俺がアイツと戦えないのはどう考えてもお前らが悪い 作:魔法使い候補
福本育郎
川神学園2年F組所属
愛すべき変態、通称ヨンパチ。ヨンパチの由来は48手全て言えたから。いつもカメラを持ち歩いている。将来の夢は女体専門のカメラマン。開き直っているからか、時折格好良く見える。
2009年4月28日(火) 午前
川神学園3-F教室
(誰が釈迦堂さんを倒したんだ?)
川神百代の頭の中は、昨日からそれで埋め尽くされていた。戦う事に楽しみを感じる百代にとっては、新たな強者の出現は悦ぶべき事である。一昨日に負傷した釈迦堂を連れて鉄心とルーが帰って来たときに相手を訊いたが、既に口止めされていた。好戦的な百代と関わりたくないと考えているのは分かる。ある程度百代について詳しい人物が倒し、絡まれたくないから口止めしたと想像はつく。
(あの頑なな対応、私と戦わせないつもりだなジジイ…)
意識が戻った釈迦堂さんに訊いても答えてくれないだろう。そう思わせるくらい有無を言わせない態度だった。自分で探すしかない。が…
(相手を教えないって事は、私がマークしていない奴の筈)
例えば九鬼揚羽、揚羽さんならここまで隠しはしないだろう。揚羽さんでも倒すのは難しいと思うが、それならまだ納得できた。しかし、現実的に考えてその可能性は低い。多忙の揚羽さんが深夜に治安の悪い場所を出歩くとは思えない。何より徹底して隠す理由が無い。
(まだまだ強い奴はいるって事か)
更に考えを巡らせようとしたとき、百代の脳裏にある少年が浮かんだ。
(いや、そんな筈はない。アイツが勝てる程、釈迦堂さんは甘くない)
浮かんだのは自分に負けて、無様に頭を下げた少年。勝てる筈が無いのに、何故頭から離れないのかと不思議に感じていると、一人の生徒が教室に帰って来た。
「昼休みに決闘があるんだってよ!!」
2009年4月28日(火) 午前
川神学園2-B教室前
前の休み時間に決闘を受けさせた大和は、他のクラスの生徒に不死川を煽るように頼んでいた。
「あのお高くとまっている女が泣くところを見たくないか?」
(S組の大半の生徒がプライドが高く、他のクラスを見下しているのは周知の事実)
態度や発言で散々反感を買っている奴を応援する人間は少ない。心情的には負けてしまえと思っている奴等を味方に、不死川の投げを煽らせる。
(このクラスだけでは足りない)
決闘を見に来た人間の3割程が一気に煽る事が出来れば、同調して煽る奴が必ず出てくる。初手に投げを選ぶ可能性はそれなりにあるが、煽らせる事で更に確率を上げる。
(時間は足りないが、出来るだけ多くの生徒を味方に付ける)
これも軽傷で決闘に勝つ為と自分に言い聞かせ、大和は次のクラスへ向かった。
2009年4月28日(火) 昼休み
川神学園 グラウンド
「それでは、これより決闘の儀を行う。内容は武器無しの戦闘。勝った者は負けた者に一つだけ命令出来る権利を賭けての決闘じゃ。勝利条件は相手の戦意喪失をワシが認めるか、戦闘続行が不可能と判断されれば勝利とする。勝敗が決するまでは止めんが、決着が着いた後に戦闘を続行しようとしたらワシが介入して止めに入る」
大半の生徒が昼食を終えた頃、川神鉄心が決闘の詳細について確認をしていた。グラウンドには既に大勢の生徒が集まっており、賭けを煽っている生徒も見受けられる。そして、相手に対する命令権を賭けた決闘だと分かると、一部の生徒からブーイングが出始めた。
『直江!!てめえ何を命令させるつもりだ!?』
『この鬼畜ヤローが!!』
『さっさと負けちまえ!!』
無論、学長の鉄心が許可している以上それなりに制約のある命令権だが、思春期の男子はそれでもブーイングを止めない。ブーイングは徐々に不死川の応援に変わっていく。
「ん~?」
そんな中、賭けを煽っていた風間翔一は違和感を感じていた。傍に居た百代が不思議に思い、翔一に尋ねる。
「どうした?キャップ」
「いや、ブーイング出まくってるのに大和に賭ける奴の方が多いんだよ」
(フフン♪良い気味じゃ。大人しく食券を賭けておれば良いのに、調子に乗って命令権なぞ賭けるからブーイングが出るのじゃ)
ブーイングが自分への応援に変わり、不死川は機嫌が良くなっていた。
(確かに体格は良いが、相手が大きい方が投げやすい。秒殺してくれるわ!!)
決闘はまだ始まっていないが、不死川は既に自分の勝利を確信していた。
(ブーイングから投げろコールへの移行、予定通りに事は進んでいる)
大和へのブーイングは、既に不死川への投げろコールに変わっていた。傍目には男子の嫉妬混じりのブーイングから始まったように見えている。
(格下が生意気に突っ掛かった形だ。プライドの高いS組の生徒も釣られて煽りだした)
不死川には決闘が終わった後も役に立ってもらう。その為には必要以上に負傷させる訳にはいかない。自分は無傷で、相手は軽傷で勝つのが俺にとっての勝利条件だ。
(川神百代も見に来ている。布石を打っておく絶好の機会だ)
「それでは…」
(先ずは敢えて掴ませる)
「始めぃ!!」
鉄心がそう言い終わると同時に、不死川が間合いを詰めて掴みに来た。大和はスタンスをいつもとは逆にしてボクシングのフォームに構える。右腕が前のサウスポースタイルから、迎撃しようと右ジャブを放つ。が、右腕は袖を取られ胸ぐらも掴まれてしまった。
(やっぱり此方の敵では無いのじゃ!!)
