俺がアイツと戦えないのはどう考えてもお前らが悪い 作:魔法使い候補
スマホからタブレットに変えたので執筆速度が速くなると良いなあ(願望)
忍足あずみ
川神学園2年S組所属
九鬼英雄専属のメイド。英雄の身の回りの世話は勿論、いざとなれば護衛もこなす万能メイド。小太刀や暗器、
29歳、元傭兵、処女、
2009年5月8日(金) 夜
葵紋病院
決闘で負傷した井上は、自らの父親が副院長を勤めている葵紋病院で検査を受けた後、葵冬馬と今後の方針を話し合っていた。
「とりあえず2週間は安静にしていろだとさ。脳波に異常は無かったが、後頭部を打ってるし鼻骨も折れてる。暫くは体育も見学だな」
「後遺症が無かったのは不幸中の幸いでしたね。………すみませんでした、準。釈迦堂さんの忠告を素直に聞いていれば…」
「いや、正直俺も直江があそこまで強いとは思ってなかった。負けちまった以上、足を洗った方がいいのかもしれない。俺達に裏の世界は荷が重かったんだ」
(だが、親父達が素直に認めるとは思えない。何かしら考えないと…)
「そうですね、その件で相談したい事があるんです」
「……?」
「英雄に…いや、九鬼に頼るのはどうでしょう?」
2009年5月8日(金) 夜
親不孝通り
治安が悪く、ガラの悪い奴等の溜まり場として有名な親不孝通り。チンピラ共が増えてくる時間帯にもかかわらず、一際目立つ格好の女達が見回っている。その女達はメイド服に身を包んでおり、3人共美人だが誰も絡まない。週末の夜、最も人が集まるであろう日なのに、やけに人通りが少なく静かである。
「李、ステイシー。そっちはどうだった?」
「噂に聞いていた程ではないですね。出回りそうだった薬も全て回収しましたし、後は定期的に九鬼の従者部隊で見回っていれば問題無いでしょう」
「ほーんと、ガッカリだぜ。どいつもこいつも格好だけは一丁前に悪ぶりやがって。ファック!」
「確かに薬は全て回収したが、何かおかしい。週末なのに人通りが異常に少ないし、何よりガラの悪い連中の様子が気になる。怪我をしている奴が目につくし、皆足早に去っていく」
「川神院から聞いた話では、ここら一帯を牛耳っていた板垣と釈迦堂元師範代がいなくなった筈。他の連中がこれを機に活発に動きそうですけど…」
「考え過ぎじゃねーのか?単に自分達だけじゃ何も出来ないってだけだろ」
「いや、絶対におかしい。武士道プランが実行に移る前に不安要素は可能な限り潰す。情報を急いで集めろ、多少手荒い方法でも構わない」
「了解しました」
「チッ、面倒くせーな」
2009年5月8日(金) 夜
島津寮102
葵との決闘に勝利した大和は、早速ジムを使わせてほしいと連絡していた。
「ああ、1日でも早く利用したい。明日から利用できるようにする事は可能か?」
『ええ、大丈夫です。ただ、初日は顔見せの為にも私が付き添う必要があります。明日利用するならこちらにも都合がありますので、時間は私が指定しても構いませんか?』
「了解した。出来るだけ早い時間帯にしてくれると有り難い」
『分かりました。それでは明日、午前9時に駅前に来て下さい』
「分かった。後は明日、直接会って確認する」
返事を聞かずに通話を切り、携帯を布団に投げ捨てた大和はゆっくり息を吐く。
(まずは訓練できる場所を確保できた。さっき聞いた話じゃ、俺以外にも数人程度なら利用させてもらえそうだ。順調に進んでいる)
確かに俺は強くなっていた。それはここ数週間の戦いで充分実感出来た。だが、川神百代にはまだ届いていない。これ以上強くなるにはもっと本格的な環境が必要だったが、それも手に入れた。協力者はまだまだ足りないが、当てならある。俺はまだまだ強くなれる。
相手は今や、世界中の格闘家を倒し続けている武神。その差はまだ離れている。
だが…
(あの頃よりは離れていない)
相手は最強と名高い武神。それでも…
(確実に近づいている)
「…ぶっ殺してやる」
2009年5月9日(土) 早朝
島津寮 居間
待ち合わせ当日。日課の鍛練を終えた大和は汗を流し、居間でドリンク片手に考え事をしていた。
(今日は俺1人で行くとして、明日はどうしようか…)
不死川は賭けの件もあるし付き合ってくれるだろうが、アレでも不死川家の御令嬢だ。土日は用事が入る可能性が高い。平日に短時間付き合ってもらった方が良いか?となると土日はワン子に付き合ってもらうか。
(何にせよ、アイツらの都合次第だな)
「おはよう、大和。今日は一段と早いな」
「おはよう、クリス。今日はこれから出掛けるんでな。クリスはこれから鍛練か?」
「ああ。1日サボると取り戻すのに3日はかかると言うからな。毎日続ける事が大切なんだ」
(そういえば、クリスから話しかけて来るのも久しぶりだな。珍しい…)
クリスとは険悪とまではいかないが、俺が何かにつけからかう為、用が無い限り向こうから話しかけて来る事は無かった。それこそ転入して来た日以来だ。
(…もしかしたら気を遣われたのか?)
