ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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なんとか昼休みに一話投稿できました!
すっごく不穏な一話ですが、新しい形式も試してみたのでよろしくお願いします。


Episode6,part4

人っていうモノは、おそろしく脆い。肉体的にもメンタル的にも。

ふとした拍子で死ぬこともあれば、ふとした拍子で殺してしまうこともある。

が、結局それはフィクションの話で現実的に俺とは関係ないと思っていた。このゲームの中ですら、少なくとも"殺人"は俺と無縁のはずだと思っていた。

――今、この瞬間までは。

 

 

「ハチ……マン……」

 

 

しゃがみこんでいたササマルの声が聞こえる。良かった、生きているらしい。

アスナの取り巻き――クラディールだったか。そいつの首が吹き飛ぶのを見ながらどこか夢心地でそんなことを思った。

飛ばしたのは、間違いなく俺だった。

 

 

―――――

 

 

「そういえば、二人はキリトとどうなんだよ」

 

 

なんとか72層のボスを死者なく倒して、焔雷のメンテをしにリズベットへ会いに行ったところ何故か黒猫団のホームへ連行されていた。キリトは今日はいなくて、不意にケイタがサチとリズベットへ質問を投げ掛けた。

投げ掛けたってより、爆弾投下か。

 

 

「……どうもこうも……」

 

 

「まったくよ。あの朴念仁」

 

 

だろうな。なんて俺とテツオが二人して頷いた。

キリトは鈍い。感情とは無縁だった俺ですらわかるくらい鈍い。地味にファンクラブなんてあるらしいんだが、それでも気づかない。

 

 

「そろそろ二年近く経つとは言え、あいつ思春期真っ盛りで年齢止まってるだろ。色恋とかより優先しちまうこととかあるんじゃないのか? 俺はそれすら無縁だったからわからないが」

 

 

「……ハチマン、あんた一言余計なのよ……」

 

 

リズベットに睨まれるが知らない。だって本当に俺知らないし。

折本の件とか、ちょっともう思い出すのも難しいくらいいろいろ起きちまったからな。

 

 

「そういうアンタこそ、最近アスナとよく迷宮攻略してるそうだけどどうなのよ」

 

 

「え、そうなんですか!?」

 

 

妙に食い付きのいいシリカを横目にため息を吐いた。あー、こいつくらいの年齢(つっても正確にはわからないけど)はそういうの大好きな年齢か。

 

 

「文字通りの迷宮攻略だ。それに俺から誘ってるんじゃない。フラッとあいつとエンカウントした時だけパーティに誘われてるんだよ」

 

 

最近、そのエンカウント数が増えてる気がしなくもないが、あいつも攻略をやってるってことなんだろ。

むしろヒースクリフの方がどうでもいいところでエンカウントしてる気がする。

 

 

「ふぅん」

 

 

残念ながら、俺に浮いた話なんてあり得ない。専業主夫は夢のままだが、雪ノ下や由比ヶ浜だってそういう目で見ていないのにアスナとかをそんな目で見れるかって話だ。雪ノ下や由比ヶ浜は大切な奴らだが、恋愛感情が関わってくるとまた話は変わる。そこまで考えれないし、そもそももうあいつらにも彼氏くらいいるかもしれないしな。ちょっと切ないが、いたら素直に祝福してやろう。

小町には……できてたらどうするか……お兄ちゃんまたゲームの世界に没頭しそう。

 

 

「ん?」

 

 

ピコン。という電子音と共にメールが届いた。

宛先はヒースクリフ。至急、血盟騎士団のホームに来いとのことらしい。ケイタにも届いたようだ。

 

 

「ハチマン」

 

 

「ああ、来たぞ」

 

 

「なに、どしたの?」

 

 

「ヒースクリフからの呼び出しだ。至急ってことだから急ぎらしい。もしかしてもうボス部屋見つかったのかもな」

 

 

「だといいな、行こう。ハチマン」

 

 

「ん」

 

 

まだ楽観的に、振り返ってもここでは気づけないと言い訳できるくらいに穏やかな時の中で、俺は黒猫団のホームを後にしたのだった。

 

 

―――――

 

 

「よう、ヒースクリフ。急ぎってどういうことだ」

 

 

俺とケイタが最後だったらしい。血盟騎士団の会議室にはこの前の会議のメンバーが揃っていた。

なんとなく、雰囲気が暗い。

 

 

「あまり嬉しくない報せだ。近日、軍が大規模なラフィンコフィン討伐隊を組むそうだ。どうにも、集まっている場所を見つけたらしい。既にかなりの有志が募っているという噂だ」

 

 

「それが、俺らにどう関係しているんだよ」

 

 

「有志のほとんどが攻略組だ。我々も参加しないわけにはいかない」

 

 

「……なるほどな」

 

 

前の階層にて、オウルが言っていたのはこういうことだったのか。

 

 

「軍が主となって、攻略組を使ってラフィンコフィンを討伐する、か」

 

 

「上手くやられた、と言えよう」

 

 

「そもそも、やれるのかよ」

 

 

「彼の先導力はそれなりでね、結構な数がやる気になっている」

 

 

「……めんどくせぇ……」

 

 

「ハチマン……俺は」

 

 

「あー、わかってる。行かないわけにもいかねぇ」

 

 

特に、キリト達が行くのならせめてこいつらは死なせないようにするべきか。

……はぁ、こんなに入れ込むから面倒なことになるんだろうな。できるのか、俺に。

 

 

「持てる最高の装備で、とのことだ。彼は殺し合いを所望らしい」

 

 

「あいつがまともにできるとは思えないがな」

 

 

「では、ハチマン君はどうかね」

 

 

「さぁな、案外最初の一人殺っちまったらどうにかなるんじゃねぇの?」

 

 

……ジョークだよジョーク。なんで全員こっちを見るんだよ。

 

 

「……冗談だ。部位欠損させときゃ問題ないだろ。俺に人殺す度胸なんてないからな」

 

 

俺はそんなのできる人間じゃない。本来ならガタガタ震えてるのがお似合いな人間だ。

――困ったことに、震えなんてものが一切来ないせいで、自分で言ってることに首を傾げることとなっているが。

 

 

―――――

 

 

「で、だ」

 

 

会議は終わって月夜の黒猫団のホームにて。ラフィンコフィン討伐に行くメンバーを決めていた。

ソロの俺は参加確定で、黒猫団からはキリト、ケイタ、ササマルの三人が出るらしい。今回はサチすらも参加させず、待機にしておく。当たり前だな、本当なら俺だって参加したくない。

 

 

「みんな、気を付けてね」

 

 

「やばかったら逃げるよ。な、ササマル」

 

 

「おう。キリトとハチマンもな」

 

 

「もちろんだ」

 

 

「俺は最初から逃げてたいけどな」

 

 

「……ほんっと、一言余計よハチマン。だから目が腐ってるのよ」

 

 

「お前も一言余計だぞ、リズベット」

 

 

「あはは、まぁ、みんな命大事に。だな」

 

 

ケイタがそう言って話を締めた。……多分まだ、俺もゲーム感覚が抜けてなかったんだろうな。

武器を持って人間同士で戦う。今までと同じで簡単に行くと思っていた。

これは集団戦で、襲われる。とかじゃない、間違いなく現実の殺し合いだってことを、忘れていた。




そんなわけで開幕からとても不穏な話でした。
振り返って、討伐戦の現在へ向かっていく形です。オウルの件と合わせてラフィンコフィンを終わらせる為にこのような流れを取ることとなりました。
次回はラフィンコフィン討伐戦になりますのでよろしくお願いします。

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