FPS民が世界を荒らしていますが特に問題はありません   作:K.I.Aさん

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お ま た せ


第3話

いつもの退屈な授業中に突如、藤美学園を襲った恐怖。学校中に取り付けられた放送スピーカーから響き渡った男性の断末魔が響き渡ったその一瞬で、学校中の生徒たちの私語は瞬く間に止まった。

やがてその断末魔も小さくなくなっていき、静寂の中を何かが引き裂くような不気味な音が場を制した。この音がまさか死体が人間の肉を食いちぎり、食す音だと理解した者は今はまだいない。

けれど彼ら彼女らは現状を把握するのに十分すぎるほどの一つの情報。――人を殺した存在が校舎内を歩き回っている、次は自分が死んでいるかもしれない……という結論に辿り着くには。

とある生徒の鉛筆が机の上から落ちて、カランっという小さな音。普段通りの学校生活をしているならばクラスメイト同士での世間話や今後の予定の話、趣味の話などでかぎ消され、精々周囲の視線を引くかも引かないかもしれない程度の音量が今の教室内で嫌となるぐらい響く。

そしてその音が……学校内の生徒たちの感情を大爆発させ、混乱の頂までに瞬時に上り詰めてしまう引き金となったのだった。

 

「いやぁぁぁあああ、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!」

「どけよテメェ!逃げる邪魔をすんじゃねぇ、さっさと走れぇえええ!!」

「嘘だあんなの出鱈目だ平和な日本で殺人なんて起こるもんかこれは夢だきっとそうだそうに違いないアヒャヒャヒャヒャ――」

 

混乱が更なる混乱を招き、そして生まれた恐怖が藤美学園を支配。我先に"こんな殺人鬼の居る部屋にいられるか!"と言わんばかりの勢いで教室を飛び出し、自分の身を守るために自らが正しいと思う手段を求め逃げていく。

ある者は学校内の先生に助けを求めるために職員室へと。

また、ある者はこの場所から逃げるだけの事を考えて校門へと。

そして、ある者は助けを求めるために密かに学校内に持ち込んでいる携帯を取り出し、警察へと通報を行った。

だが忘れてはならない。この世界は秩序も法律も何もない、ただの無法地帯に成り果てたということを。そして弱者は蹂躙され、強者だけが生き残れる過酷な世界へと変貌してしまったことを。

 

今自らの生命の蝋燭に燈火を持つすべての学生生徒達及び先生達は、大きく分けて三種類の行動パターンに分けられた。

一つ――考えることを放棄し、受け入れがたい世界から逃避するために自身の身を捨て、その命を散らす愚者。

二つ――恐怖によって折れてしまった心となけなしの生存本能により、ただひたすら逃げ回ることを望んだ愚者。

三つ――愚策と知りながらもあえて恐怖に立ち向かうべく、手に武器を携えて死神と戦う事を望んだ愚者。

 

「ほらさっさと鍵を閉めなさいこのデブオタ、奴らが入ってこないうちに早く!」

「は、はい高城さん!でも、なんで僕たち工作室に入ったんですか?」

 

どのみち未来に明るい道は見えない三つの選択肢の中、私こと高城沙耶は三番目の選択肢である徹底抗戦を選んだのだった。

変貌しきってしまったこの世界……いや地獄で生きるために、戦って戦って戦い抜く覚悟を、その胸に秘めて。

そして汗を垂らせて私の後を必死に付いて来させた、肥満体型の男子生徒は平野コータだ。

正直な話、私はなんで彼を相棒として選んでしまったのだろうかと後悔している。混乱の渦に巻き込まれてしまった教室内では彼ぐらいしか連れて行くことができなかったのだ。

もし相棒が平野ではなく幼馴染であり、同級生であり、そして私が密かに想っている小室だったら……と考えてしまう。

だがあのバカは私では無くもう一人の幼馴染である宮本を選び、教室から去って行ったのだ。始めは"人が殺された"という言葉を疑ってすぐに動かなかった私も大概かもしれない。

 

――私は、小室に捨てられた。

 

断末魔が鳴り響くスピーカーを聞いたときに一番最初に思い浮かんだ考えはこの一つだった。

彼は一度強く拒絶されたにも関わらず、私よりも彼女を優先し安全な場所へと連れ出そうとしたのだと理解すると、とても悲しい気持ちになった。

私よりも宮本のほうが大切なの?どうして、私を見てくれないの?どうして、気付いてくれないの?