昨日の決闘が終わってから、周囲の人間の俺に対する反応が一変した。具体的には以前より距離を置くようになった。俺の性格を知っている風間達や、バイト仲間のゲンさんの態度は変わりないし、無視されたり嫌がらせを受けている訳でもないので、むしろ都合が良いとすら思っている。しかしクリスがそんな事知る筈もなく、周りの態度が急に変わった俺に気を遣って声をかけて来たのかもしれない。
(無意識にしろ意識的にしろ、気を遣ってもらうのはやっぱり嬉しいもんだな…)
「ところで大和はさっきから何を飲んでいるんだ?」
大和が飲んでいるドリンクは容器で中身が見えない。約1㍑程の大きさの容器に入ったドリンク。大和がさっきからちょくちょく飲んでいるのでクリスは少し気になった。
いや…
それが喜劇を生み出す原因になる事を彼らはまだ知らない
「これか?これはプロテインやらヨーグルトやら混ぜたドリンクだよ。少しでも筋肉が太くなるように運動前に飲む事にしてんの。飲んでみる?」
「いいのか?ありがとう大和!」
大和から容器を受け取り、クリスはストローに口をつける。いわゆる間接キスだが、クリスに気にしている様子がない為大和も気にしない事にした。
(ヨーグルトと複数のフルーツの味。プロテインの粉っぽさも気にならないし…)
「これは美味しいな!」
クリスの笑顔が
(たまにはこういうやり取りも良いな…)
「気に入ってもらえたなら良かった。なんならクリスの分も作っといてやろーか?」
「本当か!?」
「ああ、出掛けるまでまだ時間がある。鍛練が終わったら飲むといい」
「ありがとう、大和!それでは自分は鍛練をして来る」
(さて、それではササッと作りますか)
我ながら珍しくからかう事もなくやり取りを終えたものだ。まあ凄く嬉しそうだったからいいけど。
冷蔵庫を開き材料を取り出す。
(ブルガリにリンゴジュース、オレンジジュースに…)
そして彼はソレを見つけた。
黒
『やあ( *・ω・)ノ』
ウィダーインダイズペプチド
『俺達も…』
午後紅茶
『忘れてもらっちゃ困るぜ!』
大和は悪魔のレシピを閃いた!!
(…いやいやいやいや、流石に今日はイカンでしょ!?)
一瞬脳裏を
(気を遣われた後に激マズドリンク飲ませるなんて悪戯、人として最悪だ。どうかしてる)
しかし、1度思いついた悪戯を試す事なく忘れるのは嫌なのか、大和は未練がましく思考を続ける。そして、最近自分のドリンクを勝手に飲んでいるであろう男がいた事を思い出した。
(………クリスやクッキーに手伝ってもらえばイケる!)
