好きな作品を好きに書いて、それがこれだけ読んで評価や感想をいただけて、嬉しい限りです。
皆様、これからもどうかよろしくお願いします。
「ハチマンお兄さん……?」
「黒猫団の後ろに下がってろ。……こういうのはあんまり見てていいもんじゃねぇ」
一応、まだ脅しのつもりで抜いた物だから何もしないでおく。シリカと入れ替わりにキリト、テツオの二人が俺の両隣に並んだ。
「ハチマン、本当に殺すなよ。こんな奴らと同じになる必要なんてないからな!」
「テツオの言う通りだぞ、ハチマン。
……お前ら、オレンジギルドのタイタンズハンドのメンバーだな?
シルバーフラグズ、このギルドに聞き覚えがないとは言わせない」
「……あー、いたいた。女プレイヤーってだけでどいつもこいつも鼻の下伸ばしちゃってさ。あんまりにも役に立たないからリーダー以外みんな殺しちゃった。
で、どうだった? 心折れちゃった? バカねぇ、もしかしたら目が覚めてるかもしれないのに。したら私達、いいことしちゃったわね」
「こいつら……」
テツオの声が怒りに震えていた。ある意味、これも間違いないゲームの楽しみ方ではあるんだろうが。
まぁ、このゲームの楽しみ方じゃないよな。
「そのリーダーからの依頼だ。お前達全員を捕まえてくれ、とさ。
ずっと57層で仇討ちしてくれる攻略組の人がいないか探していたよ。だから、俺達"月夜の黒猫団"が請け負った」
「月夜の黒猫団って……攻略組のギルドかよ」
「黒いコートに片手剣……まさか、あいつ"黒の剣士"のキリトか」
「ご明察。ついでに言えば、隣のこいつは"影纏い"のハチマンだぞ」
……やめてくれ、布団に入ってひたすらぐるぐる回りたくなる。
材木座じゃないんだからもう無理だそういうのは。
「……四強のうち二人がこんなとこになんて、攻略組ってのもずいぶんな暇人なんだね」
「お前らみたいな犯罪者を捕まえてクリアまで快適に他のプレイヤーに過ごしてもらうのも攻略組の仕事の一つさ」
え、そうなの? キリトいつの間にそんなこと決めたの?
ちょっとお前主人公過ぎない? 俺と後ろにいるサチの位置変わろうか?
「ハチマン。こっからあいつらのとこまでどれくらいで行ける?」
「一息ありゃ充分だ」
いざ戦闘になったところで、勝負は明白だ。
所詮こんなところでPKに勤しむレベルの連中と、攻略の最前線を受ける俺らとではレベルが違う。
奴らの攻撃じゃ俺を捕まえられないし、自動で回復するキリトの体力を減らせない、テツオの攻撃も受けられないだろう。
「じゃあハチマン、これ」
テツオに渡されたのは一振りの刀。攻撃力はかなり低く、ステータスには麻痺がついていた。
「ダッカーお手製の鎮圧用武器だ。キリトの腕力でも死なないようにしてあるし、麻痺があるから一発当てればあいつらなら大丈夫だ」
「せーので、一気にやるぞ」
「……いや、いい」
こういうとき、俺はやはりまだ俺のままだと思う。
怒られるんだろうな、とわかっていても、これは変えられない。
これが雪ノ下や由比ヶ浜でもおそらく同じ行動を取っていただろう。あいつらなら、余計にだ。
「え、ハチマン?」
「……じゃ、行くぞ」
雷切丸からダッカー製の刀に持ち変えて、俺は一息で奴らの真ん中まで駆けた。
当たり前というかなんと言うか、誰一人として反応も見ることもできず、俺は奴らの真ん中でため息を一つ。
「お前らな、これに懲りたら一生反省しろよ。リアルに出てもな」
「なっ……」
「い、いつの間に!?」
「……なんてな、そらよ」
ソードスキルを使うまでもない。走って、斬って、走って、斬って。数秒とかからずにロザリア以外の奴らを地へと斬り伏せていた。
「さて、あとはあんただけだ。どうする?」
「い、いいのかい? 私を攻撃すればあんたもオレンジだ。四強の一人がそんなので、攻略組の示しが付くのかよ!」
「関係ねぇよ。元々俺はぼっちだからな。そこは変わらないし、変えない。
……オレンジになってもあいつらが即協力してくれそうだしな」
「……くっそがぁぁっ!」
「怒鳴るなよ、怖いだろ」
ヒュン。と一閃。それだけでことは足りた。俺のアイコンはオレンジに変わったが、ロザリアは目の前に倒れた。
「この、クソガキが……」
「うるせぇ、自分の立場考えておけよ。別に本気でやってもいいと思ってるんだぞ、俺は。あんまり騒がしいと――
お前を殺すぞ、ロザリア」
「ぐっ……」
なんだよ、結局殺されるのは怖いんじゃねぇか。顔面近くの地面に刺さった雷切丸を見ようともせず、ロザリアは悔しそうな顔をしていた。
「ハチマン! どうして先走ったんだよ」
「こういうのは時間が命だろ。ほら、早く牢獄送りにしてやれよ」
ヒラヒラと手を振って、俺は雷切丸を納刀したのだった。
―――――
「で、ハチマン」
「ん」
「なんで先走ったんだよ」
「……時間が命ってのは確かだ。黒猫団の名前を聞いて及び腰っぽいのもいたからな。逃げるのを追っかけるのは面倒だろ?
あとは、まぁ……多少の配慮だな。黒猫団の誰かがオレンジになるよりかはソロの俺がオレンジになった方が周りの受けもわかりやすい」
「でも、それじゃ、ハチマンが――」
「――だから」
これは"比企谷 八幡"なら言えないこと。これは、ハチマンだから言えることだ。
「代わりにあれだ、カルマ回復のクエスト、手伝ってくんね?」
「……お前、本当にハチマン?」
「なんだよ藪から棒に。いいわじゃあキリトには頼まねぇ。テツオ、頼めるか?」
「ちょ、わ、悪かったってハチマン。俺にも手伝わせてくれよ、頼む」
「なんでキリトが頼んで来るんだよ」
俺はどうかわからないが、みんな笑顔になっていた。
笑顔にはなっていないかもしれないが、少なくとも、これから変に悩むことが少なそうで、俺は心が少しだけ軽くなった気がしていた。
Episode3,Fin
そんなわけでエピソード3おしまいです。
カルマ回復クエストはエクストラでどこかにでも書けたらいいかな、なんて思います。
良いのか悪いのか、こんなに書いててもまだ中盤。全体で見たら序盤の終わり際です。
早くコラボだ!ってところをもっと全面に押し出せるところまで行きたい。
相変わらずのペースで行くと思いますが、これからもお付き合いよろしくお願いします。