仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第五十二話 「夢の戦い。現実の戦い 後編」

高町なのはは事態を把握するのに、今ほど最短はないと思っている。

フェイト・テスタロッサが黄金の光に包まれて、分解されたかのように消えてしまった。

その後、デンライナーとは違う『時の列車』であるゼロライナーが現れ自分の隣に停車した事。

そしてその乗組員である桜井侑斗が野上良太郎と同じ『仮面ライダー』である事。

平時ならば混乱の連続で理解するのにかなりの時間を要しただろう。

「桜井さんが仮面ライダー?」

なのははもう一度確認するように侑斗に訊ねる。

「八神も同じ事を言ってたな。野上達はあっさりと受け入れて使っているみたいだけど、俺はガラじゃないからな」

侑斗は自分が仮面ライダーである事を否定した。

「八神は生きているのか?」

侑斗は闇意思に向かって生存を確認する。

「我が内で眠りについている……」

闇意思は正直に答える。

「そうか……」

侑斗は抽象的ではあるが、闇意思の証言を信じることにした。

「侑斗。これからどうする?」

デネブが今後の方針を訊ねる。

「決まってるだろ。八神を叩き起こす。あいつは寝すぎだ。いくら寝る子は育つっていっても寝すぎは毒だろ?」

侑斗は指を絡めてバキボキッと鳴らしてから、首を左右に振って首をバキボキ鳴らす。

「手伝ってくれるか?」

侑斗は、なのはに顔を向ける。

「はい!」

なのははレイジングハート・エクセリオンを強く握り締める。

「エイミィさん!」

なのははアースラでモニタリングをしているエイミィ・リミエッタの名を呼ぶ。

彼女の表情には恐れはなく、立ち向かう『勇気』が表情に出ていた。

『状況確認。フェイトちゃんのバイタル健在。『闇の書』の内部空間に閉じ込められているだけ。助ける方法、現在検討中』

エイミィの報告からしてフェイトは無事だという事だ。

「高町。野上達がどうなってるかはわかるか?」

「ちょっと待ってください。エイミィさん!」

『聞こえてるよ!良太郎君達---電王は現在イマジンと交戦中。恐ろしくパワーのあるイマジンだよ!』

なのははエイミィから受けた報告をそのまま侑斗に告げる。

「野上は無理か……」

ポケットから黒いケースを取り出して、カバーを開く。

「三枚目だな……」

侑斗は決意の表情を込めて、ゼロノスベルトを出現させて腰元にまきつける。

ガチリという音が鳴る。

デネブは悲痛な表情を浮かべ、なのはは侑斗の仕種が良太郎が電王に変身する際の仕種に似ていると思った。

バックル上部にあるチェンジレバーを右側にスライドさせる。

「変身!」

ゼロノスカードをケースから抜き取って、緑色のラインが入っている面を表にしてアプセットする。

『アルタイルフォーム』

自動音声を発し、侑斗の姿がオーラスキンで覆われる。

胸部にオーラアーマーが装着され、胸部のデンレールが金色に装飾される。

頭部のデンレールから緑色の牛が走り、定位置で停まり電仮面としての姿を象っていく。

頭部のデンレールも銀色から金色へと装飾していった。

緑色のフリーエネルギーが吹き荒れる。

そして、ドア上部を両手で握って逆上がりの要領でゼロライナーの屋根へと移動する。

腰元に携帯されているゼロガッシャーの右パーツを左腰にあるゼロガッシャー左パーツに縦に差し込む。

ホルスターから抜き取って、頭上で振り回すとフリーエネルギーで巨大化する。

足元がゼロライナーなので、突き刺すわけにはいかないので軽く置く。

 

「最初に言っておく。俺はすーごーくやる気だ!!」

 

