FPS民が世界を荒らしていますが特に問題はありません   作:K.I.Aさん

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AWのPV見たが、あれはもはやタイタンフォールじゃマイカ


第2話

僕らは屋上の展望台で立て籠もる事に成功した。 屋上から展望台へと続くただ一つしかない道、つまりは階段には机に机を重ねてビニールテープで何重にもグルグル巻きにした即席のバリゲードを作ったので、奴らはここへと入る事は難しいだろう。

これでしばらくの間は大丈夫だろうが、いつまでもここに居座るつもりは全くない。 ここには食料も水も何もないのだ。 この学校から脱出し、コンビニやらデパートなどの何処かに向かわなくてはならない。

それ以前にここからどうやって脱出するかという問題点もある。 天文台から校舎へと続く道はたった一つしかない。 確かに道が一つしかない、ということは立て籠もるということには向いてはいるが、いざというときに脱出方法がないことも示しているのだ。

まさに僕らの今の状況は背水の陣、とでもいうべきだろうか。 どうしたものかと僕は自分の頭を掻くしかなかった。

だが、思いの他大きくなりつつあった問題は僕らの目の前にへと現れつつあった……。

 

「――ゴホッ! ゴホッ! グワァッ!」

「永! こ、考! こっちに来て、早く!」

 

その彼女の悲鳴の混ざった声を聞き、何事かと振り向いていれば……永は血を吐いていた。

尋常ではないその吐血の量は、まさに信じられないほどの量が永の口から吐き出され、壁を、床を、自身を介抱している麗の制服をもドス黒い赤色に染めた。

さっきまでの怪我の痛みによりやや青くなっていたがそれでも血の気は通っていたのに、今はまるで死人のように土気色だ。 その永の生気を失われた顔は嫌でも僕らを襲ってきたヤツらを連想させてしまい、無意識にバットの握る手に力を込める。

――ヤツらに食われた人間はヤツらへと成り変わり、かつて同類だった人間を、今まで共に歩んで生きた親友も、大切で守りたい存在だった恋人さえも見境なく喰らっていく。

そして、ほんのちょっと齧られてしまっただけの永でさえ、その例外ではないのだろう。

僕は……辛うじて生きている永にバットを向けた。 人を殺す、という事を理解した僕の頭は恐怖に包まれ、それが腕へと伝わり血塗れのバットの先が細かく震えた。

たったそれだけでも永は僕の考えを読み取るには十分だ。 覚悟を決めたかのか、そして自分が生き残れないことを知り絶望して諦めてしまったのか、それとも両方なのか。

今の僕には永の気持ちをわかる事はないだろう。

 

「こ、考? 永になんでバットを向けているの? どうして、なんで? ほんのちょっと噛まれただけなのに……。」

「お前でもわかっているだろ、麗。 永はもうすぐヤツらになってしまうんだ。 となると僕がやらなければいけない事はただ一つ……そうだろ? 永。」

「あぁ……俺はヤツらになりたくない!! 俺は……俺は最後まで俺でいたいし、麗も考も襲いたくない……! だから――。」

 

僕はその永の言葉に……こくりと頷き、肯定の意を伝えた。 両手の握りを確かめ、僕の身体からバットへとすべての力が残さず伝わるようにしっかりと持ち直す。 合成皮のグリップは血が滲み、、ぬめりとした嫌な感覚がとても不快だった。

できれば一撃で楽にしてやろうと考え、バットを振り上げると麗に羽交い絞めにされた。

もし僕が普段通りの生活を送っていたならば、女性特有の柔らかな香りに心を躍らせることができるのだろうかと、頭の端っこでちょろっと思った。

役得だとも思うことだろう。 そして好きな彼女といつまでもこうしていたい、とも心の底から思うことだろう。

 

「考、やめて! ならないわ、永は絶対にヤツらにならないわ! だって、だって永は特別だから……」

「――離れろ、麗!」

 

だけれども、今はそうそんな余裕すらもない。 すでに地獄への扉は開かれてしまったのだ。 僕はあんなに大切にしたいと思っていた彼女を、幼馴染である宮本麗を……突き飛ばしたのだ。

まさか僕が実力行使に出てくるとは思わなかったのだろうか、それとも思ってた以上に自分の力を強く入れてしまったのか。 あっさりと僕は麗を振り解けて、彼女は尻餅をついた。 

手に持っていた槍はその際に放してしまったのか、コンクリート製の整地された地面をカラカラと転がりやがて止まる。

ふと浮かんだのは彼女への大きな罪悪感。 そして幼い時に交わした、忘れもしない約束。 彼女は忘れているかもしれないが、僕にとっては大切な――。

 

