仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第五十話 「黒い宴」

ビルの屋上

闇意思は結界を展開させてから、相手の出方を伺っていた。

いまだに隠れて動く気配はない。

「主よ。貴女の望みを叶えます」

闇意思は『闇の書』の主である八神はやてに向けて敬意の仕種を取っていた。

「いとおしき守護者達よ。傷つけた者達よ。今破壊します」

閉じていた両目を開き、獲物に狙いをつけるように鋭くなる。

「スレイプニール。羽ばたいて……」

闇意思は呟くように告げる。

『スレイプニール』

『闇の書』が電子音声で発すると、闇意思の背部に展開される四枚の漆黒の翼が一回り以上巨大化する。

その勢いで黒い羽が何枚か地面に落ちる。

鳥類のように翼は羽ばたいて闇意思を空へと飛び上がらせた。

 

「来やがったな……」

モモボイスを発しながらデンバードⅡをモード2の上に乗っかっているクライマックス電王は両手に握られているDソードを握る力を強めていた。

「みんな、打ち合わせ通りにね」

クライマックス電王の隣でバルディッシュ・アサルトから黄金の鎌刃を展開させているフェイト・テスタロッサが後衛にいる高町なのは、自分達より下方に移動しているユーノ・スクライア、アルフに確認を取った。

「うん!」

「わかった!」

「了解。フェイト!」

なのは、ユーノ、アルフも三者三様に返事をした。

「行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」

デンバードⅡを全開に噴射してクライマックス電王は闇意思との間合いを詰めた。

Dソードを両手持ちにして上段に構えて一気に振り下ろす。

ぶぉんという風を切る音が振り下ろしたクライマックス電王にも、それを表情一つ変えずにひらりと後方に避けた闇意思の耳にも入った。

「守護者達の記憶の中から引き出させてもらった。仮面ライダー電王」

闇意思は表情を変えずに、淡々と告げる。

「一回避けたからといって得意がってんじゃねぇ!!」

デンバードⅡを噴射させて、開いた間合いを詰めると同時にDソードを袈裟、逆袈裟、右薙ぎという順序で斬り付ける。

闇意思は全てをタイミングを合わせて後方へと下がる事で避けてしまう。

クライマックス電王の背に隠れたフェイトが飛び出して、闇意思の頭上に狙いをつけてバルディッシュ・アサルトの黄金の鎌刃を振り下ろすが、見切っているかのようにして必要最小限の動きで避けてしまった。

「そんな……」

殆ど騙し討ちに近い方法なのに、それすらも見切られていることにフェイトはショックを隠せなかった。

「厄介だね。必要最小限の動きで僕達の攻撃を完全にかわしてるなんて。しかも、表情からして余裕みたいだし」

ウラボイスを発しながら冷静に闇意思を分析するクライマックス電王。

「クロスレンジに持ち込んで同時に攻撃して動きが鈍ったところをユーノとアルフのバインドで止めてもらって、なのはの一発に賭けるしかないね……。そう作戦を変えたってさっき念話でなのは、アルフ、ユーノに言っておいたから」

「それで行こか」

フェイトの手回しのよさに、キンボイスで作戦を乗る事を表明するクライマックス電王。

クライマックス電王はDソードを八相の構えを取り、横に並んでいるフェイトも正眼でバルディッシュ・アサルトを構える。

両者共に頷いてから、一気に駆け出した。

 

なのはは自分が今戦っている相手の恐ろしさを改めて感じた。

自分達の仲間内の中でクロスレンジを突出したフェイトと電王の二人が同時に攻撃を仕掛けているのに闇意思は難なく避けていた。

二人がたった一人の相手に完全に遊ばれているのだ。

(援護できるとしたら!)

