……書き貯めこそしてませんが、構成はできてるのでそこまでは怒濤の勢いで書いていきます。
ではでは。
「……くっそ、一対一になると強いな、こいつ」
攻撃に合わせて攻撃をぶつける。俺の体力は残り半分ほど。直撃はすなわち――
「らあっ!」
考えるな。とにかくやれ、動け。殺すと決めた。倒すんじゃねぇ。殺すんだ。
一対一になると攻撃の手数が多すぎて、回復してる暇なんかありゃしない。どうすればこれは解除されるんだ……
「っ! くそ……」
言ったそばから考えすぎた。捌きをミスった俺は、大きく体勢を崩して、柄で腹を殴られる。体力バーが残り僅かまで削れて、一瞬気が遠くなる。
尻餅をついた俺に、ボスは刀を大きく振り上げていた。
やけにゆっくりに感じる。ああ、本能的に察した。これは、俺は、死――
「ハチマンッ!」
怒号とともに、俺の身体が何かに動かされる。
少し放心してしまったらしい、俺はどうやらキリトに助けられたらしい。
「取り巻きを全部倒せば解除されるみたいだな……ハチマン、良かった……」
「……バカ野郎、今の下手したらお前直撃コースだぞ?」
「でも、俺が行かなかったらハチマンが死んでた。そうならなくて、本当に良かった」
「……」
言い返せず、ポーションを使う。……確かに、俺はあのまま死ぬかと思った。手が震える。良かった、死ななくて、生きれて。
「ハチマン。……俺はさ、ハチマンが本心からあんなこと言ったなんて思えない。いや、本心もあるのかもしれないけど。気づいてるか? 俺とボス討伐で会うたびに、気まずそうにこっち見てて。SAOは感情の表現が過剰だから、ハチマンの表現、ほとんど隠せてないんだぞ」
「……」
キリトはこの場に不釣り合いなくらい笑顔で、助けたにも関わらず文句を垂れた俺に笑いかけて、少しだけイビツだけど、笑顔とわかる顔で。
「……俺は、話すの下手だし、意思を伝えるのも上手くはないかもしれない。けど、俺はハチマンとは、友達だって、そう、思ってるから」
「……キリト」
「ハチマン、凄い警戒心強いし、信じてもらえるかわからにいけど、単なるフレンドじゃなくて、友達だって、思ってる」
……はは、何を言ってるんだこいつ。
「……話は後だ。来るぞ」
「ハチマン、今気持ち悪いくらい笑顔だけど、気づいてるか?」
「うるせぇ、ボスにお前を提供するぞ」
くそ、いきなり何を言い出すんだこいつは。
……ふざけんな、手の震えが止まっちゃっただろうが。友達って、俺もお前も、ゲームクリアしたら会うことはねぇはずだろうが。
「俺の目標の一つな。ハチマンに俺のこと友達って言わせる」
「うるせぇっつっただろ。ぼっちにそういうの禁句な。勘違いしちゃうだろ」
「勘違いじゃないぞ」
……ああくそ、調子狂う。
「……お前も異質な奴だな。行くぞ、キリト」
「ああっ!」
もしキリトの言葉が嘘でも、どちらにせよゲームクリアまでの関係だ。保険だなんて自分でも理解はしている。けど、自分からそこまで踏み込める勇気はない。
嫌になるくらい軽くなった足取りで、俺はボスへと躍り出た。
――side キリト――
「っは」
青い影が俺よりも速く出て、ボスに攻撃を入れる。
……言ってやった。あのとき、八幡は確かに本気で苛立っていたのだと思う。けれど、あそこで敵意を自分に向けることによって場を治めるってのは俺も考えてたから、もしかしたらって。
そこだけ表情を変えずにやったハチマンは凄いけど。
「そこだぁっ!」
ソードスキルをハチマンに続いて入れて、俺達は距離を取った。またいつあの"決闘"がくるかわからない。
必然的にボス戦は俺とハチマンの二人が攻撃することになっていく。
――ハチマンは、距離の取り方が上手い。一緒にいても話せば返してくれるけど、自分からは程よくしか話さないし、俺が話せなくても間を持たせる必要なく沈黙して、それが嫌にならない。ゲームをやっているって共通点からも、本人同士の相性も悪くないんだろうな。年上だけど、友達になりたいって思った。
だから、フレンドを消されたのは結構本気で凹んだ。
「ハチマン、多分、咆哮の後に視界に入った奴が"決闘"の相手になる」
「なるべく俺かお前のどちらかが受けた方がいいな、それは」
「だから、タイミングを上手く合わせて行こう。行けるよな? ハチマン」
「行かなきゃおしまいなんだから、やるしかないだろ」
相変わらずの少し捻くれた返答に苦笑する。けど、こうしてハチマンと組んで戦えることが、嬉しかった。
「うおおおおおっ! バーチカル・アーク!」
二連撃が決まって、ボスが怯んだ。スイッチ……はする必要もないか。ハチマンはいつも通り、既に後ろに回っていた。
「キリト、お前のソードスキル、威力高すぎじゃね?」
「ハチマンこそ、いつ後ろに回ってるんだよ」
「普通に回ってるだけだぞ。――浮舟」
1層のボスがディアベルを倒した切り上げ技。後ろから斬りつけて、ボスは咆哮した。
「ハチマン、今度は俺が」
俺とボスの周りに壁が現れて、また取り巻きがたくさん沸き始める。集中しろ。やるぞ、俺。
「キリト」
いつの間にか俺の後ろにいたらしいハチマンから、壁越しに声がかけられた。
「とっとと雑魚全滅してくるから、死なないようにな」
「……ああっ!」
いつもの調子でかけられた声は、それでも、俺を元気にしてくれた。
……ハチマン、今俺、ギルドにも入ってるんだ。ハチマンは誘ってもギルドには入ってくれなさそうだけど、それでも紹介はしたい。みんないい奴だから。攻略組を目指してみんな頑張ってるんだ。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
後ろの声が急速に離れて行く。……ほんと速すぎだろ、あいつ。
「おいハチマン、こっち俺らの受け持ちだから!」
「あー、悪い」
……ったく。
「よし、来い!」
絶対に、ゲームをクリアしてみせる!
