第六十二話 「夜天がもたらすゼロの奇跡」
モニュメントバレーを髣髴させる荒野---『時の空間』
Zゼロノスはリィンフォースを抱きかかえてゼロライナーへと戻っていた。
八神はやてのいるナギナタに入ると全員元に戻っており、シートに座っていた。
「リィンフォース!」
はやてが車椅子を操りながら、リィンフォースの前まで寄る。
「主……」
Rネガタロスに乗っ取られた際に生じるダメージはリィンフォースにもかかる事なので、呼吸も激しく乱れていた。
はやてがこのように弱弱しくなっているリィンフォースを見てからZゼロノスを見る。
「残された時間は短い。悔いのないようにな」
Zゼロノスはリィンフォースを抱きかかえたまましゃがむ。
「う、うん。大丈夫、なんて聞くのは変やね……」
はやては首を縦に振るだけで何を言ったらいいのかわからないので、ありきたりな会話から切り出した。
「主……。そうですね。大丈夫ですとは答えられませんね」
リィンフォースは笑みを浮かべながら答える。
「ごめんな。気ぃ利かんで……」
「気になさらないでください。我が主、私がお伝えしたい事はあのイマジンに乗っ取られる前に全てお伝えしました。私もこの残された時間、有効に使いたいと考えてしまうのですが浮かばないのです」
リィンフォースもはやてと同じらしい。
互いに『別れ』と意識した時にRネガタロスが乱入したのだ。
今更仕切りなおしというわけにはいかないだろう。相撲や格闘技の試合ではないのだから。
「わたし、リィンフォースの事は絶対に忘れへんで」
はやてがリィンフォースに言いたい事はこの一言しかなかった。
「ありがとうございます。我が主……」
リィンフォースの身体が輝き始め、粒子が空へと舞っていた。
「そろそろ時間が来たようですね……」
リィンフォースは空へと舞っていく粒子が自分の身体だと理解すると掌を見てから、はやてを見た。
「我が主。お願いがありますがよろしいでしょうか?」
「ん?どうしたん?わたしでできる事があったら言ってええで」
はやてはリィンフォースの願いを断る気はない。
よほど理不尽なものでない限りは叶えるつもりだ。
「私の手を握ってくれないでしょうか?最後の消え逝く瞬間まで主の、貴女のぬくもりを感じていたいのです」
「うん。ええで。了解や」
はやては迷うことなく小さな両手でリィンフォースの右手を握る。
リィンフォースはZゼロノスを見る。
「お前達にも世話になったな。汚れ役もしくは憎まれ役を一手に引き受けさせてしまって」
「気にするな。慣れてるわけじゃないがお前が気に病むことじゃない」
Zゼロノスは素直な意見を言う。
「そうか」
Zゼロノスの言葉にリィンフォースは気落ちせずに、天井を見上げていた。
「いいものだな。誰かに看取られて逝くというのは……」
リィンフォース全体が先程よりも薄くなっていた。
ナギナタの中にいる全員が黙って聞いていた。
「主、守護騎士、そして別世界の緑の騎士……。ありが……」
最後まで言おうとするとリィンフォースの消え逝く速度が上がっていた。
「とう……」
言い終えると同時にリィンフォースの肉体はZゼロノスの身体から完全になくなっており、粒子となってゼロライナーの天井を透過して空へと昇っていった。
「ん?これは……」
Zゼロノスの左掌には金色で円の四方に菱形状の飾りが施されたペンダントがあった。
「八神」
Zゼロノスは、持つに相応しい相手に渡す。
はやては水を両手で収めるような手つきで受け取る。
Zゼロノスは踵を返して、ゼロライナーを動かすためにDバスターを持ってドリルへと戻っていった。
「帰るぞ。海鳴へ」
ガッコンとゼロライナーの車輪が回り始めた。
海鳴の空の空間が歪み、線路が出現して地上に向かって敷設されていきゼロライナーが走っていた。
地上にゼロライナーが停車するとプシューッと音を立てる。
ナギナタのドアが開いて騎士服から私服へと切り替えたヴィータ、シャマル、シグナムが先に降りて最後にザフィーラ(人型)がはやてを左肩に乗せて、車椅子を右手で持って降車した。
