俺がアイツと戦えないのはどう考えてもお前らが悪い 作:魔法使い候補
葵冬馬
川神学園2年S組所属
川神市最大の病院、葵紋病院の院長の一人息子。学年首席の成績優秀な紳士。外人とのハーフでルックスが良く、女子からの人気はかなり高い。九鬼財閥の長男、九鬼英雄とは親友。井上準と榊原小雪という幼馴染みがいて、よく一緒に行動している。人の心の機微に敏感で、心理戦が得意な頭脳派。
2009年4月30日(木) 昼休み
川神学園2-S教室
「私とも決闘してもらえませんか?」
今コイツの挑戦を受けるメリットは殆ど無いと言える。万が一俺が負ければ貴重な時間を無駄にした上、恥をかき面子が潰れる。断って不死川を探し、今後の為に機嫌を良くしておく利益以上に俺が優先するモノ。要は、何か賭けなければ俺が決闘を受ける事は無い。
「悪いが今度で良いか?さっきも言ったように不死川に用があるんだ」
「そうツレない事を言わず、付き合ってくれませんか?何なら何か賭けても良いですから」
(俺に都合の良い展開だが、コイツの手口は嫌という程見て来た。慎重に話しを進める)
「いくつか俺の条件を飲んでくれるなら付き合ってやっても良い」
(いくつかと言う事で数を曖昧にし、後から条件を出しやすくする)
「内容次第ですね。とりあえず言ってみて下さい。判断はそれからします」
「まずは賭けるモノの確認からだ。お前の顔が利くジムで、トレーニングやスパーリングがしたいんだが…」
「その程度なら問題ありません。好きな時に使用出来るよう約束します」
(よし、決闘を受けるだけの理由になるメリットを賭けさせる事が出来た。次は…)
「お前は俺に何を賭けてほしいんだ?」
「そうですねぇ……では、先日大和君が賭けていた命令権を一つ賭けて下さい」
「了解した。次に決闘方法だが、最終的には一対一の戦闘で勝敗を決めたい」
「私は荒事は苦手なのですが、最終的という意味を具体的に説明してもらえますか?」
「戦闘に関しては助っ人を呼んでも構わないし自分で戦っても良い。助っ人は特に何も賭ける必要は無い。そして、決闘の期日をゴールデンウィーク明けにする事」
「助っ人は誰でも構わないのですか?」
「川神学園の生徒で、川神百代以外なら誰でも構わないぞ」
「成程…確かに彼女では賭けてもらえませんからね」
「んで、最後の条件に…」
「まだあるのかよ!?」
「うるっせえ、ハゲ!!これで最後だ。戦闘方法は先日と同様、武器無しのバーリトゥードで戦いたい」
「分かりました。全ての条件を飲むので決闘を受けてもらえますか?」
そう言うと葵冬馬は、自分のワッペンを机に置いた。続いて大和も自分のワッペンをその上に重ねる。
「あ~あ、受理しちゃったよ。大丈夫なのか若?」
「ええ。では大和君、先生方には私から説明しておきますので不死川さんの所へ行って下さい。かなり引き止めてしまいましたしね」
「分かった。正式に日時が決まったらメールしてくれ」
大和が教室を出て行ったのを確認し、準が冬馬に質問する。
「若、直江は武道をやっていない素人だがかなり強い。生半可な助っ人じゃ先日の不死川同様、秒殺されるぞ」
「ですね。先日の不死川さんとの決闘は完勝と言える程圧倒的でした」
「なら何故戦闘での決闘を…」
「決闘まで時間があるからですよ。準は大和君が賭場で賭けをする時に、絶対に行う事が何か知っていますか?」
「……?」
「情報収集と事前準備です。レートが低い賭けの時は勝ちに固執せず情報収集に徹して、場合によっては敢えて負ける。もしくは仕込みを行う」
「確かに、レートの高い勝負でアイツが負けたところは見た事が無いが…」
「ギャンブルで勝ち続けると、勝負する事すら避けられるようになります。稼ぐ為にはコツコツ勝ちを積み上げるより、少ない大勝負で圧勝する方が効率的です」
「その少ないチャンスを確実に成功させる為の情報収集と事前準備?」
「そう。大和君は始め決闘に乗り気ではなかったでしょう?条件を付けてきたのは、決闘を受けるだけのメリットが無かったから。乗り気でないから条件で自分の希望に近づける事が出来た。駄目でも断ればいいだけ。そして、決闘を受けたからには必ず勝算がある」
「それと若が決闘を受けた理由に何か関係があるのか?」
「ありますよ。私と大和君は戦う前に勝つ事を理想としている。この決闘は私からすれば、限られた時間で情報を集めて策を考え助っ人を勝たせる事が勝利。要は『得意の策戦で俺に勝ってみろ』と挑発されたんですよ」
「よくそこまで相手の考えが分かるな。それで若はどう戦うつもりなんだ?」
「まずは情報収集ですね。それから決闘の期日ははっきりとは決めず、ある程度融通が効くように調整します。大和君はゴールデンウィーク明けとしか言っていませんし、此方の都合が良い日に決められる。バーリトゥードでルールは緩いですし、策は立てやすい」
「期日を左右出来るのは好都合だが、それはつまり直江はゴールデンウィーク明けなら、いつでも勝つ自信があるって事だろ?」
「そうですね。だからこそ面白い勝負になる。それはそうと準…」
『助っ人よろしくお願いしますね』
「……………(°Д°)」
2009年4月30日(木) 昼休み
川神学園2-F教室
「ゲンさん、助けてくれぇ!!」
