ちょっと休みは予定ありすぎで更新できませんでした。
たくさんの感想ありがとうございます。また感想返しもできたらと思うのでよろしくお願いします。
ではでは、始まります。
「うす」
「いらっしゃい、ハチマン」
あれから三日後、俺はリズベットの店を訪れていた。アイテムを渡して刀を頼んで、出来上がりのメールを受けて来たわけである。
「頼まれてたもの、できたわよ。注文通りの出来になったと思う」
渡された刀のステータスを目にする。確かに雷切丸のステータスより遥かに高く、魔剣クラスに匹敵する性能だ。
「上出来だ。いくらだ?」
「これくらいでいいわ」
指定された金額は予想よりも遥かに低いもの。おいおい、なんでこんな安いんだよ。
「後で増額とかされても払えないからな?」
「そんなことしないわよ。それとは別に要求があるから」
「なるほどな……で、なんだ? 礼はする。多少の難易度のものなら取ってきてやるぞ」
「それもありがたいんだけど、私が聞きたいのはキリトのことよ。あんた、友達なんでしょ?」
「まぁ、フレンドではあるな。聞きたいって、なにを?」
それからしばらくの間リズベットに一方的にキリトのことを聞かれた。サチとは付き合っているのか、他の女の子との関係はどうなのか、とか。
なんで俺は恋する女の話を聞いているんだろうな。やはり俺の役目ではないだろ、これ。
「なるほどね……よし、ハチマン。これからも私に協力してくれるわよね?」
「別に構わないが……お前、リアルに戻ってもキリトと会うつもりでいるのか?」
「え? 当たり前じゃない。キリトだけじゃないわよ、アスナ達とだって会うつもりよ?」
「……そうか」
そういう考えの奴もまぁ、いるのか。
「……って、ハチマンは違うの?」
「当たり前だ。リアルとこれは違うだろ。リアルに戻ったらおしまいだ」
だからこその"ハチマン"の評価であって、俺も俺らしくなく動けてる。
リアルに戻れば俺はまた"八幡"だ。そうなることに不満はないし、そうなりたいからこそこうして攻略をしている。
「そんなの、寂しいじゃない。私達、みんなで協力してクリアを目指してるのよ?
そりゃ、私は戦えないけど……それでも――」
「必ずしも、リアルとここが同じとは限らないだろ。
今受けてる評価はこの"ハチマン"のものであって、リアルの俺とは別だ」
「そんなことないわよ。だって、クリアしたとき、それはみんなの活躍よ。
最前線に立ってたハチマンだって、リアルのハチマンだって評価されるに決まってるじゃない。
キリトも言ってたけどね、ここはリアルではなくてゲームなんだけど、でもここに今生きている以上、私達にとってここは今リアルなんだって」
「あいつ、そんなこと言ってたんだな」
らしいと言えばらしいか。
キリトは皮肉とか抜きに一生懸命だ。真面目にこのゲームをクリアしようとするし、このゲームそのものを楽しんでもいる。生きていると言った方がわかりやすいか。だから、あいつの周りには自然と人が集まる。
葉山とかとは違う、あいつは本物だ。
「……らしいと言えばらしいけどな」
それが俺に当てはまるかと言えばそれはノーだ。
あいつはリアルのままでやっているのかもしれないが俺はリアルでこんなことやっても同じ評価は得られないし、そもそもやる場面がない。
カースト最下位ってのはそういうものだ。
「目、なんか凄い濁ってるけど?」
「余計なお世話だ。とにかく、俺はお前らほどこのゲームに入れ込んでねぇよ」
「ふぅん……」
そう言って俺を見るリズベットの目はなんとなく半信半疑っぽそうな、なんだあれ、なんでそんないかにも「私知ってるけど?」みたいな目でこっち見てんの?
「なるほど、黒猫団の人から聞いた通りね。顔に出てることと、言ってることが合ってない。気づいてる?」
「……いや、意味がわからないんだが」
「言葉通りの意味よ。そういうこと言ってるくせに、ずいぶん悲しそうな顔してるけど?
……まさか、本気で気づいてないの?」
「さっきから何を言ってるか理解できないぞ」
悲しそうな顔? 何が悲しいんだ。当たり前のことを考えてるだけであって、悲しくなる要素なんてないだろうに。
「……なるほどね。みんなにお土産話ができたかもしれないわね。
まぁいいわ、ハチマン。キリトのこととか聞きたいから私ともフレンドになって」
「それは構わんぞ。格安でもらっちまったからな。それくらい受けるし、いくらかは依頼してくれれば素材取りくらいはやってやるよ」
「ありがと。と、その刀の名前だけど――」
焔雷。ほのいかずちと読むそうだ。ずいぶんこれまた強そうな単語を並べた名前だな……
「振りやすさ、切れ味の良さに重きを置いただけあって火力も文句なしに出せるはずよ。でも、くれぐれも長く斬り合ったりしたらダメ。手数少なく斬るようにして。じゃないと壊れるわ」
「わかった。それなら俺に合ってるから問題ない。特にこれからは斬り合うとかはする気もないからな」
抜刀術。あれは捨て身に近いレベルで防御を捨てて代わりに攻撃力を得る物だ。
他のユニークスキルがどんなのかは知らないが、あれは少なくとも手数とかそういうのじゃなく、一太刀。
問答無用で斬って捨てる。だからとことんまで切れ味が高く、その代わりに脆かろうとも問題はない。
「礼を言う、リズベット。ゲームクリアまで愛用させてもらう」
ストレージから装備して、俺の腰に重みが増した。
青い装飾の鞘に、柄の布も青みのある黒だ。俺の衣装とも相性がいい。雷切丸よりも少し軽くなったそれを見て、思わず俺は笑みを浮かべたのだった。
このエピソードは次で終わります。アスナが終わって一段落。本編における最後の攻略対象こと八幡が残りました。
ようやくアインクラッドは終わりに向けて進めれるようになりました。
ラフィンコフィンについては、思いきりではないものの絡ませられたらと思います。
ユイについてはこの作品では登場予定がないのでご容赦ください。
ではでは、また次回で。