仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第五十九話 「修羅の降臨」

海鳴市の一角で行われている世界の命運をかけた戦いを次元航行艦アースラは宇宙空間で見下ろしていた。

モニタールームに映っているネガNEW電王はNNDソードを右肩にもたれさせていた。

「エイミィ。あの電王に関して何かわかった事はある?」

リンディ・ハラオウンがエイミィ・リミエッタにネガNEW電王に関する事で何か新しい情報はないかと訊ねる。

「あ、はい!リィンフォースが変身した電王ですが、モニターで良太郎君達が言っていた魔力の消費量について分析してみたんですけど、このような結果が出たんです」

モニターに別のウィンドウが開き、そこにはネガNEW電王と高町なのはのアクセルシューターについての魔力の消費量が数値及びグラフで記されていた。

「このグラフや数値から見ると、あの電王はアクセルシューターを放つ際になのはさんの四倍の魔力を消費しているのね……」

「はい。だからこそアクセルシューターを一度に二個しか出さなかったこともブラッディダガーを初めて出した時も一本でしかも不意打ちまがいにして放ったことも頷けますね」

エイミィの言うように、ネガNEW電王がなのはと同じ様にアクセルシューターの桜色の魔力球を一度に三個出現させればそれだけでなのはの消費量よりも十二倍消費する事になる。

そこに追尾などを加えると更に増す事になる。

これでは『魔法を使える』だけであり『魔法を使いこなせる』とはいえない。

あまりに使用者に負担がかかりすぎるのだ。

「それでこの電王が魔力をゼロにしてしまった時はどうなるの?」

リンディがもしもの事をエイミィに訊ねる。

「仮に魔力がゼロになっても、仮面ライダーとしてのエネルギーとは別物ですからそれで戦う事は出来ると思います……」

「そう……。自滅に追いやる事も出来ないとなると本当に仮面ライダー頼みになるわね」

リンディの判断にアースラスタッフの誰もが頷くという選択しか与えてもらえなかった。

 

 

「魔力の異常な消費が唯一の弱点か……。消費が激しすぎたら変身解除すると思うか?」

ZゼロノスがネガNEW電王をちらりと見てから、ライナー電王に訊ねた。

「フルチャージを使っても何もない感じで動いているって事は魔力とは別物だと思った方がいいね」

「そうなるか。デネブ」

『どうしたんだ?侑斗』

「俺も近接で戦う。倒れてる三人を回収してくれ」

『了解!』

Zゼロノスは右手に握られているDバスターに命じると、前へと軽く放り投げる。

Dバスターは光りだして、デネブへと戻る。

Zゼロノスは右腰に収まっているゼロガッシャーの右パーツを左腰に収まっているゼロガッシャーのパーツに縦に差し込む。

腰元から抜き取って、頭上で振り回すと同時にフリーエネルギーで巨大化する。

いつもならば地面に突き刺すのだが、ブンッと軽く振って留めていた。

ライナー電王はデンカメンソードを構え、ソード電王もDソードを構えた。

三人が一斉にネガNEW電王の間合いを詰めると同時に、デネブは倒れている三人の回収作業を行う手筈となった。

ソード電王とZゼロノスが左右に分かれて、同時にネガNEW電王に斬りかかる。

「フン。同時攻撃か……」

ネガNEW電王は左右を一瞥してから、NNDソードを地面に突き刺す。

ほぼ同タイミングでDソードとZサーベルが振り下ろされる。

だが、二振りの刃はネガNEW電王には届かなかった。

片手でそれぞれを受け止めているのだから。

しかも手ではなく、人差し指と中指で挟むようにだ。

その力はソード電王とZゼロノスが引き抜こうとしているのにまるでびくともしない。

「はああああっ!!」

ライナー電王が真っ直ぐ向かっていく。

挟んでいた両指を離して、右足で地に刺さっているNNDソードを蹴り上げてから右手で受け取ってすぐに右側のソード電王、左側のZゼロノスの胴を斬り付けてからライナー電王へと向かっていく。

