ハンター世界での生活   作:トンテキーフ

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携帯が壊れて投稿が遅れました。
申し訳ありません。

追記
大幅に加筆修正しました。


天空闘技場のあれこれ

「うわぁ……」

「たっか……」

 

飛行船から見る景色は今までいた場所が豆粒のように見えて、そのスケールだけで感動してしまう。その景色の中でも特に目を引くのが、先の見えない超高層タワーだ。

天空闘技場。腕に覚えのある猛者達の集う格闘の聖地。全長およそ1000mだというのだから驚きだ。一体どのようにして建築したのか非常に気になってくる。

思わす感嘆の声があがるほどには壮観だ。

 

「ホント凄いな、あの塔」

「確かにねぇ。それに……」

 

レアは言葉を区切り、飛空艇のフロアに視線をやる。そこは天空闘技場への挑戦者らしき人のほか、観戦するために来た一般人の人々で埋め尽くされている。

 

「毎日4000人だっけ?とんでもない数の挑戦者よね」

「使える人は全く見当たらないけどね」

 

ペットボトルの水を飲みながらそう言うと、呆れたようにため息を吐かれた。

 

「だから、言ってるでしょう。ホンの少しでも使える人なんてごくごく僅かなのよ。滅多に会えるもんじゃないわ。あなたが使えるって聞いて驚愕したわよ」

念使いは貴重な人材なのよと、レアは告げる。そう考えると最初から念を使えたチートな俺はともかく、ポチはまさしく天才だったのか。人と獣とでは勝手が違うかもしれないが。

ちなみに俺が念使いだというのは証明済みだ。水見式を見せれば一発で分かるから簡単なものだった。初めて念をみたレアは興奮していてなかなか面白かったが。

 

結局、レアとは一緒に行動することになった。同じ転生者ということで困っているなら助けたいし、俺にしてもレアがいることはメリットになるからだ。

例えば、この世界の文字について。指導者もなしに文字を覚えるのは至難の技だ。しかしレアは、もとは底辺の家庭育ちとはいえある程度の教養はあるらしい。文字を教えてもらえれば、買い物をする時の問題が一つ解決する。文字に限らず、社会で生きるためにはそこで生きてきたレアの知識が有用だ。この世界のどの人間とも接点のない俺にとって、転生という共通項のあるレアは割と貴重な存在だった。

レアは儲けるための手段を、俺は知識……専ら常識を知る手段を互いに必要としていた。巡り合いは俺の容姿からだが、出会えたからにはお互いの利益になる行動をするべきだろう。

感慨に耽っていると、レアは胡乱げにこちらを見てきた。

 

「それにしても、その格好はどうにかならないの?」

 

その格好とは今の俺の状態のことだ。目深に帽子を被り、サングラスをかけたこの姿。これでマスクでもしていれば立派な不審者である。

自分でもこの格好は職質されても仕方ないと思うのだが、俺は顔を隠す必要があった。

肩を竦めて、レアに答えた。

 

「しょうがないだろう。レアみたいな転生者が他にいないとも限らないし。顔のせいでいちゃもんつけられたら面倒だ」

 

いくら獣の耳と尻尾がないとはいえ、顔はネフェルピトーそっくりなわけで。見る人が見れば俺が転生者だと気づかれてしまうかもしれない。

ましてやこれから向かう天空闘技場では数多の衆人の目に晒されるのだ。この世界にどれほど俺たちみたいな転生者がいるのか分からないが、余計なトラブルを増やさないためにも、警戒するに越したことはない。

 

「それは分かってるけどさ、もうちょ〜っと何とかならなかったの?さっきから視線が煩わしいのよ」

 

まあ確かに、ここまでする必要はなかったかもしれない。空港でも危うく通報されかけたし、今もヒソヒソとあちこちで噂されている。

 

「……金が入ったら何とかするさ」

 

髪を染めてストレートにするだけでも大分印象は変わるだろうし、やるかどうかはさておき、整形すれば完全に別人になるだろう。どんな活動をするにしても先立つ物が必要だが。

 

「ま、私はあんたで稼がせてもらうんだから、あんまり強く言えないんだけどさ」

 

そう言ってレアは窓の外へ目をそらす。レアは飛空艇に乗るための代金は持っていたのだが、賭けに参加するためには少し足りなかった。そのため俺が金を貸すことになったのだ。

