「久しぶりだな。電王、ゼロノス」
そのように言われてリィンフォースに憑依しているのは誰なのか、チームデンライナー及びゼロライナーは即答できるわけがなかった。
リィンフォースに憑依しているのは紛れもなくイマジンだ。
過去の経験上、死霊が人に憑依して肉体を乗っ取ったという前例はない。
また彼等にとってイマジンに「久しぶり」と投げかけられる事も仲間内を除けばほとんどない。
何故なら彼等は対峙したイマジンを逃がした事がないからだ。
つまり、過去に戦った事のあるイマジンを何がしかの理由で意図的に逃がさない限りはそのようなやり取りは成立しないのだ。
そして経験上、自分達に敵対したイマジンにそのような措置をした憶えはない。
となると、リィンフォースに憑いたイマジンは『倒し損ねた』か『倒したと思い込んでいた』という事になる。
どちらにしても自分達の失態から招いた事だけは確かだ。
だからこの相手だけは電王&ゼロノスで倒さなければならない。
「久しぶりって事は聞くまでもないけど一回は会ってるし、戦ってもいるんだね?」
野上良太郎が代表してリィンフォース(?)に訊ねる。
相手が誰なのかを知るための情報収集だ。
「ああ。お前等のせいで折角の完全なる悪の組織を作るという俺の計画は完全に崩れたんだからな」
リィンフォース(?)が恨みがましく、こちらを睨みながら答えた。
「完全なる悪の組織?」
既に守護騎士達がいる場に避難している高町なのははリィンフォース(?)の単語に首を傾げる。
「良太郎達は過去にその計画を潰してて、リィンフォースに憑いてるイマジンはその事を根に持ってるって事かな……」
フェイト・テスタロッサも良太郎達側に避難しており、良太郎達とリィンフォース(?)の会話の中で情報を整理している。
桜井侑斗は八神はやてを抱き上げてリィンフォース(?)の側から離れており、デネブははやてが使っている車椅子を持って運んでいた。
「侑斗さん。どないなってんの?リィンフォース、どないしたん!?」
車椅子に乗せてもらったはやては、侑斗にリィンフォースの急変を訊ねる。
「ええと……」
デネブはどのようにして伝えたらいいか悩んでいる。
「簡単に言うぞ。リィンフォースはイマジンに身体を乗っ取られた」
「ほ、ほんまなん?」
はやては確認するようにもう一度侑斗に訊ねる。
侑斗は首を縦に振るだけだ。
「でも、いつ憑かれたのかしら?そんな機会あったとは思えないけど……」
コハナはリィンフォースがいつ憑依を許してしまったのかを思い出す。
「機会はあったさ」
侑斗がコハナの質問に答え始める。
「いつ?」
良太郎が急かす。
「八神が倒れた時、リィンフォースは八神と分離している。憑けるとしたらその時ぐらいだろう」
侑斗の推測を聞き、みな納得する。
確かにイマジンがリィンフォースに憑依する機会はその時だけだ。
「つーかよ。テメェ一体誰なんだよ?」
モモタロスは必死で思い出そうとするが、それでもわからない。
「僕達と敵対しているイマジンで生存してるヤツなんていた?」
「おらんやろ。俺等イマジンはおろか他のヤツだってきっちり倒してるからなぁ」
ウラタロスがお決まりのポーズを取って考えるが、モモタロス同様に思い当たる節がないのでキンタロスに訊ねるが結果は同じだった。
「オマエ誰~?」
リュウタロスは考えずにストレートにリィンフォース(?)に訊ねた。
「テメェ等の脳ミソはニワトリ並か……」
こめかみに青筋を立てながらもリィンフォース(?)は呆れと侮蔑を込めて吐く。
良太郎はリィンフォース(?)をもう一度見てから、彼が口にした単語をもう一度一字一句思い出す。
(久しぶり、悪の組織……)
『悪の組織』なんて言葉を公言したのは自分が知る限り、一人しかいない。
だが彼は倒したはずだ。
『時の列車』二台とキャッスルドランの集中攻撃で。
(あ……)
良太郎はこの時の末路を映像として記憶の中から引っ張り出した。
