仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第五十三話 「解放される時。電王が倒れる時」

地面が割れてマグマが噴出し、得体の知れない触手が這い出てウネウネと動いていたり、巨大生物の出現でビルの一角が倒壊していたり、戦闘のたびに生じるクレーターなどが目立ち始めている海鳴市市街地。

既に立っているだけで小さく火花が飛び散っている満身創痍のクライマックス電王と無傷の状態のキリン型イマジン---ジラフイマジンがにらみ合っていた。

「ゼブラやゴリラまで倒してしまうとは正直、想定外でしたね……」

ジラフイマジンが丁寧な言葉ながら冷静に分析しながらも、内心動揺していた。

クライマックス電王を凝視する。

立っているだけなのに、身体の節々に小さい火花が飛び散っている。

オーラアーマーやオーラスキンなど土やコンクリートの粉が付着しており、綺麗なところは殆どない。

Dソードを持っている右手もカタカタと震えている。

握力も殆どないということを物語っている。

「残りはテメェ一匹だぜ?キリン野郎」

普段ならばDソードの切先を突きつけて言うのだが、余計な事に体力を使いたくないので自粛していた。

「私はゼブラのような速力もありませんし、ゴリラのような腕力もありません。あの二人に勝っているとしたら貴方も体験済みの防御力だけです」

冷静に自身の能力を打ち明けるジラフイマジン。

「だったらしこたま殴って蹴飛ばして倒すしかねぇよなぁ!!」

Dソードを投げ捨てて、右手を拳にしてそのまま一直線にジラフイマジンの胸部を狙う。

「ふぅん!!」

ジラフイマジンが身体全身に力を込める。

「ぐはぁ!」

苦悶に満ちた声を上げたのはジラフイマジンだった。

くの字に折れ曲がり、打たれた箇所を両手で押さえる。

「やっぱり思ったとおりだね」

ウラボイスを発して、確信をしたかのような事を告げるクライマックス電王。

クライマックス電王はただ単に拳を繰り出したわけではない。

腹の上方中央にある窪んだ部位である鳩尾

みぞおち

を狙っていたのだ。

「おまけ!!」

更にウラボイスを発しながら、くの字になっているジラフイマジンの顎の先端に狙いをつけて左ひざ蹴りを繰り出す。

「ぼほぉ!!」

ジラフイマジンの身体が大きくのけぞり、そのまま仰向けになって倒れた。

「コイツ、タフがウリなんだろ?どうなってんだよカメ?」

モモボイスを発しながら、右肩に訊ねる。

「センパイが幽霊列車の時にさ。股間に攻撃を受けて苦しんだ時あったじゃない?僕も今になるまですっかり忘れてたんだけど、僕達イマジンってヒトと姿は違うけどさ。身体構造上はヒトと同じなんじゃないかなって思ってさ」

「つまり人体の急所と呼べるもんが俺等にもあるっちゅーことなんか?カメの字」

左肩が上下に揺れながら、クライマックス電王はキンボイスを発する。

「鳩尾と顎先(チン)を狙って今の通りだからね。間違いないと思うよ」

「じゃあ、キュウショをどんどん撃って倒しちゃおうよー!」

胸部を上下に揺らしながらリュウボイスを発して、攻撃を促す。

(短期決戦に持ち込むしかないね。既に限界超えてるし……)

深層意識の野上良太郎が四体のイマジンに警告する。

いつ変身が解除してもおかしくない所にまで至っているのだ。

倒れているジラフイマジンが両脚の反動を利用して起き上がる。

「まさか我々イマジンに人体の急所攻撃をする者がいるとは思いませんでしたよ……」

相変わらずの丁寧語だが、言葉の節々に『怒り』の感情が篭っていた。

「次は私から行きます……」

ジラフイマジンが攻めに入る際の構えを取る。

両腕をボクシングスタイルに近いものだが、胸部がガラ空きだった。

防御に自信のあるジラフイマジンならではのものかもしれない。

「よ!!」

「コイツ、ゴリラより速ぇ!?」

極度に速いゼブライマジンと極度に遅いゴリライマジンと戦った事で速度に関する感覚が狂っていた。

ジラフイマジンが右拳を振り上げて一直線に繰り出すが、その軌道はきちんと視認できるものだった。

両腕をクロスして防御するクライマックス電王。

ガスンという重みが篭った一撃が防御している両腕に襲い掛かる。

「ぐっううう!!」

防御の体制を崩す事はなかったが、後方へとズザザザザッとコンクリートの粉末を上げながら両足が下がってしまう。

「ぐっ!」

防御した両腕、意思とは関わらず後方へと下がってしまった両脚から火花が飛び散る。

「どうやら私が手を出すまでもなく、自滅で終わりそうですね」

ジラフイマジンが勝利を確信するかのようにな台詞をクライマックス電王にぶつける。

「俺が倒れても自滅だからテメェが勝った事にはならねぇぜ。キリン野郎」

クライマックス電王の言うように、このまま彼が倒れたとしてもジラフイマジンの勝利にはならない。

「ご安心を。私もイマジンです。自滅に任せるより自身の勝利を選ぶ!!」

ジラフイマジンが一気に間合いを詰めてきた。

 

 

海鳴市の海は現在、津波を上げる事もなく静かに流れていた。

その上空を二両編成の『時の列車』と一人が戦いを繰り広げていた。

ゼロノスと高町なのはが闇意思と戦っているのである。

ゼロライナーを追っている闇意思が左拳に黒い魔力を纏い飛行速度を上げてきていた。

「桜井さん!わたし行きます!」

なのははゼロライナー・ナギナタの屋根から足場を空に変えて闇意思を迎え撃つ態勢を取る。

「高町無茶するな!デネブ、高町の応援に行くぞ!針路変更だ!」

ゼロノスは飛び降りたなのはに忠告しながら、操縦しているデネブに告げる。

ゼロライナーが左回りに移動しながら線路を敷設しながら闇意思の元へと向かっていく。

闇意思が魔力を纏った左拳をなのはに向かって繰り出す。

なのははすかさず、右手をかざして桜色の魔法陣を展開する。

魔力を纏った拳と魔法陣がぶつかり合ってバチバチと両者の耳に響く。

「!?」

闇意思の左拳の方が、なのはの魔法陣に(ひび)を入れ始めている。

(壊される!?)

