと俺にユリエールのメールIDを教えてきたんだ。どうも、ユリエールもシンカーも身動き取れないようでな、メールすらまともに交わせない状態だ」
「……お前の上司、実は一人で事足りたんじゃね?」
「さすがにそれはないと思う……けど、団長、ずいぶん動いてたのね」
アスナも全然知らなかったらしい。いや、あいつのフットワークの軽さはなんなんだよ。
まるで、全部ヒースクリフの思惑通りに事が進んでるんじゃないかって錯覚にすら陥る。
間違いなく雪ノ下さんのような天才だ、あいつは。
「……天才、か」
「ハチくん、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
茅場も天才なんて言われてたな。なんてふと思い出して、しかしそこから先の思考は首を横に振って霧散させる。疑心暗鬼の元を叩かないといけないのに、俺が疑心暗鬼になるのは問題だ。
ひとまずは、ヒースクリフの言葉を鵜呑みにすることにしよう。信用? ばっか、ああいう奴の言葉ほど信用できるかっての。
「で、どうするんだ? ユリエールに話を聞くにも、あいつがいるのは始まりの街だろ? 軍の本拠地に殴り込みは面倒だぞ」
……それに、圏内とは言え、人間に切っ先は向けたくない。間違いなく不快になる。
それを考えても、直接殴り込みに行くのは難しいと言える。
「その為のオレッチさ、ハッチ。まずは始まりの街の教会にいるサーシャってプレイヤーに会うとイイ。低年齢層の、このゲーム開始から精神に異常をきたしてしまった子供のプレイヤー達を保護、まとめている人ダ。ユリエールもそこに出入りしてルらしイ」
「なるほどな。お前らはどうするんだ?」
「オレッチとエギルンは軍に正面から行ってみル。とは言え、オレッチはあくまで裏方だガ」
「というわけで、これからまた別行動だな。ハチマン、アスナ、よろしく頼む」
「――はい!」
「なぁ、エギル。お前はどうしてこれに関わる? いや、俺が言えたことじゃないが、お前には無縁だろ?」
ずっと、エギルと会ってから聞きたかったことを聞いてみる。
俺は一応、事の発端という、この件に関わらねばならない理由があるし、攻略再開の為もある。オウルについては知らん。ヒースクリフが好きにやるだろ。
アスナは血盟騎士団の副団長として、アルゴは情報屋の仕事として、なら、エギルは?
「ばか野郎、攻略をこんなところで足止めにされて困るのは俺だって一緒だ。
それに、始まりの街の様子を見たことあるか? あるならわかるはずだ。あれはダメだ。これ以上軍が肥大化すれば余計に迷惑を被るプレイヤーが出る。攻略の為とは言え、その為に他の人が苦を強いられるのは間違っている。あとはあれだ、誰かを助けるのに理由がいるか?」
「お前はどこぞのRPGの主人公かよ。
……まぁ、理由はわかった。人手はいないよりいる方がいいからな」
「そういうことだ。というか、ハチマンこそ面倒くさがってこういうのは協力しなそうだが、どうした?」
「……俺にもいろいろあるんだよ」
理由をしっかり話せば、いらん協力を買いかねない。
ギブアンドテイク。こういうのはお互いの利害の一致のみでやりくりした方がいい。
「じゃあ、一旦解散だナ。エギルン、行くゾ」
「……いい加減その呼び方やめないか?」
そういって先に立ち上がり去っていくアルゴとエギルン。エギルンか……ぷっ。
「ハチくん、ひっどい笑顔……」
「だってお前、エギルンはずるいだろ……」
「だからってそんな笑顔にならなくても。まったく、私達も行こう?」
「あいよ。始まりの街、だな。圏内っつっても、俺は戦闘はする気ないぞ」
「わかってる。ハチくんの分の戦闘も私が請け負うから」
「……いや、戦闘しないこと前提で行こうぜ」
面倒くさがってるとか思ってるのか、アスナの返答が凄く早い。いや、面倒くさがってるって思われた方が楽ではあるんだが。本当の理由なんて、クラディールのことを引き摺ってるこいつには話せたもんでもないしな。お互い、同情なんて嫌だろう。
「それは軍の人次第よ。さ、行きましょ」
「……何事もなければいいんだが」
自分で言っても無理だとわかるひとりごとにため息を吐いて、俺もアスナの後を追って喫茶店を出たのだった。
そんなわけでハチマン&アスナ、エギル&アルゴなんていう謎の組み合わせ誕生です。
ここからオリジナルしつつ、シンカー救助しつつキバオウ出しつつヒースクリフの違和感に迫ると……おおう、この話もとても長くなりそうです……ではでは。