 

「――さて、平野。私たちが生き残る為に、そして奴らを倒す為に一番大切なものはわかる?」

 

その思いを振り払うように平野に話しかける。今はそんなことよりも重要なことがあるのだ。生きてさえいればまた、小室に会える。きっと彼はまだ生きていると、そう信じて私も戦おう。

様々な工具に溢れるこの教室内は平時ではただ埃臭い場所なだけかもしれないが、今のこんな状況だと私の目からすると宝物庫にしか見えない。

私はわたっぱしから引出しを開いて御目当ての物を探す。ノコギリにハンマーに、ドリルに。実にいろんな物はあるけれど、持って行ける物には限度がある。

欲張って大量の物を運んだ挙句逃げ遅れて奴らの仲間入りだなんて、笑い話にもならないだろうに。

 

「もしかして、武器ですか?でも僕肉弾戦は無理なんですけど……。」

「そんなのアンタのデブさからして格闘能力にはなっから期待すらしてないわよ、現実を見なさい。」

「ですよね~。」

 

ハハっと自虐めいた笑いをする平野に、ようやく見つかった得物を押し付けるようにして渡す。

一度捕まれたら二度と振り払えないほどの力を持った奴らを相手にあの体系で格闘術を臆せずに繰り出していく姿を想像……しようとしたがやめる。

現に私は奴らの信じられないほどのあの力の強さを嫌というほど見てきている。人間ですら全力で体当たりをしても壊せるかどうかも怪しい教室のドアをこじ開け、人間の血肉を貪る……悪魔のごときその姿を。

そんな怪物同然の存在がウヨウヨと校舎内を徘徊している中をここまで武器も無く生き残り続けれたのは理由があった。

奴らが私たちの位置を把握する手段は聴覚のみということが判ったからだ。濡れた雑巾を奴らに直撃させても反応を示さないに関わらず、壁にぶつけたり等をして大きな音を立てればそちらの方向へと向かっていく。

痛覚が死んでいる事には間違いはなく、そして恐らく視覚も無いだろう。つまり私たちが動かなければ襲われることは実質ありえない、というわけだ。

まあ人間の私たちにとっては生理的な問題で一日中ずっと動かないだなんて無理。

 

「これはガス式釘打ち機……。成程、もしかしなくてもこれを銃として使えという事ですね?」

「私の言いたい事分かったようね。まさにそれ、B級ホラー映画でもよく出てくるアレを作りなさい、それがアンタの武器よ。」

 

日本の釘打ち機は先端が物に当たらないと釘が発射できないように安全装置がついている。それを常に解除する改造をしてしまえば簡単な銃の完成、と同時に私も銃刀法違反の仲間入り。

でも、こんな状況じゃあ法律を破ることなんて自分の命を守ることよりも軽いものだ。いいアイデアが浮かんだものだと内心満足していたのだが、平野の顔を見てみればあまりうれしそうではなかった。

どうして?ヤツらの対抗策となりゆる武器を手に入れたのならそんな顔はしないはず。

その疑問はすぐに理解することになる。

 

「でも高城さん、さっきも言ってましたよね、奴らは痛覚が死んでるって。例えこれが銃の代わりになったとしても所詮は釘打ち機は釘打ち機ですから……リソースはガスだし、弾は所詮タダの釘ですから……多分ヤツらに対抗する武器として使うには威力が足りないと思います。」

「うっ……仕方ないじゃないの!なら建設用のコンプレッサーを背負って歩きなさい!」

「それは無理ですよ、あれ何キロあると思ってるんですか!そもそもあれは設置するもので持ち運ぶものじゃありませんよ!」

 

簡単に自身の考えを崩され、思わずヒステリックにしまい平野に当たってしまったが……彼のその考察にも一理あるのは事実。せっかく武器を持ち出したのに、威力が足りなくて全然使い物になりません、では話にならないのだから。

そもそも、すでに人間の枠から外れてしまった奴らに攻撃がちゃんと通じるのかどうかも分からない。人間では刃物で全身ズダズダにされるような死に直結する怪我を負ったとしても、奴らにとってはただの掠り傷なのかもしれないのだから。

痛覚が無い奴らは、変な人が大好きそうな映画のように頭に撃ち込むだけでは衝撃で怯むだけで死なないかもしれない。それ故に平野はその事実に気が付き指摘したのだろう。

因みに平野についてはなんとなく軍事部門の知識が豊富だという事は知っていたが、海外で民間軍事会社で務める元軍曹から射撃技術を教えれられていたという事を今の私は予想すらもしていなかったのは完全なる余談だ。

 

「――奴らを確実に無力化する手段さえあれば、それに越したことは無いのだけど……。」

 

人間の身体をしている以上、頭が弱点という事は既に分かっている。全身への指示を送る器官さえダメージを与えれば、ただの屍となるのはここに来るまですでに倒れていた奴らに共通していることだ。

ならば、どうすれば最も効率的に奴らを倒せる?頭を鈍器で潰すか?それとも首の骨を折ればいい?高い所から叩き落とす?それともやっぱり逃げるのが一番なの?