魔法陣が粉砕されるのは時間の問題だというのは発動者のなのはが一番わかっている事だった。

桜色の魔法陣が完全に粉砕された。

次の手を思案するが、この近距離では自分の魔法は殆ど使用が出来ない。

(わたしの魔法って全部時間がかかっちゃうからこの距離からじゃ撃てないよ……)

仮に速射を目指すと今のなのはの場合、威力が格段と落ちてしまう。

逆に威力を上げようとすると、発射に時間がかかってしまう。

中途半端な攻撃が通じるような相手ではないのはわかっているから、余計に慎重になってしまう。

『闇の書』が光だし、闇意思の右拳に黒い魔力が纏われる。

先程の攻撃の右拳版といったところだろう。

右拳を繰り出してきたので、レイジングハート・エクセリオンのロッド部分で受け止める。

「くっ!」

ガシィンとレイジングハート・エクセリオンがしなりで衝撃を殺そうとするが、完全に殺しきれずにそのまま海へと叩き落された。

「ひゃああああああ!!」

ドボォォォンとなのはが海中へと入ってしまった事で水柱が立った。

その後、水柱が立った。

なのはが海中から抜け出てたのだ。

髪を濡らし、バリアジャケットを濡らして両肩で息を切らしながらも瞳に宿る闘志は揺るぎがない。

流石の闇意思もこの行動には動揺を隠せなかったようだ。

「動揺してる暇があるのかよ!!」

ゼロライナーが間合いを詰めてゼロノスがZサーベルを上段に構えて、振り下ろした。

「うらあああああああ!!」

「仮面ライダーゼロノス!?」

振り下ろされたZサーベルを闇意思は黒色の魔法陣を展開して防ぐ。

「ちぃっ!!まだまだぁ!!」

ゼロノスはすかさず、右切り上げからの第二撃を繰り出すが闇意思は魔法陣を展開して受け止める。

更にそのまま袈裟斬りに持っていって振り下ろす。

闇意思は展開した魔法陣で防ぐが、余波が自身に降りかかる事に目を丸くする。

「まさか……」

初めのうちにかざした魔法陣に亀裂が走り始めているのだ。

「はあっ!!」

そのまま構えを直して、突きを繰り出す。

展開した魔法陣に切先が突き破り、粉々に砕け散った。

そのまま本来なら顔面に拳の一発を繰り出してもいい。

「姿は違うが、元は八神の身体だからな。後でバレたらどんな報復されるかわかったものじゃないしな……」

はやてがもし、この出来事を何がしかの拍子で知ってしまったとしたら確実に椎茸料理という地獄に自分は落とされるだろう。

「ええい!!恨むなよ!八神!!」

覚悟を決めたゼロノスは横向きになって闇意思の腹部に狙いをつけて蹴りを入れる。

「ぐふっ!」

腹部を蹴られて、くの字になって闇意思は初めて表情と姿勢を崩した。

Zサーベルを左手のみに持ち替えて、くの字の体勢から直立に戻った瞬間に闇意思のがら空きになっている首元に狙いをつけて、右腕の内側部分をぶつける。

「がっ!」

「うらああああああ!!」

そのまま勢いに任せて、駆け出してゼロライナー・ドリルの屋根先端で停まって後方へと飛ばした。

 

ゼロノスと闇意思が戦闘を繰り広げている中、なのはは息を整えながらもアースラに向かって念話の回線を開いていた。

(リンディさん、エイミィさん。先頭位置は海の付近に移動しました。市街地の火災をお願いします。あと市街地でも電王さんとイマジンが戦闘しています)

『大丈夫。今災害担当の局員が現地に向かっているわ。活動をするなら電王の邪魔にならないようにするから安心して』

(それから『闇の書』さん、じゃなかった『夜天の魔導書』さんは駄々っ子ですけど何とか話は通じそうです。もう少しやらせてください!あと今ゼロノスさんと一緒にいます!)

『ゼロノス?』

リンディ・ハラオウンが知らないの無理もない。彼女はゼロノスとは一面識もないからだ。

(良太郎さん達の仲間なんです。今まではやてちゃん達と一緒にいたみたいなんです)

『そうなの?時間があればお話を聞きたいところだけど、今はそんな暇はなさそうね』

(それじゃ、また報告します!)