車椅子を地上に下ろしてから、はやてを乗せる。
そしてザフィーラは人型から狼の姿へとなる。
「ありがとうな。ザフィーラ」
はやてはザフィーラに礼を述べると同時に、頭を撫でる。
ドリル側のドアも開き、Zゼロノスが出てきた。
右手にはDバスターが握られたままだった。
「なぁ侑斗。変身を解かねーってことはもしかして……」
ヴィータもゼロノスの変身の際に使用するゼロノスカードの消費材料が何なのかを知っている。
「四枚使ってお前達が俺を憶えているとは思えないからな。憶えていたらそれこそ奇跡だ」
ZゼロノスがDバスターのガッシャースロットに入っているゼロノスカードをヴィータに見せる。
スロットから抜けば、カードは消滅して変身が解ける。
そしてここにいる誰もが自分のことを忘れてしまっている。
シグナムがZゼロノスの前に立って、右手を出す。
「シグナム?」
Zゼロノスが怪訝な表情を浮かべる。
「桜井、デネブ。短い間だったが世話になった。感謝する」
「こっちこそ世話になった」
ZゼロノスがDバスターを左手に持ち替えて握手に応じた。
『ありがとう。シグナム』
「デネブもな」
シグナムは挨拶を終えると、離れる。
次にシャマルが来た。
「侑斗君、デネブちゃん。その……また海鳴に来たらぜひとも、はやてちゃん達に会いに来てくださいね」
シャマルが涙目になりながらも、言いたい事を告げて感謝を込めて頭を深々と下げた。
「無茶言うなよ……」
海鳴に来る事は可能だろう。だが、その時は赤の他人同士になっているのでシャマルの要望に応えられそうにない。
『シャマルはもう少し料理の腕を頑張って』
「は、はい!デネブちゃん!」
シャマルは目元の涙を拭いながら離れていく。
次にザフィーラが走ってきた。
その場で人型となって、シグナム同様に右手を出してきた。
二度目の事なのでZゼロノスは握手にすぐに応じた。
「お前達と過ごした時間、よかったぞ」
人型の際、無表情というかしかめっ面が多いザフィーラが笑みを浮かべた。
彼なりの最大限の感謝だろう。
『ザフィーラ。散歩の時はあまり目立っちゃ駄目だ。みんな驚く』
「……善処しよう」
ザフィーラは答えてから青色の狼に戻って、はやての側へと戻った。
俯き加減のヴィータが歩み寄ってきた。
「……何でなんだよ」
「ん?何がだよ」
俯き加減に言っていたヴィータの言葉にZゼロノスは訊ね返すと、ヴィータは顔を上げていた。
シャマル同様に涙をいっぱい浮かべて。
「あんなに頑張ったお前等の事を何で忘れなきゃいけねーんだよ!?おかしいだろ!?そんな事!」
あらん限りの声でヴィータがこれから起こる事に猛抗議していた。
普段はぶっきらぼうというか面倒臭がりな彼女だが、その実は優しい事を知っている。
「ありがとう。ヴィータ」
『そんな風に言われたのは初めてだ。ありがとう。あと、ちゃんと甘いものを食べたら歯を磨く事』
「う、うっせー!礼なんていーんだよ!!あとしつけーんだよ!おデブ!」
ヴィータは感謝の言葉を述べられた事に照れながら、涙を手で拭いながら離れる。
雪道に二本の跡を残して車椅子を押しているはやてだ。
「俺からは言える事はひとつだけだ。月並みな言葉だけど世話になった。それだけだ」
『八神。色々とありがとう』
「わたしが言うんもひとつや。絶対に絶対に絶対に!忘れたりせえへんで!!」
Zゼロノスとはやてが互いを見ている。
はやての瞳に揺るぎはない。
「そうか」
Zゼロノスはそれだけしか答えなかった。
Dバスターのガッシャースロットに挿さっているゼロノスカードを抜く。
Dバスターはフリーエネルギー状になって、デネブへと戻る。
左手に握られているゼロノスカードは亀裂が走る。
ピキピキピキピキという音を立てて、砕け散った。
腰元に巻かれているゼロノスベルトを外すとZゼロノスの姿から桜井侑斗の姿へと戻った。
デネブは侑斗とはやてを見てから、後ろにいるヴォルケンリッターを見る。
「デネブ」
侑斗はデネブに声をかけてから、はやてとヴォルケンリッターを一度見て背を向けてゼロライナーへと乗り込もうとする。
