仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第六十五話 「桜舞い剣が舞う 前編」

『闇の書事件』及び『ネガタロスの逆襲事件』から三ヶ月が経過した海鳴市。

 

季節は変わり、まだ若干の肌寒さがあるが『春』と呼ぶには相応しくなっていた。

冬の時には枝がむき出しになっている木々には桜色の花が満開になっていた。

野上良太郎はというと。

「はああっ!!」

赤と黒と白が目立ち、彼自身が主人格となっているフォーム---ライナー電王となって、子猫型のイマジンであるキトゥンイマジンと戦っていた。

「ちくしょう!折角噂で聞いた別世界で一旗揚げようと思ったのに思ったのに!」

キトゥンイマジンがフリーエネルギーを用いて爪を伸ばして切りかかっていく。

ライナー電王はデンカメンソードで繰り出される猛攻を全て防ぐ。

『こんな程度で旗を揚げようって考えてたのかよ?百年早ぇんだって事を教えてやったらどうだ?良太郎』

デンカメンソードのターンテーブルは『モモソード』になっているのでモモタロスの声が聞こえる。

「わかった!」

今まで防御に徹していたライナー電王は攻めの体勢へと入り始めた。

上段から振り下ろしてすぐさま右薙ぎに狙いをつけて横一線に振る。

キトゥンイマジンは持ち前の敏捷さで攻撃をかわしていく。

「これが幾多のイマジンを倒してきた電王の力かよ。楽勝だぜ!」

『たかが攻撃二回避けただけで調子に乗ってるぜ。あのバカ』

モモタロスがキトゥンイマジンのあまりの短絡ぶりに呆れていた。

「スピードは速いね。でも、防御しながらわかったけど攻撃力はさほど高くない。みんなの攻撃のほうがよっぽど効くよ」

『そこまでわかってるなら上出来だぜ。じゃあ行こうぜ!良太郎!』

「うん!」

声と同時にライナー電王は駆け出して一気に間合いを詰める。

「!?」

間合いを詰められたキトゥンイマジンは驚きの表情を浮かべながらも、右腕を振り上げてライナー電王の頭上に振り下ろそうとする。

ライナー電王がデンカメンソードを掬い上げるようにして振り上げて、狙いをキトゥンイマジンの伸びている爪に狙いをつける。

「ぐわあああああああ!!」

カランカランカランと切られた爪が地面に落ちて音を立てると同時に消滅する。

振り上げたデンカメンソードをすぐに引っ込めて、そのまま一直線にキトゥンイマジンの腹部に狙いをつけて突き刺す。

ザシュッと音が聞こえてくるような感触があった。

「ば、バカな……。この俺が一旗揚げるこの俺が……」

『オメェじゃ百年早ぇんだよ』

モモタロスは瀕死に追い込まれているのに野心を捨てないキトゥンイマジンに同じ事をもう一度告げる。

ライナー電王は突き刺さったままの状態でデンカメンソードを持ち上げて、一旦引き戻してから押し出す。

デンカメンソードの刃先からずるずるっと滑って後方へと飛んでいく。

ライナー電王が跳躍して、空中でデンカメンソードを両手で握って頭上に持ち上げて構えを取る。

そしてそのままキトゥンイマジンの袈裟に狙いをつけて、振り下ろした。

「くそおおおおおおお!!」

悔しげな声を上げながら、キトゥンイマジンは斬られて斬撃箇所から火花が飛び散って、爆発した。

ライナー電王の両脚が地に着くと、空中で爆煙が立っていた。

「これで終わったね」

『ああ。思ったより大したことのねー奴でよかったぜ』

爆煙が晴れていくのをライナー電王は見ている。

海鳴の空の一部が歪み、デンライナーとゼロライナーが線路を敷設しながら地上に停車した。

デンライナーからモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナ、オーナーが降車し、ゼロライナーからは桜井侑斗、デネブが降車した。