なのはの中で今の状況で一番ベストの魔法を放つ準備が出来た。

『アクセルシューター』

レイジングハート・エクセリオンのヘッド部分から、桜色の光球を三個出現して三方向に飛んでいく。

「シュートォォォォォ!!」

(死角に)

向かっていく桜色の光球は、なのはの意思に従うようにして闇意思の死角となる方向へと飛んでいく。

一つは背後に。

一つは右斜め下に。

一つは左斜め下に。

現在クライマックス電王とフェイトの攻撃の中で加わるのだから、闇意思に逃げ道はない。

クライマックス電王の突きを避け、フェイトの左薙ぎを紙一重で避けている。

桜色の光球は三方向から同じタイミングと速度で闇意思に向かっていく。

(いける!)

なのはは直撃できると踏んだ。

だが闇意思の行動は、なのはの予想を大きく裏切っていた。

なのはの予想ではアクセルシューターを恐れるあまりに、注意力が散漫になりクライマックス電王とフェイトの攻撃は当たるようになり、アクセルシューターも直撃すると思った。

現実には闇意思は左側のクライマックス電王のDソードと右側のフェイトのバルディッシュ・アサルトを同時に受け止めていた。

「お前達の攻撃は烈火の将の記憶を通せば対処可能になる」

闇意思は淡々と告げていた。

三方向から闇意思に向かっている桜色の光球は今も真っ直ぐに進んでいる。

「テメェ、放しやがれ!!」

「凄い力……。放れてくれない!?」

クライマックス電王とフェイトが先程から全く動く気配がない。

(違う!動かないんじゃなくて動けないんだ!あの人に押さえつけられてるんだ!)

このまま向かえば間違いなくクライマックス電王とフェイトにも危害が及ぶ。

「ストーっプぅぅぅ!!」

なのはは向かっていく三方向の光球を強引に止めた。

『ストップ』

レイジングハート・エクセリオンも電子音声を発した。

闇意思に向かっていく三方向の光球は数センチのところで停止して、活動時間を越えたのかシャボン玉のようにパンッと消滅してしまった。

闇意思がDソードとバルディッシュ・アサルトを手放しているのが見えた。

だが死角狙いのアクセルシューターは二度と使えない。

眼前の相手が単純でない限り、有効打にはならないだろう。

(なのは)

念話の回線が開かれた。開いたのは闇意思の出方を伺っていたユーノだった。

(ユーノ君、どうしよう。フェイトちゃんとモモタロスさん達の攻撃が全く通じてないよ。わたしの攻撃も通じるとは思えないし……)

(小手先の技が通じる相手じゃないってのは僕も見てて思ったよ。大きい技を使わなきゃ勝機は見出せない。しかもフェイトやモモタロスさん達と同時に繰り出してやっと何とかなるくらいだと思うよ)

(三人同時になると、完全にあの人の動きを封じなきゃいけなくなるよ?)

(わかってる。それは僕とアルフでやるから安心して。この事はフェイトに伝えておいて。僕はアルフに言っておくから)

なのはが了承する前に、ユーノは念話の回線を閉じた。

ユーノとアルフを見ると、翡翠色と橙色の魔法陣を足元に展開させていた。

(フェイトちゃん。フェイトちゃん。聞こえる?大きいのを同時で行くよ!)

なのはがフェイトに対しての念話の回線を開いて、次の行動プランを告げた。

(わかった。機を見てそうするよ)

(ユーノ君もフェイトちゃんもだけど、モモタロスさん達に教えなくてもいいのかな?念話が出来ないから直に言わないといけないけど……)

なのはは先程ユーノと念話をしていた時に感じた疑問があった。

今自分の仲間で念話が出来ないのはクライマックス電王だけだ。

事前に報告しなくてもいいのだろうかという不安に駆られていたのだ。

(それは大丈夫。良太郎達はわたし達が攻撃を仕掛ければそれに乗じて仕掛けるはずだから)

(そうなの?)

(そうだよ。だから大丈夫)

モモタロス達とは付き合いは長いと自負しているなのはだが、戦闘における細かな事に関してはフェイトほど機転は利かないと改めて思ってしまう。

(うん。わかった!)