「侑斗さん!」
はやての言葉に侑斗は足を停める。
デネブは眼を丸くしていた。
侑斗は振り返って、はやての側に歩み寄る。
「八神。お前……」
侑斗の全身は震えていた。
こんな事はありえない。
あるはずがない。
今まで何度も奇跡なんて起こりはしないと自分に言い聞かせていた。
一度でも奇跡が起こればそれに溺れる可能性があるからだ。
自分は決して『救い』がない戦いをしている。
それも自分が選んだ事だから後悔はない。
そのはずなのだが。
「お前、俺の事憶えているのか?」
ゼロノスカードを四枚使用している場合、相当縁の深い人間でない限りは忘却は免れない。
「言ったはずやで。絶対に絶対に絶対に忘れたりせえへんって」
はやては侑斗に笑顔を向けてもう一度言った。
その笑顔を侑斗はまともに見られなくなっていた。
「う……うぐ……うえ……えぐ……」
侑斗は俯き、声を震わせていた。
「侑斗?」
「侑斗さん?」
声になっていない声を上げている侑斗を心配になったのか、はやてとデネブは声をかける。
離れていたヴォルケンリッターもこちらに寄ってきていた。
「もしかしてお前達も?」
「ああ。お前達の事、きちんと憶えているぞ」
デネブの問いにシグナムが首を縦に振って、笑みを浮かべる。
「よかった……。侑斗君やデネブちゃんのこと忘れずにすんで……」
シャマルが涙を拭いながらも今起こっている事を喜んでいる。
「何だよそれ!さっきまでの事取り消せよ!バカぁ!!」
ヴィータが涙を拭おうとせず、侑斗とデネブを睨む。
ザフィーラは首を縦に振って現状に満足していた。
「う……うわああああああ!」
侑斗は両膝を地に付けて、大声で嗚咽を漏らしていた。
こんなに泣くのはデネブが帰ってきたとき以来だろう。
「侑斗さん。今まで辛かったんやね。それでも我慢してきたんやね。でもええよ。今は思いっきり泣いても」
はやてが侑斗の頭を撫でながら言った。
その表情は慈愛に満ちたものだった。
侑斗は、はやての言葉に甘えるようにして嗚咽を漏らしていた。
『救い』がなかった闘いをしてきた男に訪れた初めての『救い』だ。
*
リンディ・ハラオウンは現在、アースラから時空管理局本局へと移動しており廊下を歩いていた。
横にはレティ・ロウランも一緒だった。
「そう。うんわかった。報告ありがとう。今日は家でゆっくり休みなさい。私も明日には帰るから」
締めくくるとリンディは携帯電話の通話を切って、ポケットの中にしまいこんだ。
「フェイトちゃんから?」
「うん。魔導書に憑依していたイマジンも倒されて良太郎さん達の目的も無事に完了したって」
「そう……」
レティはリンディからの言葉を聞き、表情は変えないが内心では胸を撫で下ろしていた。
二人は待つことなく昇りのエレベーターに乗り込む。
「グレアム提督の件は提督の希望辞職って事で手打ちみたいね。故郷に帰るそうよ」
乗り込んだ際にレティがギル・グレアムの処遇について告げた。
「まぁ具体的なのはクラッキングと捜査妨害くらいだし……それくらいよね。はやてさんの事はどうなるのかしら……」
リンディは軽く言うが、警察ならば減俸を通り越しての懲戒免職扱いになるか、逮捕されてもおかしくない行為だろう。
見方を変えれば同僚を死の危険に追い詰めていると十分に捉える事が出来るからだ。
「今までどおりに援助を続けるって。あの子が一人で羽ばたける年になったら、真実を告げる事になるだろうって」
「そう……。提督なりの『落とし前』ってことかしらね……」
「オトシマエ?何それ?聞かない言葉ね」
「地球での自分の失態に対しての責任の取り方ってところかしらね。それに生半可な覚悟で辞職したとしたら私達よりもはるかにおっかない人達に何をされるかわかったものじゃないという事は提督自身がわかっているんじゃないかしら」
「仮面ライダー達の事?」
「私が知る限りでは一番怒らせてはいけない人達よ」
レティはリンディの婉曲な表現が何なのかすぐに理解したらしく即答した。
エレベーターの窓は緑生い茂る空間を映していた。
