仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第六十六話 「桜舞い剣が舞う 後編」

一人の戦士と騎士の戦いが始まってから既に五分が経過していた。

間合いを詰めて鍔迫り合い状態になるライナー電王とシグナム。

膠着状態はすぐに解けて、互いに後方に下がって出方を窺っていた。

「動かない。いや動けないな……」

「ああ。出方探ってやがるぜ……」

高町恭也の言葉にモモタロスが頷く。

ライナー電王がじりっと間合いをゆっくり詰め始めていた。

「良太郎君が詰め始めた……」

高町美由希はライナー電王の小さな動きを見逃さなかった。

「でもシグナムも詰めてる……」

フェイト・T・ハラオウンもシグナムの動きを見逃さなかった。

「フェイトちゃんと戦ってる時とシグナムの雰囲気違うように感じるんは、わたしの気のせいなんかな……」

八神はやてがシグナムがフェイトと戦っている時とは違う気迫もをって戦っている事に勘付き始めた。

「気のせいじゃないよ。はやてちゃん。良太郎とシグナムさんの戦いはフェイトちゃんの時とは違うよ」

はやての直感は間違っていないとウラタロスが後押しする。

「動くで」

「うん」

キンタロスとリュウタロスが言うように、出方を窺っていた両者が動き出した。

 

 

レヴァンティンを無形の位で構えていたシグナムは上段に振り上げて振り下ろす。

ライナー電王はデンカメンソードで受けようとはせずに右にサイドステップをして避ける。

シグナムはそれを予想していたのか、すぐさまライナー電王と直線上になるように足を運んでそのまま

レヴァンティンを引いてから、顔面に突きを繰り出す。

「くっ!」

ライナー電王は顔を右に傾けてその突きを避ける。

左足を振り上げて、前蹴りを放つ。

「!!」

シグナムはキチンとそれを両目で見切っていたので、後方へと退がってからレヴァンティンを両手で握り直して、一気に間合いを詰めてから軽く跳躍して脳天に狙いをつけて振り下ろす。

デンカメンソードを前に出して、受け止める。

レヴァンティンとデンカメンソードがぶつかって火花が散る。

ガコンとライナー電王の両脚が地面にめり込む。

「はあああああっ!!」

宙に浮いての攻撃である事から飛行魔法を用いている事がわかる。

今度は前々回と違って、相手の土俵に合わせる気はないということだ。

「ぐっ!」

右、左、斜め下、正面とレヴァンティンを様々な方向から乱撃しながら防御体勢を崩そうとしていた。

更なる一撃をデンカメンソードに繰り出そうとするとみせかけて、軌道を変えて左薙に狙いをつける。

レヴァンティンの刃がライナー電王の左脇腹に触れ、そのまま鋸を引くようにして引く。

「ぐああっ!!」

左脇腹から火花が飛び散り、ライナー電王は声を上げる。

シグナムはレヴァンティンを白刃ではなく、峰となっている部分へ向きを変えてライナー電王の左即頭部へと狙いをつける。

「はあああっ!!」

レヴァンティンを棍棒のようにして、ライナー電王を殴り飛ばした。

「ぶっ!」

ライナー電王は防御の姿勢も取れずに地面に突っ伏した。

全身がぴくぴくと痙攣していたが、地に足着けたシグナムは表情を一つも緩めていなかった。

 

 

「良太郎さん。負けちゃったの?」

「でも、シグナムさん。全然動こうとしないよ」

アリサ・バニングスと月村すずかが倒れているライナー電王とその場から動こうとしないシグナムを見て首を傾げていた。

「流石にシグナムさんも警戒してるね」

「うん。それだけ良太郎さんが手強いって事だもん」

ユーノ・スクライアと高町なのはも現在の状況を見て、終局したなどとは考えてはいなかった。

「でもなのは。良太郎さん斬られて殴られてるわよ!?あそこから立ち上がるの!?」

「とても痛そうだよ。それでも立つの?」

不安げな表情を浮かべているアリサとすずかは、冷静に現状を見ているなのはとユーノを見る。

「立つよ」

「なのはの言うとおり、良太郎さんは立ち上がるよ」

「「………」」

二人が自信を持って断言しているのを見て、アリサとすずかは黙って見ている事にした。

 

 

