こういうときのやり取りって難しいです。
感想への返事は時間のあるときにしていきますので、ひとまずは投稿します。では、どうぞ。
「みんな、準備はいいか!」
とある階層のフィールドに、俺達は集まっていた。
ヒースクリフはやることがあるそうで結局来ず、代わりにアスナと取り巻きのクラディール他数名が来ていた。
血盟騎士団としてはそこまで参加の意はないらしい。
オウルの言葉に軍を始め一部のソロプレイヤー達が声をあげた。ここで名をあげるとか、そんなバカげた話がさっき聞こえた辺り、俺の不安は募る一方である。
「……ハチマン、無理するなよ」
「お前こそな、キリト。俺やお前はその気になれば一撃が必殺だ。なるべくなら、人殺しになりたくないだろ」
「……だな」
俺の抜刀術やキリトの二刀流なんてものは、基本的に他とかけ離れた性能をしている。
だからこそ、迂闊に使えば即殺しかねない。
「……はぁ、逃げたい」
こんな独り言を言える辺りまだ余裕があるな。なんてぼやっと考えながら、俺は先行する軍の後へとついて行った。
「大丈夫? ハチくん」
「お前こそ、よく来たな。……あまり薦められるもんでもないぞ、これは」
「わかってる。けど、来ないわけには行かないの。団長にも頼まれてるから」
「あいつはどうしたんだ?」
「……まだ内緒だからね? もしかすると、シンカーさんの行方がわかりそうなの。キバオウの行方も。団長直々にその調査らしいわ。軍が手薄な今こそ、らしいのよ」
「なるほどな」
あいつはあいつで動いてるのか。まぁ、目的があるなら好きにやってもらおう。
しばらく、目の前の出来事から意識を離すのは難しそうだしな。
「……」
「なんだよ」
「……ふん、せいぜい働くといい、野良猫が」
「クラディール!」
めんどくせぇな……とりあえずアスナから離れることにしよう。
おー、説教かましてるかましてる。……なんだよ、ほんとにみんな余裕だな。
「そろそろだ、警戒するように」
オウルの声が聞こえてくる。ふむ、もう着くのか。奴らのアジト、だっけか?
一応オレンジギルド用に外にもホームは作れるようにしてはあるんだが、なるほど、こんな森の奥深くじゃあなんとも奴らっぽい。
念の為に索敵スキルを発動させる。させて、俺は絶句した。
「来るぞ! 構えろ!」
キリトの声が幸いして、全員なんとか反応した。
索敵範囲内に凄まじい数のアイコンと、そして飛び出てくるオレンジプレイヤー達。
ああ、これはつまり……
「バレてたってことか……っ!」
目の前に出てきた奴に抜刀術で両手を斬り飛ばして、そのまま殴ってダウンさせて放置する。
このアイコンの群れには……いた。以前見た幹部の連中だ!
「影纏い、さすがだ、やる」
「相変わらずおっかねぇ奴だな。情報って大事だわマジで。おら影纏い! 黒の剣士! 俺らとやりたけりゃとっとと来い!」
「言われなくても、そうしてやるよ!」
雑魚はどうでもいい。あの二人を捕まえちまえば――
「ハチマン!」
「っ!」
「こっちも総出で迎えてやってんだ。ありがたく受けとれやぁっ!」
後ろからの攻撃を避けて構える。守ってばかりで攻めれない。殺意の差と、意識の差が大きい。
くそ、邪魔くせぇ。
「みんな、慌てずに――っ!」
はなから期待してないオウルは案の定だ。せいぜい士気の為にも死ぬんじゃねぇぞ。
あいつが死んだら戦線は崩壊だ。
「どうするか――「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
大きな悲鳴と共に、拮抗は一瞬にして崩れた。
俺がそちらを向いた時には、ポリゴンが消え去る瞬間だった。
それは、おそらく悲鳴の主だ。
「クラディール……あなた……」
「残念ですねぇ、アスナ様。ラフィンコフィンが全員最初からオレンジとは限らないのですよ」
わかりやすく述べれば、裏切り者がいた。アスナの取り巻きのあいつだ。
腕にはラフィンコフィンのマーク。ハイレベルの攻略組でありながら、あいつは人殺し集団の一人だったわけだ。
……これは、まずい。
「クラディール、よく、やった。お前ら、戦線を、崩せ」
この不意打ちも、こいつを通して伝わっていたのだろう。
浮き足立っていた戦線は裏切り者の存在により一層足並みが揃わなくなった。少なくとも、このままじゃすぐに次の死者が出る。
それだけは、どうにかして防がないといけない。攻略組だろうと人間だ。このままでは――
