ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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Episode2,part3

「うす」

 

 

「ハッチじゃないか。誰かと思ったヨ」

 

 

「ボス部屋見つけたから報告にな」

 

 

鼠女……情報屋のアルゴはこっちを見てにこりと笑った。

アスナと別れた後、俺はこいつの根城へと真っ先に来ていた。……ほんと、過労死とかしないよな、俺。

 

 

「まだ解放されたばかりダッテのに、ずいぶん早いナ」

 

 

「攻略の鬼に強制連行されたんだよ。ボスの中身も見ておいた」

 

 

「ふむ」

 

 

ボス部屋までのマッピング情報や、ボスの外観を伝える。こいつは攻略組には参加しないがネットワークはマジで凄いから、三日待たずに情報が渡るだろう。

 

 

「……にしてモ、ハッチとアーちゃんとは、攻略組のトップクラスの揃い踏みは見てみたかったものだナ」

 

 

「アスナはわかるが俺は違うぞ」

 

 

アスナやキリトはこのゲームにおけるトップカーストだ。キリトはコミュ障っぽいところがあるだけで、話せばちゃんと通じるし、アスナはあれだ。人気者だしな。俺とは違う。

 

 

「知らぬは本人ばかりカ。ハッチは自己過小評価させすぎダ。攻略組でキー坊、アーちゃん、ハッチの三人と並べる人間は少ないんダヨ」

 

 

「そう言われてもな……」

 

 

「影纏い」

 

 

「……あ? なんだそれ」

 

 

「ハッチの二つ名だそうダ。攻略組の一部で呼ばれてル。キー坊は黒の剣士で、アーちゃんは閃光、だとカ」

 

 

なんだよそれ、黒歴史が出てきちゃうじゃないか。

 

 

「やめろ恥ずかしい。第一なんだよ影纏いって」

 

 

「青い影が一瞬で距離を詰めていくかららしイ。ハッチは少し、自分へ向けられる評価や感情を考えた方がいいナ。言われたことないカ?」

 

 

……雪ノ下、由比ヶ浜……

 

 

「……考えておく」

 

 

「その顔はあるようダナ。ま、そういうこっタ。ボス討伐、頑張れヨ」

 

 

「せいぜい生きて帰ってくるさ。じゃあな」

 

 

少しの居心地の悪さを感じて、俺はアルゴの根城を後にした。

……なんなんだ、どいつもこいつも。なんかおかしいだろ、所々違う。その違いが、どうにもモヤモヤして気持ち悪い。

 

 

―――――

 

 

きっちり三日後、攻略会議の開催場所に俺はいた。軍の連中とアスナ主導で会議は進められていく。

 

 

「……ハチマン、隣いいか?」

 

 

「俺の所有物じゃないからな、好きにしてくれ」

 

 

いつも無言でパーティ申請やら送ってきてたキリトが今日は同じテーブルに座った。他の空いた椅子には風林火山の面々が。まぁ、別に構わない。

 

 

「ハチマン、ボス見たんだよな?」

 

 

「本当に見ただけだ。やり合ってすらいねぇから、どんな攻撃が来るかとかまではわからない」

 

 

「そ、そうか」

 

 

ぼっち舐めんな。会話を打ち切るのは得意分野だ。

 

 

「……では、今回のパーティ編成ですが、更なる攻略組の人数増加の為に、ハチマン、キリト。この両名を先頭に立てた編成で、短時間での撃破を望みたいと思います」

 

 

「は?」

 

 

……え、何言ってんのあの攻略バカ。いや、言わんとしてることはわかるけど何してくれちゃってんの?

それ俺がキリトとパーティ組まなきゃじゃん。やだよ気楽にやらせてくれよ。

 

 

「なんでや! いけすかんソロ野郎と同じソロ野郎を先頭って、軍の統率力でまた攻めた方がええに決まってるやろ」

 

 

「ですが、時間がかかりすぎてしまう。全体の五分の一を過ぎて、それでも短時間でのボス討伐。これができれば新規の攻略組への参加者を増やせます。増えればそれだけ、攻略組の生存率が上がる。

それに、軍に彼らよりも素早く、鋭く動ける方がいますか?」

 

 

……あれ、アスナの容姿だからできるチートだよな。

かなり強引なのに、有無を言わせない。本人の実力もあって余計に。

……はぁ……

 

 

「ハチマン……その、パーティ申請、送るぞ」

 

 

「ああ」

 

 

