ハンター世界での生活   作:トンテキーフ

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試合、観戦、レアの変化

「……むぅ」

 

 自分の口から唸り声が漏れだしたが、周囲の歓声に完全に飲まれてしまった。200階クラスでの試合。ここ一週間は試合をするでなく、割高なチケットを買って試合を観戦する日々を送っている。念能力者の戦闘を学ぶためだ。

念能力は個性的だ。能力者それぞれが自らの発想を持って能力を開発しているのだから、個性が出るのも当然かもしれない。なるほどと納得する能力もあれば、そうきたか、と唖然としてしまうような能力もある。

今日の試合は特にそう感じた。相対する能力者の両方が、個性的であり、かつ優秀な能力を所持していた。

 片方は短い頭髪の男で、、ラフな格好に二本のナイフを携えている。面白いのはそのナイフで、振るう度にナイフに込められたオーラが、剣線に沿って糸状に空中に漂っている。触れればナイフ同様の切れ味で切り刻まれてしまうようだ。短髪の男は素早く動き回り、オーラの線でリングを埋め尽くして行く。相手の逃げ場を奪いつつ戦うタイプらしい。

もう片方は天空闘技場(ここ)では珍しい女性の闘士だ。ストレートの黒髪を靡かせ、凛とした表情で試合に臨んでいる。可憐な容姿もあいまって、観客達に非常に人気があるらしい。獲物は持っていないが、念能力は短髪の男よりも更にユニークだ。

人外の器官を具現化する能力。

今、彼女は背中に集めたオーラを翼状に具現化している。それも鳥のような飛ぶためのものではなく、敵を攻撃するのに特化したような凶悪なものだ。広げた翼の先から羽の弾丸を乱射する。弾の速度は速く、乱れ飛ぶ念の弾丸に行動を阻害され、短髪の男は中々彼女に近づけない。よしんば近づけたとしても、彼女に攻撃を当てることは非常に困難だ。

男が距離を詰めてくれば、翼を猿のような長い尻尾に変化させ、その尻尾を鞭のようにしならせ相手を牽制してくるのだ。尻尾自体も威力があり、侮ることができない。

だが、俺が特に上手いと思ったのは、彼女のオーラの操作能力だ。短髪の男が張った糸状のオーラを、彼女の尻尾は何でもないかのようにすり抜けてくる。尻尾に実体がないわけではない。彼女は尻尾が糸に触れる寸前に、尻尾具現化を解きオーラに戻しているのだ。糸をかいくぐって再び具現化してきた尻尾の攻撃は、男の能力と相性が最悪だったようだ。結局、短髪の男は黒髪の女性を追い詰め切れずに、試合は彼女のの勝利に終わった。

 密かに具現化させていた黒目玉を解き、満足して息を吐いた。見どころのある、いい試合だった。

 

 

「ただいまー」

「……おかえり」

 

 レアの部屋に入ると、調子の悪そうなレアが毛布にくるまってベッドの上にいた。

 

「体調はどう?」

「あまり良くないわよ……」

 

 そう言って、小さくくしゃみをした。しゃべるのも億劫そうだ。

 実のところ、レアの体調が悪いのは彼女自身のせいだ。念の修行の第一歩、精孔を起こす。自然体で瞑想してオーラの流れを感じ取り、ゆっくりと精孔を広げていく修行に、レアは六日で飽きてしまった。それで俺に、発を当てて無理やり精孔を起こしてほしいと頼んできたのだ。俺もまあ、オーラが枯渇しても死にはしないだろうと高をくくり、彼女に発を当てたのだが、レアはオーラを纏うのに時間をかけ過ぎた。その日の内には何とか纏が出来るようにはなっていたが、そのころには気絶寸前までオーラが減っていた。そのまま倒れるようにして眠りにつき、一夜明けたら風邪をひいてしまったのだ。

 

「いろいろ食材買ってきたけど、どう?果物くらいなら食べられそう?」

「……うん」

 

 小さくうなずくレアは、普段とは比べ物にならないほど弱弱しかった。紙袋からリンゴを取り出し、果物ナイフで皮をむく。しばらく、皮をむくシュリシュリという音と、レアの鼻をぐずる音だけが部屋に響いた。

 

「……ねぇ」

 

 一つ目のリンゴの皮をむき終えたとき、レアが話しかけてきた。

 

「フェルはさ、目的ってある?」

「目的?」

「そう。生きるための、目的」

 

 レアの顔を見る。彼女の目はどこか虚ろで、俺のいるあたりをぼんやりと眺めている。

 

「……どうしたんだ。急にそんなこと聞いてきて」

「何となく……ね。知りたくなったのよ」

 

 理由を尋ねても、彼女ははぐらかしてきた。黒目玉で見れば分かるのだろうが、使う気にはならなかった。

 

「生きる目的……ね。まあ、確かにあるよ」

「どんな?」

 

 相槌を打つレアに背を向け、俺は二個目のリンゴに取り掛かった。

 

「友達がいたんだ。親友というか、ライバルというか。そんな感じの友達が」

「……」

 

「その友達との約束でね。世界を見てきてって、頼まれた」

 

「一生懸命生きて、いろんなものを見て。」

 

「聞いて。嗅いで。食べて。触って、学んで」

 

レアは、何も言わない。ただ、俺が話すだけ。

 

「そうして、もう一度そいつと会えたらさ。胸を張ってやるんだ。ちゃんと俺は生きたぞって。一生懸命、生きて、世界を楽しんできたぞってさ。……それが、俺の生きる目的かな」

 

 しばらく、静かになり。俺とレア、どちらも口を開こうとしなかった。ようやくレアが口を開いた時には、皮をむき終えた二個目のリンゴを俺が食べ終えた時だった。

 

「……そっか」

 

 それだけ言って、レアは顔が隠れるほどに、毛布をかぶりなおした。俺ももう何も言わず、レアに一枚布団をかけ、部屋を出た。

 

「……漫画を読んでるだけじゃ、分からないわね……」

 

 後ろでレアが呟いているのが、聞こえた。

 

 外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。何となく空を見ると、ひときわ大きな星が俺を見ているような気がした。

 

 

 

 

「フゥーハハハ!」

 

 翌朝。レアの部屋を訪れると、彼女は変な笑い声で俺を迎えた。纏の習得により自己治癒能力が向上しているらしく、風邪は一晩ですっかり治ったようだ。

 

「……どうしたの、変な笑い声出して」

「変で悪かったわね!テンションあがってるから仕方ないじゃない!」

 

 本当にテンションが高いようで、ベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねている。

 

「念よ!念を覚えたのよ!結構憧れてたのよ、ホントに!テンションが上がらなきゃ嘘じゃない!」

「……まだ纏だけでしょうに」

 

 ぼそりというもレアは聞こえていないようだ。

 

「早速水見式しましょう!」

「いや早いよ。まず練だろう」

 

「自分の系統を知るのは大事でしょ!」

「そうはいっても基本の基本が出来てなきゃ……」

 

 互いにあーだこーだ言いながら、何となく、レアが以前より近くにいるような気がした。彼女の中で、何かがあったのだろうか。

 

 ぐちぐち言い合うよりもとにかく修行した方がいいと気づいたのは、言い争いを始めてから30分もたったころだった。




 女性闘士の能力は東京喰種から。

 レアの性格はミーハーで守銭奴な感じをイメージしました。

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