「……ダメだ。さすがにそれはできない」
方法ならある。奴らに現実を突き付ける。こちらも殺す手段は同じで、あいつらも殺される側であることを教える。
でも、無理だ。それは俺の……比企谷八幡のやり方じゃない。それは卑屈でも捻くれてもない。真っ直ぐに間違ったやり方だ。
「ちっ……」
足や腕を斬り飛ばすことはできても、殺すことまではできない。
時間もない、手札もない。このままじゃじり貧じゃねぇか……
「ハチマン! 後ろ!」
「わかってる」
後ろから来た奴の足を斬り飛ばしてダウンさせる。
その、瞬間的に恐怖に歪む顔がとてつもなく不快だった。怖いなら、わかってるならやろうとするなよ。
「うわぁっ!」
「ササマル!」
「え……?」
地面に座り込んだササマルは、武器も落としてクラディールを見上げていた。
おい、なにやってんだよ。早く逃げろよ。なんでそんなゆっくり見上げてるんだよ。
「目障りな猫共だった。だから、貴様から先に葬ってやる」
「た、助け――」
「やめろぉぉぉぉぉっ!」
耳がおかしくなりそうなキリトの叫び声に反射して、俺の身体は飛び出した。刀を納刀して、止まることなくクラディールの真後ろに現れる。
そして、その首目掛けて俺は――
――抜刀術のソードスキルを、振り抜いた。
「……あ?」
綺麗に決まった斬撃は、クラディールの首をこれまた綺麗に斬り飛ばしていた。
「ハチ……マン……?」
ササマルの声が聞こえた。良かった、死んでない。
良かった……この夢心地のような中で、その事実だけに安堵する。
ああ、認めよう。こいつらに死んでほしいわけがない。死なせない。
――案外、最初の一人殺っちまったらどうにかなるんじゃねぇの?
数日前の冗談は、俺に、俺自身に降りかかってきた。
「……お、おい、何するつもりだ」
「わかってるだろ、今まで自分がしてきたことなんだからよ」
さっき足を斬り飛ばした奴の前に立って、刀を振り上げた。
比企谷八幡は間違いでも。影纏いのハチマンなら間違いじゃない。
皮肉にも、今この瞬間の俺(はちまん)は俺自身(ハチマン)と驚くくらい思考が一致していた。
「や、やめろ! やめろぉぉぉぉぉっ!」
「うるせぇ」
一振り。それでラフィンコフィンの男はポリゴンとなって消えた。
沈黙。どうしたよ、お前らがやってきたことだろ。
「因果応報だ。いつか自分に戻るってわかってたろ。
わかってなくてもいいけどよ、俺は、俺達にはクリアするっていう目的がある。お前らみたいな半端者がくだらねぇ感情でこんなふざけたことをしてるってなら、
――こうやって、お前らを殺すぞ。ラフィンコフィン」
「……そ、そうだ。俺達はクリアするんだ」
「覚悟を決めろ! ハチマンに続けぇっ!」
足並みは揃った。結局、殺される側であることに気づかなかったあいつらは、殺す側の相手は上手くできない。中層プレイヤーのハイレベルとは言え、単純な戦闘なら攻略組には敵うことはない。
――side キリト――
「死ねぇっ!」
「……お前がな」
ハチマンに斬りかかった奴の首が飛んだ。
後ろから斬りかかったはずなのに、その後ろから首を斬られて倒された。
影纏いの、このゲーム最速の強さに取り囲んでたラフィンコフィンのメンバー達が一歩下がった。
本気で殺しに来るハチマンと向かい合って、怖くないわけがない。
ハチマンは、いつもとは違う……本当に無表情だ。ゲームの中なのに、背筋が寒くなるような感覚がする。これ以上は、いけない。
「ハチマン!」
「っと、行かせるかよっ!」
「っ!?」
目の前に二人、ラフィンコフィンのメンバーが現れた。
くそ、こんな時に……ハチマンにこれ以上人を殺させたくないのに!
「死ねや! 黒の剣士!」
……限界があった。精神にも、動きにも。二対一で、ハチマンをほっとけなくて、叫びたいほどモヤモヤして。
――そもそも、俺は圏内事件の時に覚悟を決めたじゃないか。またハチマンに任せるのか。それで、友達なんて言っていいのか。
「邪魔を……するなぁっ!」
二つの剣を前に突き出す。
それは、二つの身体を貫いてポリゴンへと変えていった。
……殺して、しまった。それも、二人同時に。
「……うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
振り返るもんか。今はその時じゃない。綺麗事なんて言えるわけない。
でも、それでも守らなきゃいけないものがあるんだ!
