俺がアイツと戦えないのはどう考えてもお前らが悪い   作:魔法使い候補

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祝、陰陽トーナメント開幕!!!

待ってたぜ、木多センセー!


ロリコン、殺すべし!…慈悲はない

九鬼英雄

川神学園2年S組所属

大企業、九鬼財閥の御曹司。超絶俺様主義者にして常時上から目線様。周囲の反感を買いそうなキャラだが、委員長としてクラスメイトを気にかけたり、民の幸せを願い行動している等、決して悪い人物ではない。濃いだけ。川神一子に惚れており、猛アタックを掛けている。

………一子本当にモテモテだな。

 

2009年5月8日(金) 昼

川神学園 グラウンド

 

昼休み、4月に不死川を倒した大和と、学年主席の葵冬馬が決闘を行うという噂は瞬く間に広まった。柔道の全国区を丸腰で秒殺した大和はそれなりに注目されており、同学年のみならず全学年の生徒達がグラウンドに集まっている。その中には川神百代や黛由紀江といった武道家は勿論、九鬼英雄や不死川心のような大物達も見に来ている。

 

「あずみ!お前は直江大和と準、どちらが勝つと思う?」

 

「はい、英雄様!体格では若干井上さんが優ってますが、直江さんの以前の決闘を見る限り厳しい戦いになるかと」

 

「ほう、意外であるな。てっきり所詮F組では敵わないとでも言うかと思ったが…」

 

「不死川さんもアレで全国区の実力者。そんな相手を秒殺している以上、油断出来るような相手ではありません」

 

「……では質問を変えるぞ。お前なら直江大和に勝てるか?」

 

(不死川との決闘を観ただけで断定は出来ないが、直江の奴は他の武道家とは毛色が違うからな)

 

「…少なくとも、丸腰では勝てません」

 

(自信家のあずみがここまで言うか。是非とも九鬼に欲しくなるわ!)

 

 

 

 

 

今回の決闘は事前に連絡があった為、簡易なリングと両選手にオープンフィンガーグローブが用意された。リングは四隅に鉄柱を刺し、鎖で囲っただけの無骨なリング。学生同士が戦うにはやや不似合いなソレは、不気味な雰囲気を(かも)し出している。その雰囲気の為か、ギャラリーはいつもより多い。

 

川神学園の学長、川神鉄心は自分達が用意したリングに対する生徒達の反応を(うかが)っていた。

 

「ふむ、やはりリングを設置した方が盛り上がりそうじゃの。このくらい簡易なリングなら時間も費用も大して掛からんし…」

 

(川神学園の方針は切磋琢磨、生徒達の競争意識を高めるのもワシらの仕事じゃからの)

 

「クリスと一子の決闘から立て続けに決闘が行われていますシ、今の学園の空気は正に切磋琢磨と言えまス。私達教師が怪我に対して気を付けていれば問題無いかト」

 

「うむ。この決闘の結果次第では、他にも何か考えてみようかの」

 

 

 

 

 

(鎖が思ったより張ってるな。ロープのようにたわみそうにない。コーナーからの脱出はかなり厳しいな)

 

大和はリングに入ると、鉄柱と鎖をさりげなく調べていく。鎖の張り具合、強度、鉄柱に体重を掛けしっかり刺さっているかまで。

 

(マットも無い。パウンドされたら即止められそうだ)

 

「それじゃセコンドよろしくね、ゲンさん。万が一劣勢になっても、タオルは絶対に投げないでくれよ」

 

「おう、せいぜい死なない程度に頑張りやがれ」

 

 

 

 

 

一方、葵冬馬と井上準は最後の確認を行っていた。

 

「準、体調はどうですか?」

 

「今のところ問題無いぜ、若。グローブのサイズもピッタリだ」

 

「戦闘が始まる直前、もしくは直後に()()が出始める筈です。…後は任せましたよ」

 

 

 

 

 

風間翔一をリーダーとしている風間ファミリーの面々も決闘を見に来ている。

 

「大和が立て続けにS組の生徒と戦うとはな。モモ先輩はどっちが勝つと思う?」

 