「………」

シグナムはうつぶせになっているライナー電王を見下ろしていた。

(この程度で終わるわけがあるまい)

手応えは確かにあった。

だが、『決定打』と呼べるほどのものではない事は与えた自分が一番理解していた。

普通の魔導師ならコレで終わりだが、相手は電王であり自分に唯一『恐怖』を感じさせた人間だ。

警戒しすぎてちょうどいいくらいなのだ。

「う……うう……」

ライナー電王が起き上がる。

首をバキボキ鳴らしてから、その場で軽くタンタンと跳躍する。

「流石だな」

シグナムは起き上がるライナー電王を見て、笑みを浮かべる。

「まさか、空中での戦闘方法が加わるだけでこうもやり辛くなるなんて……」

「お前相手に空を場にして戦う事は卑怯とは思わん」

直後に地に足着いたシグナムの足が宙に浮く。

その場で素早くクルリと回りながら右手に握られているレヴァンティンを胸部に狙いをつけて斬りつけようとする。

パチッとレヴァンティンの刃先がライナー電王の胸部に掠った。

一周を終えると、構えを八相の構えへと切り替える。

「はあああっ!!」

シグナムはレヴァンティンで胸部を狙った突きを繰り出した。

「!!」

ガキンという音がシグナムの耳に入った。

一直線に狙いをつけたレヴァンティンの軌道が障害物に当たったことでずれたのだ。

障害物---逆手に持っていたデンカメンソードのターンテーブルだ。

順手に持ち替えてライナー電王は負けじと突きを繰り出す。

「その剣では突きは不向きだぞ」

『剣』の扱いでは自分の方が利があるので、シグナムはデンカメンソードが『突き』には不向きだと看破していた。

完全に伸びきったところを見計らって、シグナムはレヴァンティンをデンカメンソードが握られている右手に狙いをつけて振り下ろす。

「がああっ!!」

ライナー電王の右手から火花が飛ぶ。

デンカメンソードは手から離れて、地面に落ちる。

追撃としてシグナムは右上段回し蹴りをライナー電王の顔面に叩き込んで、吹っ飛ばす。

とシグナムは予想した。

だが現実にはというと。

ダメージを受けてはいない左腕で防御していたのだ。

「左腕はダメージを受けてはいませんからね……」

「だが痺れてはいるぞ」

右足をすぐに引き戻す。

「痺れてるだけ(・・)です!」

空いていた右腕を掬い上げるようにして放つ。

ブオンという音を立てるが、空振りに終わる。

スウーっとゆっくりと後方に下がりながら、着地する。

ライナー電王がデンカメンソードを拾い上げていた。

 

デンカメンソードを拾い上げながら、ライナー電王は対策を練っていた。

『剣』を用いての戦いならば自身は圧倒的に不利だというのは最初からわかっていた事だ。

武器術は『腕力』ではなく、『技術』が優先される部分が大きい。

こと『剣』に関しての技術ならば自分はシグナムよりも圧倒的に劣る。

『勝ち』を得た戦いだって、彼女が自分に合わせて(・・・・・・)戦っていた際に勝ちを拾っただけに過ぎない。

だが今回は違う。

彼女は自身が持てる術を駆使して自分を倒しに来るだろう。

(やっぱりレヴァンティンを離さない限り、僕に勝ちは見えてこない……)

シグナムからレヴァンティンを離すなんて事がどれだけ至難な事なのかはライナー電王は理解している。

だが、今のところそれ以外に勝機が見えてこないのも事実だ。

(でもどうやって離せば……)

シグナムが先程自分に仕掛けてきた事のような芸当をやれるかといえば答えは「無理!」と即答できるだろう。

(力技で行くしかない)