ライナー電王とネガNEW電王が睨みあい、互いの刃がぶつかって火花が飛ぶ。

「う、ぐぐぐ!」

「ホレホレどうした?もっと踏ん張れよ?」

鍔迫り合い状態だが、押しているのはネガNEW電王だ。

ずるずるとライナー電王は両脚を本人の意思とは関係なく後方へと退げられていく。

「ふん!」

ネガNEW電王が先に鍔迫り合い状態から離れ、半歩退がってから右前蹴りをライナー電王の胴に当ててからNNDソードで袈裟、逆袈裟と素早く斬りつけた。

ライナー電王の胸部から×字に火花が飛び散った。

「あ……ああああああ」

前のめりに倒れそうになるが、両足で踏ん張る。

「ぐっうううううう!!」

「ほぉ……」

ネガNEW電王は感心した声を上げながら、ライナー電王の背後に回って左前蹴りを背中に放つ。

踏ん張っていた足が滑って、前のめりに突っ伏してしまう。

倒れたライナー電王の背中を追い討ちのように踏みつける。

「がはっ!」

「うおりゃああああああ!!」

ライナー電王が踏まれて声を上げると同時に、Zゼロノスが駆けて跳躍して両足を突き出していた。

「ぶっ!」

Zゼロノスが繰り出したドロップキックは右足はネガNEW電王の胸部に左足は腹部に当たっており、後方へと吹き飛ばされる。

Zゼロノスは着地に失敗して、地面に倒れるがネガNEW電王は吹っ飛ばされた上に横に転がっていた。

ソード電王がこの絶好の機会を逃すはずもなく、追い討ちをかけ始める。

Dソードで突きを繰り返すが、ネガNEW電王は転がりながらも避けていく。

「まだやれるよな?」

「もちろん」

Zゼロノスが差し出す手をしっかりと握ってライナー電王は立ち上がる。

「オメェ等ぁ!早くきやがれ!畳み掛けるぞ!!」

ソード電王の言葉にライナー電王とZゼロノスもデンカメンソードとZサーベルを構えた。

 

デネブは魔導師達が固まっている場にネガNEW電王に倒されたロッド電王、アックス電王、ガン電王の三人を運び終えていた。

「シャマル!」

「わかってるわ。デネブちゃん」

シャマルはクラールヴィントを起動させて、足元に緑色の魔法陣を展開させて倒れている三人の電王の傷を癒す。

「いくら休める時間があったといっても、先日の闘いの傷も癒えてない状態よ。治癒魔法をかけたらしばらくは目を開ける事はないわ」

シャマルが深刻な表情をして告げる。

「そんなにひどいんですか?」

フェイト・テスタロッサがどこか青ざめた表情でシャマルに訊ねる。

「先に倒れてる三人でも相当なものよ。無理を押して戦いながらもダメージを受けている良太郎君達は私が考えている以上にひどいと思うわ……」

「良太郎……」

「侑斗さん……」

フェイトと八神はやては今傷つきながらも戦っている二人に加勢したいという気持ちでいっぱいだった。

だが、それをあの二人が望まないことも知っていた。

なまじ理解できるからこそ、歯痒くなってしまう状況に陥ってしまう事もあるのだ。

「赤鬼。オメーはあたしに勝ったんだ……。あたし以外には絶対ぇに負けんじゃねーぞ……」

「モモ……」

ヴィータとコハナは今もなお、転がりながら攻撃を避けているネガNEW電王に対してひたすらDソードで突きを繰り出しているソード電王を見ていた。

「ユーノ君。わたし悔しいよ……」

「なのは……。それは僕も同じだよ。自分の弱さが本当に嫌になるよ」

なのはとユーノ・スクライアは散々世話になっているのに何も返せない事に苛立ちと悔しさを感じていた。

「………」

クロノ・ハラオウンは何も言えなかった。

なのはとユーノの言い分は時空管理局

自分達

にも当てはまっていたからだ。

 