なのははレイジングハート・エクセリオンを構えて発射する機会をうかがうことにした。

 

ユーノはアルフと共に攻め手に回っているクライマックス電王、フェイト、なのはより下の位置で自身の出番を伺っていた。

自分とアルフは攻め手ではない。

攻め手が存分に力を放つための場を作る事が仕事だ。

この場合、闇意思の動きを封じてこれから放つ三人の攻撃を直撃させるための手助けということになる。(てんこ盛り状態の電王とスピードに特化したフェイトの同時攻撃を難なく対処する反射速度と冷静さ。仮に僕とアルフが動きを封じたとしてもどのくらいもたせることができるか……)

ユーノは自身が闇意思の動きを完璧に封じる事が出来ると思っていない。

(ほんの一瞬でいい。ほんの一瞬だけ停める事が出来れば!!)

ユーノは足元に魔法陣を展開させて、右手を掲げると足元より少し小さいサイズの魔法陣を展開させる。

「はっ!!」

そして、掲げた右手から展開されている翡翠色の魔法陣から同じ色の鎖が数本出現して、一直線に闇意思に向かっていく。

無数の鎖は闇意思に絡みつく。

「ふっ!!」

隣にいるアルフもその直後に、手をかざして闇意思の右手に狙いをつけて橙色の錘のような物を付着させた。

闇意思は相も変わらず表情を変えない。

「砕け」

闇意思が告げた直後に『闇の書』が輝きだし、『ブレイクアウト』と発する。

闇意思を拘束していた鎖と錘が粉々に砕け散った。

拘束時間は十秒にも満たないが、その間だけでも動きを停止する事が出来ただけ御の字だ。

(後は三人が!)

ユーノは数秒間で攻撃態勢を整えていると思われる三人に賭けるしかなかった。

 

『プラズマスマッシャー』

バルディッシュ・アサルトが発すると、フェイトの足元に黄金の魔法陣が展開されており左手を前にかざすと足元より少し小さいくらいの魔法陣が展開されていた。

「ファイア!!」

魔法陣の中心から稲光を帯びた黄金の魔力球が構築されて、ズドォンという音を鳴らしながら一直線に向かって発射された。

『ディバインバスター・エクステンション』

フェイトがいる位置の対角線上にいるなのはのレイジングハート・エクセリオンが発すると、なのはの足元に桜色の魔法陣が展開され、レイジングハート・エクセリオンをバスターモードにすると桜色の環状魔法陣が出現し、柄の部分に二つ。ヘッド部分先端には一際大きいのが一つ。更に先端に柄と同じ大きさの環状魔法陣が一つ出現していた。

「シュートォォォォ!!」

なのはの掛け声と同時に環状魔法陣の最先端の中心を狙うようにして、ドォンと桜色の魔力砲が一直線に発射された。

「よぉーし、俺達も行くぜぇ!」

闇意思と対面の位置にいるクライマックス電王もケータロスのチャージ&アップスイッチを押してから、パスをターミナルバックルに二回セタッチする。

『チャージ&アップ』

バチバチバチとDソードのオーラソードにフリーエネルギーが充填されている。

無形の位の構えを取りながら、デンバードⅡを全速力で飛ばす。

両端から黄金の魔力砲と桜色の魔力砲が一直線に向かってくるが、闇意思は慌てふためく事もなく佇んでいた。

闇意思との距離が近くなると、Gを感じながらも片手持ちの無形の位から両手持ちの八相の構えへと切り替えて、そこから上段に持ち替えて闇意思の頭部に狙いをつけて振り下ろす。

「盾」

闇意思が短く告げると『闇の書』が反応した。

両腕を×字に交差させてから広げると掌を中心にして、黒色の魔法陣が展開して黄金と桜色の魔力砲を防いだ。

「正面がガラ空きだぜぇ!!」

Dソードを振り下ろすクライマックス電王。

「刃を撃て。血に染めよ……」

呟き、『闇の書』が反応すると赤いクナイのような短剣が闇意思の周りに出現する。

「穿て。ブラッディダガー」

赤い光線を描きながら、数本の赤い短剣が四方向へと向かって飛んでいった。

同時にドォンと爆発音が鳴り響く。

爆発が起こり、爆煙の中からクライマックス電王、フェイト、なのは、ユーノ、アルフが抜け出た。

闇意思は機を逃すつもりはなく、次なる一手を繰り出そうとしていた。

 

