「た、助けてください! レイナーレ様を! このままでは彼女が殺されてしまいます!」
アシュタロス家の魔方陣から出現するなり、横島に助けを求めるアーシア。殺されるという言葉に驚く一誠や縋り付くアーシアを他所に、横島は軽い感じで言葉を返す。
「じゃ、契約する? アーシアちゃんの命を助けるくらいだったら、無償で構わないんだけどさ。オレ一応悪魔だしさ」
「な、何言ってんだよ横島! レイナーレって人が殺されるかもしれないって時に! 契約なんてどうでもいいだろ! 助けに行こうぜ!」
「ダメよ、イッセー!」
「何故ですか、部長!」
横島に食って掛かろうとした一誠の手を掴み止めに入るリアス。そのことに対し、一誠は何故だと今度はリアスに食って掛かる。見ず知らずの人の命を優先し、行動しようとすることは素晴らしいことだと思うが、リアスはそれを許す訳には行かなかった。
「理由はいくつかあるわ。まず、大きな理由は私たちが悪魔であり、あの娘がアシュタロス家の悪魔召喚を行ったこと。通常は悪魔が召喚されるけど、契約者を悪魔の居る場所に召喚することもないわけではないわ。今回はそれが適用されてるの。忠夫が言ったように、あの娘の命を“忠夫が勝手に”救う程度なら気まぐれと言うことで無償で処理も出来るけど……あの娘は魔方陣の中で、魔方陣の主に願いを口にしたの」
「と言うことは……オレたちの仕事ん時と一緒ってことですか」
「そうよ。契約を結び対価を決める。その必要がある」
「でも、命がかかってるんですよ! 契約なんて破棄して……」
尚も言い募ろうとする一誠に対し、今度は朱乃が一誠に向かって口を開く。
「そうですね。
「それが何だって言うんですか」
「忠夫さんのお守りや召喚魔法は、ただの人間に襲われたくらいでは発動しません。そして、見張りから連絡がないことから考えて、それは教会の中で起こったのでしょう。それらをあわせて考えると、彼女とレイナーレと言う人物は神父または堕天使に襲われた可能性が高い。私たちが介入すると、私たちが積極的に攻撃したとして三陣営の微妙なバランスを崩しかねないんです」
「それじゃあ、黙って見捨てろってことですか……!!」
拳を強く握り締める一誠に、白音が呆れたように一誠に告げる。
「誰もそうは言っていないです。だから、忠夫さんはあのシスターと契約を結ぼうとしています」
「契約したって……」
「悪魔にとって契約とは重要な意味を持ちます。そして、契約の名の下ならば敵対勢力どころか同属と敵対することになっても、仕方ないというのが共通の認識なんです」
「つまり……?」
「つまり、こういうことよイッセー」
一誠に説明していた面々は一度顔を見合わせると、口を揃えて告げた。
「「「契約という形さえあれば、堕天使だろうが神父だろうが攻撃し放題」」」
一誠がリアスたちから説明を受けている間、横島はと言うと何故契約するかについてアーシアに説明をしていた。概ねは一誠が受けた説明と同じであったが、一誠と違いアーシアが途中で遮ることはなかったのでスムーズに進んでいる。
「と言う訳で、これが契約書ね。要約すると、アーシアちゃんは悪魔……と言うかオレに、堕天使レイナーレの救出を依頼。で、対価はアーシアちゃんが決める。本当は便利ツールが願いに応じて適切な対価を提示するらしいけど、オレは持ってないからそういうことで。対価自体は今決める必要はないよ。無事、そのレイナーレって堕天使の姉ちゃんを救出したら、改めて決めようか」
「はい。わかりました」
「でも、本当にいいの? 聞く限りじゃ、レイナーレって堕天使はアーシアちゃんの神器を狙ってたんでしょ? 天使だとか偽って。まぁ、仲間に背後からズブってのは可哀想だけど」
横島の問い掛けに、アーシアは祈りの体勢をとり答え始める。丁度、一誠への説明が終わった為、リアスたちも一緒に聞いている。
「確かに、レイナーレ様は天使様を騙り私をこの地に呼び寄せました。しかし、今日再会した時、彼女は何かをとても後悔されていました。そこで、懺悔をされたのです。自分は敬愛する上司を妄信するあまり、取り返しのつかないことをしたのではないかと。好ましいと思った男性を、間接的に手にかけてしまったと」