爆発するネガデンライナーを。
(そうか。爆発したのは列車だ……)
自分達は木っ端微塵に炎上した『時の列車』を見ただけで、操縦者の生死までは調べていない。
あの爆発なのだから確実に葬ったと思っていた。
もしこれが思い込みで、実際にはあの爆発を利用して逃げていたとしたら……。
彼が別世界に来て、「久しぶり」なんて声をかけるのも頷ける。
別世界に来る手段は『時の空間』に存在する『橋』を渡っていかなければならない。
そのためには『時の列車』を所有しておく必要があるわけだが、これもオーナーが教えてくれた『改造型の時の列車』の所有者が彼ならば辻褄が合う。
そして『改造型の時の列車』の素が大破したネガデンライナーならば間違いなく彼しかいない。
リィンフォースを乗っ取り、こうして自分達の前に立っているイマジンの名は、
「ネガタロス」
良太郎は静かにしかし、自信を込めて彼の名を口に出した。
*
準警戒態勢を維持し、アルカンシェルの反応区域を観測しているアースラ。
モニタールームではリンディ・ハラオウンを始めとしてエイミィ・リミエッタ、クロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライア(人間)、アルフ(人型)も海鳴市で起こっている出来事に目を疑わずにはいられなかった。
「どうなってるの?」
「わ、わかりません!?現在リィンフォースの変貌を解析中!」
リンディは自身の理解の範疇外の出来事にただ短く言葉を呟くしかできず、エイミィはキーボードを叩きながら解析を急いでいた。
「ユーノ、アルフ。君達にならわかるか?」
クロノは自身の下手な知識で考えるよりも、これがイマジン絡みなら自分よりも知識や経験を有している二人に聞くほうがより適切な答えが出ると判断した。
「モニター越しじゃ何ともいえないけど、髪の色が銀色から赤色のメッシュが入った黒色になってることから多分だけど、リィンフォース自身が変化したんじゃなくて彼女の中にいるイマジンが彼女の肉体を乗っ取ったんだと思う」
ユーノはこの中でただ一人イマジンとの憑依体験があるので言葉には説得力があった。
「それは人間限定ではないのか?」
クロノが言うように、リィンフォースは人の姿はしているが『人間』ではないので憑依は不可能ではないかと考えてしまうのが普通だ。
「ウラタロスさんが言ってたんだ。イマジンは人間でなくても、人の姿をしているものなら憑くことが出来るんだって」
ユーノが言うように、イマジンは人間と同じ様な姿を模しているものならば憑依が可能だ。
それはウラタロス、キンタロス、リュウタロスが鬼ヶ島での戦闘の際に思いつきで実行した事で証明されている。
彼等は仮面ライダーディエンドが召喚した三体の仮面ライダーG3、仮面ライダーコーカサス、仮面ライダー王蛇に憑依し、自由に操っていたのだから。
「そうなるとリィンフォースの身体を乗っ取れたってのも頷けるねぇ」
アルフが腕を組んで納得する。
「アルフ、クロノ。行くよ!」
ユーノがモニタールームから出ながら二人に呼びかける。
「あいよ!」
「そうだな。彼等が思いっきり戦えるようにするのも重大なことだからな」
アルフとクロノもモニタールームを出た。
「エイミィ。転送ポートの準備を!」
「既にやっています!」
モニターに映っているリィンフォース(?)の解析を行いながらも、エイミィは先程より速い手つきでキーボードを叩いていた。
*
ネガタロスに乗っ取られたリィンフォース(以後:Nリィンフォース)はその場にいる全員を見回していた。
「さて、別世界の連中には自己紹介はまだだったな。我が名はネガタロス。かつてそこにいる電王とゼロノスに倒されたイマジンだ」
Nリィンフォースが自己紹介として、大仰に挨拶する。
「そして、別世界の時間を破壊する力を手にした者だ」
