鳳凰院凶真と沙耶の唄   作:folland

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ひとつの終わり

ラボに入ってきたラボメン達は一様に驚きに身を固めていた。

 

沙耶とまゆりの姿形を見たからだろうか。

 

 

「イやァァァァああああああああ!!!」

 

 

耳煩わしい不快な悲鳴が部屋に響いた。

 

「落ち着け!紅莉栖!」

 

「倫太郎!!危ないよ!!」

 

「イやァァァあああ!!!おkあ辺かラハナれnあさい(岡部から離れなさい)!!コnぉ化けMOノ(この化け物)!!!」

 

「ウワあああァァアァ!!!!」

 

「ヒっ……あ……アァ…」

 

叫ぶもの。狂乱するもの。呆然とするもの。

ラボに狂騒の渦が巻き起こる。

 

こんなはずではなかった。

もっとうまくやるはずだった。

 

こう騒ぎになっては人が集まってくるのではないか。

もう上手くやれないのだろうか。

やはり沙耶の存在は受け入れられないのか。

 

様々な考えがぐるぐると廻り、どう動けばいいのかわからずにいた。

 

なんとか紅莉栖を落ち着けようと再び声を掛けようとした時だった。

 

 

ドカドカと階段を上る喧しい足音。

複数。

 

まずい、早くも不審に思った人が様子を見に来たのか?

 

バン

 

乱暴に開け放たれる扉。

 

そこには複数の大きな肉塊たち。

全員が銃のようなものを構えている。

 

ラウンダー?

ばかな。

早すぎる。

なぜこのタイミングで?

来るのはまゆりが死んだ以降では?

世界線が変わった?タイムリープのせいか?

どうやって切り抜ける?

どうする?

 

時が止まった部屋の中で瞬間的に思考がまわる。

しかし、それも一人の声でかき乱される。

 

「ナ……ほ、ホn当ニBa家もノダ(ほ、本当に化け物だ)!!!ウ唖ァぁぁぁあああアア!!!!」

 

その声と共に男の中の何人かが銃を構える。

 

その射線上には、沙耶とまゆり。

 

おい。

待て。

やめろ。

銃を向けるな。

やめろ。

 

また、失うのか。

俺は。

また。

大切な人を。

俺は。

やめろ。

 

「やめろおおおおおおお!!!!!!!」

 

銃の発射音。

俺は沙耶とまゆりをかばう。

 

ガチャガチャとモノが壊れる音がする。

部屋中に乱射しているのか、そこらじゅうで派手な音がする。

 

激痛。

目の前が真っ赤に染まる。

時間がスローに流れる。

体に力が入らなくなり、膝をつく。

 

撃たれた。

いや、俺のことなどどうでもいい。

 

二人は……?

 

「オい!!やメろ!!モう十ブんDあロう(もう十分だろう)

 

肉塊の一方が言う。

ずいぶん落ち着いているな。何か聞かされていたのだろうか。

紅莉栖たちも銃の乱射のせいで、おとなしくなったようだ。

 

そんなことを頭の片隅に置きながら、何とか体をねじり後ろに振り向こうとする。

 

「沙耶……まゆり……」

 

「マ……まユりッテ……真さカ……」

 

紅莉栖が何か言っているが、そんなことはどうでもいい。

 

沙耶は。

まゆりは。

 

 

 

振り向いたそこには、真っ赤な花が咲いていた。

沙耶が。

まゆりが。

目を虚空に向け、体から赤い血を流しながら。

生気を感じさせないさまで横たわっていた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

慟哭する。

声が内から出てくるのを止められない。

 

なぜだ。

なぜこんなことに……!!!

世界はなぜこんな未来を選択させるんだ……!!!

なぜ俺は大切な人を失わなければならないんだ……!!!

 

二人の体に近づく。

二人は並んでその体を地面に投げ出している。

 

ふと、沙耶の方は微かに息をしているのがわかる。

生きている!!!

 

「沙耶!!!」

 

「ぁ……ごめん……倫太郎……あたし……一緒に……いけないみたい……」

 

「あきらめるな沙耶!!!タイムリープマシンがあれば、こんな傷!!!」

 

そうだ、タイムリープマシンがあれば。

今すぐに飛べれば、傷など関係なくなる。

 

そう思い、タイムリープマシンに目をやる。

そこらじゅうに穴が開き、かなり破損している。

 

壊れている。壊された。

これでは使えない。

使えない?

タイムリープできない。

沙耶が死ぬ。

死ぬ?