なのはは言い終えると同時に、念話の回線を切った。

「行くよ!レイジングハート!!」

握られているレイジングハート・エクセリオンを見る。

『イエス。マイマスター』

レイジングハート・エクセリオンは二つ返事で返す。

なのははマガジンを取り出して、レイジングハート・エクセリオンに装填する。

『リロード』

「マガジンは残り三本。カートリッジは十八発。スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな……」

マガジン三本をしまい込みながら、なのははゼロノスと戦っている闇意思を見ながら呟く。

『手段はあります』

レイジングハート・エクセリオンは迷える主に答えを出した。

『エクセリオンモードにしてください』

なのはは驚きの表情を隠せない。不安の色も浮かび上がっていた。

「だ、ダメだよ!アレはまだフレーム強化していないから使っちゃダメだって……。わたしがコントロールに失敗したらレイジングハート壊れちゃうんだよ……」

なのはとしてみれば気持ちはありがたいのだが、その代償として無惨に破損していく姿は見たくないのだ。

既に一度見ているのだから。

『大丈夫です。マイマスター』

レイジングハート・エクセリオンも主の心遣いは嬉しいのだが、自身の存在意義を奪われたくはないため譲らなかった。

 

 

地球を見下ろすかたちで佇んでいる次元航行艦アースラ。

「局員到着。火災の鎮火を開始します」

アレックスがモニターを見ながら、リンディに報告した。

「無茶しないでって言える雰囲気じゃないわね……」

リンディとしてみれば言えなかった事を悔やむと同時に、なのは達---戦場に立っている者達の無事を祈らずにはいられなかった。

 

 

八神はやては目を半分閉じたおぼろげな意識の状態で、その場に佇んでいた。

(わたしは……何を……望んでたんやっけ……)

ぼんやりとしながらも思考を働かせている。

『夢を見ること。悲しい現実は全て夢となる。安らかな眠りを……』

姿は見えないが、闇意思の声がはやてに眠りを誘うように囁く。

(そう……なんか……)

はやては疑念に思いながらも、身体を襲う心地よさに支配されようとしていた。

「わたしの本当の……望みは……」

はやてはぼんやりとしながらも口を動かして、声に出す。

両目は先程と変わらぬ半分閉じた寝ぼけ状態だった。

 

 

ジラフイマジンがとどめの一撃とも思える拳を受け止めて、クライマックス電王は睨んでいた。

「へっ。こんなヘナチョコパンチじゃ『勝ち』なんて到底無理だぜ?」

睨みながら、受け止めた拳を押しのけてジラフイマジンはのけぞってしまった。

クライマックス電王は右拳を握り、左足を踏み込んで大きく振りかぶる。

そして、一見隙だらけともいえる正拳を顔面に狙いをつけて放つ。

明らかなテレフォンパンチなんで、ジラフイマジンは警戒を緩めていた。

だがそれが命取りだと知るのは地震がその拳を真正面から受けた時である。

声を上げる間もなく、ジラフイマジンは後方へと吹っ飛び二、三度地面にバウンドして倒れた。

「急所狙うなんてチマチマした芸、俺たちにはあわねぇぜ。カメ!文句ねぇよな?」

クライマックス電王が右肩に向かって言う。

「しょうがないか。実際、急所攻撃って体力に余裕がないと上手くいく可能性高くないからね」

ウラボイスを発しながら、モモボイスでの意見に同意した。

「おのれ……よくもやってくれましたね!!」

ジラフイマジンが起き上がり、首をコキコキ鳴らしながらこちらに向かってくる。

クライマックス電王は邀撃しようとはしない。

相手がわざわざ来てくれるのだから自分は迎撃の準備さえすればいい。

蹴り足となる右足をガリッガリッと地面を擦っていた。

間合いが詰まると、左足を前に出して右足を振りかぶる。

蹴り足がジラフイマジンの頭部に届く距離になると、右足を放つ。

ブォンという空を裂く音が繰り出した者にもこれからそれを食らう者の耳に入った。

クライマックス電王の右上段回し蹴りがジラフイマジンの頭部に直撃すると、右へと吹っ飛ぶ。

ズザザザザっと地面を滑るようにして崩れ落ちる。

「な、何故?二度もあんな隙だらけの攻撃をまともに受けるなんて……」

ジラフイマジンが起き上がりながら、この二度の現象に戸惑いを感じていた。

クライマックス電王は別段難しいことをしたわけではない。

ただ殴っただけだし、先程にしたってただ蹴っただけだ。

ただし全力で、だ。

防御力が長所の相手にはそれ以上の攻撃力で粉砕すればいいという理屈だ。

例を挙げるならばジラフイマジンの防御力が50でクライマックス電王の普通の攻撃が40ならばクライマックス電王の攻撃は40(クライマックス電王)-50(ジラフイマジン)-10(ダメージ分)で通らない上に下手をすれば攻撃をした側にダメージが来るのだが、全力で放った一撃が100だった場合は100(クライマックス電王)50(ジラフイマジン)50(ダメージ分)となって、ジラフイマジンはダメージを受ける事になる。

つまり現在のクライマックス電王は例で挙げた攻撃力100の状態で行っているわけだ。

「うらあああああ!!」

右足を踏み出し、軸足となる左足を踏ん張って腰を左側に捻りながら左拳を振り上げる。

拳はその間にもぎりぎりぎりという音が出そうなくらい強く握られている。

そして持てる力を全て振り絞って放つ。

ただ真っ直ぐに受け止める事も理論的には可能なのだが、頭の中で理解できても実際には行動に移す事は出来なかった。

なぜならクライマックス電王の攻撃はただ殴る、ただ蹴るだが威力と速度が尋常なものではないからだ。

「ぶはああああああ!!」

ジラフイマジンは後方へと吹っ飛び、ビルに激突する。

「ぐっ」

バシュンと身体の節々から火花が飛び散る。

全力の攻撃はそれだけ、肉体にも大きな負担が及ぶのだ。

(あと二、三発が限界だね……)