「どけぇっ!」
腕を、足を斬る。最低限のダメージこそ考えるものの、邪魔になるならすぐに斬り捨てる覚悟を決めて。
「……そこまで、だ。黒の、剣士」
「おまえ……」
「リーダー不在の今、代わりに、相手に、なろう」
ラフィンコフィンの幹部。赤目のザザ。
まさか、幹部直々に来るなんて……
「すぐに終わらせてやる……」
「それは、こっちの、セリフ。お前を、殺す」
そんな言葉、同じ言葉を言うハチマンの方がよっぽど怖い。
負けてたまるか、こんな奴に。
――side 八幡――
「ぐぁっ……く、くそ……」
味方の死者も多い。今、俺の前にいた奴が刺されて死んだ。
やはりロクなもんじゃねぇ。見ろよこれを、最低最悪の殺し合いだ。気がつけば俺も三人殺してる。
「いや、これで四人か」
「なっ……」
反応させる暇もなく、一太刀で斬り捨てる。
間違っていようと、切れる手札を切ってしまった。なら、それにいつもの打算と計算を合わせよう。
「死ね」
「っ!」
不意の後ろからの斬撃を回避する。見れば、あの幹部のジョニー・ブラックが立っていた。
「どうよ、お前お得意の攻撃だろ? これ」
「そうだな。初めて他の人間にやられたわ」
「どっちが不意の攻撃に優れてるか、勝負しようぜ、影纏い!」
奴の得意武器はナイフ。さっき気づけなかったのは隠蔽スキルもかなり上げてるのだろう。
なるほど暗殺者らしい。らしい、が。
「そういうのを正面から堂々とやるには、相手が悪かったんじゃね、お前」
「あ?」
俺の攻撃は、隠蔽スキルに頼る不意打ちじゃない。敏捷性による攻撃だ。
隠れるわけじゃない。回り込むだけだから、あいつが俺に触れるには俺より速いか、キリトより反応が良いことが前提になる。
「お前にこれ、反応できるのか?」
「っ!?」
真横に回って斬りかかる。右側から行ったのは失敗だったか。ちょうどナイフでの防御を許してしまった。一応、そこそこ反応できる技量はあるらしい。
「おいおいおい! なんなんだそれは!」
「お前らがよく俺のことを呼ぶ名前の原因だよ」
影纏い。だいぶ呼ばれ慣れたその名前の理由である、隠蔽スキルと敏捷の合わせ技。こいつは、俺の攻撃をなんだと思っていたのか。
「同じとか思ってたみたいだが、俺とお前のじゃ全然違うみたいだったな」
納刀して、斜に構えてジョニー・ブラックを見つめる。
一応反応はできてるが完全には無理そうだ。ならごり押しでもいいんだが、こんな殺し合い、とっとと終わらせるべきだ。これ以上無意味な死者を出す前に。
だから、反応しても何もできないようにすればいい。キリトは武器破壊なんていうシステム外のスキルをやってのけたことがあるそうだが、俺はもっと単純だ。
「――行くぞ」
「かかって来いよ!」
本気で走って、あいつの真正面に踏み込む。
咄嗟に攻撃を防ごうとして、奴はナイフを振り上げた。だから、俺はその腕へと抜刀術を放っていた。
「なにっ!?」
「毎回防がれても面倒だからな、これで何もできないだろ。
――じゃあな、もう会うこともないだろうよ」
そのまま刀を横に構えて、首へと狙いをつける。
そして、それを横へと一文字に振って、横から唐突に紛れてきた剣に防がれていた。
「ハチマン! ストップだ」
「キリト……?」
攻撃は、キリトによって防がれた。
見れば、あれだけ騒がしかった周囲がとても静かになっていて、どうやら戦闘が終わったらしいことを教えてくれる。
もう一人の幹部、赤目のザザも片膝をついていた。
「終わった、のか……?」
「ああ、もう終わりだ。だから、大丈夫だから……」
「……ん、そうか」
納刀して、大きくため息を吐いた。
――感情がごちゃごちゃしていて、少しどうなのかわからない。
きっと後から凄い後悔するんだろうな。なんてまだ他人事のように思って、俺は力を抜いたのだった。
事後的なものは次回から。
一気にやりましたが、あまり長引かせると八幡がもっと殺してしまいそうなのでやめました。
今後の展開は二通り考えていて、今どちらでやろうか悩み中です。
より、俺ガイルらしい方を選ぼうと思います。