これにてエピソード4は終わりになります。
書くにつれて難しくなってはいきますが、やはり楽しいですし、これからもばんばん行こうと思います。
では、始まります。
――side other――
「リズ、来たわよ」
ハチマンが焔雷を手にしてから約一週間後、アスナはリズベットの店を訪れていた。
店内にはサチ、シリカもおり、二人はアスナにそれぞれ挨拶を交わした。
「よし、来たわね。じゃあ始めるわよ」
「ち、ちょっと待ってリズ。私、何の集まりか聞いてないんだけど……」
困惑するアスナをよそに、わりと睨み合っている印象の強いリズベットとサチはお互いの顔を見合わせてため息を吐いた。
「ここにいるメンバーでわかりそうなものだけど……」
「……キリトくん?」
言われて、アスナはリズベットとサチの想い人を思い浮かべる。顔立ちがどこか中性的で、このゲームにおける自分と同じ位置にいる少年。
シリカも彼には尊敬するプレイヤーとして懐いているようではあるので、この解答は間違いではないと思われる。
「それもあるけど、それじゃあんたを呼んだ理由にならないでしょ。
それと、ハチマンのことよ」
「ハチくん? え、どうして……?」
リズベットとサチはキリトに想いを寄せている。その理由は聞いているし、わかっている。
そこで何故八幡の名前が呼ばれたのかわからないようで、アスナはもう一度集まったメンバーを見回した。
「あ、あの……アスナさん?」
一人、該当者がいた。彼を兄のように慕って、実際にお兄さんと呼んでいる少女。彼女が八幡と関わるきっかけや、八幡も彼女への態度は比較的柔らかく、まさかと言った様子でアスナはシリカを見つめた。
同時に、得体の知れない焦燥が自分の中に生まれる。
「あの、わ、私……ハチマンお兄さんのことは好きですけど、お二人の様な好きとは違うと思います……」
あくまで彼女は八幡に対し、兄のように慕っているだけだと少し俯きがちに答える。
サチはふと苦笑いしてその言葉を肯定した。
「ハチマン本人も、シリカに対してお兄さんしてるだけみたいだからね。あれで、面倒見はいいみたいだし」
「あの腐った目の男がねぇ……って違う。ハチマンについてはあんたよアスナ。あんた、ハチマンからネックレス貰ったんでしょ?」
「ええっ!」
先程の言葉はどこへ行ったやら。シリカが思わず身を乗り出してアスナを見つめる。
リズベットとサチはシリカの言葉がいつ変わるのかわからないような所にあるのだろうと察したのか軽く苦笑していた。
「そ、それは……あのクエストのクリア報酬だったのよ。で、ハチくん、自分にはいらないものだからやるって言われて。
……いらないなら売りに行くってすぐ言われたから他意はないと思うわ……」
対して顔を赤くしていたアスナだが、その時のことを思い出していたのか段々と恨みがましい声になって、最後にはため息を吐いた。
ハチマンらしいとサチは肩を竦めて、リズベットは先日のやり取りを思い出したのか呆れたようにため息を吐いていた。
「キリトもなんだけどね、あの二人……どうしてかこう、人と距離をちゃんと置こうとするんだよね」
「キリトのあれは人との距離感がわからないだけで、結構強引に行けば案外あっさりじゃない」
「それは、そうだけど……」
「ハチマンのアレはもう病気よ。だからあんた達だって手を焼いてるんじゃないの?」
そうなのであった。キリトはリズベットの言う通り、思いきり真正面から行けばしかるべき反応と、あっさり素の姿を見せる。なんらかの理由で人との距離感が掴めず上手く話せなかっただけで、黒猫団と関わることでキリト自身がかなり変わりつつあった。
一方ハチマンは頑なに受け入れを拒む。エギルやヒースクリフ、クラインや黒猫団の面々とも話すし、最近は野良でパーティを組む姿も見られるそうだが、一人で活動する方針は一切変えてはいない。
「この前ね、あいつに刀渡したんだけど、ちょっと話したのよ。
あいつ、恐ろしいくらい割り切ってるのね。リアルに戻ればこの関係は全ておしまい。みたいなこと言われちゃってね」