「調子に乗ってんじゃねぇ!」

先程まで転がりながらDソードを避けていたネガNEW電王はNNDソードで受け止める。

押し上げて弾いてから、すぐに起き上がる。

そのままネガNEW電王が攻めに入る。

上段から中段へと上手く切り替えての剣捌きにソード電王はギリギリながらもDソードで受け止める。

「オラオラオラァ!!」

ネガNEW電王が加速して、更に剣を振るう速度を上げる。

ソード電王が後退りしながらも防御に徹する。

ただし、これは防御に徹しているというより徹せざるを得ないというのが正確だ。

「ヤロォ!」

何とか攻守逆転を狙おうとするソード電王だが、この至近距離からでは不可能だと感じ始める。

「こうなったら!!」

ソード電王はDソードでの防御をやめて、紙一重の距離をきちんと見切りながら避けながら後方へと更に距離を開けて退がる。

ネガNEW電王との距離が一定以上開くと、ソード電王はパスを取り出す。

『フルチャージ』

パスをターミナルバックルにセタッチし、フリーエネルギーがDソードのオーラソードに伝導されていく。

「フン。剣技で勝負か……」

ネガNEW電王はNNDソードを両手持ちにして右側に大きく振りかぶる。

オーラソードが巨大な黄金の刃へとなっていく。

バチバチバチとネガNEW電王の周囲に雷が走り出す。

ソード電王のDソードにフリーエネルギーが充填される。

「見せてやるぜ。俺の必殺技パート……」

ソード電王は駆け出す。

「来いよ。強力な電気マッサージを味あわせてやるぜ」

ネガNEW電王は勝利を確信しているかのような口調で言い放つ。

ソード電王がネガNEW電王との距離を縮めて、間合いに入ると構えていたDソードを振り下ろす。

 

1(ワン)!!」

「スプライトザンバー」

 