ゼロノスが戦闘準備を完了して、闇意思に宣戦布告をする。

「我が主もフェイト

あの子

も覚める事のない眠りの内に終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢---永遠だ……」

『闇の書』を閉じ、前に浮かしながら闇意思は淡々と告げる。

「永遠なんてないよ。みんな変わっていく。変わっていかなきゃいけないんだ。わたしも。貴女も!」

なのはは俯いた顔を上げながら真っ直ぐに闇意思を見据えてていた。

「変わらなきゃいけない、か……」

ゼロノスは、なのはの言葉を反芻しながらZサーベルを握る力を強めた。

 

 

空は晴天。

小鳥が気分よく鳴きながら、翼を羽ばたかせたり、羽を休んだりしている。

自然と人の手が上手く調和している建造物がある。

フェイトはベッドからむくりと起き上がった。

横に誰かがまだ眠っている。

子犬モードのアルフともう一人後姿でしかわからないが、金髪の誰かだ。

「?」

状況を把握するためにフェイトは周囲を見回す。

天井は夜空と無数の星が描かれている。

「ここは……」

いくら記憶の片隅で引っ張り出そうとしても出てこない。

元々自分の記憶はアリシア・テスタロッサのものだ。

『自分の記憶』には心当たりがないので、『アリシアの記憶』と見て思い出してみるがやはり思い当たる節がない。

(わたしはもちろんの事、アリシアの記憶にもないなんて……。ここは一体どこなんだろう……)

手掛かりになるようなものがないが、それでも頑張って答えを導き出そうとした時だ。

コンコンとドアを叩く音がした。

フェイトとしてみればこの場合、迂闊な行動が出来ないというか事態を呑み込めていないため勝手がわからないので無反応ととられる行動を取ってしまう。

「フェイトぉ。アリシアぁ。アルフぅ。朝ですよ」

女性の声がした。

フェイトにしてみれば聞き覚えがある女性の声だ。

「まさか……」

女性の会話内容を確認するように、もう一度隣を見る。

むくりと起き上がって、目をこすっていた。

 

「おはよう。フェイト……」

 

少女は自分に向かってそのように言った。

「みんな。ちゃんと起きてますか?」

ガチャリとドアの開く音がして、一人の女性が入ってきた。

白と薄茶色が目立つ服装をしたショートボブの女性だった。

物腰は落ち着いており、『大人の余裕と風格』のようなものがにじみ出ていた。

「はぁーい」

「まだ眠い~」

既視感のようなものがあった。

自分は間違いなくこの女性を知っているし、名前もわかっているが自信はない。

そんな自分とは関係なく、少女とアルフはごく自然に女性と会話をしている。

「二人とも。また夜更かしてたんでしょ?」

女性はこちらに歩み寄りながら、少女とアルフに注意をしながらカーテンを開く。

太陽の光が部屋の中に入ってくる。

「ちょっとだけだよぉ」

「ね~」

少女は正直に打ち明け、アルフは相槌を打つ。

「早寝早起きのフェイトを見習ってほしいですね。アリシアはお姉さんなんですから」

女性は開いたカーテンを纏めながら、少女---アリシアに進言する。

「む~」

アリシアは頬を膨らませている。

フェイトは得た情報を脳内で整理する。

自分の横にいる金髪少女はアリシア。

自分とアルフはここで暮らしている。

そして、この女性は自分達の家族である。

(まさか……)

フェイトは一つの結論に導き出した。

目の前にいる女性は『アリシアの記憶』では存在しないだろう。存在していたとしても『人』ではなく『猫』なのだから。

この女性は『自分の記憶』にいる存在だ。

 

「えと……。リニス?」

 

フェイトは自信はないがそれでも言ってみることにした。

「あ、はい。何ですか?フェイト」

女性---リニスは妙な訊ね方をする自分に対して訝しげな表情を浮かべることなく返す。

「アリシア……」

フェイトはアリシアに顔を向ける。

「ん?」

アリシアは笑顔のままこちらを見ている。

「前言を撤回します。今朝はフェイトも寝呆け屋さんのようです」

リニスが左人差し指を出して、三人揃って寝ぼすけと言い直した。

アリシアが笑い出す。

「さ、着替えて。朝ごはんです。プレシアはもう食堂ですよ」

リニスの何気ない言葉にフェイトは両目を大きく開き、身体全身が硬直し始めた。

「母さん……」

アリシアとアルフが元気よく返事をしているの対して、フェイトは短くそういうしか出来なかった。

 