「是非とも一度会ってみたいわね。それで貴女はどうするの?ご主人への報告に行けるでしょ?いつ行くの?」
「来週。クロノとフェイトさんとあとまだ帰ってないなら良太郎さんの四人で」
「なんて報告する予定?」
レティの問いにリンディは少しだけ眼を窓の外に向けて考える。
「そうねぇ。多分いつもと同じよ。相変わらずの慌しい日々が更に拍車がかかっちゃったけど元気にやってますよって」
「そっか」
リンディは笑顔で答え、レティは笑顔で聞いていた。
*
雪が降る海鳴の中を野上良太郎はキンタロスに肩を借りて歩いていた。
モモタロスはウラタロスに肩を借りて歩いていた。
シャマルの回復を受けていないので一人で歩くのもきついようだ。
他にはリュウタロス、コハナ、高町なのは、フェイト・テスタロッサが歩いていた。
「事件終了……かな」
「うん……」
なのはが曖昧な言い方をするが、フェイトは頷いた。
「でもちょっと寂しいかな……」
言った後、なのははどこかくらい表情になる。
リィンフォースはRネガタロスに憑依されて敵対して結果、消滅した。
なのはにはそれが納得できるかどうかといわれると微妙なものだった。
できるなら誰もが最後は笑顔になって終わってほしいと思ったからだ。
「アイツが望んだんだぜ。俺達がどうこう言うことじゃねーよ」
モモタロスがなのはの感想に口を挟んだ。
「事件が解決してみんなが笑顔なんてのはね。滅多にないと思うよ。被害者も加害者も傷を背負うわけだしね」
ウラタロスが、なのはに向かって真摯に言う。
「それでも俺達は生きてるから、その傷を背負って生きていかなアカンわけや」
キンタロスがウラタロスに便乗する。
「前見て行くんだね!」
リュウタロスが自分なりの結論を出す。
「だからオメーもカンリキョクでやっていくんだったらこういう事は覚悟しとけ。いいな?」
モモタロスが締めくくった。
「はい!」
なのはは元気よく返事した。
「………」
フェイトはモモタロス達となのはのやり取りをじっと見ていた。
「どうしたの?フェイトちゃん」
コハナがフェイトに声をかける。
「え?ええとね。何だかモモタロス達ってユーノやレイジングハートとは違うかたちで、なのはの先生みたいだなって」
「言われてみればそうだね」
今まで黙って聞いていた良太郎もフェイトに賛同する。
その言葉にリュウタロスは純粋に喜び、モモタロス、ウラタロス、キンタロスは居心地悪そうに照れていた。
その直後、リード線に繋がれたアルフ(こいぬ)を連れて、傘を差しているユーノ・スクライア(人間)と合流していた。
良太郎、フェイト、アルフと分かれたなのは、ユーノは二人で歩いていた。
本来ならばモモタロス達も同伴しているのだが、コハナとウラタロスが気を利かせて二人きりにしたのだ。
「ユーノ君。折角戻ってきてくれたのにほとんど一緒にいられなかったね」
「ははは。ずっと調べ物だったからね」
なのはの感想にユーノは苦笑するしかなかった。
「ユーノ君。この後は?」
なのはの言う『この後』というのは未来の事だ。
「うん。局の人から無限書庫の司書をしないかって誘われているんだ。本局に寮を用意してもらえるみたいだし、発掘も続けていいってことだから決めちゃおうかなって」
ユーノは自身の今後をさらりと打ち明けた。
「本局だとミッドチルダよりは近いから、わたしは嬉しいかな」
なのはも本音を口に出す。
「本当?」
「うん!」
ユーノは訊ね返し、なのはは笑顔で頷いた。
「あ、後さ。もうひとつ目標みたいなものが出来たんだ」
ユーノがなのはを見ずに、遠い何かを見上げているようなかたちで言う。
「目標?どんな目標なの?」
「うん。でも、他の人達には言わない?」
ユーノがなのはに念を押す。
「え、それってフェイトちゃんやはやてちゃん達にも言っちゃ駄目なの?」
「うん。クロノやエイミィさん達にもね」
「それだったら、わたしにも教えない方がいいんじゃ……」
なのはは遠慮しようとするがユーノは首を横に振る。
「なのはには聞いてもらいたいんだ」
ユーノは真剣な表情になっていた。