深層意識の良太郎が皆に告げる。

今となっては指一本動かすのにも痛みが感じる。

「あとちょっとなんだ……。しばらく持てよ」

言い聞かせるようにして、痛みにこらえながらもクライマックス電王は拳を握り、起き上がろうとしているジラフイマジンを睨んでいた。

 

 

海鳴市海上でゼロノスとなのはは向かいにいる闇意思の動向をうかがっていた。

『闇の書』を開く素振りもなければ、動揺している素振りも見せていない。

「何か奥の手でも出すつもりか?お前」

ゼロノスがなのはに訊ねる。

「え?どうしてそれを……」

「その杖と何か相談事してただろ」

ゼロノスはレイジングハート・エクセリオンの名称を知らないため、杖呼ばわりになってしまう。

「で、その奥の手は手間かかるのか?」

「あ、はい。少し時間がかかると思います」

なのははこれから放つ魔法を自身が放つイメージをしながらゼロノスに告げる。

「お前達ももう眠れ……」

闇意思がなのはとゼロノスに向かって言う。

「いつかは眠るよ」

「だがそれは今じゃない。それに俺達は八神とテスタロッサを起こしにきたんだ。お前と一緒に眠るつもりはない」

なのはとゼロノスが同時に拒否する。

「はやてちゃんとフェイトちゃんを助ける!そして貴女も!」

なのはの決意と同時に、レイジングハート・エクセリオンのヘッドカバー部分がスライドしてカートリッジを射出させて蒸気を立てる。

 

「レイジングハート、エクセリオンモード!ドライブ!!」

 

なのはの命令と共にレイジングハート・エクセリオンは紅珠部分を光らせる。

レイジングハート・エクセリオンの四箇所に桜色の環状魔法陣が出現する。

ヘッド部分が横に開き、機械部分が露出する。

杖部分の先端がスライドする。

ヘッドがより鋭くなり、紅珠部分付近にヘッドと同じカラーリングをしたシャープなウイングが出現する。

レイジングハート・エクセリオン・エクセリオンモードの完成である。

「繰り返される悲しみも悪い夢もきっと終わらせられる」

「今は辛くてもやがては過去になる。そのためには夢に逃げずに現実と向き合う事が肝要だ。お前も八神を主にした時点で潮時なんだよ。自分の因縁と向き合うための、な」

ゼロノスは闇意思の瞳を見据える。

 

「覚悟を決めろ」

 

短く告げると同時にZサーベルを正眼に構え、なのははレイジングハート・エクセリオンを砲撃魔法を放つ際に生じる構えを取る。直後になのはの足元に桜色の魔法陣が展開した。

闇意思は二人に応じるように、黒色の魔法陣を展開させて無数の雷球を出現させていた。

 

 

辺り一面の草原にフェイト・テスタロッサとアリシア・テスタロッサはいた。

心地よい風が吹き、睡魔に襲われて眠りに誘われても誰も文句は言わないだろう。

フェイトはそれを本能的に感じたのか、樹に背中をもたれさせていた。

アリシアは草原に寝そべって読書をしていた。

空の雲行きが怪しくなり始めていた。

太陽の光を雨雲が遮って、暗くなっていた。

「あれ?雨になりそうだね」

寝そべっていたアリシアは起き上がる。

「フェイト。帰ろ」

フェイトに向かって言うが、フェイトの表情はどこか上の空状態だった。

「フェイトってば!」

アリシアが先程よりも強く言う事で、フェイトは初めてアリシアを見た。

「ごめんアリシア。わたしはもう少しだけここにいる……」

フェイトはアリシアにそう告げると、空を見ていた。

「そうなの?じゃあ、わたしも!」

アリシアは暗い表情をしているフェイトとは対照的に無邪気に隣に座る。

「一緒に雨宿り♪」

アリシアは嬉しそうに言うが、フェイトはそれに対して何の反応もしなかった。

やがて雨が降り出した。

傘を持たない二人にとってこの樹は傘、もしくは屋根代わりなる。

「ねぇ、アリシア。これは夢……なんだよね?」

雨が降り出してからしばらくした頃、フェイトが口を開いた。

「わたしと貴女は本来、同じ時間にはいない」

フェイトは自身の出生が『アリシアの死』から始まった事は知っている。

本来ならば同じ時間を共有する事はどんなに頑張ってもできない事なのだ。

「そう……だね」

アリシアも今までとは違って、真剣に受け止めている。

「母さんも、わたしにはあんなに……」

フェイトは先程までいたプレシア・テスタロッサとのやり取りを思い出す。

自分にはそんないい思い出はなかった。

あるのは何をしても褒められなかった事。

失敗したら生きているのが不思議だとも思わせられる折檻を食らっていた事。

「優しい人だったから……。優しすぎる人だったから、フェイトの未来を守るために『壊れたフリ』をしたんだよ。死んじゃったわたしを生き返らせるという名目を使ってね……」

フェイトはプレシアが自身にした事は『演技』だという事は良太郎から聞かされている。

「うん。教えてもらったから……」

フェイトは顔をアリシアには向けずに告げた。

「そっか。お兄さんが教えたんだね」

アリシアはフェイトが『真実』を知っていた事に驚きもしなかった。

「フェイトは帰りたいの?」

アリシアの問いにフェイトは何も答えない。

「夢でもいいじゃない?わたし、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる。母さんとアルフとリニスとみんな一緒にいられるんだよ。フェイトが欲しかった幸せ。みんなあげるよ」