ネガNEW電王がNNDソードを右薙ぎから左薙ぎへと振るう同時に、Dソードを振り下ろそうとしたソード電王に雷が落ちる。

「うがわあああああああ!!」

ソード電王は全身に雷を浴びて、自らの技を振るう間もなくその場で停まる。

全身から煙が立ち、両膝を地に付けてからバタンとうつぶせになって倒れた。

全身がピクピクとしているが、立ち上がる素振りはなかった。

「モモタロス!」

「飛び道具系の魔法では対処するようになっちまったから方法を替えたな……」

ライナー電王が倒れたソード電王に声をかけるが反応はなく、ZゼロノスはネガNEW電王が戦闘方法を替えたと悟った。

「あと二匹……」

ネガNEW電王は短く告げると、残った二人を見ながら間合いを詰めて駆け出す。

狙いはライナー電王だが、Zサーベルを正眼に構えたZゼロノスが前に現れて立ちふさがる。

NNDソードとZサーベルがぶつかる。

「ふん!」

空いた左手を動かして、Zゼロノスの首元を掴む。

「ぐ……ああ……あ……」

首を掴まれ、Zゼロノスは苦しみのあまりにZサーベルを手放してしまう。

ガシャンという音を響かせてZサーベルが地面に落ちる。

空いた両手を使って、振り解こうとするが離れてくれない。

何とか離そうと考える。

「ぐ、ううううああああああ!!」

Zゼロノスは両腕で振り解けないならばぶらりと宙に浮いている両脚を使うことにした。

ネガNEW電王の左腕の両脚を挟んで固定して、相手手首を掴んで身体に密着させてから、左腕を反らせることで『極めた』状態になる。

「ぐっ。うあああああ!」

ネガNEW電王が今までにないくらい大声を上げた。

無理もないことだろう。いくら強くても関節技を極められているのだから。

アックス電王と力勝ちしているだけあって、Zゼロノスの体重を支えていた。

本来なら確実に倒れるはずだ。

「野上!今だ!」

今なら左腕は使えないので攻撃手段は限られてくると判断したZゼロノスは腕挫十字固

うでひしぎじゅうじがため

を極めたまま促した。

「甘ぇよ!」

Zゼロノスを乗せたまま左腕を高く持ち上げて、地面へと手加減なしに叩きつける。

「がはぁっ!!」

一メートル五十センチ以上の高さからマッハといわないが、それでも常人とは比べ物にならない速度でほぼ無防備状態のまま地面に叩きつけられたのだ。

全身に痛みが走って麻痺状態になっている。

ネガNEW電王は追い討ちとして鳩尾に狙いをつけて足を踏みつける。

「あ……あ……」

Zゼロノスは両腕、両脚をピクピクさせてから動かなくなった。

「侑斗!」

「後一匹。惜しかったな……」

ネガNEW電王が刃をZゼロノスを呼ぶライナー電王に突きつけた。

 

「侑斗さん!!」

「侑斗!!」

はやてとデネブが同時にZゼロノスを呼ぶが、起き上がる気配はなかった。

「赤鬼!!」

ヴィータがソード電王を叫ぶが、起き上がる素振りはない。

「侑斗とモモタロスをこちらに運びたいが、明らかに今のままでは……」

デネブは倒れている二人を回収したいのだが、完全にネガNEW電王には丸見え状態なので気取られずにするのはまず不可能に近い。

「待てデネブ」

ザフィーラ(獣)がデネブを止めた。

「ザフィーラ?」

「桜井もモモタロスもまだ意識はある。恐らく気取られないように体調を戻そうとしているのだろう」

他の三人と違い、Zゼロノスとソード電王はまだ息をしていた。

正確には乱れた息を整えようとしている段階だが。

「大丈夫。良太郎は負けない……。電王は負けたりなんかしない!」

フェイトのバルディッシュ・アサルトを握る手は震えているが、言葉は強かった。

必死で脳裏に過ぎっている最悪の展開を振り払うかのように。

「テスタロッサ……。そうだな。野上は仮面ライダー電王は負けたりしないな……」

シグナムも脳裏に過ぎる最悪の展開を振り払うかのように前向きな事を口に出していた。

誰もがライナー電王とネガNEW電王の戦闘を見守る中、気付いていなかった。

ロッド電王、アックス電王、ガン電王の三人の指や足がピクピク動き始めている事に。

 

デンカメンソードとNNDソードがぶつかり、火花を上げる。

二人の電王はそのままの状態で右に走る。

ライナー電王はネガNEW電王の動きに必死についていこうとしていた。

同時に、距離を開けるようして離れる。

(焦るな……。一瞬でも気を抜いたらやられる!)