ライナー電王はデンオウベルトを外して変身を解除して良太郎に戻った。

「お疲れ様でぇす。みなさぁん」

オーナーの声に全員が顔を向ける。

「オーナー。今回逃げたイマジンってさっきの一体だけですか?」

コハナが代表して訊ねる。

「そうですねぇ。今回別世界に向ったイマジンは先程倒した一体だけですからねぇ」

「なら帰るか。変に長居するのも、な」

侑斗は用件が済んだので帰ろうと言う。

「お待ちくださぁい。折角ですから今日はこのまま一日泊まって明日帰るというのはどうでしょう?良太郎君は予定などはどうですか?」

この中でいきなりの予定に最も左右されるのは『ミルクディッパー』でアルバイトをしている良太郎だけだ。

「僕は大丈夫です。問題ありません」

良太郎の台詞にイマジン四体は諸手を上げて喜んでいた。

デネブもうんうんと首を縦に振っている。

「それでは皆さん。今日はそれぞれ海鳴市で自由に過ごしてくださいねぇ。明日、お迎えに参りますのでぇ」

オーナーはそう言うと、デンライナーに乗り込んで発車させた。

空の空間の一部が歪んで『時の空間』の中へと入っていった。

ゼロライナーも釣られるようにして、『時の空間』へと入っていった。

空間は閉じ、残ったのは人間が三人とイマジンが五体だった。

「野上。どう思う?」

「オーナーが意味なく僕達を一泊させるなんて思えないしね」

侑斗が訊ね、良太郎は思い立った事を口に出す。

「んでどうすんだよ?俺達好きにしていいんだよな?」

モモタロスが動きたくてうずいていた。

「そうだね。でもみんな一拍過ごすってアテはあるの?」

「僕達はなのはちゃん家に厄介になるつもりだよ」

「勝手知ったる人の家なんは、なのはの家だけやからなぁ」

「ママさんのケーキ食べれるかなぁ」

「士郎さんが淹れてくれるコーヒーも美味しいしね」

良太郎が訊ね、ウラタロスが答えてキンタロス、リュウタロス、コハナは高町家へ転がり込む気十分らしくそれぞれ思い入れがある事を想像していた。

「俺とデネブは八神家に世話になるつもりだ。お前はどうするんだ?」

「僕はフェイトちゃん家に厄介になるよ」

侑斗は自分とデネブも本日の宿泊先を決めてから、まだ宿泊先が明らかになっていない良太郎を訊ねるが、良太郎は即答した。

「それじゃ明日ってことで。オメェ等、遅れんじゃねぇぞ?」

一番集合に遅れそうなモモタロスの言葉を皮切りにそれぞれが散開した。

 

ハラオウン家に向っている良太郎は道中、何かを買おうかと考えたのが十年前

こちら

での貨幣を持ってきていないので、何も買うことが出来ず手ぶらで赴く事に若干の申し訳なさを感じながらも向っていた。

あれから三ヶ月経過しているだけあって何かが大幅に変わったというような印象はない。

「いきなり来たら驚くよね。というより、呆れられるかも……」

少しだけ否定的に感じながらも、良太郎はマンション入口に入ってハラオウン家がある階層のボタンを押す。

エレベーターがキンという音を立てる。

エレベーターのドアが開くので、中にいる人が出ることを優先させるようにして良太郎は譲る。

ドアが開く。

「あ」

「「「「「あ」」」」」

エレベーターの中にいた色々と荷物を抱えている五人は良太郎を見て目を丸くしていた。

良太郎もエレベーターから出てきた色々と荷物を抱えている五人を見て目を丸くしていた。

「えと……お久しぶり、です」

「「「「「良太郎(君)(さん)!?」」」」」

良太郎が後頭部を掻きながら先に告げた。

エレベーターの中にいた五人とはフェイト・T・ハラオウン、アルフ(人型)、リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタはまだ目を丸くしていた。