『私、孝ちゃんのこと大好き! 大きくなったらお嫁さんになってあげる!』

『本当?! ホントに本当?! なら僕は麗ちゃんのこと、守るよ! どんなことからも、絶対に!』

 

……何が麗を守る、だ。 僕はあの時の約束をまったく守れていないじゃないか。 あの時も……彼女が留年してしまった時にも、変な様子に気が付かずさらに彼女の傷を深めてしまった。 自分から約束をして、自分から破る。 そんな最低なことをしてしまったのではないだろうか。

本当は、僕が彼女との約束を忘れてしまっていたんじゃないだろうか。 また、僕は彼女を傷つけないといけないのだろうか。 そして僕は大切な親友をも手にかけなくてはいけないのだろうか。

どうして、なんで……こんなバカバカしい事にになってしまったんだ!

 

「うぉぉォォァァアアあああッ!!」

 

僕はこの世の理不尽をすべて腹の底から吐き出すようにして、叫んだ。 理不尽による怒りと悲しみが入れ混じった大きさだけの叫び声は……我ながら情けないだろう。

助走をつけ、バットを振り上げ……情けなくも涙を流し。 永を、永を殺す為に……!

 

「いやぁぁぁあああ! やめてェェェえええッ!!」

 

金切り声のような悲鳴を聞きつつも、僕は。 永の頭へと……バットを振り落した。

ぐしゃり、という肉を潰すような感触。 そして先ほどの吐血よりも遥かに大量で、さらに黒い鮮血が辺りに飛び散った。

ゆっくりと倒れていく永の身体がスローモーションのようにも見えて……ようやく僕は、あぁ永を殺してしまったんだ。 と頭で理解した。

そのまま大切な親友の血溜まりが出来上がっていくその様子を見ながらも立ち尽くしていたのか、それとも僕は泣いていたのか。

そこから、しばらくのことを……僕はよく覚えていない。

 

はッと気が付くといつの間にか空は……見たくもない血に染まったかのような夕暮れだった。

麗は永の死体のすぐそばで蹲るようにして座り、死肉を啄もうとし近づいてくるカラスを手に持つ槍で何度も、何度も追い払う。

その様子に見ていられなくて、僕は彼女の背中からトンっと肩を叩いた。 ビクリと身体を震わせ、まるで壊れたゼンマイ機械のようにゆっくりと首だけをこちらに向ける。

彼女の顔は、涙でめちゃくちゃだった。 目は充血し、髪の毛は振り乱したかのように乱れていて……僕が一番見たくない彼女の顔だった。

 

「孝、孝……なんで永は死ななくっちゃいけなかったの? なんでヤツらにならなくっちゃいけなかったの? なんで、私たちは……こんな目に合わなくっちゃいけないの……?」

 

そんな彼女の痛々しく呟く声に、僕は何の声をかけることもできなかった。

本当に、どうしてこうなってしまったのだろうか。 僕だって、いつものようにくだらない日常を過ごせると思っていたのに。

どうしてこんな地獄へと迷い込まなければいけないのだろうか。 そこ答えを知る者はおそらく、誰もいない。

 

「ねぇ、なんで? どうしてよ? どうして、孝は。 永を……殺したの?」

「……ヤツらに喰われたら僕らはヤツらになる。 そして永はヤツらに噛まれ、ヤツらに成りかけていた。 永も言ってただろ……僕らを襲いたくないって。」

「永は殺さなくったって、ヤツらのようにはならなかった……。」

 

現実を受け入れることができない麗の様子に、僕は苛立った。

――殺さなくっても、ヤツらのようにはならなかった? 何を言っているんだ? 現実逃避としてもいい加減にしろ……! お前は永の望みすらも無下にしたかったのか!

思わず口から漏れかけた罵詈雑言を寸前のところでおさめた。 今言い出したら僕は、間違いなくこの言葉の責めを止めることはできなくなる。

今の状態の麗をさらに追い詰めるわけにはいかないのだ。 暴発しかける自分を抑えに抑え……できるだけ淡々と語る。

 

「……現実を見ろ、麗。 周りはまるで映画通りなんだ。 だから、僕は……永を殺さなくっちゃいけなかったんだ。」

「そんな必要なかった! 永は特別なのよ! そんなことをしなくっても、死ななかったのに!!」

 

その言葉を聞いてしまった瞬間、僕の頭の中で何かが弾けた。

――必要なかった? 特別? 死ななかった?

………ふざけるな!