そんなひりつく感覚がライナー電王を支配し、動きを機敏にさせていた。

一瞬の油断が一瞬の判断ミスで命根こそぎ持っていかれるという想いでデンカメンソードで防御に入る。

自分の攻撃が相手の命を削るという想いで、デンカメンソードを振り下ろす。

「そういえば、お前と戦うのは初めてだったよな……」

ネガNEW電王がNNDソードを肩にもたれさせてから、改めて思い出したかのように言う。

「?」

「そうだろ?今まで戦ってきたのはテメェの身体を借りていたイマジン共だからな……」

ネガNEW電王に指摘されるとは思わなかった。

彼の言うとおり、ライナー電王(自分)ネガNEW電王(ネガタロス)は対面はした事があるがこうして戦った事は一度もない。

「イマジンに身体を貸して戦っている限り、テメェに成長はねぇと思ってたがどうやら俺の考え違いのようだったな」

ネガNEW電王は独り言のように言う。

「こうして俺と戦っていても、気後れする気配はまるでねぇ。人間にしては大したもんだぜ。素直に褒めてやるよ」

「余裕?」

「フン。これから葬る相手にせめてもの贐だ!」

言うと同時に間合いを詰めて、右上段回し蹴りをライナー電王の左こめかみに狙いをつけて放つ。

「ぐっ!」

繰り出す速さについていけずに直撃を許してしまう。

そのまま右へと飛んでしまおうとするが、ネガNEW電王は逃がさない。

「まだまだぁ!!」

すぐさま左上段回し蹴りを放って右こめかみを狙い撃つ。

「がはっ!」

今度は左に飛ぶ。

足がおぼつかない動きをしてヨロヨロだ。

「ふんっ!」

更に右前蹴りを放って、後方へとライナー電王を飛ばした。

「うわああああ!!」

背中から落下してそのまま滑っていく。

ネガNEW電王はゆっくりと歩み寄って、胸部を踏みつける。

「がはっ!」

「さすがにしぶといな。だからこそいたぶり甲斐もあるってもんだぜ」

ネガNEW電王は左手でライナー電王の首元を掴んで持ち上げる。

「ふんっ!!」

そのまま地面に叩きつける。

「ぐあはっ!」

背中を強く叩きつけられる。

ネガNEW電王はもう一度ライナー電王を持ち上げる。

「まだくたばらねぇか」

そう言って、首元を掴んでいた手を離す。

ライナー電王はその場で両膝を地について、首元を押さえて息を整えようとする。

左前蹴りを放って、ライナー電王の顎を捉える。

仰け反って、あお向けに倒れる。

「う……ぐぐ……う……」

転がってから四つんばいになって、ライナー電王は起き上がる。

デンカメンソードを持って構えているが、フラフラだった。

「はあはあはあ……はあ……」

「虫の息だな。今楽にしてやるぜ……」

ネガNEW電王がNNDソードを両手に構えて、上段に振り下ろそうとしていた。

その瞬間にライナー電王の意識はフェードアウトした。

 

 

「う……うん……」

小さく呻き声のような声を上げながら、ライナー電王はゆっくりとだが意識が回復している事を自覚していた。

両手を地に付けて、フラフラとしながらも起き上がる。

周囲を見回すがそこは海鳴市ではないことは確かだった。

上は漆黒で下は深紅という殺風景で飾り気のないものだった。

東西南北のような方角もコンパスがないため、把握できない。

「どこだろ?ここ……」

とにかくじっとしていても仕方がないので、自分の中で前に進んでいるという気持ちで足を動かすしかなかった。

時間も時計がないのでわからないが、感覚的に十分くらい歩いたくらいだろう。

二つの何かがライナー電王の前の地面にあった。

照明器具がないため電仮面のゴウカスキャンアイのナイトヴィジョン機能に頼るしかない。

人間の肉眼なら暗闇に対して視界が慣れるのに時間を要するが、今のライナー電王にとって視界は昼間しと大差はないのでハッキリと見える。

「!?」

ライナー電王が見つけた二つの何かとはアリサ・バニングスと月村すずかだった。

しかし、何故うつぶせになっているのかがわからない。

それにこんな姿でいるのに何の反応も示さないというのもおかしい。

アリサとすずかの首元---頚動脈に触れる。

「そ、そんな……」

頚動脈に脈打つ動きがない。

死んでいるのだ。

二人の虚ろに開いている目を閉じて、その場に並ぶようにして置く。

無事に天国に旅立てるように、ライナー電王は黙祷をささげる。

更に足を前へと進める。

そこには四人---高町士郎、高町桃子、高町美由希、高町恭也が先程のアリサやすずかのようにうつぶせになっていた。

「まさか!?」

速度を速めて士郎達の元に歩み寄るライナー電王。

士郎、桃子、美由希、恭也それぞれの脈に触れてみるが何の反応もない。先程の事もあってそれが死亡しているのだという事はすぐに判断できた。

ライナー電王の身体全身が震えていた。

 

誰が一体?