「咎人達よ。滅びの光よ……」

 

右手をかざして、闇意思は発する。

かざした右手に桜色の魔法陣が展開され雷雲を突き抜けるようにして桜色の光が無数、魔法陣に向かっていく。

「アレってまさか……」

「間違いなくアレだね……」

アルフが驚愕の表情を浮かべながら最悪のことを予想し、ユーノはそれをあっさりと認めた。

 

「星よ集え。全てを打ち抜く光となれ……」

 

桜色の光球が肥大化していく。

(アレってもしかしなくても……)

深層意識の野上良太郎がこれから起こる事の予測は出来ていた。

「「「「なのはバージョン!?」」」」

四体のイマジンが同時に発すると、なのはが「だからその名前やめてくださいって言ってるじゃないですかぁ!!」と訴えていたが、クライマックス電王の耳は右から左へと受け流していたりする。

「アレとガチでやりあう気はねぇぞ……」

モモボイスで撤退するように呟く。

「同感だね。無事では済みそうにないもんね……」

ウラボイスも同意する。

「正直アレ食らってみたいと思わんしなぁ」

キンボイスで物騒な事を言う。

「早く逃げよーよ!!」

リュウボイスでこの場から離れるように促した。

乗っかっているデンバードⅡの車体をスケートボードの要領で百八十度向きを反転させる。

「さっさと逃げるぞ!!」

クライマックス電王の一声にフェイトはなのはを抱え、アルフはユーノを抱えて今から繰り出される魔法に対して距離を置く事を選んだ。

 

「貫け。閃光……」

 

闇意思が静かに告げるが、着実に魔法を完成させようとしている。

「なのはの魔法まで使うってかい!?」

ユーノを抱きかかえているアルフは発射準備を取っている闇意思に吐き捨てるように言う。

「なのはは一度蒐集されている。その時にコピーされたんだ……」

ユーノは推測だが可能性としては一番有り得る事を言う。

「フェイトちゃん。何もここまでしなくても……」

フェイトに抱きかかえられているなのははどこか緊張感のない台詞を吐く。

「至近距離からだと防御の上からでも落とされる!距離をとらないと!」

それに対してフェイトはこれまでにないくらい真剣な表情をなのはに向けていた。

「なのはバージョン食らった事があるのは俺達の中じゃフェイトだけだからなぁ。コイツの言葉が一番信用できるぜ」

フェイトの隣でデンバードⅡを巧みに操って逃げているクライマックス電王が彼女の言葉を後押しするようなことを言う。

アルフ&ユーノは別方向へと避難し、クライマックス電王&フェイト&なのはもひたすら真っ直ぐに避難していた。

『左方向三百ヤード。一般市民がいます』

バルディッシュ・アサルトが短く現状を報告した。

「「「え!?」」」

三人が驚愕の声をあげるのも当然の事だった。

 

 

月村すずかは夜空を見上げていた。

空は暗く、雨で振ってきそうな嫌な雲で覆われていた。

「やっぱり誰もいないよぉ!急に人がいなくなっちゃった……」

アリサ・バニングスが走ってすずかの元に寄ってきた。

付近に誰かいないか単独で調べていたのだ。

二人とも不安な表情を浮かべていた。

「辺りは暗くなってるし、空には変な光が光ってるし……。一体何が起きてるの!?」

アリサは現状を理解しようとしているが、それでも不安が消える事はない。

「とりあえず逃げよう!なるべく遠くへ!」

「う、うん」

アリサはすずかの手を掴んでこの場から離れる事にした。

 

 

