ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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気がついたらお気に入りが950件突破。え、嘘何これ現実? な状態です。

もう感想でだいぶ書かれてしまいましたが、前回のゲームはFF8でした。多分、子供だったあの頃より今やった方が面白いかな、なんて思いますが、時間が……


ではでは、始まります。


Episode2,part9

「バーチカル・アーク!」

 

 

キリトの二連撃が決まり、ボスは地面に伏した。全員で死体殴りをすると決めてからかれこれ三回、計五回のボスのダウンである。

 

 

「みんな! 今だ!」

 

 

倒れた瞬間、俺達全員で攻撃を仕掛ける。

総攻撃ってやつだ。問答無用でラッシュをかける。

 

 

「ハチマン君、君のやっていたゲームでは何回倒せば終わったんだ?」

 

 

「覚えてねぇよ。それに、俺はその方法ではクリアしてない。攻略本を読んだだけだ」

 

 

俺は基本的に教官にお願いしていた。だって毎回戦闘とか面倒だし。

 

 

「ま、とにかく殴ってれば変化が出るだろ。出なかったら考えればいいし、最悪部屋から出てやり直せばいい」

 

 

しばらく戦っていて、変に浮き足だっていた気持ちが落ち着いてきた。

そうだ、とりあえずやれることやっておけばいい。

 

 

「ほら、起きるぞ。レバガチャ準備しておけよ、ヒースクリフ」

 

 

「無論だ。君も、油断はしないようにな」

 

 

「当たり前だ」

 

 

そう言って、俺は雁字搦めにしに来る手を振り払うように身体を左右へ動かしたのだった。

 

 

――side アスナ――

 

 

「リニアー!」

 

 

取り巻きのゾンビ(ってハチマンくんが言ってた)に一突き。それだけで一体を倒す。私の代名詞らしいこの技は、確かにそれだけ使い込んだとも言える技ではあったりする。シンプルで、とても使いやすい、私を支えてくれる技。

 

 

「にしても、アスナはゾンビとか大丈夫なのか?」

 

 

「まぁ、実在してるわけじゃないから」

 

 

「お前、なんかああいうの平気そうだもんな」

 

 

体勢を立て直しながらキリトくんに尋ねられ、ハチマンくんがニヤリと笑う。

 

 

「いや、別に平気ってわけでもないけど……」

 

 

「ま、なんでもいい。ほら、ダウン取り行くぞ」

 

 

そこで会話を打ち切って、ハチマンくんの姿がブレる。そして消えて、一筋の影がボスに一太刀浴びせていた。

私も敏捷には振っているけど、あんな極端な振り方はしてない。そもそも、彼は直撃したら何を食らっても即死してしまう。

怖くないのかな?

 

 

「……そんなわけない、か」

 

 

今でも私は忘れられない。一層攻略の時、彼は夜中にあの宿を抜け出した。寝れなかった私は物音に気づいて、何をするのか気になって彼の後を追った。

ハチマンくんは、セーフティエリアの湖の前で、震えて座っていた。彼だって、ボスは怖いんだ。そう思った。

したらその矢先にあのボス戦後のやり取り。きっとハチマンくんは、ああやって自分の感情を隠して殺して、上手く取り繕うんだ。絶対にクリアしたい目的があって、そのために恐怖を殺して、自分を隠して。

 

 

「緋扇」

 

 

刀のソードスキルが決まる。

マフラーを鼻まで上げて口元を隠すハチマンくんは、その表情が見えない。

リアルではわからないけど、このSAOでは感情は過剰に表現されるから、彼がどれだけ苦しそうにしているか、心配をしているか、すぐにわかる。

キリトくんのことだってそう、多分、他の人のこととかも。

……私も、この世界には負けたくない。最初、親の敷いたレールから外れることへの恐怖も凄くて、いっそ死んでしまってもいいかと思った。死んでしまうかとも思った。けど、今は違う。このゲームに負けない。こんな世界、存在を認めない。私は現実へ戻って、私の道を歩く。レールから外れたっていい。それでも、進めないのだけは嫌だから。だから、私も利害を一致させる。キリトくんは強いけど、やっぱりどこかゲームを楽しんでる。けど、ハチマンくんは容赦なく、このゲームをクリアするつもりだ。その為ならなんだって、自分すら利用するつもりなんだと思う。