馬鹿な……。

 

「そんな……馬鹿な……!!!」

 

「ごめんね……倫太郎……あたし……もっと倫太郎が生きやすい世界を……作れたのに……」

 

「そんなこと!!……俺は……俺は、お前がいてくれるだけでよかったのに……」

 

「ねぇ……倫太郎……ぁ……あたし……」

 

「なんだ、沙耶?」

 

一言も漏らすまいと、俺は耳を傾ける。

 

「あたし……倫太郎を……」

 

「ん?」

 

「……ぁ……………」

 

沙耶はわずかに口をこわばらせた後、笑みを作った。

 

「……沙耶?」

 

そのまま目を閉じる。

口は笑みを作ったまま、動かなくなった。

 

「……沙耶……?」

 

動かない。

微笑みをたたえたまま。

静かに眠るように。

 

 

死んだ。

 

 

沙耶は死んだ。

最後の言葉も残せず、逝った。

笑顔を浮かべて。

 

 

殺された。

 

 

「……なぜ……なぜなんだ……!!!」

 

 

なぜ大切な人が奪われる。

なぜ世界はこんなに残酷なんだ…。

なぜ…。

 

 

「あああああああああああああ!!!」

 

 

まゆりも沙耶も奪われた。

タイムリープマシンも壊された。

 

今からタイムリープマシンを直せるか?

48時間以内に直せるだろうか?

SERNがそんなことを許すだろうか?

 

もうやり直しはできない。

全て失った。

全て奪われた。

 

 

そうだ。すべて失った。

希望は絶たれた。

この世界は……。

こんな世界など……。

 

 

 

 

リョウ手ヲ唖げTe(両手を上げて)

 

 

ボソボソとした喋り方の不快な声が聞こえる。

 

振り向くと、スレンダーな肉塊がそこにあった。

 

どうせ、桐生萌郁だろう。

またラウンダーを連れて襲撃に来たのだ。

 

それがなぜ今だったのかなどはどうでもいい。

俺は気づいたのだ。

 

 

言われた通りに手を上げながら考える。

 

 

そう、気づいた。

この世界は狂っている。

 

俺の大切な人を何度も殺し、大切な人の犠牲を強いる。

こんな世界はおかしいのだ。

 

地獄のような世界。グロテスクな肉塊たち。

その中で救いを求めれば、その唯一の救いすら奪われる。

 

この世界は、狂っている。

 

 

ならばどうすればいいか。

 

 

「桐生萌郁よ……お前は一つ、間違いを犯した……」

 

間違い。

それは正されるためにある。

 

この世界は間違っている。

ならば、正さなければいけない。

 

沙耶が望んだような正しい世界。

世界を影で操る支配構造を破壊し、秩序だった世界を作る。

 

 

「お前は……俺と牧瀬紅莉栖と橋田至……三人の確保と……タイムリープマシンの回収が目的なのではないか?」

 

 

見ていると吐き気を催すような肉塊が身じろぎする。

図星だったようだ。

当然だな。俺は”知っている”のだから。

 

そうだ。

こんな気色の悪い肉塊や地獄のような世界も間違っているのだ。

すべて世界が間違っている。

沙耶を、まゆりを殺す世界など……間違っている。

 

 

綺麗なもので満たせば、沙耶も喜ぶだろうか。

 

 

 

「タイムリープマシンを、作り直す必要があるな。萌郁よ」

 

 

俺は一計を案じた。

タイムリープマシンなら何百回としたかわからないループの中で何度も組みなおしている。

理論も大体は頭の中に入っている。

問題ない。

 

 

「本来ならタイムリープマシンも無傷で回収する必要があった。だがお前たちの失態で壊してしまった。これで任務完了と言えるか?」

 

 

萌郁の、恐らく目のようなものがわずかに見開かれる。

銃を持つ手も震えている。

萌郁が「FB」のためにSERNにつき従っているのも”知っている”。

 

 

「FBは、失望するだろうな。そしてお前を捨てるだろう」

 

たっぷりと嫌みの含んだ声で萌香を崖に突き落とす。

 

 

「……ソんな…コトは……FBは……sおnナコとは……シなィ……」

 

「いいや、する。お前を捨てる」

 

 

役者を演じる。とびきりマッドな悪役を。

 

 

「見放すだろうな。見捨てるだろうな。興味をなくし、ゴミのようにお前を捨てるだろうな。

 

 きっとそうだ。間違いなくそうだ。絶対にそうなる。必ずそうなる。お前は虫けらのように、捨てられるだろう」

 

「………………」

 

萌郁は顔を下に向け、想像力を働かせていることだろう。

FBに捨てられること。その後の自分。

 

FBに捨てらることが”死ぬほど”嫌なことも、知っているさ。

 

 

「捨てられたく、ないだろう?」

 

 

心を揺さぶり、希望に誘う。そして、協力させる。

 

 

 

「俺に考えがある」

 

 

俺は決心した。

 

 

この世界は狂っている。

だから全ての肉塊を殺し尽くし、綺麗なもので世界を満たして正しい世界を作ればいい。

 

 

まゆりも沙耶も、もういない。

ならば綺麗で正しい世界を作ることが、俺にできる最後の二人へのはなむけなのだ。

 

 

SERNも300人委員会も全て俺の支配下に置く。

汚らしい肉塊どもを潰しつくす。

汚物にまみれたこの世界を、綺麗で正常なものへと生まれ変わらせる。

 

 

世界を正常へと導くのだ。

 

そうだ。俺は。

 

 

 

 

 

―――鳳凰院凶真だ。

 

 

 

 

 




ひとつの結末です

もう一つの結末も後日投稿します

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