アリシアが優しく言ってくれるが、フェイトはそれを応じようとは思えなかった。

優しい母。

温かい家族。

フェイトにとって欲しかったものは確かにある。

だがここにはないものがあるのは確かだ。

大切な友人達。

養子に来ないかと勧めてくれるハラオウン家。

アースラのスタッフ達。

異世界から来た愉快なイマジン達。

そして、自分が生まれて初めて恋をした人物---野上良太郎。

ここには存在せず、現実世界に存在するものだからだ。

 

 

上も下もない『闇の書』の空間。

「わたしが欲しかった幸せ……」

はやては長い時間、同じ事を考えて同じ言葉を口ずさんでいた。

目の前には非戦闘状態の闇意思が優しい表情を浮かべていた。

「健康な身体。愛する者達とのずっと続いていく暮らし。眠ってください。そうすれば夢の中で貴女はずっとそんな世界にいられます」

闇意思の誘いにはやては首をゆっくりとだが横に振る。

車椅子の手すりに乗っかっている手が拳となる。

半開きになっていた両目はしっかりと開かれる。

「せやけど、それはただの夢や」

はやてはハッキリと闇意思に告げた。

「わたし、こんなん望んでない」

もう一度、はやては現状に対しての『否定』の言葉を闇意思にぶつけた。

「貴女も同じはずや!違うか?」

闇意思にも同意を求める。

「私の心は騎士達の心と深くリンクしています。だから騎士達と同じ様に私も貴女をいとおしく思います。だからこそ貴女を殺してしまう自分自身が許せない……」

闇意思は胸に手を当てながら、自身の心中を語る。

「!!」

はやてとしてはその言葉が嬉しかった。

何故なら彼女の意思と行動が一致しているのならば、自身の説得で上手くいくとは思えないからだ。

子供の正論が大人の過ちを悔い改めさせる事が出来る確率は大体五分だ。

「自分ではどうにもならない力の暴走。貴女を侵食する事も、暴走して貴女を食らい尽くしてしまう事も停められない……」

闇意思がこの場で嘘を告げても何にもならないので彼女の証言は事実なのだと、はやては受け止める。

「覚醒の時に今までの事は少しはわかったんやろ?望むように生きられへんかった悲しさ。わたしにも少しはわかる。シグナム達と同じや。ずっと悲しい思い、寂しい思いしてきた」

はやての独白に闇意思は開いていた両目を閉じて聞く。

「けど忘れたらあかん」

はやては車椅子からゆっくりと立ち上がり、闇意思の左頬に手を当てる。

「貴女のマスターは今はわたしや。マスターの言う事はちゃんと聞かなあかん」

はやてと闇意思を中心に足元には白く輝くベルカ式の魔法陣が展開された。

 

 

ゼロノスと闇意思がぶつかっていた。

Zサーベルが展開した黒い魔法陣にぶつかり、バチバチと音を立てていた。

「どんなに強力な手の内を持っていても使う側の体力は無尽蔵ってワケではないみたいだな」

空中戦を仕掛ける中でゼロノスに与えられた範囲はゼロライナーの屋根しかない。

屋根から足を踏み外せば確実に海にダイブする結果になる。

「限られた足場しかないのに、ここまで戦えるとは……」

「大分慣れてきたからな!」

Zサーベルを更に押し込める。

「ぐっ!」

闇意思が押されて苦悶の表情を浮かび始めている。

今まで無表情、鉄面皮なのでそれだけ追い込まれ始めているという事だ。

「うらああああああ!!」

押しのけると同時にすかさずZサーベルを唐竹を狙って斬り付ける。

魔法陣を粉砕して、すぐさま突きの構えへと切り替えて左足を踏み出して一気に突く。

「!!」

闇意思はゼロノスの攻撃範囲外となる更に上空へと退散した。

「デネブ!追うぞ!!」

「了解!」とゼロライナー・ドリルで操縦しているデネブが返事をしているのだとゼロノスは想像していた。

 

ゼロノスとの戦闘を避けるために、すぐには追いつきそうにない上空へと避難した闇意思だったが、そこにはレイジングハート・エクセリオンを構えたなのはがいた。

「謀られたか……」

闇意思は二人の即席な計略に嵌められたのだと気付くが、舌打ちなどはしなかった。

なのはが全速力でこちらに向かってきた。

闇意思も『受け』になる気はなく、邀撃するようにしてなのはに向かっていく。

なのはは桜色の光となる。

闇意思は黒に紫が帯びた光となる。

光と光がぶつかり合い、バチィンという音が鳴ると同時に上へ斜めへ下へと移動しながらもぶつかる。

「ひゃあああああああ!!」

ぶつかり合いに吹っ飛ばされたのは、なのはだった。

白いバリアジャケットも各部に汚れが目立ち始めている。

吹き飛びながらも、レイジングハート・エクセリオンを闇意思に向ける構えは崩さない。

「ひとつ覚えの砲撃。通ると思ってか?」

なのはより高い位置に佇んでいる闇意思は、両掌に黒い魔力球を出現させていた。

「通す!レイジングハートが力を貸してくれている!命と心を懸けて応えてくれている!」

レイジングハート・エクセリオンのカートリッジ射出口からガシュンガシュンとカートリッジが二発排出される。

ヘッド部分から桜色の翼が左右に二枚ずつ展開される。

「泣いてる子を救ってあげてって!」

『A・C・Sスタンバイ』

レイジングハート・エクセリオンが発すると同時に、なのはの足元に桜色の魔法陣が展開される。

桜色の魔法陣の輝きが更に増す。

今までとは違うと感じたのか闇意思は表情を変える。

「アクセルチャージャー起動!ストライクフレーム!」

『オープン!』

レイジングハート・エクセリオンのヘッドから桜色の刃が出現する。

 