 

「ぬおりゃあああああああ!!」

「ふううん!!」

クライマックス電王とゴリライマジンが互いの両手を掴んで、押し比べをしていた。

「あれだけのダメージを受けていながら、まだこれだけの力が残っているとは電王、恐るべし」

ゴリライマジンは冷静に事実を受け止めながらも、両手に力を込めて地を踏んでいる両脚にも力を入れて、右足を一歩踏み出す。

「ぐうっ!」

ゴリライマジンが一歩踏み出すということはクライマックス電王は強引に下がらされてしまうわけだ。

しかもただ下がるわけではない。

バシュンと左手、右肩、胸部、右ふくらはぎ辺りから火花が飛び散る。

火花が飛び散るたびにクライマックス電王は体力と精神力を刈り取られたかのような感覚に襲われる。

「やべぇ……。意識飛びかけてた……」

「センパイ!今とんでもないこと言ってない!?」

「アカン。力入らへん!」

「僕、身体が痛い~!!」

クライマックス電王をはじめとして、右肩、左肩、胸部がそれぞれ悲鳴を上げている。

ずるずるずるとクライマックス電王は後方へと下がっていく。

「だがそろそろ終わりの様だな!」

ゴリライマジンが今が勝機と狙って、更に全身に力を入れる。

「へっ。どうかな?」

クライマックス電王は抵抗する事をやめるようにして、全身の力を抜く。

「何!?」

ゴリライマジンは自信の両手に圧し掛かる重みが急になくなり、前のめりになる。

ゴリライマジンを前に崩し、クライマックス電王は真後ろに身を捨てつつ、片足の裏を相手の腿の付け根に当てて、押し上げるように頭越しに投げ飛ばそうとするが、実際には両手を組んでいる状態なので自分の後方へと落すかたちとなった。

