ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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お待たせしました! アインクラッド編セミファイナルでございます。
導入編、よろしくお願いします。


Episode7,part1

「そろそろデュエル大会か」

 

 

あのオウルの発言から三日ほど。騒然となってしまった攻略組にヒースクリフがひとまずの攻略を中断することを宣言して、とりあえずデュエル大会へと全員が意識を向けていた。

俺を除き、な。俺は一人黙々と迷宮攻略中だ。できる限り進めておいて損はないだろう。

どうせ茅場を見つけるのなんて不可能に近い。なら、攻略が再開した時に足踏みしてるよりはいいだろう。

 

 

「茅場の正体……か」

 

 

一理はある。オウルのあの発言は時と場合、そして場所を選べば賛成できない言葉ではなかった。

が、不特定多数が聞きすぎてる上に攻略組というのは中層やその下、なんとかこのゲームを生きているプレイヤーに比べて強さこそ抜きん出ているものの、対比してメンタルは割れやすい。

全員、心のどこかにヒビが入っていて、ふとした拍子に割れてしまう危険性があるのが攻略組だ。

俺を例に挙げれば、ラフィンコフィン討伐の際のあれや、卒業式を過ぎた辺りのことだ。

感情に鈍い俺がこれなのだから、他の連中はどれほどなのかわからない。

オウルは、それに鉄塊を落としたことになる。

 

 

「最悪、茅場が雲隠れか」

 

 

もしいるとしたら、ラスボスなんて形で最終層に現れるくらいはやりそうだ。

が、これで攻略が進まなくなって茅場が見限れば終わり。そんなことをしなくとも、疑心暗鬼に駆られ同士討ちなんてことも始まりかねない。

あそこで無理矢理にでもオウルをどうにかすべきだったのかもしれないが、そこで変に言えば俺が茅場にされて、異端審問して終わり。帰りたかった方のも本音だが迂闊なことを言える状況でもなかった。

まったくもって、巨大な鉄塊を落とされた。

 

 

「……ん?」

 

 

不意にメールが入った。送り主は……ヒースクリフ。

血盟騎士団のホームへ来て欲しいとのことだった。

 

 

「……嫌な予感しかしないんだが……」

 

 

それでも向かう辺り、俺の精神もおかしいのかもしれない。

……そりゃおかしくもなるか、こんなところに二年近くもいれば。

 

 

―――――

 

 

「よう、ヒースクリフ。……と、アスナか……?」

 

 

呼ばれて向かった先にいたのはヒースクリフと、いつもの白装束ではない、青を基調とした軽装の鎧を着こんだアスナだった。

 

 

「こ、こんにちは、ハチくん」

 

 

「呼び出しに応じてくれてありがとう、ハチマン君」

 

 

「……おう。で、こいつのこれはどうしたんだ?」

 

 

「それも込みでこれから説明するよ」

 

 

椅子に座ったまま、テーブルに肘をついて手を組んで、いわゆる「司令」のポーズを取ってヒースクリフは俺を見た。

……いや、俺初号機に乗るわけじゃないけど。

 

 

「今、攻略組の攻略はかなり厄介なことになっている。それはわかるね?」

 

 

「まぁ、な。犯人捜しなんてやったところで終わりはしないだろうからな」

 

 

「そう。そして、オウル君。彼のやっていることはこのゲーム……ひいては攻略組に相応しくない」

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

「私は私なりに調査させてもらっていてね。どうにも、軍の装備や金策、それらにはかなり無茶な遣り繰りをしていたようだ」

 

 

ヒースクリフの言葉は、その端々に妙な違和感を覚える。

立ち振舞いや存在の仕方とか、気味悪いくらいよくできていて、ゲームをしっかり楽しんでいて、かつ攻略もちゃんと進める。まるで、全部ロールプレイなんじゃないかって思えるくらいでどこか雪ノ下さんを思い出させる。間違いなくああいうタイプの人間なのだろうな。

 

 

「無茶な遣り繰り?」

 

 

「軍が攻略に出るようになってから増えた死者は100人ほど。それも、この短期間で急にだ」

 

 

「……なんだってんだ、それが」

 

 

「どうにも、軍内における中層や下層の者に金策などをさせているようなのだが、レベルやマージンなどを一切気にしないで行かせているようだ。このゲームは、ゲームであってリアルである。最悪の結果は君も理解できるだろう?

