鳳凰院凶真と沙耶の唄   作:folland

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チョrット置かkべ、(ちょっと岡部、)唖何tとか逗イッタら動なの?(何とか言ったらどうなの?)

 

ひどく耳障りな奴らの声がする。

相変わらず、ここは地獄のようだ。

 

オカ燐、すkし顔ぃ蛾ろが悪いヨぉ(オカリン、少し顔色が悪いよぉ)

 

「なんでもない。大丈夫だ」

 

気持ちの悪い肉塊に苛立ちながら答える。

 

グロテスクな光景に様変わりしたラボの中で、俺は一人孤独だった。

窓の外に目を向けても、その様相は変わらず、肉塊と汚濁にまみれた地獄絵図が続く。

 

 

原因は間違いなくあの襲撃があったときのタイムリープだろう。

 

ヘッドセットとタイムリープマシンの損傷。

それによりタイムリープが一部失敗してこのような事態に陥ったのだろう。

 

人が肉塊に見え、声が気味の悪い不協和音になり、世界が地獄絵図に見える。

 

御曽ぁk、(おそらく)快と不快のky区が彩r宅てmンてる。(快と不快の感覚が逆転してる)mtr田qt、語句タンジュんイってだkど(もちろん、極単純に言ってだけど)

 

とは過去の紅莉栖の言である。

もちろん、気味の悪い声で、だが。

 

しかし確かに、とも感じる。

それは以前にはグロテスクに感じたものであろう写真や映像に安らぎを覚えるからだ。

 

オカ燐、(オカリン)なnデ遜nキモチわる泡wと見てrうん?、(なんでそんな気持ち悪いサイト見てるん?)

 

と、大きな肉塊であるダルに言われ気づいた。

 

PCで現状を調べるついでに気になった癒されるサイトを巡回していた時だった。

 

 

そしてもちろん治療法を探ろうとした。

そこいらの病院にも行ったし、紅莉栖にも協力してもらいMRI検査なども行った。

 

結果は、『異状なし』。

 

タブん、n王の記憶域nいじょ鵜区ftg、(多分、脳の記憶域に異常があって)快と不快お記憶が逆転シ照るじゃナ化しら(快不快の記憶が逆転してるんじゃないかしら)

 

「どうすればいい」

 

…現jォウは、対処リョウhouシカ無ィワnエ(現状は、対処療法しかないわね)

 

気味の悪い声に耐えながら、紅莉栖に問いかける。

 

「対処療法、とは?」

 

フカnぁ感情を一だ物nい耐シて(不快な感情を抱く事物に対して)体制を持つoUにtesし筒ナラしてぃく、(耐性を持つように少しずつ慣らしていく)トrうマノ治療と」おnあjね(トラウマの治療法と同じね)

 

「そう、か…」

 

つまり、この状態に慣れていくほかないということか。

この地獄のような世界を普通のものとして認識できるまで耐える、ということ。

 

気の遠くなるような話だ。

 

 

こうして俺の目標にタイムリープの制約解消に加え、俺の頭を治療する方法を模索することが増えた。

 

そのどちらも幾度のタイムリープの中でも全くめどすら立たない。

それでも俺は二人を救う方法を模索し続けるしかないのだ。

 

 

 

 

「しかし……少しは慣れたといっても、やはり精神的に来るものがある……」

 

誰もいないラボの中。

極力まわりのグロテスクな様子を目に入れないために薄暗くした開発室で、俺は呻いた。

 

タイムリープマシンもご多聞に漏れずにグロテスクだった。

一応パーツパーツの区別などは付けられるが、長時間見続けるのは辛い。

 

何よりラボメンとの会話でさえ苦痛であった。

 

はじめの頃は地獄となった世界線へと迷い込んでしまったと思い、恐慌状態になっていたものだ。

泣き叫び、地獄となったこの世界から逃げ回ろうとしていた。

どこにも逃げ場などなかったが……。

 

「少し……休憩するか」

 

作業を中断し、パソコンの前へと向かう。

こうなってからの俺は一つの癒しを見つけていた。

 

パソコンを立ち上げ、あるサイトへと飛ぶ。

 

そのサイトは画像掲示板だ。少々特殊な画像の、だが。

 

「俺にとっての唯一の癒しだな……」

 