「ルールが緩いからな。喧嘩馴れしている直江が有利だろう。武器無しで勝てる奴は2年ではいないだろうな」

 

「おお、意外に高い評価だね。もっと低く評価してると思ってた」

 

「じゃあガクトとはどっちが強いのかな」

 

「おいおいモロ。そんなもん俺様の方が強いに決まってるだろーが」

 

「直江」

 

「即答されたね」

 

「ちきしょおぉぉ!!」

 

 

 

 

 

両選手がリングに入場すると、川神鉄心によるルールの説明が行われる。

 

「これより決闘の儀を行う。内容は武器無しの戦闘、反則事項は噛みつき、目突き、金的、頭髪を掴む、後頭部への打撃のみ。決着が着いたと判断したら即止めるが、今回はリングを用意したのでセコンドのタオル投入による棄権も認めておる。それでは二人とも名乗りをあげい!」

 

「2年F組、直江大和」

 

「2年S組、井上準だ」

 

「いざ尋常に、はじめいっ!!!!!!」

 

川神鉄心が叫んだ直後、大和が井上に向かって駆け出す。地を這うような低い体勢から、井上の腰に左肩からタックルを仕掛ける。井上は腰を落とし大和の肩を右腕で止め、左腕で顔面へアッパーを放つ。

 

(顔面への攻撃は読んでるぜ!)

 

大和は顔面近くに待機させていた右手でアッパーを掴むと、左腕で井上の右足を掬いにいく。井上は両腕を使ってがら空きの頭部へ右フックを放とうと肩から右手を離した。

 

(今だ!)

 

その瞬間大和は頭を井上に押し付け

 

井上の顎を狙った打撃が放たれた

 

2日前

 

2009年5月6日(水)

●●●●ジム

 

「事情が変わりました。一刻も早く決闘を終わらせる必要があります」

 

梅屋で釈迦堂と会った翌日、葵冬馬は井上準に方針を変更すると伝えた。

 

「急にどうしたんだ、若?」

 

「釈迦堂さんが大和君に負けてしまったそうです。このまま嗅ぎ回られていたら、いずれ"カーニバル"の情報が漏れてしまう可能性があります」

 

「!?…マジかよ」

 

「"カーニバル"は中止。最も反対するであろう竜兵は失踪していますし、"ユートピア"もまだまだ流通していない。板垣姉妹と釈迦堂さんも川神院に拘束されてますから実行する事も出来ない。運が悪かったと諦めましょう。後は大和君が嗅ぎ回っていますが、決闘さえ終われば私達に関して調べ続ける事も無いでしょう」

 

「とはいってもこのまま戦っても勝つのは厳しいぜ。何か考えないと…」

 

「川神学園の決闘はあくまで学生同士の勝負事。怪我に対するチェックやフォローには定評がありますが、ドーピング検査等は行われていません。そして私達は幸い医者の息子、知識はありますし入手も不可能ではない」

 

「………なぁ、若。そこまでして勝たないといけない決闘なのか?」

 

「当然ですよ、準。彼には私達の邪魔をした報いを受けてもらわないといけないんですから」

 

2009年5月8日(金)

川神学園 グラウンド

 

密着状態で両腕を使えない体勢から大和が繰り出した打撃は、ボクシングでは反則になる技。頭部を使った打撃、頭突き(バッティング)。掬い上げるように頭部を振り上げ、がら空きの顎をかち上げ死角を作りグラウンドに移行する。

 

…筈だった

 

(…!頭突きか!?)