幸い今日はクリスの機嫌も良い。理由を話せば協力は難しくても反対されないように説得する事は出来るだろう。アイツの奔放な振る舞いに対する罰を下す絶好の機会だ。絶対に
「………天誅を下してやる」
風間翔一という男は、元来自分の欲に従って行動する性分である。他人に左右されないその姿勢は多くの人間に好感を
しかし、その奔放な性質は時として他人の不興を買ってしまう。
「…成る程。確かにキャップの振る舞いは礼儀を欠く時がある。1度痛い目に合わせて説教しなければと思っていたからな」
「協力してくれるか?」
「ああ、しかしキャップは勘が良い。危険を感じて回避されたらどうする?」
「それについては問題無い。フリを使って飲まざるを得ないよう追い込む」
「フリ?」
「簡単に言えば『押すなよ、絶対押すなよ!』ってヤツ。クリスが風間に一言『飲むな』と言ってくれれば成功するように準備してるから」
「そんな事で飲むかな?」
「まあ見ていろ。仕込みは既に終わっている。俺はこれから出掛けないといけないから、事が終わった後の説教は任せたぞ」
「分かった、気を付けて行ってこい」
「マイスター、朝だから早く起きて」
クッキーの声で脳が覚醒を始める。平日だったらダラダラと粘るところだが、生憎今日は休日。時間を無駄に消費してはならぬと起き上がる。
「おはよう、マイスター。出来ればいつも今日みたいに起きてくれると助かるんだけど」
朝イチの小言に適当に返事しつつ、今日の予定を考える。今日はファミリーの大半が予定があったから自由に時間を使える。
(さて、どうしようかねぇ…)
「そういえば大和から伝言を頼まれてたんだけど『俺のドリンクを勝手に飲むな』だって。人の飲食物に手を付けたら駄目でしょ!」
「あ~、やっぱりバレてた?」
何も言われないのを良いことに、ここ数日大和のドリンクを勝手に飲んでいたがやっぱりバレてたようだ。大和の奴は
居間に行くとクリスがちょうど出てくるところだった。どうやらクリスにも言っていたらしく、「人の飲食物に手を付けるな」と言われてしまった。この様子ではまゆっちや京にも言っているのかもしれない。何だか孤立した気分だ。
「今日はどうするんだ?」
クリスにまだ決めていないと返し、クッキーのように小言を続けられる前に別れる。今日は寮に残らず外を散策しよう。決して逃げたわけでは無い。
何かないかと冷蔵庫を開ける。
中には大和が使っているシェイカーの容器が二つ。ご丁寧に『飲むな!』とラベルが貼ってある。
(これはかなり警戒されてんな…)
しかし甘いぜ、大和。飲むなと言われようと、俺は飲むのを止めねえ!むしろ益々飲みたくなってきたぜ!
風間翔一という男は自由を好む。自分の欲望に従って行動し、自分の欲を満たす。誰かに言われたくらいで変わるような男ではない事を大和は知っている。風間の反骨心を上手く煽る事に成功する。しかし、それだけでは風間に
(後でまた小言を言われるだろうが知った事じゃねえ。今飲みたいから飲む!それだけだ)
二つ作ってあるし一つくらい飲んでもいいだろ。
容器を二つ使った理由は二つある。一つは、二つあるから一つ飲んでも一つ残るからと飲む気を煽る為。少しくらいなら…という心情になるように。勘が良く、豪運を誇る風間を罠にかけるには行動を操る必要がある。自分の行動に疑問を抱かせないように、自覚なく罠を張っている道を進ませる。
手前の容器を手に取り飲もうとするが、口を付ける直前に異臭を感じた風間は飲むのを止める。
(この匂いは香辛料か!?危ねえ、変なモン飲むところだったぜ)
匂いが強い香辛料を使った方は囮。敢えて危険性を感じさせ、もう一つの容器を手に取らせるのが目的。当然囮といってもこれ自体も相当不味い。しかし、風間に飲ませるには勘の良さや豪運を掻い潜る必要がある。だから大和は風間に自分を出し抜いたと思い込ませるような罠を張った。
(もう一つの方はどうだ?)
慎重に容器を観察する。刺激臭はせず、乳製品の香りがするだけ。用心しつつ口をつけるが特に変わった様子はない。
(これはブルガリ?クッキーの言い方からいつものドリンクを作っているものだと思ってたが…)
そして風間は答えに辿り着く。
(…!?そうか、そっちに隠したのか)
大和がいつも使っているシェイカーの容器には罠と思える液体とブルガリが入っていた。罠の方はともかく、ブルガリの方は入れる必要が感じられない。しかし、ドリンクを作っているのなら隠す必要がある。その為にブルガリのパックにドリンクを入れ、シェイカーの方に残っていたブルガリを入れた。風間はそう結論を出した。
容器を二つ使った理由は二つある。
一つは風間の飲む気を煽る為。
(ブルガリのパックにドリンクを隠したんだろ。こっちには『飲むな!』ってラベルは貼ってない。飲んでも言い訳できるぜ)
そして二つ目の理由は…
(いただきます!)
大和の策を上回ったと思わせ、風間の警戒心を解く為。
風間翔一が一日行動不能になりました。
筋肉、筋肉~!!