五人が素面に戻るのはそれから五秒後の事だった。

「貴方達は本当にいつもいきなりだな……」

クロノがいきなりの来訪に呆れ気味に言う。

『貴方達』というところからして自分以外もこちらに来ていると推測しているのが彼らしい。

「もしかしてまたイマジン絡み?それとも『時間』の影響?」

エイミィが良太郎達が来訪した目的を探る。

「まぁイマジン絡みなんだけどね……」

「もしかして厄介なヤツなのかい?あのネギタロみたいなヤツとか!?」

良太郎の返答にアルフは眉を吊り上げ、目つきが鋭くなる。

「アルフ。ネギタロじゃなくてネガタロスだよ。良太郎、わたし達にできる事ってある?」

フェイトもまたアルフ同様、真剣な表情になっていた。

「二人ともありがとう。でもね、心配はいらないよ」

「でもイマジン絡みなんでしょ?だったら……」

比較的余裕の表情をしている良太郎に対して、フェイトは焦っている。

イマジンの脅威を知っているからだろう。

「そのイマジンはさっき倒したからね」

「「「え?」」」

フェイトとアルフとエイミィは間の抜けた声を出す。

「三人とも良太郎さんの話を最後まで聞かなきゃ」

今まで黙って聞いていたリンディが勇み足を踏もうとした三人を窘めた。

「ところで良太郎さん。貴方達の習性といったら失礼になるかもしれないけど、イマジンを倒したのにどうして?」

リンディの見解では良太郎達は目的を果たせばすぐにでも本世界に帰ると思っているのだろう。

「僕達もそのつもりだったんですよ。でもオーナーが今日は別世界

こっち

で一泊過ごしなさいっていきなり言われてね。それで……」

「それで勝手知ったる我が家にきたってわけか」

良太郎が言おうとしている事をクロノが締めた。

良太郎は正直に首を縦に振った。

それを聞き、フェイトとアルフは喜色の表情を浮かべてエイミィ、リンディも笑みを浮かべてくれた。

「ところでフェイトちゃん。今からどこ行くの?」

「オハナミだって」

 

侑斗とデネブは八神家の前にいた。

二ヶ月近く世話になった事が昨日のように思い出される。

「侑斗」

「わかってる」

デネブがインターフォンを押すように急かすので侑斗はボタンを押す。

ビーともブエーともいえないような音が鳴り響く。

『はぁーい。どちらさまですか?』

どこかのほほんとしたような声が返ってきた。

「シャマルか。久しぶりだな」

『侑斗君!?』

「シャマル、久しぶり。元気だった?」

『デネブちゃん!?どうして?ちょっと待っててね。はやてちゃん、呼んでくるから!』

ドアが開かれる。ドアを開けたヴィータに車椅子に乗っている八神はやて、車椅子を押しているシグナムにその側にいるザフィーラ(獣)、そしてインターフォンで受け答えをしていたシャマルが出てきた。

「侑斗さん!どないしたん?急に来るなんて、もしかしてイマジン絡みなん?」

はやては侑斗の突如の来訪目的を訊ねてきた。

「イマジンは野上が倒したからもう心配ない」

デネブが目的を告げると同時に、それが果たされていることも告げる。

「お前達の事だ。目的が果たされてこのままいるとも思えない。他に何かあるのだろう?」

「微力かもしれんが協力させてもらう」

「で、何かあるんだろ?ドーンと言えよ?」

シグナム、ザフィーラ、ヴィータは協力を惜しまぬ態度を取る。

「そうですよ。侑斗君、デネブちゃん。お困りごとなら遠慮しないでくださいね」

シャマルも言ってくれるが、侑斗もデネブも嬉しいどころか申し訳なくなってきた。

「どうしたん?侑斗さん、デネブちゃん」

「お前等の厚意はありがたいんだけど……」

「本当に目的は果たされたんだ」

「え?じゃあもしかしてわたしん家に来たんはイマジンとか悪い仮面ライダーぬきで、ただ遊びにきたって事なん?」

はやてはありえないという表情を浮かべながら確認しようとする。

「そうだよ。海鳴で頼れる場所っていえばお前のところしかないからな」

侑斗が素直に述べた。

「というわけでお世話になります」

デネブが頭を下げた。

「わたし等を真っ先に頼ってくれるんは嬉しいねんけど、これからお花見に行くねん。侑斗さん等も行くか?」

「行かなきゃ、メシにありつけなさそうだな」

「わかっていれば俺も作ってきてたのに……。コレしか持ってきていない」

侑斗は食事にありつくために参加を決意し、デネブは悔しげな表情を浮かべながらバスケットを取り出す。

「おデブキャンディー!!」

ヴィータは瞳を輝かせデネブが取り出したバスケットの中身を言い当て、早速ありつこうとしていた。

「ヴィータ!お行儀悪いで。でも、しょうがないなぁ。デネブちゃんのキャンディー食べるのは三ヶ月ぶりやもんなぁ」

既にヴィータはデネブキャンディーを一口放り込んで幸せな顔になっている。

「荷物抱えて遠足か?」

「お花見や」

侑斗の問いにはやては答えた。

 