 

興奮剤で中枢神経を興奮状態にさせている井上の集中力は、至近距離からの予備動作すら無い頭突きを見切った。直前で仰け反るように(かわ)し、逆に大和の顎を右アッパーでかち上げた。

 

(!?何で…)

 

避けられたのか?そう思う前に井上の左ストレートが大和を吹っ飛ばした。

 

 

 

 

「浅いな」

 

一見派手に殴られたように見えるシーンだが、ある程度腕に覚えのある者は大和が威力を殺す為自分で跳んだ事を見抜いている。しかし、川神百代はそれより頭突きを躱した井上の反応が気になっていた。

 

(見てから避けようとしても間に合う訳がない。肩から手を離した直後から1秒経ってないんだ。確実に当たるタイミングだった)

 

「アレ?ハゲの奴追い打ちしねえな。マウント取るチャンスなのに」

 

「派手に吹っ飛びはしたが、大和が自分で跳んだからある程度威力は殺されてる。アッパーも片足浮いた状態からの手打ちだ。マウントを取りに行かないのはグラウンドは分が悪いと思ってるから、ダメージが軽い間は追い打ちしたくない筈」

 

風間の疑問に百代が答え、大和が起き上がろうとしないのはグラウンドに誘いつつ、追い打ちに来なくても時間を稼ぐ事が出来るからだと続ける。

 

(それよりハゲの反応速度だ。多分ドーピングによる効果だろうが……今の直江じゃ勝つのは厳しいか?)

 

 

 

 

 

(警戒して追い打ちに来ない。…予想通りグラウンドは得意ではないようだ)

 

 おかしい事があった。至近距離からの頭突きを躱した反応速度と、手打ちとは思えない威力のアッパー。頭突きを躱すだけなら読まれていたと考えただろうが、パンチの威力は説明出来ない。

 

(………ドーピングか)

 

 それも恐らく中枢神経を興奮状態にさせるタイプ。痛みに鈍感になり、異常な集中力と筋力を発揮する。効果時間は分からないが、一気に攻めて来ない事からそれほど短くはない筈。殴り合いでは確実に勝てないだろう。"金剛"は望み薄、"煉獄"も反則で使えないし綺麗に入らないだろう。

 

(………まっ、イケるだろ)

 

反撃への策を講じた大和は立ち上がる

 

 

 

 

 

(足取りがしっかりしている。やっぱ浅かったか)

 

血の混ざった唾を吐き捨て立ち上がる大和を観察し、井上はダメージが軽いモノであると確信する。

 

(ドーピングが効いている間に倒すのが理想的だが、焦りは禁物だ。徐々に削っていく戦い方を心掛けろ!)

 

フットワークを刻みながら井上は大和に殴り掛かる。殴り合いでは勝てないと判断している大和は防御に徹する。頭部へのダメージを避ける為ガードを上げているが、井上は的確に空いている腹部に拳を打ち込んでいく。

 

(早くガードを下げろ、すぐに楽にしてやるからよッ!!)

 

 

 

 

 

「おいおい、滅多打ちじゃねーか。早く止めた方が良いんじゃねーのか?」

 

誰かが呟いたその台詞は、決闘を観戦している(ほとん)どの者の感想だった。ギャラリーは既に大和の負けだと思っている。防戦一方で時折繰り出す攻撃も当たらない。勝てる要素が見当たらないのに、それでも立会人たる川神鉄心は決闘を止めない。まだ戦えると判断している、まだ勝敗は決まっていないと考えている。その最大の理由は…

 

『アイツ、笑ってやがる』

 

 

 

 

 

(…もう少し、もう少しで反撃出来る)

 

徐々に攻撃する頻度が減り、耐える時間ばかりが増えていく中、大和は反撃の機を窺っていた。

 

(釈迦堂のオッサンと比べれば、カスみてーなパンチなんだよ!)

 

自分を鼓舞し耐えるものの、井上は無慈悲に拳を打ち込んでいく。そして…

 

大和の腹部に井上の拳が突き刺さり

 

リングの中央から少しコーナーへ下がった

 

腰が砕けた大和は井上の袖と胸倉を掴む

 

(―――"無極")

 

『すみませんでした』

 

『勘弁して下さい』

 

『助けて下さい』

 

 

 

 

 

(―――――ぶっ殺す!!)

 

一瞬だけの馬鹿力。一方的に攻めていた井上は大和の突然の馬力に堪えきれず、巴投げを決められる。背中を地に着けられ、慌てて体勢を整えるべく膝をついて立ち上がろうとする。だが、先に立ち上がった大和が邪魔をするように前蹴りを繰り出す。膝立ちで動けない井上は、両腕でガードするもコーナーに叩きつけられる。

 

(殴り合いで勝てないなら、殴らせなければいいだけだろうが!)