どうすれば最も簡単に奴らを無力化できるかを必死に頭を回して考える。その際につい癖でブツブツとつぶやいてしまっているのはご愛嬌だ。

やがて、ふと名案が思いついたかのように明るい顔になった平野が私に提案を行った。

 

「無力化、ですか。一番確実なのは、奴らの全身を解体する事ですかね……ほら、痛覚が無い相手だとしても足とか腕が無ければただの案山子同然ですし。」

「ず、ずいぶんと過激で野蛮な提案をするのね。でも、それこそチェンソーぐらいは無いと無理よ。」

「いえ、簡単です。僕ならば銃のように遠距離武器でかつ、腕や足を切断する武器を作れます。」

「へ……へぇ、言うじゃない。アンタがそこまで言うのなら信じてあげる。さっさと作りなさい。」

「イエス、マム!」

 

まるで教科書の見本のようにピシッっと無駄に精練された敬礼を一つ平野は行い、そして改造に必要な材料を戸棚の引き出しを開けて探し始めた。

材料なのか基盤だったりネジだったり、鉄くずだったり懐中電灯だったりと良く分からないものを釘打ち機の置いている作業台に次々に集めていく。

……本当にそんな武器が作れるのでしょうね?どう見てもゴミ同然の材料でそんな超威力を持った武器を作れるだなんて思いすらしないのだけど。

そもそも、平野はそんな奴らに対抗できる強力な武器を釘打ち機をベースにして作る気なのだろうか。工具からどうやってそんな素敵武器を作るのだろう、まったくもって意味不明である。

もしかして、私が無意味に煽ったりしたから出来やしないものを作ろうとしているのではないだろうか。ふと、その考えが頭に浮かび、釘打ち機を分解して改造し始めた平野に声を掛けようと思ったが……やめた。

すでに彼は自分の世界に入り込み、私が喋りかけても反応を示さないだろうことを悟ったからだ。仕方なく私は、自分に使えそうな武器を集め、誰かが置き忘れたカバンの中に無造作に突っ込んだ。

しかし私に出来ることはそれぐらいで、やれることはあまりなかったのだ。こればっかりは女として生まれた自分が恨みがましい。もし男として生まれてたら、私も武器を手に握り奴らと戦えていただろうか、と思った。

――と、いきなりガタンっという何かにぶつかるそうな音がして、反射的にそちらを振り返った。方向は……廊下へと続く扉。そして、透明のガラスから見えたのは……間違いない、ヤツらだ!

再び、ガタンっとドアが叩かれ、奴らの驚異的な力によって薄いとはいえどアルミ製の板がわずかに出っ張った。

 

「ひ、平野ッ!来てる、奴らが来てるわよ!」

「……。」

 

我ながら恥ずかしい、裏返った悲鳴のような声を上げたが平野の返事はない。自分の世界に入り込んでいるせいで回りの状況の把握が行えていないようだ。それどころか私の声に気が付いているかどうかも怪しい。

このクサレオタは……!と内心怒りで一瞬染まる、が今はそれどころではない!どうやって脱出すればいい?!窓の外から脱出……ダメ、ここは三階だ!

反対側のドアからの脱出……机で塞がってて出られない!迎撃する……力のない私じゃ簡単にやられるわ!平野は……論外!

いったいどうすれば……どうすれば……ッ!必死に頭を回すが、あいにく奴らは私のことを待ってくれやしなかった。

ドダンッとついに壊され倒れるドア、そして肉を得らんと私に襲い掛かる奴ら。――恐怖で真っ白になる視界の中。

だが彼の隣には嬉しそうな表情をした宮本が……彼と手をつなぎ、私に背中を向けて遠ざかっていく……。そんな場面が私の脳裏に一瞬浮かんだ。

もう私は……ダメだ。そう諦めようと目を閉じたが……不思議な事に痛みも衝撃も何もなかった。

 

なぜだろうと、ゆっくりとゆっくりと目を開けば――そこには改造が施され謎の工具Xとなった武器を持つ平野が私の前に立ち、奴らと戦っていた。

えッとつい声に出てしまったその同時に、平野が工具Xの引き金を引いたのかドカンという音が鳴り響いた。そして幅広な銃口から何か刃のようなものが発射され奴らへと着弾、射出されていた青い三点のレーザーを境目に綺麗に刃物で叩き切ったかのように腕だけが切断された。

……えッいや。釘打ち……機?なにあれ。原型とどめてないんだけど、わたしの知ってる工具と違う。そんな私の心の声なんぞどうでもよいかのように平野はハイテンションに次々とゾンビを解体している。