ドォンという音がクライマックス電王の耳に届く。

背中を強く打ち付けているのかゴリライマジンは手を放していた。

両手をプラプラさせて、仰向けになっているゴリライマジンに向き直る。

「ったく、馬鹿力出しやがって……」

押し比べをしていた際に、突き刺していたDソードを引き抜く。

引き抜いたDソードを両手で上段に構える。

「あんまり気ぃ進まへんなぁ」

「キンちゃん。僕達はこれからあと一匹仕留めなきゃいけないんだからさ、多少のズルは黙認されるって」

「早く残り一匹もやっつけちゃおうよー」

これから起こす行動に抵抗を感じたり、それを『一対多数』の名目で敢行しようとしたり、名目も関係なくさっさと片付けようと促したりとしていた。

「くたばれ!ゴリラ野郎ぉぉぉぉぉ!!」

Dソードを勢いよくゴリライマジンの眉間に狙いをつけて振り下ろす。

「甘い」

ゴリライマジンは仰向けの状態でありながらDソードのオーラソードを両手で挟んで受け止めた。

挟まれたDソードを抜こうとするが、ゴリライマジンの力は強かった。

「テメェ!!放しやがれ!!」

「そんなに放してほしいか?なら!」

ゴリライマジンはDソードを挟んだまま、勢いに任せて前方へとクライマックス電王を投げた。

いきなり襲い掛かる勢いにクライマックス電王は耐えられず、握っていたDソードを放してしまい先にあるビルの壁に背中を強く打ちつけた。

「がはぁっ!!」

ずるずるずると滑るようにして落ちていく。

やがて地に伏した。

「ん……ぐぐ……。はあはあはあ……はあ……」

起き上がろうとするが中々起き上がれない。

しかも起き上がろうとするたびに、身体の節々から火花が飛び散っている。

クライマックス電王のダメージの許容範囲を超えているのだ。

「忘れ物だ」

起き上がったゴリライマジンは先程まで挟んでいたDソードを右手に持ち替えて、クライマックス電王の前に投げる。

「お前はよく頑張った。魔導師の大きい一撃を最前で防ぎ、その後我等と戦っているのだ。とうに肉体の許容範囲以上のダメージを受けているのだろう」

「何が言いてぇんだ。テメェ……」

クライマックス電王は倒れたまま、顔をゴリライマジンに向ける。

「どうだ?降参しないか?元々お前達は別世界の住人ではないのだ。別世界の『時間の破壊』を防ぐために命懸けで戦うのは馬鹿らしいとは思わないか?」

「………」

「降参して元いた場所に帰れ。今から帰るなら主には『死んだ』と言っておくぞ」

ゴリライマジンの一言に、倒れているクライマックス電王の開いていた手が拳となって震えていた。

ゴリライマジンは降参を促してくる。

どういう意図なのかはわからない。

「……ぞ」

クライマックス電王からモモボイスが低く呟いた。

「何?」

見下ろしているゴリライマジンが訊ね返す。

 

「ふざけんじゃねぇぞ!!ゴリラ野郎!!」

 