「う、うん。それで目標ってなに?」
「あの人達---良太郎さんや侑斗さん達みたいな人になりたいんだ」
ユーノの打ち明けた目標を聞いて、なのはは一瞬固まった。
「ユーノ君。仮面ライダーになりたいの?」
なのはがそのように訊ねてくるのも想定済みなのかユーノは特に乱す様子はない。
「そうじゃないよ。人間的にああいった人達になりたいなって思ったんだ。自分の信念を貫き、強い覚悟を持って歩んでいる人達にね」
ユーノの横顔はその時だけいつもと違っているように思えた。
『男らしい』という横顔だった。
「………」
なのはは思わずぽーっと見てしまっていた。
「なのは?」
「ふえ?あ、な、何でもないよ」
ユーノがこちらを見て、なのはに声をかける。
なのはとしても横顔を見ていたなんて言えなかった。疾しい事をしているわけではないが、何故か疾しいと思ってしまった。
高町家の入口まで到着する。
なのはは我が家なので当たり前のように入るが、ユーノはその場で止まっていた。
「それじゃ僕はここで」
「?」
ユーノの意外な言葉になのはは振り向く。てっきりフェレットになってまた過ごせると思っていたからだ。
「仕事が決まるまでアースラにいていいって話だから」
つまり、高町家に厄介になる理由がないという事だ。
なのはには魔法関連で教える事は何もない事はユーノ自身も知っている。
「そうなんだ」
「うん」
「ユーノ君。年末とかお正月とか時間あるようなら一緒にいようね!話したいことたーくさんあるから!」
なのはは両手を広げるジェスチャーをしながら約束を取り付けようとしていた。
「うん」
ユーノは笑顔で快諾した。
なのはは笑顔で感謝を返した。
それから十分後にモモタロス達が帰ってきた。
ハラオウン家に戻った良太郎は肩を借りているアルフ(人型)の助けを借りて専用のソファに寝転がっていた。
良太郎は疲れが取れていないのかそのまま眠ってしまった。
「よっぽど疲れたんだねぇ。もう眠っちゃったよ」
アルフが毛布をかけながら普段取らない行動を取っている良太郎を見ていた。
「うん」
フェイトも良太郎の寝顔を微笑みながら見ている。
静かな時間を破るようにメロディーが流れ始めた。
「あ、わたしだ」
フェイトはスカートのポケットから携帯電話を取り出す。
開いてみるとメールが送信されていた。
操作すると相手は月村すずかだった。
『明日、ちょっと時間あるかな?午前中アリサちゃんと一緒にはやてちゃんのお見舞いに行って、それからうちでクリスマス会をしようかなっと思っています。なのはちゃんも誘うので来てくれるとうれしいな』
フェイトはカチカチッと操作して返信した。
そして携帯電話をしまいこむ。
「キチンと言わないと駄目だよね」
いつまでも隠し通せるものではないという事はフェイトも重々わかっていた事だ。
それに自分達の本当の姿を打ち明ける事こそがすずかやアリサ・バニングスの『友情』に応えることなのだとも考えられる。
フェイトは眠っている良太郎を見る。
アリサやすずかに真実を打ち明ける以外に言わなければならないことがある。
「フェイト。どうしたんだい?もしかして良太郎に告白する気にでもなったのかい?」
「え、ええ!?アルフ、どうして……」
アルフの質問内容はフェイトの現在の心の内を完全に当てているものだった。
「いや、フェイトの態度見たらさ。何となくそう思っちまったんだけど当たり?」
「う、うん」
フェイトは顔を赤くしながらも首を縦に振る。
嘘をついても仕方がないと腹を括ったのだ。
「そっか……」
アルフはそれ以上は何も言わなかった。
フェイトの良太郎に対する想いは『本物』だ。
だからここから先は二人の問題だから自分はこれ以上は首を突っ込まないようにした。
使い魔が主に対する最大の礼儀なのかもしれない。
(明日は明日で色々と勝負の日なのかもしれないねぇ)
アルフはそんな予感を感じながら、良太郎が眠っているのをいい事に人型のままでドッグフードを食べていた。
次回予告
第六十三話 「フェイト・テスタロッサの告白」