第五十六話 「最後の暗躍者」
そこは何もなく、本来なら他者の侵入はほぼ不可能な場所。
しかし、彼はそこにいた。
「これで手に入る。長かったな。あれから半年間待ち続けてきたからな」
彼は新たな力が欲しかった。
自身の目的のために。
改造した『時の列車』を使い、強大な力を得るために自分の住んでいる世界を離れて別世界へと足を運んだ。
そこで『闇の書』を目にした。
彼には初めて見た瞬間からわかった。
それがただの本ではなく、得体の知れない何かがあるという事を。
そのように思ったのは理屈ではなく本能からだった。
そして、確信があった。
『闇の書』の力を自分が手にするという事を。
彼はこれを『運命の出会い』と予感した。
最初は持ち主から強奪して手に入れようとしたが、ゼロノスに邪魔された。
次に、自身が『闇の書』のページ蒐集をする事が出来ない事を知った。
だから彼はただひたすら待ち続けた。
彼女達が完成させる事を。
この半年間ずっと。
そして、その時はやってきた。
「さあ『闇の書』よ。今こそ俺がお前を手してやるからな!」
彼が開いていた右手を拳にしていた。
掴んだものを離さないという意思の表れのようにも見えた。
*
地球が球体であり美しく見える事が許される宇宙空間に佇んでいるアースラではというと。
八神はやてがベッドで眠っており、桜井侑斗、デネブ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ(獣)、リィンフォースが囲むようなかたちで立っていた。
「やはり、破損は致命的な部分にまで至っている。防御プログラムは停止したが、歪められた基礎構造はそのままだ……」
リィンフォースは自身の内情を検証した結果を告げた。
「私は『夜天の魔導書』本体は遠からず新たな防御プログラムを生成し、また暴走を始めるだろう」
「やはりな……」
リィンフォースの告げた内容にシグナムはある程度の予測をしていたのか、驚いていない。
声には出さないが他の守護騎士達も同様だ。
「修復は出来ないの?」
シャマルがかすかな希望を持って訊ねてみる。
「無理だ。管制プログラムである私の中からも『夜天の魔導書』本来の姿を消されてしまっている……」
リィンフォースは首を横に振って答える。
「元の姿がわからなければ戻しようがないということか?」
「そういうことだ……」
リィンフォースとしてもどうしようもない事だった。
完全にお手上げ状態なのだ。
「主はやては大丈夫なのか?」
シグナムが眠っているはやての容態を訊ねる。
「何も問題はない。私からの侵蝕も完全に停まっているし、リンカーコアも正常作動している。不自由な足も時を置けば自然に治癒されるだろう」
「石田先生が知ったら仰天モノになるぞ」
侑斗が口を開き、はやての容態がよくなることに訝しげな表情を浮かべながら喜びの表情を浮かべる石田医師のことを想像していた。
「確かにそうね。でも、それで良しとしましょうか……」
「ああ。もう心残りは何もないな」
「二人とも。それでは八神とお別れするみたいだ……」
シャマルとシグナムの台詞から何か特別な意思のようなものを感じ取ったデネブ。
「防御プログラムがない今、『夜天の魔導書』の完全破壊は簡単だ。破壊しちゃえば暴走する事も二度とない」
「だけど、その代価としてお前等が消えてしまうってわけか」
侑斗がヴィータの言葉の続きと思えることを告げた。
「「「「「………」」」」」
守護騎士は全員黙りこくってしまう。
「そんな……。それじゃ八神はまた一人ぼっちになってしまう……。また家族を失う苦しみを味わう事になってしまう……」
デネブの言うとおり、はやては既に両親を失っている。
その苦しみをまた彼女が味わうとなると、気が気ではない。
「いいや違う。守護騎士達は残る」
リィンフォースの発言に全員が顔を向ける。
「逝くのは私だけだ」
リィンフォースの瞳に『覚悟』がにじみ出ていた。
アースラの食堂でもリィンフォースの発言は既に知れ渡っていた。
体調の回復のためにも野上良太郎、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスは食堂にある料理を食べていた。