今度は大声で吠えた。

「降参しろだぁ?馬鹿らしいだぁ?『死んだ』と言っておいてやるだぁ?テメェ、マジで気に食わねぇんだよぉぉぉ!!」

うつ伏せになっている状態から錘が乗っかっているような両手両脚を動かす。

「う、ぐううううう!!」

四つんばいから両脚の力を振り絞って中腰になる。

その度に身体から火花が飛び散る。

「ぐっ!」

身体の節々が痛い。

中腰から腹筋やら背筋を使って、直立の姿勢へと戻ろうとする。

「がぁ!!」

火花が飛び散り、フラフラだが直立の姿勢に戻った。

腕も足も小刻みに震えている。

「ば、馬鹿な!?何故立てる!?お前はもはや虫の息のはずなのに……」

立ち上がったクライマックス電王を見て、ゴリライマジンは狼狽しながら無意識に後方に退がる。

「へっ、どうしたんだよ?やけにビビってるじゃねぇかよ?」

クライマックス電王がゆっくりと右足を踏み出す。

その度にゴリライマジンが後方へと退がる。

「テメェにいいこと教えてやるぜ。俺達は何度もこういった事を乗り越えてきたんだよ。それになぁ、別世界

こっち

の時間も俺達は守るって決めてんだ!だから別世界は俺達の時間なんだよぉ!」

両手を拳にして、そのままゴリライマジンとの間合いを詰める。

「ならば消すまで!」

ゴリライマジンは後退をやめて、右拳を振り上げて腰を捻っていた。

「ビビリゴリラに出来るのかよ?そんな事をぉぉぉぉ!!」

クライマックス電王も右拳を振り上げながら腰を捻り、左足を前に出して滑り込むようにして停めながら右拳を繰り出した。

ゴリライマジンも溜めに溜めていた右拳を繰り出す。

互いの拳が激突する。

「ぐっ……ぐうううううう!!そんな状態で何故ここまでの力が!?」

「さっきも言っただろ!何度もこういった事を乗り越えてきたってなぁぁ!!」

クライマックス電王の左足が前に進む。

「ち、力負けしている!?ありえん!?」

ゴリライマジンが後退されながら狼狽する。

「さあ……なあ!!」

更にクライマックス電王は突き進む。

ゴリライマジンはずるずると後退していく。

「うおりゃああああああ!!」

前進は『歩』から『走』へと切り替わった。

地を力いっぱい蹴る。

「ぐおおおおおおおお!!」

ゴリライマジンはあらん限りの声を出して抵抗してみるが、空しく響くだけで背中を強く後方のビルに叩きつけられた。

空いている左拳をゴリライマジンの顔面に叩き込む。

「がっ」

ゴリラマイマジンの顔面が項垂れるように下がるが、追撃として右拳をぶち込む。

「ぶはっ」

クライマックス電王の耳には入らないのか、もう一発右拳をぶち込む。

ゴリライマジンが何か声が上げたが、気にせずにぶち込む。

「うおおおおおおお!!」

顔面に拳を受けながらもゴリライマジンは反撃として右ボディブローをクライマックス電王の腹部に叩き込む。

「ビビリゴリラの一撃なんて効くわけねぇだろぉぉ!!」

腹部を直撃しているのに、膝をつく事もなければ後退もしない。

この場の空気をモノにしているのは言うまでもなくクライマックス電王である。

ゴリライマジンが逆転するためには相手を怯ませるしかない。

だが完全に気迫負けし、恐怖まで身体に染み込んでいるゴリライマジンにしてみれば至難の業ではあるが。

「そろそろ終わりにしてやるぜ!」

ケータロスのチャージ&アップスイッチを押す。

パスを取り出してターミナルバックルにセタッチしてから更にパスを開いてセタッチする。

『チャージ&アップ』

オーラアーマーに施されているデンレールとターンブレストを介して両肩と胸部の電仮面が左腕に向かって移動する。

先頭が電仮面アックス、真ん中に電仮面ガン、最後に電仮面ロッドとなって左腕に装着される。

バチバチバチとフリーエネルギーが充填されている。

「これで二匹目ぇぇぇ!!」

右足を前に繰り出して、腰を左に捻りながら左拳を振り上げる。

力いっぱい右足で大地を踏み、捻った腰と振り上げた拳のタイミングがマッチしたフリーエネルギーを纏った左拳をゴリライマジンの顔面に放つ。

「これが電王……。我が主の……、うおおおおおおおお!!」

ゴリライマジンが許容量以上のフリーエネルギーを叩き込まれ、原型を保つ事が出来ず爆発した。

「はあはあはあ……はあ……」

クライマックス電王は両肩を揺らしながら息を整えていた。

先程の戦い、いくら気迫勝ちをしていたといってもダメージを受けていないわけではないのだ。

クライマックス電王は右手をかざしてサインをすると、デンバードⅡを呼び寄せた。

あと一体であるジラフイマジンを倒すために。

 

 

海鳴市の夜空では別の戦いが繰り広げられていた。

「うおりゃあああああ!!」

ゼロノスがZサーベルを振り下ろすが、闇意思が右手をかざしてタイミングを合わせて人差し指と中指で挟んで受け止めた。

「重みは電王以上かもしれないが、その反面単調だ……。このようなことも容易く出来る」

笑みを浮かべるでもなく、淡々と告げる。

「くっ!シグナムやヴィータ達を蒐集したのはハッタリじゃないみたいだな!」

ゼロノスは挟まれたZサーベルを抜こうとするが、闇意思の挟んでいる力のほうが上らしく引き抜く事が出来ない。

闇意思は左手を払うような動作をとる。

直後、ズラッと赤色の短剣が出現する。

「やばい!?」

ゼロノスは今まで得た戦闘経験による勘が働いた。

しかしZサーベルを引き抜けない。

(くっ。このまま直撃はさすがにまずい……)