高町家でもいきなりの四体と一人の来訪に誰もが目を丸くしていたが、事情を説明するとあっさりと受け入れてくれた。

「じゃあもうイマジンは倒しちゃったんで遊びに来たって事ですか?」

高町なのはが説明を聞き、自分なりの解釈を口に出した。

「おう。そーゆーわけだからプリンくれ。ぶっ!」

当然のように催促するモモタロスをコハナが回し蹴りを放つ。

「何当たり前のように言ってるのよ!」

「全くセンパイは……。美由希さん、正体もばれてるだろうけどそろそろ僕に釣られてみない?がっ!」

ウラタロスが高町美由希を懲りずに口説こうとするが、コハナに懐を入り込まれて腹部に正拳突きを食らう。

「アンタも挨拶代わりみたいにナンパしてんじゃないわよ!」

「相変わらずだな。お前達は」

高町恭也が痛みに悶え苦しんでいる赤と青のイマジンを見ながら呆れていた。

「全くやで」

キンタロスが腕を組んで同意していた。

「ねぇねぇ。なのはちゃん。フェレット君は?」

「ユーノ君は本局での寮で生活してるから、たまにこっちに来るくらいなんだよ。あ、でも今日は来てくれるよ」

リュウタロスがユーノ・スクライアが高町家にいない事を訊ねてきたので、なのはが返した。

「フェレットになってくれるかなぁ。あの触り心地がいいんだよねぇ」

リュウタロスがユーノ(フェレット)の触り心地を思い出す。

「あ、それわかる。あの触り心地を堪能してるとさ。気持ちが癒されるんだよねぇ」

美由希がリュウタロス同様、ユーノの触り心地のよさを思い出しながら同意していた。

「んでよ。オメー等どこ行く気なんだよ?家族そろって温泉か?」

「違うよ。花見だよ」

「花見ぃ?どうせとっつぁん、酒飲んでくだ巻くだけなんじゃねーのかよ?」

高町士郎が高町家で酒を飲んで眠っている姿を見たことがあるので、モモタロスは邪推する。

「うっ!モモタロス君、鋭いね……」

士郎が痛いところを突かれて、唸ってしまう。

高町桃子もモモタロスの邪推には同意しているのか、笑みを浮かべていた。

「皆さんも行きますよね?」

「「「「「もちろん!」」」」」

なのはの呼びかけに四体と一人が即答するのは当然だった。

 

 

花見会場は大変な人数になっていた。

アースラスタッフの面々が過半数を占めており、殆どが大人の集まりと化していた。

その中にも子供も何人か来ており、すごい盛り上がりを見せていた。

エイミィと美由希がこの場を仕切っており、始まりの挨拶をする。

そのあと、リンディがマイクを受け取って乾杯の音頭を取った。

その後は挨拶回りをする者達や、酒を飲んで料理に手をつける者達などに分かれて各々の行動を取っていた。

「まさか全員集まると思わなかったよ」

「ああ」

「花見と聞いた時点でこうなると考えるべきだったね」

「せやな」

「ま、そうなるわよね」

「俺達の散開って意味あったか?」

「ないと思う……」

リュウタロスを除くデンライナー、ゼロライナーの面々は顔を合わせてため息をつくしかなかった。

十分前に分かれて、もう再会なんていくらなんでも味気なさすぎるからだ。

「それじゃ僕達も今度こそ散開ってことで」

良太郎の一言が合図となって、全員が首を縦に振った。

 