「エクセリオンバスターA・C・S!!ドライブ!!」

 

ヘッド部分の桜色の翼が揺らいで羽ばたき、なのははそのまま一本の矢もしくは一発の弾丸の如く闇意思へと向かっていく。

左手に出現した黒い魔力球を渦を巻くような防御壁に変化させて防ごうとする闇意思。

桜色の刃が防御壁に触れて、火花が飛び散る。

「届いてぇ!!」

闇意思の防御壁を桜色の刃は食い込み、レイジングハート・エクセリオンは更にカートリッジを排出する。

その度に魔力が増幅されていく。

「ブレイク……」

食い込んだ桜色の刃の先端から桜色の魔力球が構築されていく。

闇意思に向かって、巨大な六枚の桜色の翼が広がる。

「まさか……」

闇意思の動揺が篭ったかのような声がなのはの耳に届いたが、畳み掛ける。

 

「シュートォォォォォ!!」

 

桜色の小さな天体が一瞬だけ発生し、空中で大爆発を起こした。

それだけに留まらず、闇意思が展開していた結界が一気に収縮して消滅した。

「はあ……はあはあ……はあ……」

なのはは右手で左肩を押さえながら呼吸を整える。

左手に握られているレイジングハート・エクセリオンは先程の魔法による負荷を防ぐために排熱処理を行っていた。

ガシュンとヘッドの一部分がスライドして蒸気が噴出す。

(ほとんどゼロ距離。バリアを抜いてのエクセリオンバスターの直撃。これでダメなら……)

なのはとしては先程の一発はかなり手ごたえを感じていた。

だが、それでも胸中は不安でいっぱいだった。

相手が墜落していく姿を見ていないからだ。

爆煙が立ち込めるが、一向に闇意思が出てくる気配はない。

『マスター』

レイジングハート・エクセリオンがなのはに爆煙を見るように促す。

なのはは見る。

煙が晴れると、そこには闇意思が佇んでいた。

身体に傷らしい傷はない。

ダメージらしいダメージはないのだとなのはは判断した。

「もう少し頑張らないと、だね」

なのはは闇意思を睨みながらもまだ諦めてはいなかった。

『イエス』

レイジングハート・エクセリオンの紅珠部分が光って答えた。

 

 

激しく雨が降る中でフェイトとアリシアは互いに向き合っていた。

「ごめんねアリシア。だけど、わたしは行かなくちゃ……」

フェイトは今自分がしなければならない事を忘れてはいなかった。

たとえここが居心地のよい場所だったとしても、自分の望んでいたのかもしれない世界だったとしてもだ。

「そう……」

アリシアは左手をフェイトの前に出す。

拳になっているが、握りが甘いので何かが掌の中にあると推測できる。

アリシアが指を開くと、掌の中にあるのは待機状態のバルディッシュ・アサルトだった。

フェイトは目を丸くしながらも、バルディッシュ・アサルトを受け取ると同時に涙腺が緩みだす。

アリシアは無言でフェイトを抱きしめる。

「いいよ。わたしはフェイトのお姉さんだもん。それに、現実世界に戻ってもフェイトの事はお兄さんに任せているから何も心配していないよ」

アリシアは優しく告げる。

「それに待ってるんでしょ?強くて優しい子達が」

フェイトは涙を拭わずにただ頷く。

「行ってらっしゃい。フェイト」

「うん」

アリシアの優しい言葉にフェイトはもう一度頷く。

 

「現実でもこんな風にいたかったな……」

 

最後にアリシアはフェイトを抱きしめたまま内なる想いを打ち明けて光の粒子となって消滅した。

フェイトは一人、バルディッシュ・アサルトを握っていた。

「バルディッシュ。ここから出るよ。ザンバーフォーム、いける?」

『イエッサー』

バルディッシュ・アサルトは黄珠部分が光りだす。

「いい子だ」

バルディッシュ・アサルトを天にかざす。

私服姿からバリアジャケットへと切り替わる。

右足を踏み込み、構えを取る。

『ザンバーフォーム』

バルディッシュ・アサルトが発すると、杖のカバー部分が二度ほどガシュンガシュンとスライドする。

ヘッドの形状が今までの『鎌』から『剣』へと姿を変えて、黄金の魔力刃を出現させる。

バルディッシュ・アサルトを両手で突きつけるように前に構える。

黄金の魔力刃は雷がバチバチと纏っていた。

足元に黄金の魔法陣を展開させる。

「疾風迅雷!」

ゆらーりとバルディッシュ・アサルトを下段に滑るように水平に振っていた。

 

 

はやては車椅子に腰掛けて両手で闇意思の両頬に手を当てていた。

闇意思は、はやてと視線を合わせるようにして膝をついている。

「名前をあげる。『闇の書』とか『呪いの魔導書』なんて言わせへん。わたしが呼ばせへん!」

はやての優しく、そして決意ある言葉に闇意思の涙腺が緩み始めた。

「わたしは管理者や。わたしにはそれができる」

「……無理です。自動防御プログラムが停まりません。管理局の魔導師と仮面ライダーゼロノスが戦っていますけど、それも……」

闇意思が嗚咽を漏らしながら現実に起こっている事を告げる。

「停まって……」

はやては闇意思の両頬に触れたまま、両目を閉じて念じるように呟いた。

それに呼応するかのように足元の魔法陣が輝きだした。

 

 