「ブラッディダガー」

闇意思が告げる。

「!!」

赤い短剣はゼロノスに狙いをつけて飛んでいった。

爆発が起こり、爆煙が立ちそこからゼロノスが後方へと舞った。

ゼロライナー・ナギナタの屋根に背中を打つ。

「ぐはっ!」

息を吐き、身体全身が痺れる感覚に襲われる。

「桜井さん!」

なのはがゼロノスの側まで寄ろうとする。

「立ったらどうだ?先程の攻撃。見た目は派手だがお前自身はさほど受けていないはずだ。自分から飛んだのだからな」

闇意思はゼロノスのした事を理解していた。

「バレてたか」

ゼロノスは両脚の反動を利用して身軽に起き上がった。

「………」

ゼロライナー・ドリルに着地した闇意思は挟んでいたZサーベルを一瞥してから、軽く上に投げてから持ち直してゼロノスに切先を向ける。

腕を曲げて、ぐぐっと溜めてからゼロノスに向かって放り投げる。

くるくると回転しながらZサーベルは持ち主に向かっていく。

ゼロノスは左手を前にかざす。

Zサーベルはゼロノスに吸い寄せられるようにして近寄り、最後にはしっかりとグリップを掴んだ。

左手から右手へと持ち替えてから両手で持ち、下段右斜めに構える。

「それでもそれなりに受けてるんだぜ」

ゼロノスの言うように、いくら自分から飛んだとはいえダメージがゼロではない。

「どうやらそこいらのイマジンより遥かに強いってことはよくわかったよ」

ゼロノスの両脚がゆっくりと闇意思に詰め寄る。

「八神、悪いが荒い起こし方になるぜ!!」

『緩』から『急』へと足運びが変わり、間合いを詰める。

ゼロライナー・ドリルまで走り寄って左切上に狙いをつけて振り上げるが、闇意思は難なく半歩下がって避ける。

だがゼロノスの攻撃は終わらない。

左足を軸にしてその場で駒のように回り、Zサーベルを握っていた左手を離して拳にしてそのまま闇意思の顔面に狙いをつけて裏拳を繰り出す。

「!!」

空を裂くようにブォンという音が鳴るが、闇意思はその攻撃すらもかわしていた。

「何だ?今の技は……」

闇意思は守護騎士の記憶を引っ張り出しても、わからないようだ。

「あいつ等や八神が知らないのも無理はない。八神の教育上、プロレス技は披露してないからな」

尤も彼がプロレス技を繰り出す対象はデネブか敵イマジンくらいである。

「だがさっき言ったよな?荒い起こし方になるってな!!」

ゼロノスは一歩踏み出してから跳躍してから右足を繰り出す。

闇意思は防御には入らず、足をその場に浮かせてからふわーっと退がる。

ゼロノスは跳び蹴りに失敗しても、次の手を繰り出す。

Zサーベルのグリップ部分を外して上下逆にして連結する。

刃となっている部分を自分の方向にスライドさせて刃を弓型にする。

フリーエネルギーで巨大化し、Zボウガンに変形を完了させる。

チャキっと構えて引き金を絞る。

フリーエネルギーで構築された矢が闇意思に向かって飛んでいく。

闇意思は右手をかざして黒色の魔法陣を展開させて防ぐ。

「高町!今だ!」

「はい!レイジングハート!!」

『アクセルシューター』

ゼロノスが叫ぶ直後、なのはとレイジングハート・エクセリオンが返事し、桜色の魔法陣を足元に展開させて三個の桜色の光球を出現させていた。

「シュートォォォ!!」

三個の桜色の光球は同時に発射された。

「ブラッディダガー……」

闇意思は自分の胸元に三本の赤い短剣を出現させて、発射させた。

桜色の光球と赤い短剣が互いに標的に向かって飛んでいく。

三個と三本がぶつかって相殺され、爆発を起こす。

全て同じタイミングで爆煙が立ち込める。

「隙を狙って高町に撃ってもらったのに、効果なしかよ」

「まるでどの角度からも目があるみたいです……」

ゼロライナー・ナギナタの屋根に、なのはが足をつける。

これまで戦って決定打を得る事が出来ない原因として、なのはは率直な感想を述べる。

「これ以上ここでやると、俺達も共犯者だな……」

ゼロノスがクレーターや亀裂が生じた地面。地面を突き破って噴き出ているマグマ。巨大生物の尻尾のような物で破壊されたビル等を見ながら言う。

「場所を変えたほうがいいのかもしれませんね……」

なのはも現在の市街地を見ながら言う。

「そうだな。デネブ!針路を海に変えろ!」

ゼロノスはゼロライナー・ドリルで操縦しているデネブに告げた。

 