それほどまでにこのゲームを、この世界を嫌悪してるんだって知れて、ちょっと嬉しかった。

……私にも、理解者がいるんだって、思えた。

 

 

「アスナ、スイッチだ」

 

 

「任せて、ハチマンくん!」

 

 

気だるそうで、少し籠った感じで、陰気な雰囲気のある声、でも、変わらないトーンのその声は、不思議と私を落ち着かせた。

 

 

「やぁぁぁぁぁっ!」

 

 

少しでもあの"影"を追えるように、私は全力で走ってリニアーを突きつけたのだった。

 

 

「ダウンしたぞ、行けぇぇっ!」

 

 

 

エギルさんの低い声が響く。

私とハチマンくんを除くほぼ全員が倒れたボスへ、追撃を放っていた。

 

 

「ハチマンくんは行かないの?」

 

 

「一回休み。毎回行くのしんどいんだよ」

 

 

どこまでもマイペースな物言いに笑ってしまった。

そんなことを言いながらも、彼の濁った(通称腐った)目はボスを見続けて、仮想現実だからこそなのかもしれない、冷たい感覚をボスへ放ち続けている。

多分、これが殺気ってやつなんだと思う。彼は、ボスから目を離さない。

 

 

「――――――――!」

 

 

やがて、一際大きな音を上げて、ボスは倒れ伏した。ポリゴンの塊になって、徐々に風になって消えて行こうとしてる。

 

 

「……やったか?」

 

 

「やったやった! クリアしたんだよ俺ら!」

 

 

攻略にコンビで良く来ている二人がハイタッチを交わす。

……今回は、さすがに長い戦いだったな……

 

 

「おい、まだ油断はするなよ」

 

 

「何いってるんだよ。どう考えても終わりじゃ――」

 

 

パリンと音が鳴って、ハイタッチしていた二人の身体が中に舞った。

 

 

「え?」

 

 

「なっ」

 

 

「……おいおい」

 

 

ポリゴンとなって、二人が消える。つまり、彼らは……

 

 

「だから、なんで油断なんかしたんだよ

あのバカ共は!」

 

 

ハチマンくんにしては珍しい怒声が聞こえる。

私はと言えば、目の前で起きた現実がまだ信じられなかった。

 

 

「これがラストってわけか……おい、全員くれぐれも当たるんじゃねぇぞ、死人の面倒は見れないんだからな、このゲームは」

 

 

砕けたポリゴンから現れたのは三ツ又の槍を持った、頭が犬の人間。あれが、ボスの本来の姿、かな?

 

 

「アスナ。おいアスナ」

 

 

「な、なによ、ハチマンくん」

 

 

「……怖いなら下がってろ」

 

 

「……バカを言わないでよ。そんなわけないでしょ」

 

 

「ならいい」

 

 

二人のプレイヤーをあっさり倒してしまったボスへ、ハチマンくんは迷わず駆け出した。

 

 

「キリト、ヒースクリフ、連続でスイッチ回すぞ。

アスナ、やるなら早く来いよ」

 

 

ボスへ青い影がまとわりつく。追撃するようにキリトくんが、ヒースクリフさんが迫って行く。

 

 

「我々も続くぞ! 気を引き締めろ!」

 

 

リンドさんの声に続く他のプレイヤー達。

対するボスの動きは、暴力の塊だった。一撃で攻略組プレイヤーの体力を全て減らす攻撃力。人より遥かに大きい身体で槍を振り回すと、それは私達よりもリーチが遥かに長い。二人やられたこともあって全員が慎重になってるせいか、私達は攻めあぐねていた。

 

 

「……ふむ、私が前へ出よう。ハチマンくん、お付き合い願えるか?」

 

 

「ヒースクリフ?」

 

 

「私が攻撃を凌ぐ。そして君が削る。残りは他のプレイヤーに任せよう」

 

 

「……仕方ないな。今回限りだ」

 

 

肩に雷切丸を担いで、ハチマンくんはため息を吐いた。

……なんであの二人、妙に息合ってるのかしら。

 

 

「二人とも、できるのか?」

 

 

「無理は言わないつもりだ。後続、よろしく頼んだよ、キリト君、アスナ君」

 

 

「っつーわけだ。ヒースクリフ、後から追い抜くから先頼む」

 