良太郎はなのはの友人であるアリサ・バニングスと月村すずかの元に足を運んでいた。

二人にしても、良太郎とはあまり話をした事がないので絶好の機会だった。

「二人の事はなのはちゃんやフェイトちゃんから聞いてたけど、実際こうやって話をしたりするのは初めて?かな」

「そういえばそうですよねぇ」

アリサがそう言いながら、良太郎に料理が載っている皿を渡す。

「知ってるのに話す機会がなかったってのもおかしいですよねぇ」

すずかが笑みを浮かべながら、ジュースの入った紙コップを良太郎に渡す。

二人の仕種は様になっており、育ちのよさのような物がにじみ出ていた。

「良太郎さんって本当に仮面ライダーなんですか?」

すずかが目を輝かせながら訊ねてくる。

アリサも好奇の眼差しを向けていた。

「あんまり馴染みないけど名乗らせてもらってるよ。仮面ライダー電王って」

「どうやって、変身するんですか?ベルトを巻いて何かポーズとか?」

すずかがずずいと更に訊ねてくる。

「すずか。乗り出しすぎ!」

アリサが窘めるが、すずかは制止できなかった。

良太郎はズボンのポケットからパスを取り出して、腰元にデンオウベルトを出現させる。

何もないところから銀色のベルトが出現した事に二人は目を大きく開いて驚く。

「ベルトを巻いて、このパスをベルトのバックルにセタッチする事で電王に変身するんだ」

「「へえええ」」

二人は良太郎の説明を聞いて理解して、納得した。

「良太郎君」

電王に関しての説明を終えると、女性の声が耳に入った。

良太郎は声のする方向に振り返ると、シャマルがいた。

「お隣よろしいかしら?」

「どうぞ」

良太郎とシャマル。面識はあるが、実は会話らしい会話をした事がなかったりする。

「そういえばシャマルさんには戦いの後の傷の回復のお礼、まだ言ってませんでしたね。ありがとうございます」

良太郎は隣に座っている頭を下げる。

「いえいえ。回復をはじめサポートは私の専門ですからお気になさらずに」

シャマルは良太郎の感謝の言葉を受け取りながら、頭を上げるように促す。

「シャマルさんはお酒ですか?」

「いえ。私、あまりお酒は強くないからジュースをお願いできるかしら」

「はぁい。わかりました」

アリサが訊ねるがシャマルは丁重に断りを入れ、すずかがジュースを持ってきてくれた。

「あ、そうだ。良太郎君」

「何ですか?」

シャマルが皿に乗っている料理を食べている良太郎に声をかけた。

「シグナムから預ってきた物なの。良太郎君のところに行くって言ったら渡してほしいって」

シャマルが渡してきたのは白い封書だった。

中央に『野上良太郎殿』と達筆な文字で書かれていた。

 

侑斗はリンディやレティ・ロウランの元に足を運んでいた。

だが、侑斗が見た光景はリンディと何故かこの場にいるオーナーのチャーハン対決だった。

リンディもオーナーも真剣な表情でチャーハンを睨み、スプーンを握っていた。

「ねぇ桜井君」

「何です?」

「コレは貴方達の世界での流行りモノ?」

「あー、大食い対決なんかは流行ってましたけどね。でもすぐ廃りましたけど」

「それは何故?」

レティは手に握っているワインを紙コップにドボドボと注ぎながら、訊ねてくる。

「スポーツとかと違って誰でもやろうと思えばやれるでしょ。それが仇になって無茶な事して呼吸困難で死んだ人も出てきましたからね」

「人並みはずれた事をしようと思えば、それなりの才覚が必要ってことなのね」

ぐぐいっと一気飲みをするレティ。

「そんなところです」

侑斗は右手に握られている空になっている紙コップにジュースを注ぐ。

リンディがスプーンでチャーハンを掬って口へと運ぶ。

そして手元にあるベルを鳴らしていた。

オーナーが左右の手にスプーンを握って、同じタイミングでチャーハンへと突き刺して掬い上げて同時に口の中にふくんだ。

ハッキリ言えば子供には真似させてはいけないマナーだったりする。

「ところで私達は決着がつくまで見とかないといけないのかしら?」

ワインをぐびぐびと口の中に含みながらレティは、隣で料理を食べている侑斗に訊ねる。

「でしょうね」

侑斗は即答した。

 