 

着替えを終えたフェイトはリニスを先頭に、アリシア、アルフの後をついていった。

寝室を抜けてもフェイトにはここがどこなのか記憶にはないので周囲を見回していた。

リニスが両手で両開きの扉を開ける。

部屋は暗いが陰気な雰囲気はなく、ただ太陽の光が入っていないだけなのか家主の趣味のどちらかもしれない。

ディナーテーブルの南部。扉を開けてすぐに一人の女性が座っていた。

「母様。おはよう」

「おはよー。プレシア」

アリシアとアルフが進んで、コーヒーを飲んでいるプレシア・テスタロッサの元に駆け寄る。

 

「アリシア、アルフ。おはよう」

 

プレシアが穏やかな笑顔を浮かべて一人と一匹に答えた。

「プレシア。困りましたよ。今日は嵐か雪になるのかもしれません」

リニスが歩み寄りながらプレシアに告げる。

「?」

プレシアが疑問顔になる。

フェイトはプレシアの後姿を見た瞬間に、柱の陰に隠れていた。

そして身体が硬直し始めていた。

プレシアが怖いのだ。

これは身体が完全に『拒否』を示している。

(何で?どうして?身体が動かない……)

フェイトはプレシアが自分に折檻をしていた『本当の理由』は野上良太郎に聞かされている。

理屈ではわかっているのだ。

プレシアが自分に対して愛情を持っていることはわかっている。

だが、そのためにプレシアが自分にした行為は自分がトラウマになってもおかしくない程のものだった。

「ほら、フェイト」

リニスが促しているが、フェイトの身体は動く事を拒んでいるので、柱の陰にいるままだ。

(動いて。お願い動いて!お願い!)

フェイトは自身の身体に訴えながら、ゆっくりとおそるおそる身体を動かして柱の陰からプレシアのいる位置へと動く。

「フェイト。どうしたの?」

見たこともない表情だとプレシアを見て思った。

「どうも、何か怖い夢でも見たみたいで……。今は夢か幻だと思っているみたいですね」

リニスはフェイトの様子を見ながら推測をプレシアに告げた。

「フェイト。勉強のしすぎとか?」

「ありえる~」

アリシアとアルフもフェイトの様子を見ながら、フェイトなら『有り得る』事を口に出した。

「フェイト。いらっしゃい」

プレシアが手招きする。

「………」

フェイトは引き寄せられるように歩み寄る。

顔は俯きがちになっており、プレシアと目を合わせる事を恐れているようにも見えた。

プレシアの両手がフェイトの両頬に触れる。

触れた感触にフェイトは反応し、顔を上げる。

「怖い夢を見たのね。でももう大丈夫。母さんもリニスもアリシアも、みんな貴女の側にいるわ」

プレシアが安心させるように優しくフェイトに告げた。

「プレシア~。あたしも~」

アルフがプレシアを見上げながら抗議する。

「そう。アルフもね」

プレシアはアルフを忘れた事を詫びる様にして付け足した。

「ま、朝食を食べ終える頃には悪い夢も醒めるでしょう」

リニスがあまり根拠のないことを言いながら、フェイトを励ます。

「さあ、席に着いていただきましょう」

「はーい」

プレシアの言葉にアリシアが即座に返した。

朝食が目の前にあるが、フェイトはナイフにもフォークにも手を付けずに凝視していた。

アリシアとプレシアはナイフとフォークを巧みに使って、料理を口に含んでいく。

プレシアはアリシアの食べている仕種を見て、微笑む。

それも自分が見たこともない母親だった。

(良太郎が教えてくれたけど、やっぱり……)

理屈と感情が一致していないため、行動ひとつ取るのに躊躇ってしまう。

アルフも専用の受け皿に乗っているドッグフードを食べていた。

フェイトは今の現状が何なのかを理解した。

(これは『夢』なんだ。母さんはあんな風にわたしに笑いかけたりしないし、アリシアとリニスはもういない……。でもこれは……)