騙しとられるかも、という危機感は全く感じなかった。黒目玉を具現化してレアを見る。

 

『正直こんな格好のアヤシイヤツと一緒にいたくないなぁ。でも稼がないとどうしようもないし、借りも作っちゃったし。変質者みたいねって言ってコロされる可能性も、まあ無きにしも非ずだし。早く稼いで、マシな格好になって欲しいなぁ』

 

……そっと黒目玉の具現化を解除する。どうもこの黒目玉、対象を凝で視た時間が長い程思考を読めるようになるようだ。自分の能力のことを知らなかったのは致命的だが、ポチとともに暮らしていた時は比較対象などいないため仕方が無いだろう。

金を貸した時に黒目玉でレアを視たとき、彼女に騙すような意思はなかった。心変わりする可能性もあるが、今は彼女を信じることにする。それにこれから稼ごうとしている額に比べたら、貸した金はホンの少しだ。金が帰ってこなくても何とかなる。

楽観的に考えながらも俺は密かに握りこぶしを作った。早急な見た目の改善を決意する。見た目10歳の少女から変質者のように思われているのは思った以上に心にキていた。

 

「それじゃあ50階の観客席でで待ってるわよ!」

 

天空闘技場に着くや否やレアは止める間も無く走って行ってしまった。俺が50階に行くかどうかも分からないというのに、気の早いことだ。選手用の長い行列に加わる。選手の人々がこちらを睨むように見てきた。先ほどのレアとのやりとりが気に食わなかったらしい。だが俺を見るなり鼻を鳴らして小馬鹿にしたように笑ってきた。どうやら舐められているようだった。

「おうおう、ひょろいのがこんなトコしてんじゃねぇぞ!」

「デカイの、軽ぅくやっちまえ!」

 

リングに入るなりヤジが飛んできた。そんなに俺はひょろく見えるのだろうか。肉付きはいい方だと思うのだが。

大罵声の中試合が始まった。相手はレスラーのような体格で、俺を掴もうと手を伸ばしてきた。胴を捻ってその手を除け、ついでに相手の正面に入る。

一撃。鳩尾に十分手加減した拳を叩きつけた。それで男は泡を吹いて倒れてしまった。

いつの間にかヤジだけでなく周りが静かになっていた。何となくいたたまれなくなり、審判から50階の切符を受け取ってそそくさとリングから降りて行った。

 

 

「凄い、凄いわよ!たった1試合で10万ゼニー!3万ゼニーが3倍超よ!」

 

レアはメチャクチャはしゃいでいた。俺の50階の試合にかけていたようで、賭けに勝ってご満悦のようだ。その場で踊り出しそうなほどだ。

対して俺は不機嫌だった。苦々しい表情なのが自分でも良く分かる。

 

「どうしたのよフェル。あなたもファイトマネーが手に入って嬉しいでしょうに」

 

俺の顔をみてレアは心配そうな顔をした。

 

「いや、賞金が手に入ったのは嬉しいんだけどね……」

 

二試合目もまた、対戦者に舐められたのだ。それもただ煽って来るのではなく、俺の性別を絡めて。

 

「このカマ野郎って、言われたのは結構ショックだった」

 

「あー」

 

納得したのか、レアはポンと手を叩いた。

 

「そりゃあんた、体型が問題なんでしょうよ。他の野郎と比べたら、フェルは異常にスマートだし。私も聞かされるまでは女だと思ってたし」

 

気まずそうに言ってきて、ますます俺は落ち込んだ。

 

「ほ、ほら!暗い気分に浸るのは後後!折角金が増えたんだから美味しいもの食べに行きましょう!何食べたい?」

 

「魚!」

 

食らいつくように答えると、レアは一瞬仰け反り、しかしニヤリと笑みを浮かべた。

 

「OK、そう言うと思って美味しい魚貝類のレストランを探しといたわ。嫌なことは食べて忘れましょう!」

 

そのあとは魚料理を半ばやけ食いし、ついでにレアと酒を酌み交わした。嫌なことも多々あったが、レアと笑いながら酔っ払うことで、そんなことは簡単に吹き飛んだ。

久しぶりに、楽しい食事だった。


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