冬馬との決闘を受理した大和は、不死川を探すのを止めて自分の教室へ帰っていた。
「何だ、いきなり騒々しい。メシくらいゆっくり食わせろ」
「食べながらで良いから聞いてくれ。葵冬馬と決闘する事になったから手伝って下さい!!」
「………?待て、お前不死川の様子を見に行ったんじゃなかったか?それが何故決闘を受ける羽目になってんだ?」
「単刀直入に言えば、葵が賭けに乗ってくれたから受けてしまった」
「……ハァ。ゴールデンウィークの最終日にバイトがあるから手伝え。それで、何をすればいいんだ?」
「流石ゲンさん、話が早い。…定期的に葵を監視してくれない?」
2009年4月30日(木) 夜
島津寮102
大和と忠勝は、ゴールデンウィーク明けの決闘に向けてこれからの方針を決めていた。
「成程。決闘まで時間があるなら、助っ人と直接会って対策を考える可能性は高い…というより確実にそうするな」
「葵が直接戦う事は無いと言っていい。身体能力は低いし、戦闘での決闘は今までしていない。間違いなく助っ人を用意するだろう。早めに情報が欲しいし、変更する可能性もあるから出来るだけ長い間監視してくれ」
「分かった。こっちは俺に任せて、お前はしっかり技を仕上げとけ」
「おう!!ゴールデンウィークの間に"金剛"をマスターしてやるぜ!!」
「そういや不死川とは話したのか?結局昼休みは会えなかったんだろ?」
「ああ、だから明日もう一度探してみる。ゲンさんも見かけたら教えてくれ」
(不死川には重要な役割がある。絶対に蔑ろには出来ない)
川神百代にリベンジを誓ってから幾度も勝算を考えてきた。その度にどうしても障害になる技がある。
"瞬間回復"
ダメージだけではなく、疲労も回復させるこの技のせいで勝算が崩れる。この技を破らなければ俺に勝利はない。原理が分からないからどうしても仮説になるが、物理的に考えてアレが決まれば使えなくなる筈。
(いずれにせよ、不死川とは親密になっておくに越したことはない)
本格的に技の練習が出来る場所を葵に賭けさせる事は成功した。後は決闘に勝ち、体術を鍛え上げていく。最終的に体術が重要になる以上、この展開が今の俺にとっての理想だ。
2009年5月1日(金) 昼休み
川神学園食堂
大和は昨日会えなかった不死川を、同じクラスの葵を使って呼び出していた。傍らには過剰に緊張している黛が座っている。
「まゆっち、緊張しすぎ~。同じ学園の先輩に会うだけだよ」
「は、はい!!」
(ガチガチに緊張してるなあ。今日は俺がいるからいいけど、二人っきりになった時はどうなるんだろ?)
まあ、不死川も後輩相手に変な言い掛かりはしないだろう。まゆっちは威圧感こそあるけれど品がある。家柄や格式を重視する不死川なら、絶対に気に入る。問題は…
『まあ、いざとなったらオラが何とかしてやるぜぇ~』
(このストラップで余計な事を言わないかどうかだよな…)
「待たせたのう山猿。して、此方に会わせたい人物とはそこの彼女か?」
「ああ、同じ寮に住んでいるまゆっちだ。まゆっちにも組手に付き合ってもらっているから、俺としては仲良くしてもらいたいのよ。それじゃ、まゆっち自己紹介して」
「は、はい!!1-Cの黛由紀江と申します。よろしくお願いいたします!!」
「う、うむ。此方は2-Sの不死川心じゃ。よろしく頼むぞ、黛」
緊張で強張った黛の表情に気圧されながらも返答する不死川。
「まゆっち、表情固くなってる」
『手厳しいー!?Σ(´□`;)』
「なんじゃこやつは?」
結論
松風には若干引いたようだが、概ね好感触と言える。これからの展開に期待する。
2009年5月2日(土) 朝
島津寮居間
「おはよう、大和ちゃん。今日も朝早くから鍛練かい?」
「おはようございます、麗子さん。今日は少し出掛けようかと」
挨拶してきたのは島津麗子。島津寮の管理人で大和や翔一と同じクラスの島津岳人の母親だ。最近は韓流ドラマにハマっているらしい。
「お、ついに大和ちゃんにも彼女が出来たのかい?今度紹介しておくれよ」
「彼女なんていないですよ。むしろ紹介してもらいたいくらいです」
世間話をしながら朝食を食べていく。大和が麗子と知り合ったのは小学生の時だが、大和にとっては数少ない頭の上がらない人である。昔から世話になっているからというだけではなく、大和は麗子の人柄を好ましく思っているからだ。
「そうなのかい?この寮の男子は皆レベルが高いんだから、その気になれば恋人なんてすぐ出来るでしょうに…」
「あはは…だと良いんですけど」
「おい、直江大和。お前に客だ」
大和と麗子が雑談をしていると、外で鍛練していたクリスが大和に来客を告げて来た。大和によくからかわれているからか、クリスの態度は若干硬い。
「え!?…こんな朝早くから誰だろ?クリスの知っている人?」
「いや、自分は知らないが川神学園の生徒だと言っていた。早く行ってやれ、客人を待たせるなよ」
「………?」
クリスに急かされた大和が玄関に向かい見た者は…
「おっはよーございまーす♪」
やたらご機嫌な真白い髪の美少女だった。
大和とイケメンの決闘が成立した!
ハゲが仲間になりたそうにイケメンを見ている!
イケメンはハゲを仲間にした!
色白の美少女が現れた!