挨拶を終えるとNリィンフォースはデンオウベルトを出現させて、腰元に巻きつける。
色は銀色ではなく、金色だった。
カチリとベルトが巻かれた音が鳴る。
今までに聞いたことがない感じのミュージックフォーンが流れ出す。
そして、右手にはパスが握られていた。
「そんな、パスは!?」
「俺達が奪い返したはずだ!」
良太郎とモモタロスが言うように、ネガタロスがかつて奪ったパスはきちんとこちらで取り返している。
彼が持っていることは正直に言えばおかしい。
「フン。パスを奪ってから何日経って奪い返してると思ってんだよ?コピーを作る時間は十分すぎるくらいなんだぜ」
Nリィンフォースは嘲笑しながら、右手に持っているパスをちらつかせている。
「テメェ等全員に見せてやるぜ。最凶の仮面ライダーってヤツをな……」
Nリィンフォースは手にしたパスをターミナルバックルに向けて投げた。
「変身」
『ネガストライクフォーム』
デンオウベルトから電子音声でそのように発し、Nリィンフォースの姿が紫色が主体で節々が金色のプラット電王からデンレールが波打っているような両肩にターンブレストが特徴の胸部、そしてNEWデンライナーをモデルとした鋭角な電仮面が装着されていく。
更に特徴的なのは身体全身に青色のトライバル柄パターンが配されていることだろう。
それが余計に禍々しさを引き立たせていた。
仮面ライダーネガNEW電王(以後:ネガNEW電王)の完成である。
全身から目の前にいる者全てを吹き飛ばすほどのフリーエネルギーが噴出す。
思わずその場にいる誰もが、吹き飛ばされそうになるが全員踏ん張っていた。
「オイ!あの姿って……」
「嘘でしょ!?」
「あ、有り得へんで!」
「そんな~!」
「でも、間違いなく……」
「うん。間違いなく……」
チームデンライナーはネガNEW電王の姿にショックを受けながらも、その姿に納得していく。
「野上、お前達だけで納得してないで説明しろ。あの電王、明らかに以前ネガタロスが変身した姿とは違うぞ。それにお前達は見覚えがあるみたいだけど何なんだ?」
「あの電王はね。幸太郎---未来から来た僕の孫の電王の姿なんだよ」
良太郎は侑斗に簡潔に説明した。
「以前と姿を変えているって事はパワーアップしていると考えた方がいいんだよな?」
「多分ね」
侑斗の確認に良太郎は曖昧な返事しか出来なかったが、間違いではないと思っている。
「モモ、ウラ、キンタロス、リュウタ!オーナーからよ!」
沈黙を破ったコハナは、四体に向けて黒い物体を手裏剣のようにして華麗にかつ的確に投げつける。
三度目の事なので、四体は難なくキャッチする。
良太郎もポケットからパスを取り出していた。
*
「こうなると最早、私達ではどうしようもなくなるわね」
アースラのメインモニターでネガNEW電王の姿を見て、リンディはここから先は良太郎達の領分だと判断した。
「モニターに映っている仮面ライダーの戦闘能力は魔導師ランクで解析するとSS+です!」
アレックスが報告する。
「SS+ぅ!?それじゃ海鳴市にいる誰よりも高いよ!」
魔導師ランク=実力ならばエイミィの言うとおり、海鳴市にいる誰もが勝てないことになる。
だが実際にはそうでないというのが現実なのだが、名目どおり低ランクが高ランクに勝利するというのは難しいというのも現実だ。
データは抹消されているが、クライマックス電王でもSランク(フリーエネルギーが安定している状態)なのでそれぞれのフォームの電王がそれよりも高いという事はないとエイミィは記憶していた。
「この世界の命運は彼等---仮面ライダーに懸けるしかないわね……」
リンディは自身ができる事というよりも時空管理局の可能範囲を逸脱していると理解しているため、ネガNEW電王の扱いは海鳴市にいる仮面ライダーに委ねるしかないと判断した。
*
「「「「「変身!!」」」」」
