ハンター世界での生活   作:トンテキーフ

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旅をするのに必要なもの
受けるか否か


「どうしてもいけませんか。……分かりました。はい、はい。了解です」

 

 最近買ったばかりの携帯電話の電源を切り、一息つく。隣でファッション雑誌を読んでいたレアが顔を上げた。

 

「どうだった?予想はつくけど」

 

「駄目だったよ。一般市民に特例を出すことは認められないってさ」

 

「やっぱりね」

 

 二人そろってため息をついた。完全に手詰まりだった。

 

 

 

 天空闘技場を出た後、俺たちは観光旅行に出ていた。ネット上で観光名所や食材の情報を仕入れて、興味が出た場所へ飛空艇なり客船なりを経由して赴く。見たことのない建造物、見たことのない動物、味わったことのない食べ物。様々に楽しいこと、面白いこと、美味しいものを経験することが出来た。

 そうしてある日、俺たちはいつも通りに情報を仕入れた未開の地へ旅行へ行こうとした。だが、飛空艇や旅客船側からNGが出てしまったのだ。

特別な資格がない限り、入ることもできないという秘境。身分上一般人である俺たちはどんなに金を積んでも弾かれてしまう。更に詳しく調べてみると、そのような一般人立ち入り禁止の区域はそこそこに多かった。

 

「どうしたものかな……」

 

思わずレアがごちた。久しぶりの悩みの種は彼女も存分に苦しめているらしい。

 いったん思考を止め、レアに話しかけた。

 

「取り敢えず、今日の分の修行をやっとこうか」

「オッケー」

 

レアも思考を切り替えたように、表情を引き締めた。

 

大体半年前くらいから、レアの修行は専ら俺との組み手になった。四大行、系統別の修行はもうレア一人でも十分にこなせるようになったからだ。その代わり、組み手の比重は高くなった。それもただの組み手でなく、能力使用ありの組み手だ。

 

「今日こそ一発入れてやるわよ!」

俺から目を離すことなく、レアは携帯型のタッチ式パソコンを具現化させた。凄まじい指使いでパソコンを操作し、操作を終えるとパソコンの具現化を解く。代わりに、レアの体長よりも大きな拳が現出していた。

 

「とりゃっ!」

 

 掛け声一喝。レアは間合いを気にしながら念拳を叩きこんでくる。軽くいなし、間合いを詰めようと踏み込むと、レアは後方へ大きく飛びのいた。

 

「まだまだぁ!」

 

 パソコンを具現化して、操作。レアは大きく足を振り上げ、地面に足を打ち付けた。

 飛んでくる波状のオーラ。サイドステップで波をかわし、次いでレアに向かって突進する。

 

「ほっ!はっ!」

 

 こちらの攻撃をギリギリで避け、レアは三度パソコンに指を走らせた。

 

 不完全な物真似(コピーキャット)。一度見た念能力の劣化コピーを作り出す能力。一度見ただけではせいぜい元の能力の1パーセント程度しか模倣が出来ないが、視覚情報、内部情報など、情報があればあるだけ模倣率は高くなる。現在、俺の矮小な巨人の手脚(ジャイアントキリング)が30パーセント、フーガの裏震脚は18パーセントほど模倣できているらしい。この能力の欠点は、一度に使える能力は一つまで、能力を切り替えるのにいちいちパソコンの操作が必要な点だ。特に能力の切り替えは戦闘で大きな隙になりやすい。レアは画面を見ずにパソコンを操作することでそのリスクを減らしていた。

 

 能力を模倣するという時点でかなり優秀な能力。しかしこの能力はレアのもう一つの能力を際立たせるための引き立て役だ。

 

「これならどうだぁ!」

 

 パソコンの具現化を解き、再び念拳が現れた。しかし先ほどまでのものと明らかに違う点が一つあった。

 念拳の周囲に渦巻く、振動するオーラ。オーラの振動が空気中に伝わり、金属のきしるような音が響いてくる。

 能力結合(スキルコンバイン)。二つの劣化コピーから一つの新しい能力を作り出す能力。

 レアは波渦巻く念拳を持って、大声を上げて俺に殴り掛かってきた。

 

「よっと」

「あぁ!」

 

 俺はレアに距離を開けさせず、懐に詰め寄って顎に拳を添えた。

 

「一本」

「くぅっ!」

 

