珍しい組み合わせに見せて、案外相性のいい二人かな、と思ったり。では、どうぞ。
「ほら、ハチマン。次あれよあれ」
「リズベット……お前ほんとに人使いの荒い奴だな……」
ラフィンコフィン討伐戦から二月ほど経って、現在74層。攻略組の建て直しなんかもあってか少し時間がかかってしまったが、73層のボスは死者なく倒せたらしい。
らしいってのは、俺は参加してないから。あれからしばらく、刀を持つことをやめた。どうしても斬った時の、あの感情を思い出して自己嫌悪が止まらなくねるから、攻略を一旦やめることにした。
なんであれ、俺は人を殺した。それはじわじわと日にちが経つごとに俺を締め付けた。
雪ノ下や由比ヶ浜きに合わせる顔がないとか、小町になんて言おうとか、あれはいつも通りの俺のやり方ではないせいか、本当に俺を苦しめた。今でも自責と自己嫌悪は止まらずにはいる。
が、幾分かまともにはなった。
「あれよあれ。あいつ倒してもらっていい?」
「はぁ、どいてろよ」
目の前のドラゴンに向かって、俺は抜刀術のソードスキルを発動していた。
二週間ほど経った時に、アスナによってホームから連れ出された。
同情ならいらないと突っぱねるつもりだったんだがあいつはあいつで自分を追い込んでいるようで、それならいいかと付いていった。攻略にまるで関係ない、観光のようなことをやってるうちに、やればやるほどリアルへ戻りたくなって、一月経った頃には刀を持てた。このゲームへの嫌悪感も増したけどな。
今日はリズベットに強制連行されて69層のフィールドを延々と行ったり来たり。ドロップする素材が欲しいんだそうだ。
キリトはサチ達と攻略だそうで、リズベットはそれにずいぶん残念そうに肩を落としていたが。
「ほら、終わったぞ」
「……毎度思うけど、四強ってのはどうしてこうも化け物揃いなのかしらね。あんたと言いキリトと言いアスナと言い。ヒースクリフもやばいんでしょ?」
「これくらいのなら、今の攻略組なら誰でも倒せるだろうよ」
「だとしても一太刀って何よ一太刀って! 私の武器ってすごーい! とでも言えばいいの?」
「まぁ、実際お前の武器はだいぶ強いが……」
「当たり前よ! じゃなくて、あんなおっきいドラゴンも一撃なんてできるのね」
「これはユニークスキルに依存してる所が大きいけどな。抜刀術は本人の回避以外一切の防御手段を持たない代わりに一撃の重みを増してるからな」
「ハイリスクハイリターンってわけね。なんていうか、ハチマンぽくないわね。あんた、ローリスクミドルリターンとかのが好きそうな感じなのに」
「甘いな、ノーリスクローリターン以上が一番いい。ノーリスクってのがミソだ」
「まったく……そのわりによく働くじゃない」
「リアルに早く帰りたいからな」
「それもそうね。って、あんた一応年上なんだっけ? リアルでもこんな感じで喋るから、ヨロシク」
「好きにしてくれ、そういうのは気にしてない」
一応ってなんだよ一応って。まぁ、俺と同世代っぽそうなのはケイタ達くらいだからな。
後輩か……一色の奴はどうなったんだろうな。あざとく上手くやれてそうだが。
今じゃ先輩か、あいつも。うわ、思いきりパシられそう。
「ん、ならそうするわね。どうもハチマンはそういう風に見えないのよねー。戦ってるの見ると確かおかしいくらい強いんだけど、普段が普段過ぎて」
「ほっとけ」
「話しやすいのよね、あんた。捻くれてるけど正論多いし、なんだかんだ相づちもしてくれるじゃない」
「お前らが反応するまで話振ってくるからなんだが」
「それだけ頼りにされてるのよ。何かあったとき、実は結構中心で解決とかしてるタイプでしょ、ハチマンって」
「さぁな。そういう問題に直面しないようにぼっちでいるんだから、よくわからないな」
「よく言うわ。さ、次行きましょ!」
まだ振り回す気か……
実を言えば、それのおかげで気が紛れてはいるんだけどな。
―――――
「よっし、大漁大漁。ありがとね、ハチマン。これでアクセ作って渡すから」
「いいのか?」
「さすがにボスと連戦させちゃったからね」
まぁ、それなら良しとしておこう。以前焔雷を製作してもらったときの言葉で連行されてきたのかと思ったが、貰えるものはもらっておく。
「そう言えば、ハチマンは出ないの? あれ」
「あれ?」
「有志プレイヤーによるデュエル大会。キリトはヒースクリフが出るからって凄いやる気になってたけど」
「あー、あれな。俺はパスだ」
「まぁ、ハチマンならそうよね」
全プレイヤー達への気分転換も兼ねたデュエル大会らしい。発案者はオウル。
あのラフィンコフィン討伐で軍の地位はそれなりに上がった。それで何を思ったのかこんなイベントを考えて、挙げ句今回はヒースクリフも乗り気ときた。
まぁ、あの自己顕示欲の塊としてはまともな案だとは思うが。
「影纏いの参加を望む声とかありそうなもんだけどね」
「俺がそんな期待に応えると思うか?」
「……それもそーね」
オウルから参加の誘いは来たものの、もちろん断った。面倒なのもあるが……人間に切っ先を向けたくない。
あの時を思い出してしまうのが嫌で、俺は対人を断った。
「アスナも出ないらしいし、優勝はキリトかヒースクリフだろ」
「そうなるわよね。見に行くの?」
「わからん」
あいつらの戦いに興味はあるかもしれないが、そこまで見たいわけでもない。
保留の意で答えて、俺は息を吐いたのだった。
八幡の苦悩は、それだけで2~3話になりそうなのでやや割愛。
とは言え、本作ではほぼ永続的に続くのでくどくしない意味も込めて基本控え目です。
デュエル大会については、原作のキリト対ヒースクリフの場所がなくなってしまうから、軍の問題解決と合わせて使う意味で行われました(メタ
リズベットは結構言いたいこというせいか、八幡と相性が良い気がします。
キリト抜きでも気兼ねしない、という意味以上に発展しなさそうなのは八幡故か……ではでは、また次回にて。