自分が唯一勝っているとしたら多少の無茶が通る力技くらいしかないだろう。

考えがまとまるとライナー電王はデンカメンソードを構える。

そして、駆け出す。

両手でギュッとデンカメンソードのグリップを握り締めてから、袈裟に狙いをつけて切りつける。

大振りな上に鈍重なので、シグナムがレヴァンティンを用いずにさらりと移動だけで避ける。

レヴァンティンの切先がこちらに向いているのがわかる。

左手をグリップからデルタレバーへと移動して、引っ張る。

『ウラロッド』

電仮面ソードからロッドへと移り変わる。

左足を強く地面に踏みつけてから、右上段回し蹴りを放つ。

ウラタロスの能力状態である『ウラロッド』から放たれる蹴りはどの電王からも繰り出される蹴りよりも鋭い。

シグナムは咄嗟の事なので、左腕で防御する。

「ぐっ!」

この戦いで初めて苦悶に満ちた表情を浮かべている。

宙に浮いているシグナムの両脚が地面にはめり込まないが、それでも数センチ地面に近くなっていた。

右足を引き戻してからすぐさまに右前蹴りを放つ。

仰け反って避けられるが、そのまま真っ直ぐに振り下ろして踵落しへと転ずる。

更にバックステップで後退する。

「危なかった。剣で追いつかないなら蹴りへと転じたわけか……」

「それでも避けちゃうんですね」

「当たればダメージになるからな」

笑みを浮かべてシグナムは返すが、最初に防御した左腕はまだ痺れているようだ。

それでもまだダメージの割合でいえば自分のほうが多く受けている。

「やあああっ!!」

ライナー電王はデンカメンソードのグリップを両手で握り、上段に構えてからそのままシグナムの脳天目掛けて振り下ろす。

レヴァンティンで受け止める。

ガキンと音が鳴った直後に、デンカメンソードを引き離してから右下段蹴りをシグナムの左ふくらはぎに食らわせる。

「ぐっ!!」

苦悶の表情を浮かべているのを見て勝機と捉えて、更に同じ箇所に蹴りを入れてから左足を振り上げて右側頭部狙いの左上段回し蹴りを放つ。

「ぬうううう!!」

レヴァンティンを握った右腕で防御を取らざるを得ない。

だが右上段回し蹴りを受けて止めたのとは意味合いが違ってくる。

武器で防御したのではなく、武器を持った手で防御したのだ。

レヴァンティンを握る右手も小刻みに震えていた。

『キンアックス』

デルタレバーをすぐに引いて電仮面ロッドから電仮面アックスへと切り替わる。

そして左手でレヴァンティンの刀身を握った。

 

 

「後れを取ってないな。それどころか戦い方を掴み始めている」

桜井侑斗がライナー電王の戦いぶりを見て、『飛行できない』というハンデなどものともしない状態になっている事に小さく笑みを浮かべていた。

「それでもダメージなら野上の方が多い。油断は出来ない」

デネブの言う事に侑斗は首を縦に振る。

「どちらかがそろそろ使い始めるぞ……」

「何をや?」

はやてが侑斗の言葉に首を傾げる。

必殺技(とっておき)をだ」

「とっておき?」

「でも侑斗。シグナム、レヴァンティン捕まれてるから使えねーじゃん!」

ヴィータの言うようにレヴァンティンを捕まれている以上、必殺技は使えないと考えるのは自然の流れといっても不思議ではなかった。

「そろそろって言っただろ。今じゃないさ」

三人はまた、戦いに身を投じている二人に視線を向け直した。

 

 

レヴァンティンを握っているライナー電王と握られているシグナムが睨みあっていた。

「は、離せ!!」

「こうなる状態になるのを待ってたんです。そう簡単には離しません!」

レヴァンティンを握る左腕の力を強める。

そしてそのままシグナムの手から抜くようにして引き抜いた。

引き抜いたレヴァンティンをそのまま後方へと放り投げる。

地面にドスっと突き刺さる。

刀身を握っていた左手はバチっと火花が飛んでいた。

痛みをこらえてデルタレバーを引っ張る。

『リュウガン』

電仮面アックスから電仮面ガンへと切り替わる。

デンカメンソードを一旦引く。

そして、右足を前に出すと同時に突き出す。

レヴァンティンを持っていないシグナムは後方に退がる。

といっても極端に距離を開けるのではなく、刃先が当たらないギリギリの距離までだ。

(この距離なら!)