フェイトは夢だと思いながらも、目の前の料理に手を付けることにした。

自分を除く誰もが心配げな表情をしていたからだ。

食事を終えた一同は中庭を全員で歩いていた。

アルフを先頭に、アリシア、プレシア、フェイト、そして最後尾にリニスとなっていた。

「ねぇ、今日はみんなで街に出ましょうか?」

プレシアがこれからの予定を切り出した。

「わーい!」

「いいですね」

アリシアが喜び、リニスも賛同する。

彼女達の行動を見るたびに、自分とのズレが生じ始める。

「フェイトには新しい靴を買ってあげないとね」

プレシアが言うが、フェイトはそれを嬉しく感じる事がなかった。

目の前の出来事が『夢』だと自覚すると、プレシアの言葉もまやかしのように思ってしまう。

「あー、フェイトばっかりずるーい」

アリシアがえこひいきされている事に頬を膨らます。

「魔導師試験満点のご褒美です。アリシアも頑張らないと」

リニスがえこひいきの理由を話す。

「そーだよー!」

「むー」

アルフがアリシアに今以上の努力を促すが、アリシアは唸るだけだった。

「フェイトぉ、今度の試験までに補習お願い!」

アリシアがフェイトの側まで寄って、次の試験対策をお願いする。

「う……うん……」

フェイトは頷くが、そこで立ち止まる。

両目の瞳が潤んでいる。

涙腺が緩み始めたのだ。

「うっ……うぐっ……ぐすっ……」

フェイトはこらえきれずに嗚咽を漏らし始めた。

(わたしがずっと……ずっと……、欲しかった時間だ……。何度も何度も夢に見た時間だ……)

ここが『夢』の世界だとしてもだ。

 

 

暗くて上も下もないような空間に私服姿の八神はやてはいた。

(う……うん。眠い。)

閉じていたゆっくりと両目を開く。

目の前に黒い衣装を纏っており、両腕両脚を露出している銀髪の女性が立っていた。

「そのままお休みください。我が主」

非戦闘形態と呼べる姿をしている闇意思だった。

「貴女の望みは全て私が叶えます……」

闇意思に告げ、はやてはぼんやりと聞いている。

「目を閉じて、心静かに夢を見てください」

闇意思は優しく、はやてに告げた。

はやては闇意思の言葉に誘われるように意識をもう一度手放した。

 

 

海鳴市の海岸に向かってゼロライナーの屋根に乗っているゼロノスとなのはは、後から追いかけてくる闇意思の様子を伺っていた。

「仕掛けてこないな……」

「はやてちゃん。大丈夫でしょうか……」

「高町。お前しばらく温存してろ」

「え?」

屋根の上でゼロノスとなのはは、今後に備えての打ち合わせをしていた。

「相手は明らかに魔法サイドだ。俺の力が決め手になる事はない。なるとしたら間違いなくお前だ。だからその時まで無駄に魔力は消費するな。八神---あいつの攻撃は俺が受ける」

「でもそんなことをしたら桜井さんは……」

「お前達がイマジン相手にどうにもならないのと同じだ。単純に戦って相手を倒すなら俺にも出来るが、今の相手はそういうわけにはいかないだろ?」

従来の戦闘方法で闇意思を倒しても『勝利』にはなるが、それは単純に『敵を倒す』というものでだ。

この戦いの勝利とは『八神はやての解放』の一点でしかない。他の方法は全て『敗北』に直結するのは言うまでもないことだ。

ゼロノスはZボウガンをZサーベルへと切り替える。

なのははゼロライナーの屋根から足場を海鳴の夜空へと移す。

「第二ラウンドだ。行くぞ!」

「はい!」

二人は自身の武器を構えて、こちらに向かっている闇意思へと向かっていった。




次回予告


第五十三話 「解放される時、電王が倒れる時」

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