病み上がりなので摂取して体調をよくしようという考えだろう。
ちなみにジークは「役目を終えた」と言ってそそくさとデンライナーに戻っていった。
「『夜天の魔導書』の破壊?」
「どうして!?防衛プログラムは破壊したはずじゃ……」
食堂の別のテーブル席ではというとフェイト・テスタロッサと高町なのははクロノ・ハラオウンとユーノ・スクライア(人間)が告げた内容に目を大きく開いて驚いていた。
良太郎も食べながらではあるが聞いている。
「『闇の書』---『夜天の魔導書』の管制プログラムからの進言だ」
「管制プログラムって、なのは達が戦っていた……」
アルフは確認するようにクロノに訊ねる。
クロノは肯定としての意味を込めて首を縦に振る。
「防御プログラムは無事に破壊できたけど、『夜天の魔導書』本体はすぐにプログラムを再生しちゃうらしいんだよ。今度もはやてちゃんが侵蝕される可能性は高い。『夜天の魔導書』が消えない限り、どうしても危険は残っちゃうんだよ」
ユーノの説明に食堂にいる誰もが真剣な表情で耳を傾けていた。
「だから『夜天の魔導書』は防衛プログラムが消えている今のうちに自らを破壊するように申し出た……」
「そんな……」
なのははやりきれない表情を浮かべている。
「でも、そんな事したらシグナム達は!?」
フェイトが尤もな事をクロノに訊ねる。
「いや、私達は残る」
クロノの代わりに先程に食堂に入ったシグナムが答えてくれた。
シャマルとザフィーラ、侑斗とデネブも一緒だ。
「防御プログラムとともに我々、守護騎士プログラムも本体から解放したそうだ」
ザフィーラが補足説明をしてくれた。
「それで、リィンフォースからなのはちゃん達と良太郎君達にお願いがあるって」
シャマルの言葉に名指しを受けた者達は首を傾げた。
ヴィータは一人、はやてが眠っている部屋にいた。
掛け布団が落ちたので、はやてにかけてやる。
「はやての幸せが、あたし達の一番の幸せ。だからリィンフォースは笑って逝くってさ」
はやては起きる気配はない。
背を向けて、部屋を出ようとするヴィータ。
ドアが自動で開く。
「夢の中でいいから褒めてあげてね。あの子の事を」
ヴィータは悲しみを必死に隠すような笑みを浮かべていた。
「はあ……はあはあはあ……はあ……」
息を乱しながらリィンフォースは一人、『夜天の魔導書』を抱えてアースラの廊下をヨロヨロとしながら
も歩いていた。
「まだだ……。私が抵抗できる内はお前の好きにはさせない……」
リィンフォースが片目を閉じて胸元を掴みながら、必死に内なるものに抗う。
(随分と粘るな。だが俺は気長に待たせてもらうぜ。今になるまで半年も別世界にいたんだ。今更一日や二日ぐらいどうって事はない)
立場的にはこちらが不利だ。
(まぁいい。だが忘れるなよ。俺はいつでも機会を窺っているとな。隙を見せたら最後だと思え)
内からの声は聞こえなくなった。
「やはり……時間がない。最悪の場合は彼等に頼むしかない……」
こいつは防衛プログラムよりも厄介だ。
早急に片付けておかなければならない。
リィンフォースは自身に降りかかる出来事で、はやてに災いをもたらす事だけは何が何でも阻止したかった。
たとえその代償として自身が消える事になっても。
*
翌日となり、雪が滾々と降っている海鳴市。
辺り一面は雪景色であり真っ白だ。
海鳴市桜台には『夜天の魔導書』を抱えたリィンフォースが一人海鳴市の風景を見下ろしていた。
「ああ。来てくれたか」
ざっざっざっと地面に積もった雪を踏みしめながら、大勢の足音が彼女の耳に入った。
そこにはなのは、フェイトを始めとして良太郎やイマジン四体にコハナもいた。
「リィンフォース、さん」
なのはが彼女の名を呼ぶ。
「その名で呼んでくれるのだな」
リィンフォースは笑みを浮かべていた。
とてもこれから消滅する存在とは思えないくらい穏やかだ。
「………」
なのははその表情を見るのが辛くなってきたので、俯いてしまう。
「貴女を空に送る役目。わたし達でいいの?」
フェイトは他に適任者がいるのではないかと訴える。
「お前達だから頼みたい。お前達のおかげで私は主はやての言葉を聞く事が出来た。主はやてを食い殺さずに済み、騎士達も生かすことが出来た。感謝している。だからこそ最期はお前達に私を閉じてほしい」
