鳳凰院凶真と沙耶の唄   作:folland

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「それじゃあ倫太郎は、そのタイムリープの失敗のせいで世界が変な風に見えるようになっちゃったんだ」

 

「そういうことだな」

 

空き家となっている家の屋根裏部屋に沙耶と二人で話をした。

 

沙耶からは出自のことを。

人とは違う生物のこと。自分の父が死んでしまったこと。

居つく場所もなく放浪し、孤独に過ごしてきたこと。

 

「そうか……父だけが頼りで、その父も死んでしまって一人だったんだな……」

 

「本当はもっと家で常識とか知識とか教えてもらうつもりだったんだけどね……」

 

人目を避けて過ごしてきたが、ある日我慢できずに人に会った。

するとその人が自分のことを化け物呼ばわりし襲ってきた。

反撃し殺した後、その死体がおいしそうに見えて、食べたらおいしかった。

そこに俺が来たという。

 

「結局あの死体は全員食べたのか?」

 

「うん♪おなかペコペコだったから、一杯食べちゃった」

 

少し照れながら言う。

乙女の恥じらいといったところか。

 

 

対して俺は頭がこうなるまでのことを話した。

ラボのこと。Dメールとタイムリープマシンのこと。

まゆりを助けること。紅莉栖も助けたいこと。

タイムリープに失敗し、感じる世界が変わってしまったこと。

 

「助けたい人がいるんだね……」

 

「そうだ……だがその助けたい人すら肉塊にしか見えないしな……」

 

とめどなく、話した。

 

「大変、だったんだね……」

 

「お互いに、だろ?」

 

心配そうな顔を向けてくる沙耶に、明るく返す。

沙耶は俺の言葉に首肯し、笑顔を向ける。

 

「大変なもの仲間だね」

 

「そうだな」

 

重くならずにあくまでも明るく振舞ってくれる沙耶に心を救われた。

 

「じゃあさ、あたしにそのラボ?ってところのこと、教えて。あたし、倫太郎のこともっと知りたい」

 

「いいぞ。そのかわり沙耶のことももっと教えてくれ」

 

「もちろん!」

 

「さて、何から知りたいのだ?」

 

そういうと沙耶は首をかしげながら考え始める。

そのしぐさも愛らしい。

 

「じゃあさ、ラボって元々何するところなの?今までに何かを作ってたりするの?」

 

「ふっふっふ。聞かれたからには答えねばなるまい」

 

久々に厨二病のスイッチを入れてみる。

おもむろに立ち上がり、白衣をはためかせる。

 

「ラボの正式名称は未来ガジェット研究所。そして何を隠そうその目的は、世界を混沌へと導くガジェットを日夜研究開発することである!」

 

上を向き、振りかぶって決めポーズを決める。

 

「この鳳凰院凶真とその仲間たちが世界を影で操る支配構造を破壊し、必ずや世界に混沌をもたらして見せよう!」

 

決まった。

 

「えっと……?」

 

沙耶の困惑気な声が聞こえる。精一杯眉をゆがませてこちらを凝視している。

 

「まぁ…つまり単なるお気楽サークルで、何か面白いものをひたすら開発するところだ」

 

そういって普通に座る。

 

「へぇ~そうなんだ」

 

沙耶は決めポーズのことなど特につっこみもせず普通に聞いている。

それが逆に恥ずかしい。

もう精神的にも厨二病モードが恥ずかしくなってしまったな……。

 

「じゃあ今までどんなものを作ったの?」

 

「ああ、携帯電話に写真で入っているから一つ一つ説明してやろう」

 

そういって携帯でガジェットの写真を探す。

 

それから俺と沙耶はガジェットやラボのことを話し続けた。

 

 

 

 

 

 

「ん?もうこんな時間か」

 

携帯で時間を確認すると、そろそろ夜も更けている時間となっていた。

 

「時間がたつの早いね」

 

「楽しい時間は過ぎるのが早く感じる。ある意味相対性理論だな」

 

「相対性理論って?」

 

「今度教えてやろう。流石にそろそろ帰らねば」

 

ここは空き家であり、不法侵入だ。

一夜をここで明かすのはさすがにまずいだろう。

 

ずっと固い床に座っていたため、体もかなりこっている。

伸びをして体をほぐすと、節々に鈍い痛みが走る。

 

「沙耶ももう疲れたろう。できるならラボででも休んでもらいたいが……」

 

「ん~電車乗るのも大変そうだし、ラボにいつ人が来るかもわからないんなら、やめとく」

 

「そうか……そうだな」

 

「そのかわり、またここに来て。夕方くらいにはここに戻るようにするから」

 

