同時系列内でいろいろ起きていたりもしますが、この辺りのことなどが原作と違うのはご容赦くださいませ。
「――諸君、お疲れ様」
ボスが倒れ、ヒースクリフが全員に労いの言葉をかける。
今回ラストアタックをしたらしいプレイヤーが嬉しそうに装備を変更していた。
俺はと言えば、暇人よろしく。今回は取り巻きの雑魚の排除に回っていた。
「うへー、次も同じようなフロアならあまりやりたくねぇなぁ……」
隣に立つクラインが心底嫌そうなため息を吐いた。
言わんとすることは理解できる。どうにもこの65層はホラーフロアらしく、階層全体が暗くどこか気色悪い。ボスに関してはここファンタジーだろおいってレベルで、どういうわけか和風な古井戸に薄暗い雑木林。さすがに黒髪で完全な白服ではなかったが、どっかで見たような女の幽霊で、ひたすらに精神攻撃メインだった。いや、精神攻撃なんてないんだが……
こう、なんつーの? ちっちゃい女が悲鳴をあげながら殴りかかってきたり、倒すと怨嗟の声をあげながら消えてったり。とにかく、疲れた……
「今回はヒースクリフに感謝、だな……」
なんでも、四強ばかりが先頭に立つのではなく、他のプレイヤーも先頭に立つことで更なる攻略組の人数を集めようとのことらしい。
65層ともなればあまり俺達を看板にもできないしな。むしろ俺達抜きでもできるくらいには思って貰えないと困る。
ちなみにそれを言い出したらしい副団長様はどっか行ったらしい。どっかってなんだよどっかって。
キリトやサチもいないし、今回、なんだってんだ?
―――――
「うす」
「来たか、ハチマン君」
66階層が解放されて数日か経った。残念ながら66層もホラーエリア(誰が名付けたかそう呼ばれてるらしい)で、ややどんよりした心持ちの中、俺は55層にある血盟騎士団のホームへと足を運んでいた。
至急来い、とのヒースクリフ直々のメールだったのもあって、何かあったのかと来てみれば、団長室もホームも特に慌ただしさは感じられなかった。
「今頃、リアルでは桜が散った頃かね」
「さてな。桜なんてずいぶん見てないからわかんねぇよ。で、用件はなんだ?」
月にして五月。余裕で五月病にでもなりたいんだが、ここはそうもいかない。……四月に小町が同じ年になっちまったってのに、今までよりショックが少なかったのは、感覚が麻痺ってきたからか。
攻略はだいぶハイペースでは進んでいる。血盟騎士団やらの大手ギルドによる大部隊、月夜の黒猫団のような中規模ギルドによる精鋭攻略、俺含むソロプレイヤー達の小回りを利かせた攻略。恐ろしいくらい順調に進んでいるせいか、最近、一部プレイヤーのゲームへの順応化が目立つようになってきた。
「先日、軍から連絡があってね。残っていた攻略組、及び育てていた者を攻略組として最前線へ加わらせたいとのことだそうだ」
「へぇ、中、下層の維持に努めてただけじゃなかったんだな」
人数が増えるのは悪いことじゃない。その分早く進むし、俺も楽ができるからな。
「……しかし、なんでそんなことを俺に?」
「進言されてしまってね。同じ四強にある"影纏い"殿にも伝えるべきだと。
キリト君にも伝えたとも。彼は今、下位層の圏内で起きたPK――殺人事件を追っているそうだね。たまたま訪れたレストランで黒猫団のタンクの女の子……サチ君だったかな? 彼女と桃色の髪の毛の女の子を連れていたよ」
なるほど、だからいないのか。サチと……おそらくリズベットでも連れてるのか。
くそ、リア充め……爆発しろ。
「と言うか、進言てなんだよ、進言て」
「血盟騎士団にも、影纏いを目標にしているプレイヤーは結構多い。君は不本意かもしれないが、確実に君の強さは他のプレイヤーに影響を与えているんだよ」
「恐ろしい話だな、全く」
「人は結局のところ、行動によってその人を評価することが多い。君の物言いも含め、その行動はそれだけ人に評価され、影響を与えているのだよ」
いつだったか、似たような話をリアルでもした気がする。
まさか、こんな形でまたこの話題になるとは思ってなかったが。
「半分を超えて、クリアも見えてくるようになった。
だからこそ焦りや油断も生まれてくる。そしてその中でみんなこのゲームを生きている。したらこの世界に対して溶け込んでしまう。わかってやれない話でもないだろう?」
こいつ、時おり偉そうになるよな。ちゃんと団長としての立場を考えてるのか、他のプレイヤーとは違う……どうもロールしている感じが拭えないんだよな、ヒースクリフは。それだけ余裕があるってのは凄いが、逆を返せばこれくらいで動じないままでいられる理由や経験でもあるのかと疑りたくもなる。
……ま、いいけどな。クリアに貢献してくれれば文句はないさ。
どうせリアルに戻れば会うこともない。
「そんな偉そうな物言いするつもりはねぇよ。言い分も理解できなくはない。する気はないけどな。
軍のことはわかった。用件はそれだけか?」
「ああ。もう一つ、もしアスナ君に会うことがあればよろしく頼む」
「? よろしくも何もないだろ。別に」
らしくなく、いまいち要領を得ない物言いのヒースクリフに首を傾げ、俺は血盟騎士団のホームを後にした。
あいつの言っていたことがわかるのは、その数日後のことだった。
それとなく、圏内事件は起きていたり。
参加する人間が原作と違うのはご愛嬌。八幡は八幡で別の災難が降りかかることでしょう。
75層に向けての伏線張りもしなきゃなのでやることは山積みです。