リィンフォースの言葉に迷いはないと良太郎は感じた。
「はやてちゃんとお別れしなくていいんですか?」
はやてがこの事を知っているはずがない事は何となくだが、なのはには予想できていた。
「主はやてを悲しませたくないんだ」
リィンフォースは、自身の消滅は『当然のこと』と思っている。
「リィンフォース……」
「でもそんなの……、何だか悲しいよ」
フェイトは名前を呟くことしかできず、なのはは自分に何かできることはあるんじゃないかと考えてしまう。
「お前達にもいずれわかる時が来る。海より深く愛し、その幸福を守りたいと想う者と出会えればな」
まるで人生の先輩のアドバイスのような口振りでリィンフォースは語った。
その言葉を聞き、フェイトは良太郎を見る。
自分は彼のために今のリィンフォースのように思えるのかはわからない。
だが一人のためにそこまで想う事が出来るリィンフォースにフェイトは敬意を抱いた。
遅ればせながら守護騎士と侑斗、デネブもやってきた。
「時間がない。そろそろ始めようか」
リィンフォースを雪空を見上げる。
「『夜天の魔導書』の終焉を」
八神家で一人、はやては眠っていた。
原因が初実戦による極度の緊張と疲労によるものなので、休息を取れば回復した。
病状によるものではないので、パチリと両目を開ける事は容易かった。
むくりと起き上がる。
「う……く……」
胸を締め付ける何かが襲ってきた。
脳裏に金色で円と十字架が合わさった紋章が浮かび上がった。
瞳の色が一瞬だが青色になる。
それはリィンフォースと一体化した時の目の色だ。
「リィン……フォース?」
何か嫌な予感がする。
今を逃すと二度と会えなくなるのではないかと、はやては予感してすぐに着替えて車椅子を巧みに操りながら、自宅を出た。
誰もが現在行われている茶々や冷やかしを入れようとはしなかった。
右側にレイジングハート・エクセリオンを構え、両目を閉じて足元に桜色の魔法陣を展開させているなのはがいた。
左側にバルディッシュ・アサルトを構え、両目を閉じて足元に金色の魔法陣を展開させているフェイトがいた。
そして中央には、『夜天の魔導書』を宙に浮かせて二人同様に魔法陣を展開させているリィンフォースがいた。
リィンフォースが展開している魔法陣の三角のうちの一角に守護騎士達がいた。
「野上。あいつが何で俺達を呼んだのかわかるか?」
侑斗は良太郎の側まで歩み寄り、訊ねてきた。
「防衛プログラムは破壊され、リィンフォースさんが消滅すればこの一件は確かに終わりだけど僕達がここに来た目的が解決したとは思えないね」
良太郎はリィンフォースの消滅は『この時間で起こるべき事』、『未来への時間へのつむぐための大切な出来事』と判断しているので止める気はない。
侑斗も同様だ。『時の運行』を守る者がタイムパラドックスを起こす原因を作るなど本末転倒としか言いようがない。
「イマジン絡み、だと思うか?」
「多分ね」
侑斗の発想に良太郎は確信を持った返答は出来ない。
「モモタロス」
「ん?何だよ」
「リィンフォースさんからイマジンの臭いってする?」
良太郎は姿の見えないイマジンを看破する方法として、モモタロスの嗅覚に頼る。
モモタロスも良太郎の意図がわかっているのか、鼻をクンクンさせる。
しばらくして、モモタロスは首を横に振った。
「あー駄目だ。わかんねぇ。臭いを消されてるかもしれねぇな」
「イマジンの臭いを消す?可能なのか?」
「わかんねぇよ。アイツにイマジンが憑いてりゃ臭いを消してるんだろうし、憑いてなきゃ臭いなんてしねぇしな」
モモタロスが言う『イマジンの臭い』というものが人間社会の『消臭』方法で可能なのかどうかはわからない。
ちなみに消臭方法には四つの方法がある。
科学的消臭法、物理的消臭法、生物的消臭法、感覚的消臭法である。
イマジンの臭いにおいての消臭法は科学的にも物理的にも適用されるとは思えない。
生物的方法もイマジンの臭いを滅菌する対策が講じられていない以上、不可能だろう。
となると感覚的消臭法となる。
悪臭を芳香成分で包み込んでしまう方法。