「わかった」

 

俺はラボに戻ってタイムリープマシンの調査だな。

しかし、沙耶は昼間は何をするのだろう。

 

ただ、わざわざ聞くのも野暮なのでやめておいた。

言わないということは、言う必要がないということだろう。

 

 

帰りの電車の中で沙耶のことを考えていた。

沙耶。

この地球とは異なる場所から来たもの。

孤独な少女。

 

父以外に人と話したことがなかったのだろう。

色々と常識も知らなそうであったし、俺と話しているだけでも楽しそうだった。

 

明日も、明後日も話せればいい。

この地獄のような世界で、彼女のそばだけが安らげる。

 

 

 

そうして幾日か。

俺と沙耶は空き家の屋根裏部屋で話をすることが日課になっていた。

 

 

「それで……タイムリープマシンの調子はどうなの?」

 

「ああ……芳しくないな……」

 

沙耶は俺の目的について心配してくれている。

だが最近俺はタイムリープマシンにあまり集中できなくなってきていた。

 

もともと足踏みしている状態だった。

たかだか数日真面目にやらずともそんなに変わりはしない。

 

「あたしも何か手伝えたらいいんだけど……」

 

「無理は言わんぞ。俺にはこうして話をしてくれるだけでありがたい」

 

沙耶に外を出歩かせたり、ラボに案内したりするのは難しいだろう。

うちのラボメンですら沙耶にどういう反応するかもわからん。

沙耶が化け物呼ばわりされているところなど見たくもない。

 

「しかし、沙耶に難しいことがわかるのか?」

 

「あ、今馬鹿にしたでしょ。あたしは常識とかはないけどパパには頭がいいって褒められたんだから」

 

「お前の父はT大学の教授だったか。なら本当に頭がいいのだろうな、俺なんかよりよっぽど」

 

T大学と言えば、あのT大学だ。

俺の通っている大学に比べたら天と地の差だろう。

 

「倫太郎、自分を卑下するのもよくないよ。倫太郎ががんばってるのは伝わってくるんだから。弱気になったらだめだよ」

 

「……ありがとう、沙耶」

 

沙耶は両手に握り拳を作り、ファイトのポーズで応援してくれる。

自然と笑みがこぼれる。

 

沙耶は純真だ。

弱気の虫も沙耶といると消えてなくなる。

 

「まぁ天才少女である紅莉栖ですらわかってないんだからな。相当難しい問題だということだ」

 

紅莉栖の名前の部分で、沙耶が反応した。

 

「……その紅莉栖って人が倫太郎の助けたい人の一人なんだっけ」

 

「そうだ。あとはまゆりだな。こちらは天然のぽややんとした女の子だ」

 

以前にも沙耶には話した。

俺がもがく理由。

大切な存在。

 

「ただ、世界がこうなってからはあまりまともに話してはいないけどな……」

 

「ふーん……そうなんだ……」

 

沙耶は手を顎に当て何かを考え始めた。

俺は沙耶を待つことにした。

 

 

しばらくして、沙耶は何かを決意したかのような目でこちらを見上げた。

 

「倫太郎……倫太郎は……大切な人たちが……その……変な風に見えるのは、いやだよね……?」

 

「それは……」

 

俺が口を開くと、途端に沙耶は心配そうな顔で俺を見つめてくる。なんだろう。

ただ、俺には答えは一つしかない。

 

「そうだな……元の世界の見え方でないのは少々、いやかなり堪える。……元の世界が恋しいな」

 

「でも……じゃああたしは……」

 

そういって顔を下に向ける。

沙耶が何を考えているかはわからない。

ただ、俺のことについて真剣に考えてくれているのはわかる。

それだけで、単純にうれしかった。

 

「うん……そうだね……やっぱり……」

 

ぶつぶつと小さく何かを漏らした後、俺に満面の笑みを向ける。

 

「うん、倫太郎!きっと大丈夫!そのうち解決するよ!」

 

「え?あ、ああ」

 

何とも漠然とした言いように少し呆気にとられる。

何が大丈夫なのだろうか。

沙耶は何かをする気なのだろうか。

 

ただ、考えてみてもよくわからない。

はっきり言わないというのは、きっとサプライズか何かを考えているのだろう。

 

「……そうだな、きっと大丈夫だ」

 

そういって微笑みかけると沙耶も嬉しそうに微笑んだ。

 

そうだ、きっと何とかなる。

根拠も何もないが、沙耶といるだけで俺は何でもできる気がした。

 

 

沙耶はもうすでに俺の精神的な支柱となっているのだった。

 

 


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