 

「うっひゃぁあああー!うっちゅう~のこ~うぐ~はせっかいいちィィィィイイイ!!!」

 

平野が一度引き金を引けば奴らの足や頭が飛び、時たまウィンと発射する刃の縦横を切り替えてやれば今度にはご丁寧に奴らの足が飛ぶ。

あれ、おかしいわね。いつの間に私は屠殺場に迷い込んだのだろうか。なんだか奴らが不憫に見えて仕方ないのだけど。

というかどうやって作ったし、あれ。明らかに物理的なものじゃない、何かを飛ばしているように見えるんだけど。

 

「プラズマカッターなめんな!初期工具でも同時に石村ステーションでは看板工具で万能工具なんだぞ!ぷーらーずーまーパワァァァアアア!!」

 

いや、意味わかんねーし。石村ステーションとか何処だ。しかも工具って何?私あんな工具知らない。

そんな凶悪極まりない笑顔で奴らを薙ぎ倒している平野を前に、私は口を開けて呆然と立っている他なかった。

 

 

 

 

「はッ!?」

 

突然、頭の中で電撃が走るような何かを感じた気がした。なんだ……この感覚は。どこかに、この学校の中でヤツらでもないアイツらでもない、僕と同じ人間が理不尽を味わっている気がする……!

 

「どうしたの、考?」

 

突然足を止めた僕に気が付き、何かに気が付いたのかと僕に振り返る井豪と宮本。

そんな僕を心配してくれる二人だが……腕に携えているどデカイ銃火器が学校の制服ととんでもなく不似合だ。

……なんでいつの間にそんな武器持ってるの、とか銃刀法違反どこ行ったとか、そんなのはもう諦めた。考えるだけ無駄という奴である。

 

「いや、なんだか僕の仲間がどこかにいる気がしたんだ……なんとなく、勘だけど。」

「ん?そうか、ならばソイツを助けに行かないとな。さて、ここをどうやって突破するか……。」

 

三人で学校内の廊下を見ると、そこに立ち塞がっているのは大量の奴ら。どうやら、僕らをここから進ませる気は無い様だ。

どうしようかと考えていると、同じ武器を持っている二人が僕よりも一歩前に出て持っている武器を奴らへと構え、銃口を向ける。

 

「考、今回も俺と麗に任せてもらおう。いいな、お手本を見せてやるから、こうやって戦えばいいってことを覚えるんだ。」

「さて、大掃除にはオートショットガンの出番!」

 

お、おぅという僕の返事すらも聞かずに勝手に戦闘を始める二人。ズガズガズガズガズガッ!という連続した大きな銃声が鳴り響く度にヤツらがどんどんと薙ぎ倒されていく。

だが、不思議な事に散弾銃の弾丸は壁に床に、そしてヤツらに命中する度に爆発を起こしているのは僕の見間違えだろうか。

リロードのタイミングが被らないように二人が交代交代で撃ち進んでいくその姿を見ている僕は、慣れたもんだなーと場違いな事を考えていた。

そして、お前らどこからその弾を持ち出してきたのだ。内心ありえない現状に突っ込みを入れていると……突然ノイズがかったかのように視界がボヤけ始めた!?

脳裏に負荷がかかったかのように大量の文章となった文字が流れ……頭痛が走る。まるで、何かを僕に伝えたいかのように。

 

――ウザス……フラグ弾……修正前…………。

「うッ頭が……!」

 

それだけを僕に伝えると、満足したかのように頭に流れる文字は止まり……すぐに楽になった。

あれは……いったいなんだったんだ?まるで誰かが恨みを果たすかのように大量に書き込まれたあの文章は一体?

そんな僕をよそに二人はもうとっくの先にヤツらを駆逐し終わったのか喋り合っていた。

 

「ほんと……ままならないよな……。」

 

ランクが上がったとかよく分からないことをはしゃぐあの二人についていきながらも、僕はふとつぶやいた。

 




【ただのカカシ】"コマンドー"
どこで使い方を習った?

【プラズマカッター】"DEAD SPACE"
ゲームを代表する看板武器。主人公はありあわせの材料でこの武器を作れている。すげぇなエンジニア。

【石村ステーション】"DEAD SPACE"
ゲームにおいての舞台である。

【ウザフラ】"BattleField3"
実銃名はUSAS-12、強すぎて下方修正された武器。それまでは胴体直撃二発、外しても爆風でダメージと制圧効果を発揮する狂った性能をしていた。まざにウザス(USAS)。

(圭)<やっぱり工具は最高だよな
段々と文章が長くなってきた……。久しぶりに執筆したから微妙な完成度。
それとゲームショウ行ってきますた。Evolveに期待!

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