そこまで言うと、アーシアは俯かせていた頭を上げ、横島の目を真っ直ぐ見つめる。
「彼女は確かに堕天使です。ですが、ただ欲望に溺れた存在ではないのです。苦悩や後悔することもあります。人と過ごすことで喜びや愛を感じることもあります。その心は何ら人と変わらないのです。それを知った私が、彼女の生を望まない理由があるでしょうか?」
そう力強く告げるアーシアの言葉に、聞いていたリアスたちが息を飲む。そんな中、横島は最後の確認を行う。
「アーシアちゃんが願う理由は分かった。じゃ、これが最後の確認だ。アーシアちゃんが悪魔と契約する意味と、その結果を分かった上でこの契約を行うかだけど……」
「契約します。私が悪魔と契約すれば私は教会から追われ、異端として命を狙われることでしょう。ですが、それは今と変わりありません。それにこうも思います。契約する悪魔がタダオさんで良かったと」
微笑みながら告げるアーシアに、視線だけで何故かと問う横島。
「優しい悪魔がいることを知ることが出来たからです。教会では悪魔はただ悪しきものとしか教わりません。堕天使も同じです。ですが、教会を追われたことで私は悪魔も堕天使も人間も変わりないと知りました。大事なのは種族ではなく、その心です。その心が告げるのです。タダオさんは信じられると。レイナーレ様を必ず助けてくれると。心無い悪魔ならば、私の願いを捻じ曲げ対価のみを受け取るでしょう。そもそも、契約しないかもしれません。でも、タダオさんは正しくレイナーレ様を助けてくれるでしょう?」
「参ったな~。美少女の依頼ってことで、断る気はなかったけど……こんなにいい女の願いなら、何が何でも叶えないといけなくなっちまったな。ただ、対価については一つ提案させてもらってもいい? 勿論、最終的な決定はアーシアちゃんに任せるからさ」
頭を掻きながら努めて軽く告げる横島に、アーシアが頷く。
「構いません。宜しくお願いします」
「じゃ、これにサインを……あ、ここに名前をフルネームで……連絡先と現住所の欄は空白でいいよ」
契約書に必要事項を記載していくアーシアを見守っていた一誠に、横島が視線を向ける。先程、話の途中で食って掛かったことを怒られるかと身構える一誠に、横島はお前はどうすると尋ねる。
「は? これはお前の依頼だろ? それにレイナーレって人を助けるのに、堕天使がいるとこに行くんだろ? 木場ならともかく、オレじゃ足手まといだ」
「まぁ、転生したばかりのお前に期待はしてないんだが……お前も男だしな」
「意味が分からん」
本当に意味が分からないようで、首を傾げる一誠にアーシアから契約書を受け取った横島が続ける。
「レイナーレ……多分、お前が探していた女だ」
「それって……」
「ああ、レイナーレが人間に化けた姿。それこそが天野夕麻だろう。良かったな、一誠」
――彼女、お前のこと気に入ってたってさ
そう横島が一誠に告げた時、一誠の脳裏にはっきりと背後から光の槍を刺された時の記憶が浮かび上がっていた。
『何で、殺した!』
『戯れ……と言えば、満足ですかな?』
『貴様っ……!! そんな理由で彼を……イッセーくんを……』
『冗談ですよ。実は上層部からの命令でして。彼の持つ神器は危険だから、取り込み等考えず早急に始末せよと』
『そ、そんなアザゼル様が……』
『分かって貰えたようですね。それでは私は記憶の消去がありますので……』
『……イッセーくん。定番のデートコースばっかりで、ちょっと馬鹿にしてたけど……楽しかったよ。……ごめん。私が、私が堕天使だったから……私があなたを仲間にしようと思ったから……思ってしまったから……』
堕天使の姿に戻り、飛び立つ前に一度振り返った夕麻の表情を思い出した一誠。彼は、夕麻かもしれない堕天使――レイナーレを救出しに向かう横島に、同行を願い出るのであった。
あとがき
前話の横島たちバージョンです。後は、殴りこんで、その後処理で一巻相当が終了です。
レイナーレ。
これらは作中設定です。
関連活動報告は【HY】と記載します。
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