モモタロスはなのは、ユーノ、ヴィータと行動を取っていた。

現在はヴィータと『アイスとプリンはどちらが美味いか』についての論争が行われていた。

「かぁぁぁ、わかってねぇなぁ。赤チビ。だ・か・らオメェはいつまで経っても成長できねーんだよ!」

モモタロスはスプーンを右手にプリンを左手に熱弁していた。

プリン派も賛同していた。

「あーあ、アイスの素晴らしさがわかってねーなんてつくづく可哀相なヤツだ。赤鬼!」

ヴィータが右手にスプーンを左手にはカップアイスを持って、負けじと熱弁していた。

アイス派も賛同している。

「ユーノ君。コレって喧嘩なの?」

「互いの好物を主張し合っているだけだから、大丈夫だと思うけど……」

なのはとユーノだけはその妙ちきりんなテンションにはついていけなかった。

周囲を見回す。

一人と一体を中心として、プリン派とアイス派なんて変な派閥まで出来上がっていた。

「プリン!」

「アイス!」

なんて妙な声まで出ていた。

「ねぇ。ユーノ君」

「ん?何なのは」

「あのね。もしもだよ。もしもモモタロスさんとヴィータちゃんがコンビを組んだどうなるのかなって……」

なのはのもしもの話を聞いてから、ユーノは今もなおプリンとアイスの話で揉めているモモタロスとヴィータを見る。

そして想像する。

本気で殴り合いをしているソード電王と騎士甲冑を纏ったヴィータが想像できた。

「……今、すっごいの想像してない?ユーノ君」

「……なのはも似たようなの想像したんだね」

「……うん」

モモタロスとヴィータがコンビを組む。

ある意味では夢物語なのかもしれないと、なのはとユーノは締めくくる事にした。

 

花見会場はその後も各場所で賑わっていた。

エイミィに徹底的に扱かれたクロノは焼きそばを作れるようになっていたり。

その焼きそばをキンタロス、リュウタロス、アルフ(こいぬ)が我先にと食い合いをしていたり。

フェイトが周囲から促されて歌を歌い、それが大好評となったり。

ウラタロスが女性局員にナンパしようとしたところをコハナにお仕置きされたり。

デネブとはやてがシャマル料理を食べて、採点をつけてシャマルがショックを受けたり。

これ以上にはないというほどの盛り上がりを見せていた。

 

 

夜になると、昼にも増して肌寒さを感じてしまう。

ハラオウン家のベランダで良太郎は昼間にシャマルから貰った封書の中身を見ていた。

筆書きの達筆な文字で記されていた。

 

『かねてより、我々の戦いに決着をつけたい。午後十一時に花見の会場となった場で待つ』

 

腕時計を見て時間が迫ってきているので良太郎はハラオウン家へと出ようとしていた。

「行くのか?」

「うん」

ベランダから室内へと入ろうとする良太郎をクロノが声をかけた。

この封書の中の出来事を知っているかの口調だ。

「相手は強いぞ。少なくとも三ヶ月前よりも。フェイトでさえ勝率三割だからな」

「十回戦って三回なら十分じゃない。それにこれは予想というより確信なんだけどね。僕とシグナムさんの戦いはシグナムさんとフェイトちゃんのようにはいかないと思うよ」

「『戦い』の質が違うというのか?」

「そうだね」

クロノの言葉に良太郎は自身の予測を口に出す。

「良太郎はどうなの?わたし達はあれから三ヶ月経ってるけど、良太郎達にしたら……」

「僕達の時間だと、あれから一週間も経ってないからね」

フェイトは良太郎に勝算を訊ねるが曖昧な返答で返された。

つまりシグナムは伸びているが、良太郎は以前とあまり変化がないという事になる。

「それじゃフェイト。見届け人の役を頼む。僕と母さんとエイミィはここで監視するから」

「うん任せて。お兄ちゃん」

「二人とも。早く行こうよー」

アルフ(こいぬ)が良太郎とフェイトを急かした。

 