それに加え非攻略のただ暮らしているプレイヤーから無理矢理な搾取。なるほど、金策としては有効ではあるかもしれないね」

 

 

「おかしいだろ、誰も疑問に思わないのか? 死ぬ危険くらいわかってるじゃねぇか」

 

 

「煽動と言うのは、時に洗脳にまでなる。君もネットゲーム経験者ならわかるだろう? 誰もが全員君や私達のような知識や技量を持ってはいないと。この状況では、すがりたくなるものもあるのではないかと」

 

 

「……なるほどな」

 

 

攻略について疎い中層や下層プレイヤーにいい夢見せて、攻略組に復帰させる前準備をさせる。

で、潤沢な資金で装備を整えておそらくレベルが高い順に攻略組行きにしているんだろう。

 

 

「階級もあるそうでね、軍に対してちゃんと税を納め、貢献していくと上がるらしい」

 

 

「そりゃずいぶんなことで。つーか詳しいな、お前。どこでそんな情報集めて来たんだよ」

 

 

「いろいろと、ね。それなりに使いはしたがね」

 

 

なんていうか、やっぱりヒースクリフからは雪ノ下さん的な雰囲気を感じる。

雪ノ下さん以上に自分を隠すの上手そうだが。だって、感情表現が過剰なこのゲームで表情を崩さないんだからな、こいつ。

 

 

「……まぁいい。で、俺を呼んだ理由は?」

 

 

「この大会中に、なんとかして攻略組を元に戻しておきたい。内部分裂なんていう結果は私の望むところではないからね。故に、その原因となったオウル君には申し訳ないが、失脚を願おうと思う。その足掛かりをアスナ君に頼むつもりだが、その手伝いをしてほしい」

 

 

「アスナは、それでいいのか?」

 

 

「……うん。いろいろ考えて、ちゃんと決めたの。私は、ゲームをクリアしたい。それに、私達の敵は茅場本人でしょ? いるかいないかわからない人じゃなくて、このゲームの制作者本人じゃない。なのに、このまま全員疑心暗鬼になって何も進めないなんて、そんなの嫌」

 

 

「君も言うようになったね、アスナ君。それはとても良いことだ。改めて、今回の件をお願いするよ」

 

 

「はい」

 

 

「で、だ、この依頼、受けていただけるかね。ハチマン君」

 

 

「……まぁ、今回の原因を作っちまった一人でもあるしな。攻略が進まないのは困るのと、オウルに関しても思うところはあるし、受けておく。失脚とかまでは知らないが、少なくとも、このままじゃまた大きく人が死ぬ」

 

 

それも、ロクでもない理由で。

 

 

「ありがとう。君とアスナ君に頼めれば安心だな。二人は戦闘面もだか、それ以外でも相性が良い」

 

 

「そ、そうですか……?」

 

 

「いや、どこがだよ……妹に振り回されてるような感じだぞ、こっちとしては」

 

 

……おいアスナ、その殺気が籠った目で睨むのやめろ。

 

 

「はは、言ってしまえば、ハチマン君は比較的誰とでも相性は良さそうだが、前提としてハチマン君の性質を多少なりとも許容できないと、だがね。君を理解してくれている人と組ませた姿を、一度くらいは見てみたいものだよ」

 

 

「……なら、とっととゲームクリアしないとだな」

 

 

小町となら、確かに凄い安定したコンビは組めそうだ。

雪ノ下や由比ヶ浜はどうだろうな。やっと今、理解したいと思えた二人だから、まだ先かもしれないが。

キリトやアスナとは単純に同じ死線を潜りすぎて距離感が出来上がってるって感じか。

あいつらはその距離感を結構ぶっ壊してくるが。

 

 

「では、君達の働きに期待しているよ」

 

 

「まぁ、ほどほどにな」

 

 

「行きましょ、ハチくん。では、失礼します。団長」

 

 

こうして、攻略組の現状を回復するための依頼を受けた俺は血盟騎士団のホームを後にしたのだった。




はい、そんなわけで本エピソードではハチマンとアスナが基本1セットです。
ハチマンは八幡らしく、あくまで間接的な活躍になりますが、この話でこの二人をもう少し近づけないと後々アスナが大変なので、そこらも含めやっていきたいと思います。

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