 

防戦一方だった者の突然の反撃

 

先程まで関心を失くしていたギャラリー

 

掌を返すように沸き出すが

 

彼等はすぐに静まり返る事になる

 

 

 

 

 

井上は空気椅子のような体勢のままコーナーに押さえ付けられている。前蹴りを繰り出した大和は足を引かず、脚力と体重を使って井上を鉄柱に押し込み続ける。

 

(なんて脚力だよ…力が入らない中腰じゃびくともしねえ。コーナーから脱出しないと反撃すら出来ない。直江が足を引いた瞬間に…!?)

 

呼吸が落ち着いてきた大和が井上の顎を蹴り上げる。足を引かず、膝から下を振るように使い井上の顎を蹴り上げた足は視界を強引に上に向かせる。死角を作る事に成功した大和は、心臓を蹴る為に足を素早く引いた。

 

『心臓を狙った打撃は絶対防いで下さい』

 

大和は蹴りによる"金剛"を放つ!が、(あらかじ)め"金剛"を警戒していた井上のガードに防がれる。

 

「チッ!」

 

(危ねえ、心臓に喰らったら1発で気絶しちまう。興奮剤が効いてるから痛みはあまり感じないが、このまま蹴りを喰らい続けるのは…!?)

 

「オラァッ!!」

 

"金剛"を警戒されていると確認した大和は攻め方を変える。井上に立ち上がる隙を与えないように前蹴りを連続で繰り出す!狙いを絞らせないよう顔面と心臓にランダムに蹴りを繰り出し、心臓のガードを外せない井上にダメージを与えていく。顔面に蹴りが当たる度に鉄柱に頭部が叩きつけられる為、後頭部を強く打ってしまう。しかし、後頭部を直接蹴っている訳ではないので反則とは言えない。興奮剤を服用している筈の井上は徐々にダメージを自覚していく。

 

(ま…まず…い)

 

「俺に殴り掛かっといて簡単に寝てんじゃねえ!!ぶっ殺すぞ、テメェ!!」

 

威喝しながら蹴りを放ち続ける大和。叫ぶ事で相手を萎縮させ、自らはシャウト効果による筋力発揮を行う。1発蹴られる度に井上の顔面から鮮血が飛び、腰が落ちる。尻餅をつけば反撃は更に困難になり、川神鉄心が止めるまで蹴られ続ける事になる。状況を打破する為には蹴りを封じ、コーナーから脱出するしかない。井上は取り敢えず大和の蹴り足を掴み、蹴りを封じようとするが…

 

大和は掴まれた足で井上に体重を掛け

 

軸足で井上に向かって跳躍

 

軸足の膝蹴りが顔面を潰し

 

ズルズルと尻餅をついてしまった

 

しかしこの戦いに10カウントは無い

 

大和は続けて膝蹴りを放とうとする

 

(…こ………怖ぇ……)

 

「それまでッ!!!!」

 

 

 

 

 

『生兵法は大怪我のもとって言うだろ。止めとけ止めとけ、お前らじゃ勝てねえよ』

 

『拳闘じゃなくてヴァーリトゥードなんだろ?絶対に怪我するから』

 

(先程までの圧倒的優位が夢だったとすら思えてしまう。完全に直江大和を侮っていた。釈迦堂さんの言った通りだ戦うべきじゃなかた…)

 

 決め技を警戒し、ドーピングした程度では覆せない差があった。直江大和は想定以上に強く、狡猾だった。親が外道だったからと腐っていた私達が敵う相手ではなかった!!

 

(すみません、準!私の我儘に付き合ったばっかりに!!)

 

葵はこれ以上戦わせるのは危険と判断し、タオルを投げようとするが…

 

それより先に鉄心が止めに入った

 

「勝者、直江大和!!」

 

 

 

 

 

ハゲは撲殺四散! 「インガオホー」


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