シグナムは安全距離に着地する。

ライナー電王は『突き』の体勢を解こうとしない。

デンカメンソードの刃先から紫色のエネルギーが充填されて、発射される。

「な、何!?」

何かが来ると気付いた途端には既に遅く、爆煙が立った。

 

 

「ちょ、直撃!?シグナム大丈夫かしら!?」

「落ち着けシャマル。防御の姿勢くらいは取っているだろう」

シャマルがオロオロし始め、ザフィーラ(獣)が落ち着くようにとりなす。

「あの至近距離だから、防御しても相応のダメージは覚悟しないと……」

「アレで無傷だったらむしろスゴイよねぇ」

フェイトとアルフ(こいぬ)が例え無事でもダメージは受けていると予想する。

爆煙が晴れる前に何かが夜空から抜けて、レヴァンティンが突き刺さっている場所までそのまま移動してから着地した。

何か---騎士甲冑の節々が汚れたり破損したりしているシグナムだった。

レヴァンティンを引き抜いてからシグナムは構えていた。

 

 

空へ足場を移して後方へと移動してレヴァンティンを抜いたシグナムはそのままライナー電王との間合いを詰める。

ライナー電王は振り向いてデンカメンソードで受け止める。

「まさかあの至近距離から飛び道具を出してくるとは思わなかったぞ……。本当に私を楽しませてくれる……」

シグナムの瞳が輝いていた。

鍔迫り合い状態から後方へと退がる。

レヴァンティンを振り上げる。

足元に紫色のベルカ式の魔法陣を展開させる。

「レヴァンティン。カートリッジロード!!」

レヴァンティンは主の命令に従うようにして、排気カバーをスライドさせてガシュンと音を立てて蒸気を噴出させる。

レヴァンティンの刀身に紅蓮の炎が纏わりつく。

「紫電……」

そして、足元の魔法陣から離れて一気に間合いを詰める。

 

「一閃!!」

 

ライナー電王との距離がゼロになると、紅蓮の剣で袈裟斬りを繰り出す。

「ぐ……わあああああああ!!」

デンカメンソードで防ぐが、それでも完全に封殺することは出来ずに後方へと吹っ飛ばされた。

あお向けになって倒れて、ズルズルズルと滑っていく。

シグナムはその後景を見届けながら排気カバーがスライドして使用済みのカートリッジが排莢されると、新しいカートリッジを放り込む。

ライナー電王は全身をブスブスと煙を立てながらも立ち上がる。

(鞘を最初に放り捨てた以上、飛龍やシュツルムは使えんな……)

鞘を用いて使う技は自分の中には二つある。

鞘は破壊されたわけではないので、拾えば使うことが出来る。

だが落ちている物を拾って使うのではなく、自分から捨てた物をもう一度拾って使うなど騎士としての恥辱であるため使わない。

(紫電を除けば使えるのは二つか……)

鞘を使わずにカートリッジをロードして用いれる魔法は『陣風』と『シュランゲバイセン』しかない。

その二つを使えば勝てるかどうかといわれると、「わからない」と返答してしまうだろう。

立ち上がってこちらに向かってくる限り、戦いは終わらない。

ライナー電王---野上良太郎の闘志が尽きない限り、終わりはないのだ。

(野上は戦う事の恐怖を知っている。だから恐怖を与える事で戦いが終わるという事はない。確実に力尽きさせない限り、私に勝ちはない)

今まで戦い、屠ってきた相手は皆力尽きる前に『恐怖』を植えつけられて戦意を喪失して果てている。

だが眼前の相手はそんな理屈が通じる相手ではない。

『恐怖を植え付けられた者』ではなく、『恐怖を植えつける者』なのだから。

騎士甲冑のポケットをまさぐってある物を取り出す。

バラけているカートリッジが八個、掌に収まっていた。

なのはのようなマガジンに装填されているわけでもなく、フェイトのようにスピードローダーにも収まっていないので、バラバラだ。

あまりたくさん持っていても下手をすればデッドウエイトになりかねないし、少なすぎると心許ない心境になる。

(必殺技を使えるのは、レヴァンティンに収まっているのを含めても後九回か……)

「レヴァンティン!」

シグナムはレヴァンティンを振りかぶる。

レヴァンティンは排気カバーをスライドさせて蒸気を噴出させる。

標的はこちらに向かって歩いてくるライナー電王だ。

間合いを詰めることなく、その場で薙ぎ払うようにしてレヴァンティンを振るう。

「はあっ!!」

レヴァンティンから放たれた衝撃波が一直線にライナー電王へと向っていく。

 

(何か来る!)

それが何なのかはわからないが、ライナー電王は直感で感じた。

足元の雑草が一瞬だが風でなびいているように見えた。

(風?)