わずかに残った理性が、僕を止めようとしたがもう無駄だった。

 

「いやはや、全く麗の言う通りだ。 フレンドリーファイアは許されないぞ、孝。」

「いい加減にしろ麗! ヤツらに噛まれた人間はヤツらになる! だからその前に僕は永、を……――うん?」

 

その言葉で完全沸騰した頭が絶対零度に当てたかのように休息に静まった。 なんか、いまありえない声が聞こえた気がする。

いやいやいや、空耳だ。 絶対に空耳だ。 麗の横に平然と立っているすごく見覚えのある男子生徒は間違いなく幻覚だ。 いや、幽霊かもしれないな。

なんだか今日はおかしなことばかり起こるな、全く堪らないぜ。 ハハハハハ……。

今度は自分が現実逃避してしまうとは何事か。 僕の頭がおかしくなってきてるのかもしれないな。

 

「全く、人の話は最後まで聞いてほしかったな、孝。 お前は突撃兵なんだから医療パックぐらいだせなくてはNoob扱いは免れないぞ。」

 

おーけー、おーけー。 小室考、時に落ち着け。 これぐらいの理不尽、今までに何回も味わったじゃないか。 将来を誓った麗には振られた、その上に永に寝取られた、高木には何度も罵倒の言葉を受けた、母さんと今朝に卵には塩か醤油のどっちがいいかで揉めたせいでししゃもしか出してくれなかった。

うむ、うむ。 なんか無性に腹に立つ思いでばっかりだが、小室なるもの常に優雅たれ。 KOOLになるんだ、よし、落ち着いた。

仮に百歩……いや数万、それ以上譲って永が生きているとしよう。 なんで、永がここにいるのかを聞かないといけないな。 うん。

 

「……永。 なんでお前はここにいるんだ? さっき、僕が……こ、殺し――」

「何って、そりゃあリスポーンに決まっているだろう。 ちょうどAC130が上空を飛んでたからな、そこから沸いてきた。」

「はい?!」

 

え、どういう事? リスポーンって何? AC130からリスポーンしてきた? マジでどういう事なの? 永は一体何訳の分からないことを言い出しているんだ?

どうしよう、言葉のキャッチボールができてない! それどころかミサイルでも投げ返してきてるんじゃないのか!?

それにあそこに永の死体が転がっているのになんでもう一人の永が僕らの目の前に生きて立っているんだ?

永の死体が転がっているのにどうしてもう一人の永が、しかもなんで空からパラシュートを展開させて降ってきたんだ?

しかもなんで当然のように僕が責められなくっちゃいけないんだ?

思わず、麗と顔を合わせるが……あのー、麗さん? なんですか? そのしたり顔は。

 

「だから言ったでしょ? 永は特別だって。 おかげさまでチケットが減っちゃったじゃないの。」

 

………………えッ? えッ? あのー。 アイエェェエエ?

なんだかすごく麗が遠い所に旅立ってしまった気がする。 それも僕の手の届かないような、何千光年ぐらい離れた未知なる世界へと。

理屈では理解しがたい現状に僕の頭は正しく受け入れることができず、オーバーヒートして煙が出てしてしまうぐらいに混乱させてしまい……。

 

 

――そのうち、僕は。 小室孝は考えるのをやめた。

 

 




ヤツら「頭を飛ばさない限り動き続ける。」
アイツら「チケットがある限り何度でもリスポーンする。」
ヤツら「お前らのほうが絶対に人間じゃねぇ!」

・フレンドリーファイア   【ゲーム全般】
味方に攻撃が命中することを示す。よかったな、ゲームで。リアルだと戦犯確定だぞ!

・医療パック   【BattleField4】
いわゆる回復アイテムでランチパックという愛称で呼ばれ、拾った人の体力を一気に回復させる。似たようなものに医療箱というものがあり、こちらは弁当箱と呼ばれ、こちらは近くにいれば徐々に回復していく。

・Noob   【ゲーム全般】
ゲームのルールを理解していないプレイヤーに対しての軽蔑を含んだ罵称。 単なるへたくその場合はNewbieである。

・永の死体が〜
FPSでは自分の死体を見るのはよくあること

・リスポーン   【ゲーム全般】
再出撃とも言う。 ゲームのモードによってリスポーンできる条件が異なる場合がある。

・AC130   【実在・戦争ゲーム全般】
原型である輸送機に重火器などを載せれるように改造された対地攻撃機。大量の弾薬を搭載できるために長時間に渡っての射撃が行える強力なガンシップである。その圧倒的な強さは火力ゲーなCoDMW3でもトップクラスを争うぐらい、めちゃくちゃ強い。出されたら負け確定。

・チケット   【BattleField全般】
いわゆる得点。これがなくなると【あなたのチームの負けです!】自分がラストキルをされて負けてしまうと、まさに【あなたのせいで負けです!】

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