ゼロノスとなのははその場に佇んだままの闇意思の動向をうかがっていた。

「何も起きませんね……」

「ん?何か変だぞ」

ゼロノスの言うように、闇意思の様子は明らかにおかしかった。

ギギギと音でも出しそうに背をのけぞっていたのだ。

どんなに攻撃をしてもそんな仕種は取らなかったのにだ。

『外の方!管理局の方!そこにいる子の保護者でそちらで戦っている仮面ライダーゼロノスの家主である八神はやてです!』

「はやてちゃん!?」

声の主がはやてだと知り、目を丸くする。

「寝すぎだ。馬鹿」

ゼロノスは嬉しそうに憎まれ口を叩く。

『もぉ、侑斗さん。今はそういうこと言うとる場合やないんやで!もしかして管理局の方って、なのはちゃんなんか?』

「うん。色々あって桜井さんと一緒に『闇の書』さん、じゃなかった『夜天の魔導書』さんと戦ってるの」

なのはは、はやてに現在に至るまでの状況を話す。

闇意思が宙に浮いている『闇の書』のページを開こうと両手を動かそうとするが、ギギギギとゆっくり動かそうとする。

『ごめん。なのはちゃん。侑斗さん。その子を停めたってくれるか?魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど、その子が走ってると管理者権限が使えへん。今そちらに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから』

はやては大まかになのはとゼロノスに伝える。

なのはは目をパチパチとしばたかせながらも状況を理解しようとする。

「今ここで戦ってるのはお前でもなければ『夜天の魔導書』の意思でもないって事だな?八神」

『うん。その通りやで侑斗さん。わたし等やないで』

「どうやって停めるんだ?」

ゼロノスは魔法関連になると門外漢なのでお手上げ状態だ。

 

ユーノ・スクライアとアルフも海鳴の海上に移動しており、先程のはやての言葉を傍受していた。

(『闇の書』完成後に管理者が治めている……。これなら!)

ユーノはなのは達がいる戦場へと向かいながらも、念話の回線をなのはに向けて開く。

(なのは。わかりやすく伝えるよ。今から言う事をなのはが出来れば、はやてちゃんもフェイトも外に出れる!)

ユーノとアルフは飛行速度を上げながらも、なのはに伝えるべきを伝えようとする。

 

「どんな方法でもいい!目の前の子を魔力ダメージでぶっ飛ばして!全力全開!手加減なしで!!」

 

ユーノは左手で強く拳を握ると同時になのはに伝えた。

 

なのははユーノとの念話で思わずハッとすると同時に、自分のやるべき事が見えた。

「さっすがユーノ君!わっかりやすい!!」

なのははレイジングハート・エクセリオンを闇意思に向ける。

『全くです』

レイジングハート・エクセリオンもユーノのシンプルな説明に賞賛を送る。

「解決策は見えたみたいだな」

「はい!今から全力全開で魔力を叩き込みます!」

なのはは大まかにゼロノスに説明する。

「魔力を叩き込むとなると、俺ではどうしようもないな」

ゼロノスはフリーエネルギーやオーラエネルギーを駆使して戦っている。

そのため魔力とは別物なので、今からなのはが起こそうとする事には介入できないのだ。

なのはの足元に桜色の魔法陣が展開される。

海から得体の知れない物が闇意思のそばから出現した。

闇意思の動きは先程よりもぎこちなく動いている。

「エクセリオンバスター!バレル展開。中距離砲撃モード!!」

『オーライ。バレルショット』

なのはの命令にレイジングハート・エクセリオンは桜色の翼を六枚広がる。

ヘッド部分の桜色の刃先端から桜色の魔力光が収束され、螺旋状のエフェクトが生じている。

ズドォォンとレイジングハート・エクセリオンに収束されたそれは衝撃波となって発射された。

闇意思に向かって直撃するが、それでも墜落するとかなにがしかの変化が起こる気配はなかった。

 

 

「夜天の主の名において汝に新たな名をあげる。強く支える者。幸福の追い風、祝福のエール……」

はやては闇意思に優しい眼差しを向ける。

 

「リィンフォース」

 

暗闇に満ちた空間は、はやての優しさの光に包まれた。

 

 

なのはは更に追い討ちをかけるようにして、レイジングハート・エクセリオンを闇意思に向ける。

「エクセリオンバスター・フォースバースト!!」

なのはが命ずると同時に足元に桜色の魔法陣が出現して、レイジングハート・エクセリオンに三つの桜色の環状魔法陣が巻かれながらも、ヘッド先端に環状魔法陣と巨大な桜色の魔力球が出現していた。

環状魔法陣を帯びた桜色の魔力球は更に巨大化する。

「ブレイクシュートォォォォ!!」

なのはの命に従って、レイジングハート・エクセリオンは桜色の四本の魔力砲を発射する。

蛇のようにウネウネしながらも、桜色の魔力砲は闇意思に向かっていく。

それらは全弾、闇意思に直撃すると追い討ちをかけるようにして更にもう一発をフルパワーで発射した。

 

 

夢の世界のフェイトはザンバーフォームのバルディッシュ・アサルトを構えていた。

ゆらーりと構えていた状態から一気に振りかぶる。

同時に周囲にバチバチバチと雷が走り出す。

 

「スプライトザンバァァァァァァ!!」

 

振り上げていたバルディッシュ・アサルトを素早く袈裟を狙うようにして振り下ろす。

ビシビシビシビシと世界に大きな亀裂が走り、やがてガラスのように脆くパリンと砕け散った。

 

 