現在、風は吹いていない。

そんな状態で雑草がなびくように動くなんてありえない事だ。

(という事は……)

デンカメンソードを前に突き出して、中腰で防御体勢を取る。

ドォンという衝撃がライナー電王の正面からぶつかってきた。

両脚が下がり、ズルズルズルと音を立てながら砂煙が舞う。

(目には見えない衝撃波か。撥ね返すこともできないし、弾く事も出来ない)

フリーエネルギーの弾丸で打ち消す事も考えたが、タイミングが掴めないものに無駄弾を使うわけにはいかないので却下した。

デルタレバーを引く。

『モモソード、ウラロッド、キンアックス』

電仮面ガンから電仮面ソード、電仮面ロッドと回転しながら電仮面アックスへと切り替える。

(なら撃たれても倒れない状態で前へ進めばいい!)

ザッザッザッとライナー電王は歩き出す。

レヴァンティンの排気カバーがスライドして、空になったカートリッジが排出される。

カートリッジを放り込む。

排気カバーがスライドして収まった。

(撃ってこない……)

明らかに今の状態に警戒している事は確かだろう。

「ふううーっ」

立ち止まって深呼吸をしてから、再びゆっくりと歩き出す。

シグナムが八相の構えで待っている。

足元を見ると地に足着いていた。

 

 

「………」

モモタロスが小刻みに震えていた。

「どうしたの?モモ君」

美由希が心配げな表情で様子を窺う。

「どうした?静観するという性格でもないだろうにらしくないじゃないか」

恭也にしてみても、モモタロスがいつもと違う態度をしているのは気になるところだ。

 

「俺も混ざりてえええええ!!」

 

モモタロスの叫びにギャラリーの殆どがそちらに視線が向く。

「馬鹿かお前!そんな事大声で叫んでんじゃねーよ!!」

静かに観戦と洒落込んでいたヴィータが叫ぶ。

「うるせぇ!テメェは何も思わねぇのかよ!?赤チビ!」

「あたしはお前やシグナムと違って、バトルマニアじゃねーんだ。そんな事感じるかってーの!」

「まぁ、オメーは俺と戦って負けてるもんなぁ。二回も(・・・)

ピキッとヴィータに青筋が立った。

「あぁ?今何か言ったか?赤鬼ぃ」

ヴィータが待機状態だったグラーフアイゼンを展開して、右肩に凭れさせる。

二人を中心にその場の空気が固まるような感じになっていく。

もはや誰にも止められないと感じた時だ。

「こらヴィータ!!」

「このバカモモ!!」

ヴィータは、はやてに耳を引っ張られながら叱られ、モモタロスはコハナに腹部を正拳突きを食らって地面に突っ伏していた。

 

 

駐屯地としての機能は失われていないハラオウン家ではというと。

「凄い戦いだねぇ。シグナムも良太郎君も……」

「ああ。だが、良太郎はまだアレを出してはいないな……」

エイミィ・リミエッタ、クロノ・ハラオウン、リンディ・ハラオウンと昼間にへべれけに飲んで現在頭を冷やしているレティ・ロウランがモニターを見ていた。

映っているのはライナー電王とシグナムである。

「アレというのは『修羅』という状態の事ね」

「はい」

リンディが婉曲的な表現の正解を言い当て、クロノは首を縦に振る。

「私は実際に見ているわけじゃないからわからないけど、そんなに凄いの?」

エイミィはモニター越しにしか見ていないので『修羅』となった良太郎の迫力のようなものが今ひとつ伝わっていない。

「凄いというよりは怖いな……」

クロノはその時の事を思い出したのか、腕組をしながらも少しだけ震えていた。

「クロノ君?」

「失礼。あの状態の良太郎は『強い』わけでも『凄い』わけでもないんですよ。ただただ『怖い』んですよ」

レティが心配してくれる事に感謝しつつ、クロノは初めてあの状態になったライナー電王を思い出していた。

「あの状態になったらシグナムは良太郎には勝てないでしょう。むしろシグナムの身が心配されます」

「いくら何でもそれは大袈裟なんじゃ……」

「ネガタロスだから死なずに済んだといってもいい。あの状態の良太郎は相手の命を奪う事なんかに一切の躊躇いも持っていないんだからね」

「あの良太郎君が!?嘘でしょ!?」

エイミィも流石に驚きを隠さなかった。

だがクロノが冗談を言っているわけではないという事は付き合いの長いエイミィには理解できた。

 

 

(あの歩法。防御に自信のある状態に切り替えたな)

シグナムはじりじりと詰める。

間合いを一気に詰めてもいいが、予測が当たっていればレヴァンティンを振り下ろしてもダメージを得る事は出来ないだろう。

(ならばその距離からの攻撃を受けてもらうぞ!)