 

「心得た」

 

 

ヒースクリフさんが駆け出して、ハチマンくんがそれに続く。

ヘイトを真っ先にヒースクリフさんが受けて、その隙をハチマンくんが縦横無尽に斬りつける。定期的にヘイトはハチマンくんに向かうのか、ヒースクリフさんからターゲットが外れて、したらヒースクリフさんの攻撃が入る。

全員で慎重に攻撃していたさっきと違って、頑として動かず全て受けるヒースクリフさんに、一度足りとも止まらずに全力で攻撃するハチマンくん。二人とも、怖いくらいボスに接敵してるのに、攻撃の手を緩めない。

 

 

「「スイッチ!」」

 

 

どれくらい攻撃しただろう。ヒースクリフさんが横へ移動して、ハチマンくんがそこから消えた。

ボスの残り体力は……二割!

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 

だから、私は駆け出した。

彼に追い付ける為に。私も、彼に並ぶ為に。誰よりも速いのが彼なら、それに続くのは私でいようと思う。

同じ、このゲームを許せない者としても。

 

 

「アスナッ!」

 

 

無我夢中で、何回も斬りつけた。今も、空いた隙間を縫うように、全身全霊を込めて走り抜ける。

そうして放ったリニアーは、ようやく、ボスの身体を貫通した。

 

 

「……勝った、の?」

 

 

「……らしい」

 

 

大きく脱力しながらため息を吐くキリトくん。

そして宙にはボス討伐を意味する文字が浮かび上がっていた。

歓声が凄い勢いで沸いて、みんな大喜びで騒ぎ合う。

丸一日経っていたみたい。ここまで長いボス攻略は初めてだった。

 

 

「……ふむ、犠牲者は二人か」

 

 

「軍を壊滅させたボス相手にそれだけで済んで御の字だろうよ。つーかなんだよこれ、難易度上がりすぎだろ。こっからこれ基準とかだったらクソゲーだぞこれ」

 

 

「……はは、そうでないことを祈ろうか」

 

 

ハチマンくんはヒースクリフさんの隣で座って天井を見ていた。珍しくヒースクリフさんも笑っていて、少し和から外れて話してる。

二人は何を話してるんだろう。

 

 

「……なんだかんだ、あいつもすげーよな」

 

 

「ああ、絶対最初に行くもんな。ハチマンのやつ、言うこときついわムカつくわだけど、本当に強いもんな。ヒースクリフもだけど、どうすりゃあんなの相手に二人で張り付こうだなんて思うんだよ、あいつら」

 

 

「今までの三強にヒースクリフを入れて四強か。くー、一度でいいからそういう呼ばれかたしてみてー」

 

 

「とりあえず早いとこ次の階層でレベル上げだな」

 

 

……凄く不穏な言葉も聞こえたけど、ハチマンくんも攻略組のみんなには認められてる。誰よりも速く攻撃して、辛辣な物言いだけどクリアの為に的確に発言もして。彼がどう思ってるかはわからないけど、いい意味で攻略組の刺激になってる。

知らないのは本人ばかり。もう少し私にも余裕があったら彼をこの和に引き込もうとしたかもしれない。けど、今はそんなのいらない。私も彼も同じ、ゲームクリアに向けて進むだけ。

 

 

「ハチマンくん、お疲れ様。ヒースクリフさんも」

 

 

「アスナ君か、お疲れ様。ラストアタックおめでとう」

 

 

「……本当に疲れた。早く帰って寝てぇ……」

 

 

二人の前に出て労いの言葉をかける。ハチマンくんはそれ返しもせず大きくため息。

もし彼に女の子として接していたらそんな態度に腹の一つも立てていたけど、私も攻略組の一人。苦笑を浮かべて心から脱力しているらしいハチマンくんを見たのだった。

 

 

Episode2,Fin.




結構詰め込んだりなんだりしてしまったエピソード2最終回。
最後はアスナの視点でお送りしました。

今回、八幡とヒースクリフがやたら活躍しましたが、それには理由も一応あったり、アスナの現在八幡へ抱く感情や、攻略組の全体的な水準の高さなど、原作との違いを少しでも納得してお楽しみいただけたらと思います。ではでは、次のエピソードでもまたよろしくお願いします。

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