おいこら、なんで少し嬉しそうなんだよキリト。海老名さんが喜びそうだからやめろ。

……こいつもこいつだ。なんで俺が嫌にならないんだろうな。

 

 

「二人のフォローは今回は風林火山にやってもらいます。他はおそらく沸くであろう取り巻きの排除で。いいですね?」

 

 

さすが攻略の鬼。すげぇスパルタだ。今はなんだかんだ軍が統率をしてるからいいが、もしアスナが本当に先頭に立って指揮をすることになったとき……

――その時、今までのように犠牲者なく、ボス討伐ができるのだろうか。

 

 

―――――

 

 

ボス部屋の中央に佇むボスは、この団体様にも反応しない。

念のため、全員で中央まで歩いて行くと、それでもまだ反応しない。

 

 

「……どうする?」

 

 

「とりあえず一発やってみる」

 

 

キリトに軽く答えて、俺は手元に投げナイフを構えた。あれから刀と平行して鍛えている投剣スキルは、敏捷性依存のものが多い為かかなりの威力と速度となっている。

開幕の一撃としては悪くないだろう。

 

 

「……じゃあ、はじめるぞお前ら」

 

 

不自然に静かなボス部屋のせいか、みんな無言で頷き返してくる。

それを合図に、俺はボスへ向けて投げナイフを投擲した。

 

 

「――!」

 

 

我ながら結構な手応えで投げたそれは、一太刀で斬って落とされた。

攻撃に合わせて開幕カウンターをするタイプだったのか。ナイフを投げておいて正解だな。

 

 

「全員、散開!」

 

 

アスナの声に全員が走り出す。同時に雑魚が沸いて、ボス戦が始まった。

 

 

「ハチマン、行くぞ!」

 

 

「わかってる。先行する」

 

 

一足で飛び付いて、いつも通りソードスキルを発動する。……手応えはあり。

このままキリトが追い付くまで少し斬り結んで、キリトが来たタイミングで後ろへ下がる。

 

 

「うおおおおおっ!」

 

 

「そらよ」

 

 

斬る、斬る、斬る。

ある程度被弾したら体力の少ない方が下がって回復。また二人で攻める。俺が一太刀浴びせれば続けてキリトが連撃を加えて、また俺が後ろから何発も叩き込む。

 

 

「……すげぇ」

 

 

雑魚をひとまず全滅させたらしい周りからそんな声が聞こえた。……そうだな。キリトと組んで攻撃するのが一番やりやすいのは事実だ。さすが、と言うべきだろう。

 

 

「ハチマン!」

 

 

キリトを飛び越えるようにしたソードスキルをぶつける。

相手の体力は半分くらい。順調にボス討伐は進んでいるかのように見えていた。

……この時までは。

 

 

「――――!」

 

 

ボスの咆哮。何かの前触れか?

刀を構え、すぐにでも対応できるようにした時に、ボスと目が合った。

 

 

「うわっ!」

 

 

「キリト?」

 

 

途端、すぐ隣にいたキリトが吹き飛んだ。なんだ、攻撃……したのか……?

 

 

「HPは減ってない。大丈夫だ!」

 

 

「じゃあ、なんだって……っ!」

 

 

俺とボスの周囲に光の壁が出来ている。触れてみると見事にあいつらとは遮断されているようだ。

壁の向こうでは、雑魚が今までの非にならない数が沸いている。

 

 

「ハチマン!」

 

 

「慌てるな。俺が発狂しちゃうだろ」

 

 

……ったく、ほんとになんだってんだ。

 

 

「決闘。ってのらしいな。ボスから挑まれるとは思わなかった。とりあえずお前らは雑魚を全部片付けておけ。……俺は、とりあえず逃げておくから」

 

 

「ハチマン! 絶対に無理するなよ! 死ぬなよ!」

 

 

「当たり前だろ。フラグだって立てねぇよ。むしろ早く助けに来てくれ。泣きそうだ」

 

 

震えそうになる手を振りきるように思いきり刀を握る。

……ああ、珍しくイラついてるな、俺。挙げ句こんな仕打ち。神様とか俺のこと嫌いすぎだろ。ふざけんなちくしょうめ。

 

 

「……なんだ、わりと落ち着けてるな。怒ると冷静になるタイプなのか、俺って」

 

 

まぁいい。発狂したり、泣き崩れてしまわないならいい。

……死にたくはないしな。その辺りの鬱憤やらも全部込めて――

 

 

「――お前を殺すぞ、化け物野郎」

 

 

……これ、死亡フラグにはならないよな?


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