殺人、戦争、猟奇、狂気。

恐らくそういったものだろう。

俺には全く逆のことに感じる画像たち。

癒し、慈愛、安心、神聖。

そういったものをここだけは許される。

 

 

「あぁ……やはりこういうのがいいな……」

 

お気に入りは中東などの戦争区域や少し前でここらで起きていたニュージェネ事件の遺体の画像などだ。

緑溢れる心安らぐ景色。

見たことのないみずみずしい果実。

バラバラになった肉塊は不思議と綺麗なものになるのだった。

 

様々な画像をカテゴリごとに順に見ていく。

と、そこで奇妙なカテゴリを見つける。

 

『捕食事件』

 

心惹かれるタイトルだった。

しかし、こんなものあっただろうか?

何十回に及ぶタイムリープの中でこのサイトを幾度も巡回してきた。

しかし、こんなタイトルのカテゴリはなかったように思う。

それとも俺の記憶能力も段々と壊れてきたのだろうか。

 

訝しみながら画像を表示する。

 

「これは……」

 

散乱した肉塊であったもの。

まるで食い散らかされたかのように、そこここに散らばっている。

事件前はグロテスクであっただろう家も、肉塊の体液によって緑色に彩られているようだ。

そして、それは複数の家にわたっているようだった。

 

やはり、こんな画像は目にしたことがない。

タイムリープによって世界線がずれたのか?

そもそも俺がこんな状態になる前と後でも世界線がずれていたか覚えていない。

ダイバージェンスメーターの細かな数値も覚えていない。

案外、ダイバージェンスメーターの表示桁以下の世界線が変わっているのかもしれない。

 

そんなことを考えながら『捕食事件』の画像についてのレスを読んでいく。

 

「マジヤバいこれ」

「てかこれどこで起こってんの?日本っぽいけど」

「この画像って警察のじゃなくて野次馬がとったやつなんだっけ」

「なんか動物に食い散らかされたっぽいな」

「まだ解決してないんだっけ?『捕食事件』」

「たしか東京のどっかだった 詳しくはココ」

 

場所についてのリンクがあったので辿ってみる。

どうやら事件の場所はここからそれほど離れていないようだった。

実際に見てみたいが、事件現場として封鎖されているだろう。

細かな場所も画像と現場を見比べながら調べるしかなさそうであるし。

 

そう思いながら画像を見返していて、ふと気づく。

 

「これは……女の子……?」

 

画像の隅、ソファーの下あたりに白い服を着た女の子がいるように見える。

女の子?

人?

馬鹿な。

 

激しい動悸がする。

知らずつばを飲み込む。

 

俺は人が人に見えないはずだ。肉塊にしか見えないはずだ。

しかし、何度見返してもそう見える。

薄暗くてはっきりとはしないが、どう見ても人の形をしている。

 

馬鹿な。

なんで。

 

別の画像を見てみると、そこかしこに女の子がいる。

かなり見にくく、よく見ないと気づけないようだ。

こういう画像をよく見るのなんて俺ぐらいなのだろう。

 

俺だけが気づけた?

ならまだ見つかっていない?

本当はどんな姿をしているのか?

なんでこんなところに?

この女の子が肉塊を食べたのだろうか?

 

様々な疑問が頭をよぎるが、しかしある一つの思考がその疑問を打ち消していった。

 

会ってみたい。

 

画面から目を離し、時計を確認する。

今は夕方。電車も動いている。

 

俺は立ち上がり、身支度を始めた。

 

人がいる。

人に会える。

 

俺は高揚感に包まれていた。

この地獄のような世界で、やっと人に会うことができるかもしれない。

 

行っても会えるかどうかなどわからない。

しかし、動かずにはいられなかった。

 

気味の悪い肉塊となったラボメン達。

地獄のような様相になってしまったこの世界。

 

もはや何のためにもがいているかもわからなくなっていた。

そこに一筋の希望が舞い降りた。

 

人がいる。

人に会える。

 

携帯に例の画像たちを送り、再度場所を確認する。

現場周辺を探索しよう。

彼女の痕跡だけでも見つけられれば、或いは…。

 

ラボから出るときには、俺は紅莉栖やまゆりのことなど忘れ、名前も知らない女の子で一杯になっていた。

 

 

 


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