 

何かを抑えている鎖に亀裂が走り始めた。

 

なのはを除く高町家の面々に黙祷をささげてからまた歩き出す。

その後もまた山といえば小さく、石と呼ぶには大きい塊があった。

それもやはり人であり、リンディ、クロノ、エイミィ、アレックスだった。

ほんの少しの希望を持って近寄ってみるが、やはり死んでいた。

 

どうして?

 

鎖が先程よりも多く亀裂が走った。

 

ライナー電王の脳裏にそのような疑問形が浮かび上がってきた。

「あ……あああ……」

目の前の現状にそして、これから足を進めれば多分だが知り合いの死体があるのだろうと予想していた。

ここから早く抜け出したいという気持ちがライナー電王を支配し、『歩』から『走』へと切り替えて前へと進む。

こんな所にいたら気が変になりそうだ。

『自分』を維持するための防衛行動ともとれる。

「はあ……はあはあはあ……」

しばらく走ってからライナー電王は息を整えるために停まる。

できれば何もないと思いたかった。

何もなくていいと思った。

だが、そこには五人の亡骸があった。

はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ(人型)だった。

レヴァンティンは折れ、グラーフアイゼンも破壊されて地面に刺さっていた。

「な、何で……」

 

何のために……

 

更に鎖に亀裂が走っていた。

 

両手で頭を抱えて走る。

ひたすら走る。

何も考えたくない。

早くこの場所から出たい。

一刻も早く、みんながいる場所に戻りたい。

足が動く。ただ逃避のために走る。

腕も推進力を得るために思いっきり振る。

その中で右足が何かに躓いてしまう。

起き上がって何に躓いたのか確認すると、そこにはZゼロノスとデネブが横たわっていた。

「侑斗……。デネブ……」

何も考えたくないと念じても色々と悪い事ばかりがよぎってしまう。

走る気力もなくなり、とぼとぼと歩く。

そのまた先にはコハナ、ナオミ、オーナーが遺体となっていた。

ライナー電王は口を開かない。

もう何も言いたくない。

言ったところで生き返るわけでもないからだ。

 

こんなひどい事を……

 

鎖の一部が砕けていた。だが、それでも鎖は一本ではなく数本あった。

鎖で抑えられているものが暴れていた。

 

ライナー電王はそれでも歩く事をやめなかった。

常人ならばとっくに発狂しているようなところを歯を食いしばっているのだ。

正直、見ているだけで痛々しい。

出口があると信じてただ真っ直ぐに歩いていた。

「はあ……はあはあはあ……」

歩いているだけでも疲れは出てくる。

何かが刺さっているものが見えた。

疲労のせいで足は軽く動いてはくれない。

そのため、ゆっくりではあるが歩を進める。

地面に刺さっている何かとは亀裂と内部メカが露出しているレイジングハート・エクセリオンだった。

その近くには三人がうつぶせになっていた。

一人目はフェイトの使い魔であるアルフ(人型)。

二人目はレイジングハート・エクセリオンの持ち主であるなのは。

三人目はなのはを守るようにして側で横たわっているユーノだった。

「アルフさん……。なのはちゃん……、ユーノまで……」

 

いい加減にしてほしい……

 

鎖に抑えられている何かが今にも鎖を食いちぎらん勢いだった。

数本の鎖にもビシビシと亀裂が入っていた。

 

悪い予感がしてくる。

こうまで自分の知り合いが死体になっているとどんなに前向きに考える事を信条としているライナー電王でも、後ろ向きな風に考えてしまう。

息が乱れる。

心臓の動悸が激しくなっている。

胸元を押さえながらも前へと進む。

四つの何かが地面に刺さっていた。

それが四人の電王の専用武器だというのはすぐにわかった。

本来イマジンは死亡した場合、砂となるか爆発して跡形もなくなるかのどちらかしないかないのだがこのように遺体として残っている事は本来は不自然なのだが、ライナー電王はそれを疑問には思わなかった。

正確には疑問に感じる余裕がないのだ。

「モモタロス……、ウラタロス……、キンタロス……、リュウタロスまで……」

両膝を折って四つんばいになって地面に両腕を叩きつける。

叩きつけた拳はブルブルと震えている。

 

こんなひどい事をしたのは誰!?

