ではでは、どうぞ。
「たぁぁぁっ!」
シリカの攻撃でモンスターが倒れた。もう最前線の迷宮のモンスター相手でもだいぶやれるようになってきたな。まぁ、ボスに連れてく気はないが。
俺は今日、シリカに連れられて迷宮攻略に来ていた。巷で"竜使い"のシリカなんて呼ばれてるそうで、妖精扱いをされてるそうな。
「どうでした? ハチマンお兄さん」
「問題無さげだな。ずいぶん強くなった。が、一人じゃここに来るなよ?」
「はいっ!」
小町が天使ならシリカは妖精か。なるほど、いい得て妙だな。こりゃ妖精だ。
サチ、という例外はいるが、黒猫団はボス参加や単身の迷宮攻略は任意性らしく、また抜けて最年少のシリカは絶対不参加らしい。まぁ、妥当な話だ。
シリカもこれだけ強くなったら変な男に寄られることも減ったそうで喜んでいた。
……そりゃそうだ。もうレベルや装備、技量全部最前線クラスの腕で、そんなのにかっこいいとこ見せれるプレイヤーがどれだけいるって話だからな。
「っと、邪魔だ」
抜刀術の範囲ソードスキルでに二体のモンスターの首を撥ねる。
最初の俺とキリト、すっかり立ち位置が変わっちまったな、俺ら。いつの間にか俺が単発ダメージトップになって、キリトが手数最多になって、な。
ケイタ曰く「理想的な振り分け」らしいが。まぁ、最速らしい俺がトップクラスの単発ダメージ稼いで、腕力極振りのキリトが手数で押すわけだからな。
「ハチマンお兄さんの攻撃、本当に見えないです……」
「剣速だけならアスナとどっこいだな。あいつもこれくらい速いぞ」
「そ、そうなんですね……」
納刀して、辺りを見回す。ひとまず狩り尽くしたらしく、攻略の為に歩を進めることにした。
なんかすっかりシリカのお守りが板についてきた気がしなくもない。リアルお兄ちゃんならキリトの奴もなんだが、あいつら人助けとかしてるからなぁ。そっちやるならこれの方が気楽なのは間違いない。
「あの、ハチマンお兄さんは強いってどういうことだと思いますか?」
「どうしたんだよ、藪から棒に」
「……最近、中層くらいの男のプレイヤーの人に話しかけられても私の方が強いことが多くて、強いね。って言われることが多くて……でも、強いって言ってもキリトさんやハチマンお兄さん達がいるから、わからなくて」
「さてな。今の俺はともかく、俺も元々強いってのと真逆の人間だ。悪いが、望む答えを出せそうにない」
「今のハチマンお兄さんはどうですか? このゲームで、一番強い人の一人じゃないですか」
「それでも変わらないな。俺が強いわけじゃなくて、このゲーム内でのハチマンが強いんだ。ゲームが強いだけで今までが覆るわけでもない。俺は、俺らしく」
変化は認めよう。多少は素直に答えてやろう。が、俺の在り方は変わらないし、変えるつもりもない。
……前より取れる手札を選ぶようにはするけどな。サチとかケイタとか、雪ノ下や由比ヶ浜みたいじゃなくてガチで説教しに来るから怖い。
「むしろ、ハチマンお兄さんがなんで強いのかわかった気がします」
「……お前、話聞いてた?」
「はい! 私も、私らしくです!」
「……あ、そう」
「むー、ハチマンお兄さん、冷たいです」
こいつ、年齢のわりに大人びてるんだか年相応なんだか、どっちなんだよ……
「――あれ、影纏い君じゃないか」
「あ?」
シリカの対応に悩んでいると、不意に後ろから声をかけられていた。
索敵圏内に人間がいたのはわかってたが、まさかこいつか。
崩れやすい下手くそな仮面を付けた軍の今の指導者……
「オウルか、一人とは珍しいな」
「そんなときもあるさ。君こそパーティかい? 竜使いとご一緒とは、珍しいものだね」
「まぁ、そこそこ付き合いがあるからな」
会話こそしているが、俺もあいつもお互いに眼中にいない。俺は元々興味ないし、こいつも俺の立ち位置にしか興味がない。
ヒースクリフの反応には驚いたが、このオウルはよくも悪くもエンジョイ勢。いわゆるライトプレイヤーだ。壊滅した時のプレイヤー達こそちゃんと攻略をしてきたメンツだが、今の軍はライトプレイヤーの集まりで、その中でライトプレイヤーより少しできる奴ってのがオウルなわけだ。装備だけ整えたライトプレイヤーが最前線じゃ役に立たないなんてよくある話だし、現に軍からの死者がそれを物語っている。
……リアルでも死ぬってことをわかっててやってる辺り、バカ野郎共ではある。
「さすがはソロプレイヤー。フットワークが軽いね」
「気楽でいいからな。責任も少ないし」
「それだけの力を持ちながら、ほんと勿体ないな、君は」
「いいんだよ。所詮こんなのゲームの中でしか役に立たねぇ。いくら今を生きるとは言え、このままじゃ破滅しか待ってないこんなところでしか役に立たないもん、しがみつく必要もないだろ」
「……君は異質だな。黒の剣士や神聖剣すら自分の立場を理解した上で行動していることがあると言うのに、君はとことんそれを利用しない。君とてその気になれば上位ギルドの一つは作れるだろうに」
「いらねぇよ、そんなもの。余計なしがらみを生むだけの面倒なものだし、俺の望む物はそこにはない」
俺が望むのはあいつらとの再会。そして、万に一つでも雪ノ下や由比ヶ浜にはこんなところにいて欲しくない。
「とことん君は俺とは合わなそうだな……理解できない。この世界で、せっかく強者に選ばれた君がそんな思考だとは」
「俺のことを理解できる人間なんぞ、両手の指より少ねぇよ」
キリトやアスナにだって理解されてるとは思わない。
こっちの俺は比較的行動派だからな。本物はもっと卑屈で陰険だ。ある意味じゃ陽乃さんが一番理解してるんじゃなかろうか。あの人まじで怖い。
「ただのゲームならいいんだけどな、あまりお遊び感覚でやり過ぎるなよ。お前の言うこの世界は、しっかり人が死ぬ。理想に殉じるなんてくだらないことやるつもりなら、一人でやれよ」
こいつは、俺と真逆のタイプだ。自己顕示欲、見栄、名声。輝かしいものに目がなくて、それが欲しくて仕方ない。
葉山や三浦みたいな雰囲気も無さげだから、本来は背伸びしている生徒その一なんだろうな。それがここに来て立場や場所を得てしまった。抑圧されてた感情が爆発したんだろう。と思っておくことにする。
「……直に、軍がまた主権を得る。その為の足掛かりを今用意している最中だ。そうして軍が復権した時に、君はまた同じことが言えるのかな」
「言えるさ。だからぼっちプレイヤーなんだから」
こいつの考え方は、時に危険だ。その足掛かりとやらがろくでもないことであることは間違いないとして、せめて巻き込まれないことを祈りたい。
「……悪いな、シリカ。待たせちまって。行くぞ」
「あ、はい」
ずいぶん気力を削がれたが、シリカのお守りを再開する為に俺はオウルを尻目に歩き始めたのだった。
……あー、余計な時間使ったな、ったく。
そんなわけでちょこっと討論。
次回から急展開ですが、上手く収まると次でアインクラッド編最終エピソードとなります。
ダメならエピソード8にてアインクラッド編は終わりになります。
そこはおいおい進めつつ、ですが。
では、ありがとうございましたー。