完全に大和を捕まえた不死川は、得意の内股で投げようとした。
だが
大和の足を跳ね上げる為の右足は
大和の右足に踏み潰された
(これでは投げられん!?)
自分より重く大きい相手を投げるには、全体を上手く使う必要がある。踏まれた足は向きを変える事も、動かす事も出来ない程しっかりと踏まれていた。フィジカルでは圧倒的に劣っている不死川はここで初めて焦りだす。投げに拘るように仕向けた大和はその隙を逃がさず、一気に勝負を決めに掛かる。
(俺の左手だけが空いている)
不死川の両手は大和を掴んでおり大和は右腕を掴まれている為、両者の中で大和の左腕だけが自由に使える一瞬の隙。
不死川の首を狙って
大和は左手で貫手を放った
所謂
地獄突きが突き刺さった
「かはっ!?」
本来貫手は指を鍛えないと打てない突きだが、比較的柔らかい首は突いても指を痛めにくい。地獄突きを喰らった不死川は仰け反り距離を離そうとしたが、踏まれた足がそれを許さない。
(立て直す隙は与えない、このまま終わらせる)
大和は踏んでいる足を外さず、突きを放った左手を戻さずに首を掴み親指で喉を押し込んだ。
「ッ!?」
不死川は痛みと苦しさで大和の左腕を引き剥がそうと両手で掴んだ。右腕が自由になった大和は、右足が前のサウスポースタイルから左足が前のオーソドックスにスタンスを変え、右腕を大きく振りかぶった。
(今の俺では突きで失神させるのは難しい)
だから首を徹底して狙い酸欠気味にして、首を掴み両手を使わせた。これで心臓を守るモノは何も無い。
(見ているか武神?この技を忘れずに覚えておけよ!!)
その技は、決まれば一撃で相手を失神させる必殺技。一瞬でダメージを回復する奴が相手でも失神させる必殺技。屈辱的な敗北から立ち上がり、直江大和が川神百代に勝つ為に見つけた必殺技。
(この技を使って貴様に勝つ!!)
大和の"心臓打ち"が決まり
心臓を押された不死川は
糸が切れた人形のように崩れ落ちた
「それまで!!勝者、直江大和!!」
(何だ今の突きは?)
決闘の一部始終を見ていた百代は、大和が最後に放った突きの危険性に気付いていた。心臓を狙った打撃で一瞬の内に失神させる。自分の瞬間回復も意識が無い状態では使えず、試合なら失神した瞬間止められて敗北する。
(普通の人間には打てない。肉体を鍛え上げ、殺してしまう事を覚悟して初めて打てる)
技の有効性と危険性を正確に分析し、頭の中で対処方法を考え始める。戦闘に関しての才能では百代に勝る者はいないと言っても過言ではないだろう。戦闘に関しては…
川神百代は気付かない
まず間違いなく対武神の必殺技
何故それを見せたのか
隠していた方が都合が良い筈なのに
川神百代は確かに最強と言える強さだが、それ故に相手の裏をかいたりせずに、己の強さのみで勝つ事を好んだ。才能に恵まれているのは、あくまで戦闘に関しての分野のみ。
後の戦いの為に事前に布石を打つ
そんな小細工に頼る必要が無い程強いから
川神百代は気付かない
2009年4月28日(火) 放課後
川神学園 保健室
「……ぅ?」
不死川心は決闘が終わった後、保健室で寝かされていたが放課後まで起きる事はなかった。何も出来ずに倒された事を考えれば、プライドの高い彼女からすれば幸いだったのかもしれない。明日は祝日でゴールデンウィークも控えている。当日よりは気持ちも楽になるだろう。
(ここは…保健室?………ッ!?)
そうじゃ、此方はあの山猿との決闘で負けたのか。何も出来ずに一方的に攻められて…
「~~~~~ッッ!?」
思い出すだけで腹が立つのじゃ、山猿の分際で此方に歯向かいおって。何とか仕返したいが人前にも出たくないのじゃ、ああぁぁあぁ~~~どうすれば良いのじゃ…
これから弄られるであろう未来を何とか回避出来ないか考えるが、そもそも今は人に会いたくないので仕返しすら厳しい。厚顔無恥な人間なら悩まないだろうが、不死川には当て嵌まらない。何も思い付かず途方に暮れていると…
コンコン
ノックされる音が鳴り
「不死川さん、起きていますか?」
不死川が今一番会いたくない
直江大和の声が聞こえた
大和は不死川心を倒した!
テーレッテー♪テーレッテー♪
大和は"心臓打ち"を覚えた!
大和は不死川に命令権を行使した!
宮崎県は9月8日に喧嘩稼業の二巻を発売しましたが、僕は書店を4件廻ってやっと手に入れました。
ふざけんじゃねえぞ!!(# ゜Д゜)