一誠の悪魔ライフは概ね順調であった。はぐれ悪魔討伐についていったり、魔方陣に反応しないことが判明したり、召喚者と仲良くなったりと普通の悪魔とは少し違う点もあったが概ね順調であった。
その一誠が今何をしているのかと言えば、オカルト研究部でリアスたちと雑談していた。
「へ~。横島って、部長たちと小さい頃から知り合いなんですか」
「ええ。白音や朱乃と知り合ったのは忠夫が連れてきたからなの。あの頃、忠夫は人間界や冥界のあちこちを飛び回っていたから、お兄様に面倒を見てくれないかって」
「そうでしたわね。あの頃の私は両親から離れた方が安全ということで、忠夫さん経由でグレモリーに預けられました。その内、リアスと仲良くなり眷属となりましたが、その前はただの遊び友達でしたわ」
「私もそうです。姉さまはぐうたらしたいとかで眷属入りを断っていましたが。今思えば、何れ忠夫さんの眷属になるつもりだったのでしょう。姉さまは最初からサーゼクス様の眷属ではないと知っていたようですし」
忌々しそうに言う白音。自身が勘違いしただけと言われればその通りだが、あの姉のことだから勘違いに気づきながら訂正しなかったに違いないと白音は確信していた。
「祐斗やもう一人の子が眷属になった経緯は忠夫とは直接関係ないわ。どちらも個人の事情があるから詳しく知りたければ当人に聞いて頂戴。それにしても、祐斗遅いわね? 何か聞いてない? イッセー」
「いや、何も聞いてないっすけど。というか、何でオレに木場のことを聞くんすか?」
クラスも違うしと呟く一誠。その言葉に首を傾げるリアスたちであったが、暫くしてからそうだったと気づいたようである。
「そういえばそうだったわね。ごめんなさい、イッセー。最近、祐斗があなたと一緒だから勘違いしていたわ」
「そんな謝らなくても……。オレも最近、木場と一緒に行動すること多いとは思ってましたから。まぁ、神器を使いこなす為ですから文句は言えませんが」
「それで、
どうせなら部長が見てくれればいいのにと訴える一誠であったが、その訴えは黙殺されたようである。訴えることを諦めた一誠は、リアスの問いに答える。
「まだ何とも。木場との訓練で分かったことと言えば、頑丈な籠手ってことだけです。本当に部長の言う神滅具なんですかね? これ」
「兵士とは言え、駒を八個消費したんだから間違いないと思うわ。祐斗は何か言ってた?」
「疑うな、だそうです。赤龍帝の籠手を信じれば、神器の方から力を貸してくれると。神器は所有者の意思に反応するとも言ってました」
「そう。何かいいアドバイスをしてあげたい所だけど……私たちは神器を持っていないから。祐斗を信じてとしかいえないわ。ごめんなさい」
「そんな! 部長が謝らないでください! オレちょっと弱気になってたみたいです。はぐれ悪魔の討伐の時、皆凄くて。オレ驚くばかりで何も出来ませんでしたから。それで、自信を失くして。木場にも申し訳なくて」
最後の方は俯きながら告げる一誠の頭をリアスは優しく撫でる。
「焦ることはないわ、一誠。あなたはきっと強くなる。それまで、私たちが守ってあげるから。それに、力というのはふとした拍子に目覚めることもあるわ。だから、今はその時ではないと考えなさい。そうすれば、必要以上に落ち込むこともないから」
「……分かりました」
リアスの言葉を聞きながら大人しく頭を撫でられていた一誠であったが、ふと顔をあげると目の前にリアスの豊満な果実がぶら下がっている。自然とそれに手を伸ばしていく一誠であったが、急にそれが遠ざかっていく。眼前から消えた果実を慌てて追いかける一誠であったが、部室の扉を開き中に入ってきた男のせいで中断を余儀なくされる。
「オッス! オラ、忠夫! オメェ弱いんだって?」
「その挨拶は色々ダメだ!」
横島の登場の言葉に、何かを感じ取った一誠が突っ込む。そんな一誠を放って、横島はリアスに問い掛ける。
「リアスちゃんに質問なんだけどさ」
「何かしら?」
「この地図の教会分かる? それとここって神父とかいたっけ?」
「ええ。分かるわよ。そこは以前は、神父がいたけどここ数年は無人ね」
何故そんな話をするのだろうかと首を傾げる一同であったが、横島はどうしようかと悩んでいるようである。
「その教会がどうかしたの?」
「う~ん、実はさ……」