芳香成分を強くして、悪臭をごまかしてしまうマスキングという方法と、悪臭の元となる化学成分を良い香りの元となる構成成分に取り込んでしまうペアリングという方法がある。
ちなみに効果が高いのは後者であるが、イマジンの臭いを消す方法として効果的なのはマスキングだと考えられる。
「イマジンの臭いを誤魔化せるのかよ?アイツ……」
モモタロスはリィンフォースを見ながら首を傾げる。
「そんな特殊能力があるのかなぁ……」
ウラタロスも頭脳をフルに働かせるが、ピンとこない。
「モモの字が風邪引いたとは思えんしなぁ」
「モモタロス、風邪引かないよ。クマちゃん」
キンタロスが腕を組んで考えを口に出すが、リュウタロスがバッサリと切り捨てた。
もちろん、これらの事はリィンフォースにイマジンが憑いているという事前提での話題である。
「リィンフォースにイマジンが憑いてるかどうかを判断するにも、モモタロスの鼻で駄目となると俺達ではどうしようもないし……」
デネブも成り行きを見守るしかないと判断する。
儀式のように静かに行われている。
「ああ。短い間だったが、お前達には世話になった……」
『気にせずに』
『よい旅を』
バルディッシュ・アサルトとレイジングハート・エクセリオンに礼を述べるリィンフォース。
両目を閉じ、後は消えてなくなるのを待つのみだった。
(これで私の内のものも消せる。動きがないという事は抵抗する意思はないと判断すればいいな)
すべて上手くいく。
はやてに危害を及ぶことなく、全てが万事上手くいくと思っていた。
「リィンフォース!!みんなぁ!!」
はやてが必死に車椅子の両輪を回しながらこちらにやってきた。
「はぁはぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らせながらも、はやては車椅子の両輪を回す事を止めない。
「はやてちゃん……」
「はやて!」
見届け人であるシャマルが名を呼び、ヴィータが駆け寄ろうとする。
「動くな!」
リィンフォースが大声を出して、ヴィータの動きを止める。
「動かないでくれ。動くと意識が停まる」
リィンフォースは、こちらに向かってくるはやて。
「やめてぇ!破壊なんかせんでええ!わたしがちゃんと押さえる!大丈夫や!こんなんせんでええ!」
はやての悲痛な叫びが響く。
リィンフォースはわかっていた。
それが主の本音であると。
だが、もう一つわかっている事がある。
防衛プログラムの脅威は彼女が考えているほど甘いものではないという事を。
(主……)
はやての泣き顔はやはり見たくない。
「主はやて、よいのですよ」
リィンフォースは穏やかな表情で告げる。
「ええ事なんかない!ええ事なんか何もあらへん!!」
反対にはやては必死に涙を浮かべて、抗議する。
「随分と長い時を生きてきましたが、最後の最期で私は貴女に綺麗な名前と心をいただきました。騎士達も貴女の側にいます。何も心配はありません」
リィンフォースは自身一人が消えても何もはやてには支障がないと伝える。
「心配とかそんな……」
「ですから、私は笑って逝けます」
リィンフォースの言葉に嘘偽りがないことは、はやてにはすぐにわかった。
あまりに穏やかな表情だから。
あまりに彼女の瞳が真っ直ぐだから。
「笑って逝く」という事がどれほど生きとし生ける者にとって難解な事なのかは、はやてでも何となくではあるがわかる。
『死』というものはあまりに突然に、そしてあまりに理不尽に突如降りかかるものだからだ。
だが、それでも理屈で理解しても感情は許してくれなかった。
「話、聞かん子は嫌いや!マスターはわたしや!話聞いて!」
はやてはマスターとしての権限を行使した。
といっても、留める為だけのものなので魔法を使ったりしているわけではない。
「わたしがきっと何とかする!暴走なんかさせへんって約束したやんか!」
はやてのそれには論理的根拠がないことは誰もがわかっている事だったが、その事に口を挟もうとはしなかった。
「その約束は、もう立派に守っていただきました」
リィンフォースの一言は、はやての一縷の望みを断ち切る結果となった。
「リィンフォース!!」
はやては彼女の名を叫ぶ。
「主を守るのが魔導の器の務め。貴女を守るための最も優れたやり方を私にやらせてください」