 

亀裂の入った無数の鎖のうちの数本がバキリと切れた。

鎖で抑え付けられているものが更に暴れていた。

 

ライナー電王の耳に悲鳴が聞こえた。

起き上がって声のする方向を頼りにあらん限りの力を振り絞って駆ける。

そこには心臓部から血を出して倒れているフェイトとオーラソード部分から血をたらしているNNDソードを持っているネガNEW電王がいた。

おそるおそる亡骸になっているフェイトの側に寄る。

抱きかかえても冷たくなっていく一方だ。

フェイトの死が覆る事はない。

「フェイトちゃん……フェイトちゃん!!起きてよ!起きるんだ!!」

両目から涙を流しているが拭わずに必死に呼びかけるがフェイトは目を開かないし、唇から言葉を発する事もなかった。

「ハハハハハハハハハ」

頭上から笑い声をする。

側にいるネガNEW電王が笑っているのだ。

自分の仲間を次々と殺して絶望する姿を見て心底笑っているのだ。

「………」

ライナー電王は嗚咽を漏らし終えると、ネガNEW電王を睨む。

 

みんなを殺したのは彼だ。

僕が絶望する姿を見るために殺したのだ。

許さない。

許さない許さない。

絶対に許さない!!

 

鎖が更にバキンバキンバキンと砕けていった。

最後の一本の鎖で押さえつけられているものが解放されるのを望むようにして暴れている。

 

フェイトの亡骸を側において、ライナー電王は立ち上がる。

再びネガNEW電王を睨む。

「全部君が……」

拳が震える。

『恐怖』ではなく、『怒り』だ。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!」

左足を前に出して、腰に捻りを入れて右拳を振りかぶってからネガNEW電王の顔面に狙いをつけて右拳を一直線に放った。

 

殺す!

 

最後の一本の鎖も完全に砕け散り、抑えこまれていたものがとうとう本格的に動き出した。

 

 

「うわああああああああああああああ!!」

獣のような咆哮を上げながらライナー電王はデンカメンソードを持っている右手を振るってネガNEW電王が一撃を放つより速く、食らわせていた。

「ぶほっ!」

ネガNEW電王が声を上げるより速く更なる一撃を左拳を顔面に放つ。

三撃目はデンカメンソードを振り上げて一気に下ろす。

「ぐほあぁぁぁ!!」

胸部から腹部にかけて縦一直線に火花が飛び散って仰け反る。

「良太郎?」

「野上?」

側で起き上がろうとしたソード電王とZゼロノスは側にいたためかライナー電王の異変をいち早く感じる事が出来た。

全身から殺気が吹き荒れていた。

それはもはや、普段のライナー電王と同一人物とは思えないものだった。

 

「いたぶられて意識が飛んだようにも見えたけど一体どうなってんだよ!?」

ヴィータがシャマルに訊ねる。

「意識が飛んでタガが外れたんじゃないかしら……。それでその……プッツンしちゃって……」

シャマルが自信なさげに推測を口に出す。

「ハナさん!プッツンってどうなるんですか!?」

なのはがこの中で一番ライナー電王と付き合いの長いコハナに訊ねる。それも必死な顔で。

「わからないわよ!?私だって見たことないもの……」

コハナもここから先のことは本当にわからないため、普段の冷静さはない。

 

「本気でキレた良太郎の姿なんて……」

 

コハナの言うように、この時完全に野上良太郎の理性は弾け飛んだ。

 

『修羅』となったライナー電王がデンカメンソードを構えて、ネガNEW電王との間合いを一気に詰めだした。

 




次回予告


       遂に『修羅』と化したライナー電王。

       まさに逆転となるか!?

       もう誰にも止められない!!

       そして戦いの舞台はまた別の場所へと移る。

       第六十話 「 修羅 対 最凶 」

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