話は一誠たちが部室で雑談をしていた頃に遡る。横島は町をぶらつきながら、堕天使たちについて調査していた。そんな彼の視界に、一人の金髪美少女の姿が目に入る。どうやら、転んだようで立ち上がる途中のようあった。横島は近寄ると、声をかけながら手を差し伸べる。
『お嬢さん、大丈夫ですか?』
『あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます』
横島の手を取りながら立ち上がる。シスター服の彼女の傍らには、転んだ拍子に落ちたであろうヴェールが。横島はそれを拾い上げると、汚れを叩き落として彼女に手渡す。
『あ、ありがとうございます。私、この町に赴任してきたシスターで、アーシア。アーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!』
『アーシアね。オレは横島忠夫。好きに呼んでいいよ。それで、アーシアはここで何を?』
『それが……道に迷ってしまいまして。こちらの教会なのですが、分かりますか?』
そう言うとアーシアは地図を横島に見せる。
『ああ、ここだったら分かるよ。案内しようか』
『本当ですか!? これも主のお導きのおかげですね!』
『ああ、うん。オレ、悪魔だけどね』
思わず小さな声で突っ込みを入れる横島であったが、アーシアは気づいていないようでにこやかに笑っている。そんなアーシアの様子に癒されながら、横島は地図を片手に教会へと歩き出す。
「それで、シスターを教会に案内したの?」
「そういうこと。それと、途中で怪我した坊主に回復系の神器を使ってた」
軽く言う横島に頭を抱えるリアス。それも当然だろうと一誠は思う。つい先日、悪魔について勉強している中で、教会、神社に近づいてはダメだと教わったばかりなのである。悪魔としては先輩である横島が知らない訳がないのだ。
「一誠は可愛い子がいたからって、教会に近づいてはダメよ? 教会は敵地なのだから。いきなり光の槍が飛んできても、文句は言えないわ」
「あ、はい」
「それにしても、神器を持っているなら、その子は悪魔払いの可能性もあるわね。でも、あの教会に神父はいない筈だし、そのシスターの子が責任者になるにしても回復系の神器だなんて私たちと争うつもりはないのかしら? それとも既に他の神父も派遣されている? 一応、調査する必要があるわね」
「あ、それは大丈夫。オレの方で調査するから。他の悪魔払いがいるかいないか、そいつらが堕天使側、天使側かに関わらず過激派の堕天使が神器目当てに良からぬことをする可能性は高いからな。一誠の時みたいに」
横島の言うとおり、一口に教会の関係者と言っても天使側と堕天使側に分かれている。天使の力を使う正規の悪魔払いたちが天使側、そこから追放されたはぐれ悪魔払いが堕天使側となる。アーシアがどちらの側かまでは分かっていないが、一誠を殺害しようとしたように堕天使の過激派に狙われる可能性は高い。
「そんな! なら、早く助けないと!」
「慌てんなって。当分は大丈夫さ。教会は見張っているし、アーシアにはお守りを渡しているからな」
「お守り?」
「そ。とっておきのお守りさ」
慌てる一誠に、横島は安心させるように言う。横島のとっておきが何なのかは分からない一誠であったが、リアスたちが何も言わないことから大丈夫なのだろうと考える。
一誠が落ち着いたのを確認した横島が、話を続けようとした時、部室内にアシュタロス家の紋章が刻まれた魔方陣が浮かび上がる。やがて、一人の少女が魔方陣から現れる。
「予想以上に早かったな~。保険のつもりだったんだけど」
事態についていけない一誠たちを置いて、横島はその少女――アーシアに話しかける。
「さっきぶり、アーシア!」
「タ、タダオ……さん?」
「そ、横島忠夫だ。アーシアがここに来たということは、助けて欲しい事態が起こったんだな?」
戸惑っている様子のアーシアだったが、横島の言葉を聞いた直後横島に縋り付き、叫ぶのであった。
「た、助けてください! レイナーレ様を! このままでは彼女が殺されてしまいます!」
原作一巻終了まであと少し。多分。 あと原作とは違う展開。
因みにアーシアが転移してきたのは、悪魔を呼ぶ召喚魔方陣の効果を文珠で『反』『転』させ、人間を悪魔の前に召喚するようにした魔方陣と、『護』の文珠をアーシアに持たせていたからです。
これらは作中設定です。
関連活動報告は【HY】と記載します。
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