ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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休日パワーで更新!
これにてエピソード5、終わりでございます。そしていよいよアインクラッド編も後半戦へ!


Episode5,part10

「よ、ハチマン」

 

 

「うす」

 

 

昨日の一件から一日。俺はキリトに連れられてレストランへ来ていた。お礼に昼を奢ってくれるらしいから、随伴に預かったというわけだ。

……結構な数の人間を斬ったってのに、慣れてるのか麻痺してるのかなんとも思わなかった。まぁ、あの武器なら死なないってのがわかってたからだけど。

 

 

「一応、あの後のことも報告しときたくってさ」

 

 

「律儀な奴だな。別にいいってのに」

 

 

「俺がそうしたいからしてるんだ。ラフィンコフィンを雇ってたグリムロックは牢屋行きになったよ」

 

 

「まぁ、それがいいだろ」

 

 

「……凄いよな、自分の奥さんが変わっていくのが嫌で殺すなんて。俺には想像もつかない」

 

 

「俺は、変化ってのがあまり好きではない。が、それを他人に強制する気もない。理解はできないな、そういうのは。そもそも、そんな執着を持つようなもの俺にはないが」

 

 

"あの場所"を除き、だが。

あれだけは唯一執着してると言える。

 

 

「バカな話だ。ゲームはゲーム、リアルと別になったっておかしいことじゃない。命がけとは言え、ここは作り物だ。偽物だ」

 

 

故に、本物を求める俺はこのゲームを認める気はない。どんなことがあっても、何を得ても絶対に。

 

 

「でも、生きてるよ。俺達は」

 

 

「あ?」

 

 

おそろしく真っ直ぐな目で、キリトは俺を見ていた。

思えば、会った頃のどっか気を使うような距離の取り方は、いつの間にかなくなってたな、こいつ。

 

 

「例え偽物でも、ゲームでも、俺達は今ここに生きてる。今ここにいるってことだけは、否定しちゃいけない気がするんだ」

 

 

「面白いことを言うもんだな、お前」

 

 

「そんなことないさ。だって、きっかけは理不尽だったとしても、俺達は前を向いて歩いてる。今こうやってここにいるよ。ハチマンに会って、クラインに会って、みんなに会って。ゲームだけど今を生きてる。リアルに戻れば全部なくなるなんて、それじゃ……今こうして生きてることを否定してしまう気がする」

 

 

「……」

 

 

「ハチマンが、リアルにすごく戻りたいのはわかってる。俺だって家族に会いたい。けど、リアルに戻ってもハチマン達とも会いたいって、それは我がままになるのかな」

 

 

「なんで、そこまで思えるんだ。お前らは……」

 

 

「生きてるから。ここでのことは、俺にとってはリアルだ。年齢こそ違うかもしれないけど、ハチマンは俺の友達で、クライン達や黒猫団のみんなかけがえのない友達だ。ゲームだから、なんて割り切りたくないんだ。この時間を無駄にしたくない。今を、懸命に生きないと待ってくれる人にも失礼だって思うんだ」

 

 

「待ってくれる人……」

 

 

雪ノ下、由比ヶ浜は待ってくれているのだろうか。小町は、どうしているのか。

あいつらは、俺がここまであいつらへ想いを馳せていることを知ったら喜んでくれるのか。

 

 

「俺、戻ったら家族にただいま。ってちゃんと言うんだ。だから、その為に懸命に生きようって。それで、ハチマン達にも向こうでお疲れ様。って言うんだ」

 

 

「何度も言うが、こっちと向こうじゃ俺は全然違う。お前らが見てるハチマンは、俺じゃない」

 

 

「それでもだ。それに、そんなことないと思うぞ。ハチマンがそんな器用な人間なら、もっと上手いことやってるんじゃないのか?」

 

 

……なかなか痛いところを突いてくる。そりゃそうだ、今まででは考えられないことをしてはいるが、俺の本質は変わってたまるか。

 

 

「リアルのハチマンだって、めんどくさがりで、捻くれてて、ってとこだろ。今さら何言ってんだよ。俺、もう一年以上お前と付き合いあるんだぞ」

 

 