――side 八幡――
エギルの斧に真っ二つにされる雑魚を見届けて、俺はボスに意識を向けた。キリトは……すげぇな、体力七割も残して戦ってる。さすが、と言うべきか。現状あいつが最強プレイヤーなんじゃないのか?
「ハチマン、行ってこい! お前らの背中は任せろ」
「あと少しだしな、とっとと削ってくるわ」
「悪いな、お前らに託すようになって」
クラインにヒラヒラ手を振って、申し訳なさそうなエギルを見る。それから、俺は肩を竦めた。
「適材適所ってやつだ。俺は本当は仕事したくないんだが、死ぬのはもっと嫌だからな。まぁ、やってくる」
全速力で駆け出して、キリトの身体を飛び越える。走ってる間にスキル発動のタメを作って、俺は刀を思いきり振り上げた。
「旋車」
刀の範囲重攻撃スキル。中型くらいまでなら打ち上げ判定のある跳躍からの上段打ち下ろし攻撃を真正面から叩き込んで、背後のキリトに声をかける。
「一応ポーション飲んどけ」
「わかってる。残り、全部削るぞ!」
答えは返さず、目の前のボスと斬り結ぶ。向こうの縦斬りを捌いて、こっちも横凪ぎで応戦する。基本、モンスターは攻撃を捌くことはしない。だから攻撃を振り抜いて怯まなかったらすぐに回避動作を取らないとかえって危ない。
「シャープネイル!」
片手剣の三連撃ソードスキル。俺の回避した真後ろからキリトが一気に勢いよく叩き込んできた。
……だから、なんだあの威力。俺が必死にいろいろ叩き込んだ攻撃を三発で並べやがった。
「っ! 咆哮したぞ!」
おそらく最後の"決闘"。キリトは三連撃と共に斬り抜けたし、視線の先には俺しかいない。
「……これでおしまいだな」
俺とボスが壁に遮断される。雑魚が沸いて、先ほどの流れが作られた。
「キリト」
「どうしたんだ、ハチマン」
「俺、そんなに速いのか?」
「速すぎだ。個人的にはもう少し腕力にも振れよ」
「……そうか」
さっきと違って落ち着いてる。まぁ、ゆとりが持てたのは確かだろう。……誰のおかげとかは言うつもりはないけど。
「……面倒なサイクル組みやがって、もう終わりにしようぜ。な」
ボスの攻撃を躱す。そのまま返すように横に一太刀。すぐに後ろに引いてまた前進。今度は首付近に一太刀。首斬ったんだから倒れろよ。って、まぁ無理だよな。
「緋扇」
刀の中位ソードスキルを当てる。刀にしては珍しい三連撃のソードスキルで、ここに来て、ようやくボスが大きく怯んだ。
……黒歴史時代に戻っちまったのか、何を思ったのか、俺は刀を納刀していた。
キリトの三連撃といいこれといい、これらのソードスキルは隙が少ないという利点がある。だから、これで――
「終わりだ。蓮華!」
刀の初期ソードスキル。敏捷依存による突進斬撃。わざわざ壁の周りを全力疾走して、適応されるかわからないけど抜刀の鞘走りまで利用して、俺はボスを真一文字に斬り裂いた。
ポリゴンとなって、ボスが消滅していく。壁も消えて、取り巻きの雑魚も消えていく。
コングラチレーションの文字が浮かび、つまりそれは、ボスの討伐を意味していた。
ちょこちょこと伏線も張った回でした。時系列に合わせて階層の進みや年月も相応に進んだりもします。
八幡、ぼっちで書きたいけど他は他で難しくてどうしようとなっています(笑)
ではでは、また次回にて。