「おはようございます、ハチマンお兄さん!」
「よ、シリカ」
つい先日レベル上げに付き合ったシリカと、俺は何日かぶりにまた会っていた。
今度は俺の理由で、キリトに噂の鍛冶師を紹介してもらおうと頼んだら今日そいつのところにいるらしく、俺も呼ばれることとなった。で、何故か道案内をシリカが受けることになったのだ。
「リズベットさんのところですよね、案内しますっ!」
「名前までは知らないが……なんだ、お前も知り合いなのか?」
「キリトさんからの紹介で、月夜の黒猫団は結構お世話になってる人が多いんです。
私のダガーも作ってもらったんですよ」
「へぇ」
攻略ギルドが世話になってるわけだし、キリトのダークリパルサーの性能を見ても、有能であることは間違いなさそうだ。
「こっちです」
元気一杯な様子で先を歩くシリカを見つつ、いつものペースで歩いて行く。
……そういや、明日卒業式か。やめよ、考えた所でどうにもならないし、どうもできない。クリアできるように動くしかねぇ。
「リズベットさーん」
少し街から外れた場所に、一件の小屋があった。
ここがそうらしい。シリカが扉を開くとそのまま固まった。
「キリト、来たぞ――って、なんだこりゃ」
中では、キリトが慌てたようにサチとピンク色の髪の女の仲裁に入ってるようで、そこから少し離れて困ったようにアスナが立っていた。
え、なにこれ、帰った方がいいの?
「シリカ、日を改めるか」
「って、ちょっと待てぇっ! ハチマン、頼むから」
アスナは視線だけこっちに寄越して、キリトはどうにか縋るようにこちらを見て、サチと女は俺という乱入者に一旦距離を取っていた。
……あれだ、これは修羅場の予感。
―――――
「あー、キリトから話は聞いてると思うが、ハチマンだ」
「リズベットよ、よろしく。なるほど、"影纏い"の名に恥じない感じね。特に目が」
「余計なお世話だ。で、手っ取り早く用件を伝えるぞ。刀を一振り作ってくれ。こいつを好きにして構わないから」
キリト、アスナ、サチが息を飲むのが聞こえた。
当たり前か、俺は雷切丸を差し出したからだろう。
「これ、結構レアなんじゃないの?」
「一応は、な。つっても最近火力の限界を感じてる。それに、形も普通の刀みたいな長さと反りが欲しい。余った材料は渡すし、金もある限りは言い値で払う。できるか?」
「ハチマン、雷切丸を……」
「いいんだよ。俺にもいろいろ事情があってな、こいつじゃ無理なことが増えてきた」
リズベットはしばらく悩む仕草を見せて、それから困ったような顔に変わった。
「そこまで言われたらこっちも持てる限りで応えたいんだけど、素材がそれだけじゃ足りないのよ。
キリトのダークリパルサーを作った時と同じ。相応の素材が必要なのよ」
「なるほどな、別に取りに行くのは構わない。場所とか教えてくれるか?」
「……それが、二つ必要なんだけど、二ヶ所同時に攻撃しないとドロップしなくって。最低でも二人、必要なのよね」
「なるほどな。ってことは同行者がいると……」
パッと見回してみる。キリト、サチ、シリカ、リズベット。
リズベットの実力はわからないが、良くてシリカと同じくらいとかだろう。って考えると前者三人。アスナ?
頼んでも即断られるだろ、わかりきってる。
「困ったな、俺達明日からギルド総出で迷宮攻略なんだよな……」
「そうなのか」
「うん。キリトも"私も"出ずっぱりになりそうで」
「……ほー」
妙にリズベットを意識して言ったサチの言葉は、リズベットの額に青筋を浮かべさせていた。
つまり、あれか。これは……
「キリト」
「ん?」
「悪いことは言わない。爆発しろ」
「なんで!?」
さて、となるとシリカも無理そうか。こら、そんな申し訳なさそうな顔でこっちを見るんじゃない。
「ごめんなさい、ハチマンお兄さん……」
「気にすんな。階層によっちゃ連れてくのも難しいしな。迷宮攻略ついでにレベル上げとけよ」
「はいっ!」
「相変わらずシリカには甘いんだから……」
「普通の対応だろうが。リアルジョブお兄ちゃんを甘くみるなよ」
「……」
サチ、申し訳ないんだが本気で引くのやめてくれない?
泣きたくなっちゃうから。
「私も、できればこれじっくり解体したいから出られないし、攻略組ほど強くもないからね。足手まといになっちゃうだろうし……」
「……どうするか。誰か暇そうなやつ……いるかわかんねぇ」
いっそヒースクリフでも……やめよう。後ろにいるやつからリニアーされかねない。
「あ、そうだ! アスナはどう? お互い四強って呼ばれるくらいだし、面識とかもあるんでしょ? 実力的にも申し分ないくらいだし」
「え、私? 私は――」
「いや、それは無理だリズベット。いくら同じ方向見てるって言っても人の相性ってのは存在する。俺とアスナはそれが良くない。根本的に合わねぇから、アスナは無理だ。
もう一人は俺でどうにか見つけるから、場所を――」
ダン。と大きな足音がして、俺の右側に人影が現れた。
誰かわからなくてそっちを見ると、アスナがいかにも私不機嫌です。って顔で俺を見ていた。
え、なに、本当のこと言っただけでしょ? なんでそんな顔してんの?
「いいわリズ。私で良ければ行ってくる。ハチマンくんも、いいわよね?」
「……いや、他の奴で――」
「い、い、わ、よ、ね?」
「…………はい」
怖い。この攻略の鬼怖い。
リズベットもサチもキリトもシリカも、うわぁ。みたいな顔でこっちを見ている。
……こうして、気の落ち込みまくりそうな二人旅が始まることとなったのだった。
ってわけで、やっと帰ってきましたアスナのターン。
リアルサイドの話も凄く希望をいただいておりますが、しかとリンクさせていきますのでよろしくお願いします。