リィンフォースは瞳を閉じて、最初のワガママを口にする。
「そんな……、ずっと悲しい想いばっかりしてきて……、やっと……やっと救われたんやないか!」
はやては両目から流れる涙を拭おうとせずに、リィンフォースの境遇を悲しんだ。
『闇の書』という不名誉で恐れと憎悪と侮蔑を込められた名をつけられて、腫れ物扱いされてきた彼女が
やっと幸せになれると思った矢先にコレだ。
悲しまずにはいられなかった。
たった一人が何故こうまで貧乏くじを引かなければならないかと、はやては神様がいれば文句を言いたいくらいだった。
「私の意思は貴女の魔導と騎士達の魂に宿ります。私はいつも貴女の側にいます」
「そんなん違う!そんなん違うやろ!?リィンフォース!」
はやてはぶんぶんと首を横に振る。
「駄々っ子はご友人に嫌われます。聞きわけを我が主」
「リィンフォース!」
はやては車椅子を動かすが、雪道に車輪を取られて前のめりにこけてしまう。
「あぐっ!」
はやては匍匐前進のような状態ながらも、前に進んでいく。
「これから……わたしが……うーんと幸せにしてあげなあかんのに……」
「大丈夫です。私はもう世界で一番幸福な魔導書ですから」
リィンフォースはゆっくりと歩み寄って、はやての前にしゃがみ込んで、頬に触れる。
「主はやて。一つお願いがあります。私は消えて小さく無力な欠片へと変わります。もしよければ私の名はその欠片にではなく、貴女がいずれ手にするであろう新たな魔導の器に送ってあげていただけますか?」
はやては黙って聞いている。
「祝福の風---リィンフォース。私の魂はきっとその子に宿ります」
はやては涙を流しながら、名を呼ぶ。
「はい。我が主」
リィンフォースは答えてからまた、魔法陣の中央に戻っていき、瞳を閉じて天を仰ぐ。
もうやるべき事はやった。
満足だ。
リィンフォースの内にはそういった満足感が支配していた。
(隙を見せたな。バカが)
リィンフォースの内に潜んでいるものが嘲笑いながら発した。
「うぐっ!?」
リィンフォースが胸を押さえて、その場で膝をついた。
「リィンフォース!?」
真正面にいるはやてを彼女の態度の異変に誰もが目を丸くしていた。
「来ては……なりません。我が主……」
こちらに来ようとしているはやてをリィンフォースは止める。
なのはもフェイトも展開していた魔法陣を閉じる。
二人ともはやて同様にリィンフォースの動向を心配する。
「あ……ああ……」
リィンフォースはうずくまってしまう。
苦悶の声を上げながら、内にあるものと戦っているのだ。
空いている右手を地面に叩きつける。
小さく穴ができる。
リィンフォースは顔を上げて、侑斗と良太郎を見る。
「た……頼みがある。主を……守ってくれ。私に騎士としての誇りある末路を……歩かせてくれ……」
息を切らし、肩を揺らしながら頼み事のような事を言った。
「うぐううああああああああああああ!!」
リィンフォースは仰け反って獣のような咆哮を上げる。
少しだけ沈黙が場を支配する。
力を抜けたように顔をだらりと前へ下ろす。
「ふ、ふはははははははは」
リィンフォースの口から彼女の声ではない声で笑っていた。
聞いていて不快になる笑い声だ。
リィンフォースが立ち上がる。
同時に露出した肌には黒い炎のような紋様が走る。
長い銀髪も漆黒に染まり、血のような赤いメッシュが所々に入る。
赤い瞳も暗闇のような黒い瞳へと色が変わった。
リィンフォースとは違って、全身から禍々しい雰囲気が満ちている。
「半年間待った甲斐があったな。俺にはない力が満ちている。これなら『時間の破壊』も簡単にできそうだ」
リィンフォース(?)は長い髪をサラリと手で触れる。
「リィンフォース?」
「違うな。ソイツは今内で大人しくしているぜ」
はやての言葉にリィンフォース(?)は否定の言葉で返してから良太郎、侑斗、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、デネブ、コハナを見てから邪悪な笑みを浮かべる。
「久しぶりだな。電王、ゼロノス」
リィンフォース(?)の一言が戦いの始まりになる事をその場にいる誰もが理解していた。
次回予告
第五十七話 「敵は仮面ライダー?」