掛け声と同時に、侑斗を除く一人と四体はデンオウベルトを出現させて腰に巻き付けてターミナルバックルにセタッチする。
モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスがプラット電王からそれぞれのフォームの電王へと変身していく。
モモタロスは赤色のオーラアーマーと桃のレリーフが電仮面となっているソード電王に。
ウラタロスは青色のオーラアーマーと海亀がモデルとなっているロッド電王に。
キンタロスは金色のオーラアーマーと『金』という文字に斧がモデルの電仮面のアックス電王に。
リュウタロスは紫色のオーラアーマーにドラゴンがモデルの電仮面のガン電王に。
良太郎は赤と黒が目立つプラット電王からキングライナーがモデルとなっているオーラアーマーが胸部に装着され、その後にデンライナーがモデルとなっている電仮面が装着されてライナー電王へと変身した。
「俺、参上!!」
ソード電王は右親指で自身を指してから、左手を前に出して大仰なポーズを取る。
「オマエ、僕に釣られてみる?」
右手で軽く額を当ててから、ウラタロスの時と同じ様にインテリなポーズを取るロッド電王。
「俺の強さにお前が泣いた!」
両手をパンと前で叩いてから、四股を踏むアックス電王。
「オマエ、今度こそ倒すけどいいよね?答えは聞いてない!」
その場でくるりとターンしてから右手でネガNEW電王を指すガン電王。
「みんな、最後の戦いだ。いいね?」
ライナー電王は他の電王にそのように告げてから、一瞬だけデンカメンソードを構える。
他の電王もそれぞれの武器を構える。
その場の温度が一度か二度ほど下がったように感じたのは決して気のせいではない。
「良太郎ぉぉぉ!!」
「みなさぁぁぁん!!」
アースラから転送されてきた戦闘スタイルのアルフとバリアジャケット姿のユーノ、クロノが海鳴の雪空から降りてきた。
「この辺りには結界を張っておきました。思う存分戦ってください」
ユーノが電王達の前に立って状況を説明してくれた。
「君達もバリアジャケットや騎士服を着用してくれ。結界の中で観戦する以上、せめてもの自衛だ」
クロノが私服姿でいるなのは、フェイト、ヴォルケンリッターに促した。
促された者達はすぐさまバリアジャケット及び騎士服を着用する。
「こうして生で見ると、ひしひしと恐ろしさが伝わってくるねぇ」
アルフがネガNEW電王を見て率直な感想を述べる。
「アルフさん。侑斗と八神さんの話が終わってからでいいから八神さんをみんなの所へ運んであげてくれる?」
「了解。任しときなって」
アルフはライナー電王の頼みを快諾してくれた。
「な、なあ侑斗さん」
はやては涙を拭いながら、侑斗を見上げる。
「お前の言いたい事は大体はわかる。リィンフォースを助けてほしいって言いたいんだろ?」
はやては首を縦に振る。
「リィンフォースをイマジンから助けたって!お願いします!侑斗さん!デネブちゃん!」
土下座でもしかねない勢いではやては侑斗とデネブに深々と頭を下げる。
彼女はわかっているのだろう。
自分が言った「リィンフォースを助ける」というのは決してリィンフォースを生存させて救出させる意味ではなく、ネガタロスから解放させてリィンフォースが望んでいる『死』を叶えてほしいという意味がこもっている事を。
「八神。お前、俺の事を仮面ライダーだって言っていたよな?」
「うん……。侑斗さんは仮面ライダーゼロノスやで。でも、侑斗さん全然認めへんけど」
はやての言うように、侑斗は『ゼロノス』であって『仮面ライダーゼロノス』である事は頑なに拒否していた。
『仮面ライダー』が自身の目的ではなく、力なき者や弱き者を守るための存在ならば自分は違うからだ。
自身がゼロノスカードを用いてゼロノスになるのはあくまで自分のためだからだ。
そんな自分が『仮面ライダー』を名乗るなんておこがましいにも程があると考えている。