八相の構えを解いて、レヴァンティンを下ろす。

「レヴァンティン!」

『シュランゲフォルム』

排気カバーがスライドしてカートリッジロードする。

レヴァンティンのセレクタダイアルがシュベルトフォルムから切り替わるようにして動く。

直剣だったレヴァンティンは蛇腹剣の如く伸びる。

鞭のようなしなやかさと剣の鋭さを兼ね備えた状態になる。

「行けぇ!」

レヴァンティンを釣竿のようにして振り上げてから下ろす。

鋭い刃を持った蛇がライナー電王へと向っていく。

地中に潜ってからすぐにうねりを上げて上昇する。

地上に出た剣の蛇は、また地中に潜る。

獲物を狙い定めるかのように地中を動き回る。

ライナー電王はその場から動かない。

というよりは下手に動く事が出来ないといったほうがいいのかもしれない。

(下手に動けば餌食になる。だが動かなくても蛇はお前を噛むぞ)

剣の蛇を操っているシグナムの思惑だ。

 

(これは一体……)

ライナー電王に取って初見なのでどういう魔法が繰り出されるのかはわからない。

だがそれを知るために食らってやるほど体力に余裕はない。

だが今のキンアックス状態では対処はきわめて難しいと判断できた。

『リュウガン』

デルタレバーを引いて、電仮面アックスから電仮面ガンへと切り替える。

足取りが鈍重なものから軽快なものへと変わる。

地中に潜っていた剣の蛇が顔を出して、狙いをつけてきた。

「!!」

ステップを踏む足取りで、剣の蛇の攻撃を避けていく。

(鞭などの場合は鞭そのものよりも、鞭を使っている人間の動きを見たほうがいいんだ)

ライナー電王は予測のつきにくい剣の蛇よりも術者であるシグナムの動きに視線を向ける。

シグナムが左右動かしながら、レヴァンティンを振り下ろした。

剣の蛇はうねりを上げたり、地中に潜ったり這い出たりしながらもライナー電王を囲っていく。

そして狙いを定めて剣の蛇は牙をライナー電王の脳天に向って急速に落下していく。

「!!」

ドオオオンという爆発が起こった。

土煙が激しく舞った。

 

 

「勝負あった、か……」

ザフィーラが結論付けようとしていた。

「シグナムをあそこまで追い詰めれるなんて、テスタロッサちゃんよりも強いってのは嘘じゃなかったのね」

シャマルももう終わりだと思い、回復の準備に取り掛かろうとする。

「アレってまさか……」

アルフが顔を向けている方向にザフィーラとシャマルも向ける。

土煙が晴れていく中で人影が一つ立っていた。

「良太郎だよ」

フェイトが立ち上がって二人の戦いを見る。

(良太郎もシグナムも体力的にそろそろ限界をきはじめている。恐らく次で決め手になる。魔法もフルチャージも使わないただ『勝つ』って気持ちがこもった一発を打つ!)

フェイトをこの戦いが終止符を迎えようとしている事を予感していた。

彼女の本音としては良太郎を応援したいが、自分の立場は見届け人。

公平にしなければならないのだ。

 

 

シュランゲフォルムからシュベルトフォルムへとレヴァンティンを戻したシグナム。

『リュウガン』から『モモソード』へと切り替えて両肩を上下に揺らしながらも、息を整えてその前に立つライナー電王。

「カートリッジは残っているが、流石にもう使う余裕はない。私が持ちそうにないのでな」

「僕もそろそろ限界です……」

互いに本音を言う。

「恐らくは次の一手が我等にとっての最後だろう。だからこそ最後に訊ねたい。この戦いが終わっても私と仕合う気はないのか?」

「すいません。命を奪い合いが前提での戦いでない限りはもう戦いたくはありません」

「何故だ?」

互いにデンカメンソードをレヴァンティンを構える。

ライナー電王は八相に、シグナムは正眼に構えていた。

 