「……そんな」
シリカの眉尻が下がる。彼を兄のように慕っているシリカのことだから、リアルに戻れてもお礼くらい言いにいきたかったのだろう。
アスナも、彼からリアルの自身と今の自分との乖離を説かれはしたものの、まさか八幡がそこまで割り切ってるとは思わなかったようで驚きを隠せていなかった。
「リアルとこっちでは違うって。リアルの自分はああも積極的でなく、人からこんな評価も貰えないって言ってた。
……しかもね、苦しそうなのよいちいち。本人は自分がそんな表情をしてることすら気づいてないみたいだけど」
過剰な感情演出からだろうか、本来なら無表情や引き攣った笑みを浮かべて話す八幡の顔は、苦しそうに歪んでいるそうで、リズベットは首を傾げていた。
「我慢してるとかじゃないのよね。本気で気づいてない。ああまでなってるのに」
彼のリアルでの経験を知らない彼女らは、一様にして首を傾げた。
「で、それをキリトやケイタに言っちゃったわけよ。
したら今日無理矢理にでも誘って迷宮攻略に行ったみたいよ。サチ、何か聞いてない?」
「……まさか、軽いボス攻略って……」
「ハチマンのことでしょうね」
はぁ、とリズベットはため息を吐いて肩を竦めた。
ハチマンと付き合いこそ短いものの、彼の言葉や態度には思うところがあるのだろう。
「キリトが言ってたけど、こういう命がけのゲームだからこそ人の本質が見えやすいって。こんな状況で、いちいちリアルとゲーム内を完全に離して考えれる余裕なんてないじゃない。
"きっと、ハチマンはリアルでもなんだかんだで面倒事を先頭に立って解決してたんだと思う"ってのはキリト談ね」
「リズベット、ずいぶんキリトと会ってたみたいだけど……」
「ごめんなさいね、ここ一週間くらい武器のメンテとかでうちに来てたのよ、キリト。だからいろいろ話しちゃったのよね?」
「……」
無言でバチバチ鳴る火花にシリカはそっとアスナの隣へ来ていた。
そんな彼女を見つめながらアスナは今頃キリト達に連行されているであろう少年に想いを馳せた。
「……本物が欲しい、か」
八幡の言葉は、ゲームのことではなかった。自分との会話のやり取りさえも、リアルのことだっただろう。
「ねぇ」
「どうかしました? アスナさん」
ぽつりとアスナが言葉を発して、シリカ及び全員の視線がアスナに向いた。
「きっと、ハチくんのことはリアルに戻らないとわからないわ。だから、これは先送りにしましょ」
本人も言っていた。自分のことは先送りだと。このゲームをクリアすることが先だと。
それは、大いに頷けるところである。
「だから、クリアするまでにハチくんに教えてあげるの。この結び付きはリアルに戻ったってなくならないって。ね?」
にこりとシリカに笑いかけると、シリカも大きく頷いていた。
「はいっ! 私、リアルに戻ってもハチマンお兄さんに会いたいです。皆さんとも一緒にいたいです!」
「そうと決まれば話は早いわね。私達は今から同盟よ。そんであんたらはわからないけど、私とサチはライバルでもある。
キリト&ハチマン攻略組、結成ね」
「ハチマン攻略はキリト達も入りそうだけど……」
「したらそれ足掛かりで更にキリトにも近づけばいいのよ」
あんまりな物言いにさすがのサチも苦笑いだが、この攻略組の結成には誰も何も言わなかった。
「……ハチくん」
――私はもっと、キミが知りたい。
言葉には出さずに、今頃迷宮で面倒そうにしているだろう八幡を思い浮かべて、アスナはそっと天井を見上げていた。
Episode4,Fin.
そんなわけで女子チーム結成。
八幡側はまだ曖昧というか、今後に期待となります。
結局のところ、ゲーム内では八幡はハチマンと乖離をしつつ自己嫌悪なり八幡的な見方をしているので、本当に攻略難度が高いです。
そういう意味で少し強引な所があるSAOヒロイン達の存在は大きいです。
次回からは本格的にアニメなんかの時系列に絡んでいくことになると思いますので、よろしくお願いします。