だが今、自分の目の前で必死に懇願している少女がいる。
その少女は自分にとっては『恩人』といってもいい存在だった。
ゼロノスカードを用いる事で支払われる代価が『桜井侑斗に関する記憶』と知っても、彼女は普通に接してくれた。
それがどれだけ、ありがたくそしてどれだけ嬉しかった事か。
彼女のために戦いたい。
その気持ちが侑斗の中に芽生えていた。
侑斗はゼロノスカードをケースから取り出す。
そのカードは今までの物とは違い、表面に赤色と裏面に緑色のラインが走っていた。
「このカードを使えば四枚目になる。特異点でもない普通の人間であるお前が四枚目で俺を憶えているとは思えないから今のうちに言っておくぞ」
「侑斗……」
デネブは侑斗が今から別れの挨拶をしているのだろうと察した。
「ありがとう」
この二ヶ月近くの感謝を込めて短くだが彼は述べた。
はやてに背を向けてゼロノスカードを手にして、侑斗は凝視する。
ゼロノスベルトを出現させて、腰に巻きつける。
ガチャっときちんと巻かれた音が鳴る。
ゼロノスベルトのバックル上部にあるチェンジレバーを右側へとスライドさせる。
「今だけはお前だけの仮面ライダーになってやる」
和風のミュージックフォーンが流れ出す。
「変身!」
『チャージ&アップ』
ゼロノスカードをアプセットすると、今までと違う電子音声を発した。
ゼロノスの姿へと変わっていく。
オーラアーマーが出現して身体に装着されて、牛の頭をモチーフとしたものが二頭走って電仮面となる。
ただし通常のゼロノスとは違い、アルタイルフォームで緑色や銀色や金色だった部分が錆びた感じの赤銅色と金色となっており、全体的に派手さに欠ける感じのカラーリングになっていた。
仮面ライダーゼロノスゼロフォーム(以後:Zゼロノス)の完成だ。
側にいたデネブもフリーエネルギーに変換されて、ガトリングガン型の武器へと変わっていた。
デネブが変化した武器---デネビックバスター(以後:Dバスター)がZゼロノスに握られていた。
「最初に言っておく!俺達は今すーごーく強い!!」
『その通り!』
ZゼロノスとDバスターを構えてから、同時にネガNEW電王に発する。
「行ってくれ」
「あいよ」
Zゼロノスはアルフに、はやてを運ぶように促した。
アルフは指示通りにはやてを皆が集まっている場へと移動した。
電王達とZゼロノスが並び、ネガNEW電王を睨みつけていた。
ネガNEW電王はフリーエネルギーを用いて量腰に収まっているネガNEWデンガッシャー(以後:NND)を宙に浮かせる。
四つのNNDは左側二つのパーツが横連結して、右側のパーツが上下を挟むようにして縦連結された。
紫色で青色のトライバル柄のパターンが施されているオーラソードが出現した。
NNDソードの切先を向けながら、不敵に言う。
「強さは更に別格だ」
それが決してハッタリではないという事を誰もが思ったのは決して間違いではない。
なのはにとって今起こっている事は出来るならば夢であってほしいと思っていた。
仮面ライダー同士が戦っているという事だ。
相手がイマジンならば及ばずながら力になれるかもしれないが、相手が仮面ライダーだと自分達にできる事はないに等しい。
それに、参戦を今戦っている者達が望んでいるとは思えなかった。
付き合いがそこそこあるので、何となくわかるようになっているのだ。
横にいるフェイトを見る。
真っ直ぐに戦いを見ていた。
だが、彼女の手は拳を作っておりプルプルと震えていた。
(フェイトちゃん……)
本当は戦いに加勢したいのだろう。
それはフェイトだけではなく、シグナムやヴィータも同じだった。
(同じ気持ちなんだ……。わたし達)
自分と同じ気持ち。
『助けられてるのに助ける事が出来ない』事に対してのむず痒さだ。
だから自分達にできる事はひとつしかない。
頑張って、負けないで、と。