悔しそうに呻くレア。さっと距離を取り、仕切り直しとばかりに相対する。今度は紐のついていない黒目玉を具現化させてこちらの出をうかがう。

 

「駄目だよレア。レアの修行なんだからそっちから来なきゃ」

 

 言いつつ、地面を蹴る。レアは俺の行動を読み取り対応しようとするが、速度が追い付いていない。

 

「一本」

「くぅぅ!」

 

 そんな状態で何度も組み手を続けた。

 

「それにしても、タフになったなぁ」

「師匠のおかげよ」

 

 じとっとした目でこちらを見てくるレア。そんな目で言われても皮肉にしか聞こえないのだが。

 修行が終わっても、レアは少し休んだだけで復帰していた。今も自分一人で反省点を洗っている。

 

「……やっぱり実践で使えるコピーが少ないのがネックよね。そう考えたら天空闘技場で能力を発現させてなかったのが痛いなぁ。200階クラスとか、コピーし放題だったじゃない。後は筋力。せめてフェルの突進に対応できるくらいはつけとかないと……」

 

 ぶつぶつつぶやくレアをしり目に、俺はこれからのことを考えた。

 

「……やっぱり必要かなぁ」

「……え?何か言った?」

「いや、ライセンスが必要かなって」

「えぇ!」

 

 レアは大げさに驚いた。いつかのように目が煌めいている。

 

「ライセンスって、あのライセンス?」

「どのライセンスか知らないけど。ハンターのライセンスだよ」

 

 レアの目が輝く理由に思い至らずも、答える。

 ハンターライセンス。莫大な価値を誇る、ハンターである証。そして最も重要な効力が、民間人入国禁止の国の90%、立ち入り禁止地域の75%まではいることが可能になる、というもの。

 民間人では入れない場所も、ハンターになれば入ることができるようになる、ということだ。

 

「そっか、そっか……」

 

 レアはそわそわし始めた。首を捻りつつ、ハンター試験の日時を思い出す。試験は大体年明けに行われる。受付の締め切りが12月31日で、今は11月15日だから余裕はある。今年は1998年だから来年は……

 

「あ」

 

 さっと振り返る。レアも同様にさっと顔を逸らした。

 

「ねぇ、レア」

「……なにかしら」

「初めて俺と会った時のこと、覚えてる?」

「……私がフェルをストーキングしていたのよね」

 

 当時、レアはネフェルピトーそっくりの俺の後をつけてきていた。それはつまり。

 

「レアって、ミーハー?」

「ぐぅっ」

 

 レアは唸り、開き直ったかのように吠えた。

 

「……えぇ、そうよミーハーよ!いいじゃない、憧れた世界で、好きだったキャラクターを一目見たいって思っても!」

「いや、悪くはないけど……でもなぁ」

 

 俺は渋った。レアの気持ちは分かる。ただ、どうしてもリスクは高くなる。

 一つは、ほかの転生者たちも同じように考えている可能性。もし彼らも試験に参加しようものなら、この容姿では非常に目立つ。ただ、そのリスクは俺がまた変装でもすれば何とでもなる。危険なのはもう一つのリスクだ。

 殺人者の存在、つまりヒソカがこの試験に参加していること。俺一人なら何とか切り抜けられるかもしれない。だが、もしレアが目をつけられてしまったらどうか。

 

「……ねぇ、私はいいわよ。本当、命投げ出してまで彼らに会いたいとは思わないし」

 

 俺が悩んでるのを察して、レアが言った。確かに危険なことではある。だが、そんなことを言っていたら二年以上もハンター試験を見逃さなくてはならない。流石に、そこまで待つわけにはいかない。もともとハンター試験にリスクはつきもの。リスクを怖がって怯えていたら、何も出来なくなる。

 

 自分の感情を押し殺しているレアに、言った。

 

「……可能な限り、他の参加者には接触しないこと」

「フェル……?」

「危険だと思ったら凝をして、本当にマズイと思ったら念で切り抜けること」

「……」

「出来るだけ一人にならないこと。つまり、なるべく俺と一緒にいること。……それらが守れるなら、今回の試験に参加しよう」

「フェルっ!」

 

 レアは俺の右手を握り、ぶんぶんと振り回した。喜色満面の表情。その顔を見て……何故だか、胸が痛くなった。




 レアの能力はウィザーズ・ブレインから

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