年相応の、子供っぽい笑み。

ああ、なんというかやはりこいつは人たらしの気があるんだろう。

これだけ生きてきて、こんなに裏表を感じさせない言葉は初めてかもしれない。必死に生きてるから、打算や計算が働かない。感情ですらない、こいつにとって、キリトにとって当たり前らしい。

 

 

「なぁ、ハチマン。とりあえず今を一緒に生きよう。で、リアルに戻って全部解決して、それでみんなでお疲れ様ってやろう」

 

 

……自分でも言ってたことだったな。ひとまず今をどうにかしないとそもそも進まない。

雪ノ下達に会うためには帰るしかない。が、帰れないから帰るために戦っている。

そもそも、問題の先送りは俺の得意技だったはずなのにな。

 

 

「なぁ、キリト」

 

 

「うん?」

 

 

「リアルに、俺が大切にしたい場所がある。何よりも欲しい、本物があった。ここで俺がリアルのように生きてしまったら、そいつらに申し訳が立たない……なんて思ってるんだ」

 

 

溢れた言葉は、俺を友達だとずっと言い張るこいつにだからこそ、かもしれない。

自分の中での疑問。あいつらへの操のような物だった。何よりも欲した本物、そうあるはずのあいつらへ、勝手に消えて……その先で、俺がこうして生きていたら失望されるんじゃないか、と。

 

 

「ハチマンがそこまで言うなんて、よっぽどの人達なんだな。というか、ハチマンてほんと自分にはどうでもいいこと以外には凄く真剣だよな。それも、これも、全部取ればいいんだよ」

 

 

「……は?」

 

 

え、なにいってんのこいつ。

全部? どういうことだ?

 

 

「その、ハチマンが俺達を一定以上まで認めてくれてるって前提だけどさ。その人達も、俺達のことも。全部、それだけである必要なんてない。

それにほら、ハチマンがそれだけ言う人達って俺も会ってみたいしな」

 

 

「……一人、まじでドギツイからな」

 

 

「……え」

 

 

……少し、肩が軽くなった。あいつらが俺を待っていてくれたら、土産話にはちょうどいいか。

俺があいつらの為にどんだけ頑張ったか、その過程で自分らしからぬ状況下にいてしまったが故に、キリトみたいな物好きな奴らの集団に付きまとわれちまったってな。

 

 

「それに、もし必要なら俺がついてくからな。ハチマンがどんだけゲームで頑張ってたか、俺や黒猫団が証明してやる!」

 

 

「あ、そ。……まぁ、そのときは頼むわ」

 

 

俺は変わらない。八幡とハチマンは別だし、これからもぼっちプレイヤーを続けはする。

が、戻った時に雪ノ下達へ無駄な心配をかけないように、な。俺にも仲間みたいなもんができてたと言えるようにしておくのも悪くないか。俺が望む本物はあの二人のところ以外にない。が、望む、望まないにせよ俺の計算や打算の上からやってくるこいつやアスナみたいな奴には、好きにさせておこう。死んでほしくない、生きていて欲しい。と思っているのも事実だ。

卒業式を境に狂っていた歯車が戻った気がした。偉そうにアスナにあんなこと言ってこのザマか。

やはり、俺はああいう役には向かないな。適役ってのがあるもんだ、なんだって。

 

 

「キリト、今日は奢りじゃなくていいぞ」

 

 

「え、でも……」

 

 

「その代わりまた別の日に奢れよ。適当に店探しといてやるから」

 

 

「……わかったけど、なんでまた」

 

 

「そういう気分になったんだ。まぁ、礼だけ言っておく」

 

 

これでいい。とっととクリアはする。が、せっかくここまでやってるんだ、もう少し、俺も肩の力を抜こう。俺らしくやることにするとしよう。

 

 

Episode5,Fin.




そんなわけでハチマン編もといエピソード5終了です。
何が凄いって、ハチマンが自己完結してキリトやアスナ達とそれなりに話せそうになったってのに、八幡攻略としてはまるで進んでないこと。これは奉仕部の二人がいないとダメだからですが……
うちの八幡は九巻の心境に近い状態で感情の発露もさせつつSAO入りしてしまってるので、その感情の制御とか、ある種の常識がありません。奉仕部への二人の操のような想いの立て方とか。柔軟な発想はあるものの、そういったところに疎いので、こういう結果に落ち着きました。
では、長くなりましたが次回から後半戦。みなさまよろしくお願いします。

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