ガン電王がDガンに引き金をひたすら絞って、フリーエネルギーの弾丸をネガNEW電王に浴びせていた。
「さっさと倒れちゃえ!」
その場でステップを踏みながら、腰に捻りを咥えたりしながら打ち続ける。
『侑斗!』
「わかってる!」
同じ飛び道具を持つZゼロノスがDバスターの引き金を絞って、ゴルドフィンガーから十発のフリーエネルギーの弾丸が発射される。
弾丸の雨を浴びながらも、ネガNEW電王が怯む様子はない。
むしろケロッとした様子で前進していく。
「コイツ、全然聞いてないよ!?」
「だったら接近戦に持ち込むぞ!」
狼狽するガン電王に対してZゼロノスは戦闘プランを促して、実行した。
Dバスターの銃口を向けたまま、ネガNEW電王へと向かっていく。
ガン電王も真似するような動きで、間合いを詰めていく。
ZゼロノスがDバスターをラリアットの要領で振り回して、ネガNEW電王のこめかみに狙いをつけるが上体を反らされて避けられてしまい、ガン電王はその隙を狙ってDガンの銃口を向けたまま跳び蹴りをそ放つが、それも更に左に腰を捻る事で避けてしまう。
体勢を立て直したネガNEW電王はNNDソードを左手に持ち替えてから跳び蹴りの状態から立て直そうとしているガン電王を背後から掴む。
「え!?」
「ふぅん!!」
そのままZゼロノスに向けて投げ飛ばした。
二人はそのまま後方へと飛ばされて地面に倒れる。
「フン。悪くないな」
ネガNEW電王は自身の調子を確かめるようにして、右掌をみていた。
「キンちゃん!」
「わかっとるで!」
DロッドとDアックスをかまえたロッド電王とアックス電王がすかさず、ネガNEW電王へと間合いを詰める。
ロッド電王はDロッドのしなりを利用して、軌道を読ませないようにしながら『突き』を繰り出す。
ネガNEW電王はその繰り出されている連撃を避けたり、NNDソードを使って防いだりしていた。
ひとしきり攻撃をし終えると、ロッド電王は自分からネガNEW電王へと間合いを開けた。
すぐさまアックス電王がDアックスを上段から振り下ろす。
ガキンとNNDソードで受け止めた。
ギリギリギリとひしめき合っているが、分があるのはネガNEW電王だった。
空いている右手を拳にして、アックス電王の腹部に放つ。
「ぐほぉ!」
アックス電王がくの字に曲がり、そのままNNDソードを両手に構えて袈裟斬りを繰り出す。
「うおわあああ!」
アックス電王は火花を飛び散らせながら仰け反って、あお向けになって倒れた。
「キンちゃんに力勝ちするとは思わなかったよ!」
ロッド電王はDロッドを頭上に振り回してから構えて間合いを詰める。
Dロッドを袈裟へと振り下ろしてから右切上に向かって繰り出すが、ネガNEW電王は数歩下がるだけで避けきってしまうが、ロッド電王にとっては想定内なのでそのまま間合いを詰めて左こめかみに狙いをつけてから左上段回し蹴りを繰り出す。
だが、ロッド電王の蹴りはNNDソードで受け止めていた。
「武器で散々攻撃しながら蹴りも放つか。前の時と変わらねぇな」
ネガNEW電王は動じる事もなく感想をもらす。
「テメェ等に面白いものを見せてやるぜ」
右掌をロッド電王に向けてかざす。
宙に一本の赤色の短剣が出現する。
「それってまさか!?」
ロッド電王は自分が向けられているものが何なのかを理解すると驚きの声を上げずはいられなかった。
「ブラッディダガー」
ネガNEW電王は静かに言い放った直後に、赤色の短剣は発射した。
「うわああああああ!」
ロッド電王の悲鳴と同時に爆発が生じて、爆煙からロッド電王が飛び出てドサッと後方に倒れた。
「残りはテメェ等だけだぜ?」
挑発するようにネガNEW電王は言い放つ。
「行くぜ!良太郎!」
「うん!!」
ソード電王はDソードをライナー電王はデンカメンソードを構えて、ネガNEW電王の挑発には乗らずに間合いを詰めるために駆け出した。
次回予告
第五十八話 「最凶の落とし穴