「それでは行ってまいります」

シグナムは単身で呼び出した場所へと向おうとした。

「待ってシグナム。わたし等も行くで」

「しかし、これから行うものは主はやてのお目を汚すような結果になるかもしれませんので……」

シグナムは同伴しようとするはやてに丁重に断りを入れようとする。

「らしくねーじゃんシグナム。あれから三ヶ月経ってるじゃん?それでも自信ねーのかよ?」

ヴィータがからかうように言う。

たった(・・・)三ヶ月だ。それで確実に野上に勝てる力を得たとは思えん」

「シグナム……」

シャマルは『勝ち』を意識するあまりにシグナムが気負っているのではないかと心配する。

「俺達からしたらあれから一週間も経っていないけど、お前達からしたら三ヶ月も経過してるんだよな。でも、お前達の三ヶ月が野上にとっての一週間に劣っているとは思えないが」

侑斗は冷静に考えた結果を告げる。

「野上も帰ってからイマジンと戦ったり、モモタロス達と特訓をしてる。あの時のままとは思わないほうがいいと思う」

デネブは自分が知る限りで本世界に帰ってからの良太郎の行動を述べた。

「なぁシグナム。聞いてええか?」

「はい」

「何で野上さんと戦おうって思たん?確かに野上さんは仮面ライダーで電王やし強いけど……」

「実はですねはやてちゃん。良太郎君とシグナムはもう二回戦っているんですよ。たしか戦績は……」

「互いに一勝一敗だ」

「二人ともあと一回勝てば勝者になるんやね?シグナムとしても白黒ハッキリさせたいってのが本音?」

「そうですね。それに野上と戦えるのはこれが最後になるでしょう」

「何故だ?」

シグナムの意外な一言にザフィーラ(獣)は首を傾げる。

「性格の問題だ。あいつは私やテスタロッサとは違う。強者と戦う事に『悦び』を感じる事が出来ないからな」

それはこの場にいる誰もが思っている事だった。

良太郎は『戦う事が出来る人間』であって『戦う事が好きな人間』ではないという事を。

 

良太郎とフェイト、アルフがシグナムが指定した場所に赴くとそこには恐らく呼んでもいないのにギャラリーが集まっていた。

ギャラリー---チームデンライナーになのはにユーノ、八神家にチームゼロライナーまでは想定内なのだが、恐らく自分の妹や友人がどのような道を歩もうとしているのかを知る必要があるためと思ってなのだろうか恭也、美由希、アリサ、すずかまでが来ていた。

既にこれから戦場となる場所には広域結界が張られていた。

「見世物のようなかたちになってすまないな。野上」

「いえ。気にしないでください。あのシグナムさん」

「何だ?」

「できれば勝っても負けてもこの一戦で最後に出来ます?」

「お前ならそう言うと思ったよ。私もその意見には賛成だ」

「ありがとうございます」

シグナムが待機状態だったシュベルトフォルムで納刀状態のレヴァンティンを展開する。

良太郎がズボンのポケットからパスを取り出してから、ケータロス装着型のデンオウベルト出現させて腰に巻きつける。

「変身」

パスをセタッチして、赤、白、黒の三色が目立つプラット電王から胸部にキングライナーがモチーフとなっているオーラアーマーが装着され、最後に頭部にデンライナー・ゴウカをモチーフにした電仮面が装着されて、ライナー電王へと変身した。

右手にはデンカメンソードが握られていた。

シグナムも私服姿から騎士甲冑の姿へと切り替わっており、右手には鞘に収められているレヴァンティンが握られていた。

ライナー電王とシグナムがただ互いを見ている。

それだけでその場の空気が変わって気温が二、三度下がったように思えた。

「剣の騎士、シグナム……」

レヴァンティンを抜刀して、鞘を放り捨てる。

必勝できる相手ではないとみなしての行動だろう。

「仮面ライダー電王、野上良太郎……」

本来ならば何かで返礼しなければならないのだが、その手に相応しいものがないためライナー電王は頭を下げてから、中腰になって両手でデンカメンソードを握って構えを取る。

 

「参る!!」

「行きます!!」

 

シグナムとライナー電王が互いに駆け出して間合いを詰めてレヴァンティンとデンカメンソードがぶつかった。

 




次回予告


第六十六話 「桜舞い剣が舞う 後編」

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