光が海鳴市の海を覆うようにして発した。

その場にいる誰もが目を閉じていた。

やがて光が収まり、閉じていた眼をその場にいる全員がゆっくりと開き始める。

アルフも閉じていた眼を開く。

一見、何も変わっていないようだ。

海の上には自分、なのは、ユーノ、ゼロノス、そしてフェイトがいた。

「フェイト?フェイト!!」

アルフは一人多かった事に、それがフェイトだと理解すると喜びのあまりに声を上げてしまう。

アルフの声にはフェイトは笑みを浮かべて返した。

フェイトの帰還に、なのはも笑みを浮かべた。

 

 

先程とは違う空間に、はやては一人一糸纏わぬ状態で浮遊していた。

闇意思がはやてに管理者権限の入手を報告する。

『ですが、防御プログラムの暴走は停まりません。管理から切り離された膨大な力がじきに暴れだします』

そして、今後確実に起こる出来事も告げる。

「うーん。ま、何とかしよ」

はやては慌てることなく落ち着いて言う。

これから自分がする事に『焦り』は邪魔でしかないとわかっているのだ。

書物状態のリィンフォースが出現し、はやては抱きしめた。

 

「行こか?リィンフォース」

『はい。我が主』

 

 

海鳴市全土に激しい揺れが起こっていた。

それは市街地で戦っているクライマックス電王もジラフイマジンも身をもって感じていることだ。

何が原因なのかはわからない。

だが、揺れが起きて決して良い事が起こる事はないということだけは瞬時に理解した。

「どうやら更なる舞台へと進んだみたいですね……」

ジラフイマジンが先程食らった箇所である胸元を手で押さえながら言う。

既に息は乱れ、両肩を上下に揺らしている。

「そうかよ……」

クライマックス電王は短く答える。

既に限界を超えているため、無駄口でさえ体力消費に繋がると感じているのだ。

両手はブルブルと震えている。

「モモの字。どうするんや?正直もう限界超えてるやろ?」

「センパイ。良太郎の言うように後二、三発が限界だよ。それ以上になると確実に変身解除しちゃうよ」

「僕もう疲れた~」

キンボイス、ウラボイス、リュウボイスでの意見を聞きながらクライマックス電王は最大で残り三回しか攻撃できないので考える。

どうこの三回を上手く使ってジラフイマジンを倒すかだ。

(モモタロス)

「わーってるよ」

クライマックス電王も構える。

「小僧!俺の剣を呼び寄せろ!!」

「うん!」

モモボイスの指示に従うようにして、リュウボイスを発してからクライマックス電王はサインを送って放り投げていたDソードを呼び寄せた。

しっかりと右手に握られる。

「コレで一回ですね!」

ジラフイマジンはカウントを取っていた。

クライマックス電王はDソードを両手で握って、袈裟を狙って振り下ろす。

ジラフイマジンの袈裟に食い込むが、それ以上切り込めない。

「無駄ですよ。いかにダメージを食らってもこの程度を防げないほどまだ体力は落ちていない!それにコレで二発目です。残念でしたね」

ジラフイマジンが後一発耐え切れば勝てると確信しているのが口調からわかった。

「残念?コレでテメェは終わりなんだよ!!」

ジラフイマジンの袈裟に食い込んでいるオーラソード部分にフリーエネルギーが収束されていく。

赤から青に金に紫にと変色しながらバチバチと音を立てている。

「ま、まさか!?この位置から!?」

何とか食い込んだ部分から引き抜こうとするが、フリーエネルギーによって右手の指が全て消滅した。

オーラソードは常に変色ながら雷まで纏っていた。

 

「見せてやる!俺達の必殺技……」

 

バチバチバチと音を鳴らしながらも、徐々に徐々にジラフイマジンの肉体にめり込ませていく。

そして勢いよく下ろす。

 

「クライマックスバージョン!!」

 

下ろしたDソードを持ち位置を替えてから右切り上げを狙って斜め下から勢いよく振り上げる。

イマジンを確実に斬った感触がキチンと伝わった。

「ば、馬鹿な……。我々三体が負けるなんて……。後はあの方に任せるしかぁぁぁぁぁぁ!!」

斬撃箇所を火花散らせながらジラフイマジンはあお向けになって倒れながら爆発を起こした。

クライマックス電王はその場で片膝をついてしまう。

「はあはあはあはあ……。やったぜ……」

そのままうつぶせになって倒れてしまった。

身体全身が輝き、良太郎、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスに分かれてしまった。

誰一人として立ち上がる気配はなかった。

全員が限界を超えていたのだ。

冷たい風が彼等の頬を当てるが、それでも起き上がる気配なかった。

 

 

アースラのメインモニタルームで海鳴市に起こっている出来事をアースラスタッフはモニタリングしていた。

「みんな気をつけて!『闇の書』の反応、まだ消えてないよ!」

エイミィ・リミエッタが海鳴しか以上にいる全員に忠告する。

「さて、ここからが本番よ。クロノ、準備はいい?」

『はい!もう現場に着きます』

モニターには海鳴市海上に向かっているクロノ・ハラオウンが映っていた。

リンディはホテルのルームキーのようなものを手にする。

クリアー状のプレートには『アルカンシェル』と記されていた。

「アルカンシェル。使わずに済めばいいけど……」

リンディはキーを強く握り締めながらそのように願わずにはいられなかった。

巨大な力は度を超すと、全てを巻き込む悲劇を呼びかねないからだ。

「艦長!」

アレックスがリンディを呼ぶ。

「どうしたの?」

「電王が……」

「電王?良太郎さん達がどうしたの?」

リンディは固唾を飲みながら、アレックスの次の言葉を待つ。

 

「電王が戦闘不能になりました……」

 

その一言は『絶望』を味わうには十分すぎるものだった。




次回予告


第五十四話 「夜の終わり。旅の終わり~集結~」

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