「女の子を殴りたくないからです」

 

ライナー電王は苦しそうにしかし、本音を打ち明ける。

答えを聞いたシグナムは目をパチパチとする。

あまりに戦う者にとってはふさわしくない回答だからだ。

「そうか……」

シグナムは目つきを戻して、ライナー電王を睨む。

互いに同時に駆け出す。

「「うおおおおおおおお!!」」

シグナムはレヴァンティンを。

ライナー電王はデンカメンソードを。

 

渾身の一撃を込めて振り下ろした。

 

互いに斬り付けた状態になって通り過ぎた。

「ぐぅっ!!」

バチィっとライナー電王の左肩から火花が飛び散り、そのショックで右手に握られていたデンカメンソードが地面に落ちる。

右手で左肩を押さえながら、後ろにシグナムの様子を見る。

「楽しかったぞ。野……上……」

シグナムの腹部の騎士甲冑が破壊され、白い肌が露出していた。

レヴァンティンを突き刺し、両膝を地に着けて前のめりに倒れた。

 

その場にいる誰もがこの戦いが終わったと確信した。

 

 

決戦舞台となった場所には戦っていた良太郎、シグナム、見届け人のフェイトとお付のアルフに二人の治癒係であるシャマルと護衛であるザフィーラ。

後は何故かはわからないがまだ互いに睨みあっているモモタロスとヴィータ、そして仲裁に入ろうとしているなのはとユーノが残っていた。

他の者達は明日の事もあるので先に帰っていた。

良太郎はシグナムに肩を貸して、ゆっくりと歩いていた。

フェイトとシャマルがこちらに向かってきた。

「二人とも無事ってワケでもなさそうね……」

「わかっているなら早く回復を頼む……」

「僕もお願いします……」

「はいはい」

シグナムと良太郎に急かされたのでシャマルはすぐに治癒魔法を発動させる。

緑色の魔力が傷ついている良太郎とシグナムを包む。

傷という傷が全てなかったかのようにして消えていった。

「シグナム」

「何だ?テスタロッサ」

「本当にこれで良太郎と戦わないんですか?」

フェイトが治癒の終えたシグナムに確認するかのように訊ねる。

シグナムが約束を反故にするような事をするとは思えないが、念のためだ。

「ああ。そういう約束だからな。それにな、野上が最後に言った言葉を聞き私自身、不思議と不快に感じる事がなかったしな」

「何て言ったんですか?」

「女の子と戦いたくない、だそうだ」

その言葉を聞き、フェイトは納得していた。

「多分そういう理由だと思っていました。良太郎ならそう言っても不思議じゃありませんしね」

「そうか……。それとなテスタロッサ」

「はい。シグナム?」

シグナムはフェイトの側に寄り、耳元で語り始める。

 

「お前が野上に抱いている気持ちが私にも理解できたようだ。生まれて初めてだ。このような気持ちを抱くのは、それにその……悪くないな」

 

「はい。でも負けませんよ?」

「私もだ」

フェイトとシグナムは互いに笑みを浮かべて、握手をしていた。

モモタロスとヴィータがまだ口喧嘩をし、なのはとユーノが仲裁に入ってる光景を見ながら良太郎は笑みを浮かべていた。

「野上良太郎」

ザフィーラが良太郎の横に立ち、頭を下げた。

「ザフィーラさん?」

感謝されるようなことをした憶えはないが、良太郎は受け止める事にした。

「良太郎君も大変ねぇ。シグナムにテスタロッサちゃん。どっちも魅力的といえば魅力的よね」

シャマルが嬉しそうにしかしどこか、噂話が大好きなオバサン的な雰囲気を漂わせていた。

「何でそんな嬉しそうになんですか?」

「だってぇ私達ヴォルケンリッターのリーダーの心を射止めた人がいるなんて初めてのことよ。リィンフォースがいたらきっと驚くわよ」

「良太郎。アンタやっぱり罪な男だねぇ」

アルフが便乗してきた。

夜空は星が満ちており、流れ星がいくつか流れていたがここにいる誰もそんな事に目もくれてなかった。

 

 

翌日、チームデンライナーとゼロライナーは本世界へと戻っていった。

 

 

そして六年の月日が流れた。




次回予告

   最終話 「新たなる路線が走る」

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