「一般市民って事はつまり魔法使えへんし、知らん人間やいうことやな?」

キンボイスで確認するようにフェイトに訊ねるクライマックス電王。

「うん。良太郎達もなまじわたし達と付き合いが長いから忘れてるかもしれないけど、本来地球

ここ

は魔導師が誕生しにくい場所なんだ。だから魔法の文化もほとんど浸透していないんだよ」

「そうなんだぁ」

なのはもフェイトの説明を聞きながら感心していた。

フェイトはなのはを放す。

なのはは地に足をつけ、ズザーッと滑る様にして前に進んでいきながらも方向を百八十度切り替えた。

滑るたびに埃が舞う。

やがて停止すると、埃が空へと向かっていった。

フェイトは信号機の上に着地する。

クライマックス電王もなのはの側まで寄ると、デンバードⅡから降りて地に足をつける。

スライダー形態であるモード2からバイク形態であるモード1へと姿を切り替わった。

三人は周囲を見回しながら、一般市民を探す。

「いないねー」

リュウボイスを発しながらも、クライマックス電王は探していた。

「埃が晴れてないし、呼びかけるぐらいしか出来ませんけど探しましょう」

そう言いながら、なのはも周囲を見回している。

ビルとビルの間から手を繋いだ二人組みが飛び出して走っていた。

「あの、すみません!危ないですからそこでじっとしてて下さい!!」

なのはが声を張り上げて、移動している二人の一般市民を呼び止めた。

「おい、なのは」

クライマックス電王が隣のなのはに声をかける。

「どうしたんですか?」

「アイツ等、金髪チビと紫チビだぜ」

クライマックス電王のペルシアスキャンアイには呼び止められた二人の姿はハッキリと映っているのだ。

「ええっ!?」

「本当なの?モモタロス。見間違いって事は?」

なのはは驚き、上から探していたフェイトも間違いではないかと疑ってしまう。

「二人の目は埃で視界を遮られているかもしれないけど、僕達にはハッキリと見えてるんだよ」

ウラボイスで自分達が間違いを言っているわけではないと主張するクライマックス電王。

埃が晴れると、一般市民二名がアリサとすずかだとなのはとフェイトの目にもハッキリと映った。

 

 

「アリサちゃん。あれって……」

「なのはとフェイト、よね?あともう一人はよくわからないけど……」

すずかとアリサはなのはとフェイトの格好と手にしている物を見てからクライマックス電王を見て訝しげな表情を浮かべていた。

何から訊ねたらいいかわからない。

おかしなことが多すぎるからどれを最優先にすべきかで悩んでいたのだ。

「えと……あの……」

アリサが意を決して訊ねようとする。

「オイ、金髪チビと紫チビ」

クライマックス電王の言葉が先にアリサとすずかの耳に入った。

「モモタロスさん?」

すずかは聞き覚えのある声に首を傾げる。

「死にたくなかったらそこを動くんじゃねぇぞ。あと、なのはとフェイトの指示にも絶対に従え。わかったな?」

クライマックス電王が警告した。

「モモタロスよね?その格好は何なの?」

アリサが尤もな事を訊ねる。

 

「……電王。俺は仮面ライダー電王だ」

 

クライマックス電王はアリサとすずかに背を向けたままモモボイスで短く告げた。

「「仮面ライダー……」」

二人は聞き覚えのある単語を憶えるように口にした。

 

 

夜空に不気味に輝く桜色の満月らしきものが輝いていた。

だが、それは満月ではなく闇意思が構築中の魔力球だ。

闇意思は構築が完了するのをただじっと待つ。

喜怒哀楽の感情を表すことなくだ。

キュィィィィンという音を立てながら、魔力球は発射されるのを待ちわびているようだった。

 

「スターライトブレイカー……」

 

手を拳にしてから右腕を振り上げて、桜色の魔力球に叩きつけた。

魔力球の形はなくなり、一直線に向かって桜色の魔力砲がドォンというけたたましい音を立てながら発射された。

 

桜色の特大の余波が向かってきていた。

速くはないが、決して遅くもない。つまり余裕を与えてくれそうにはない速度だ。

「二人とも!そこでじっして!」

フェイトはバルディッシュ・アサルトをガシュンという音を立てカートリッジロードさせてから、すぐにヘッドをアリサとすずかに向けて黄金のドーム状の防御魔法を展開させた。

それから信号機から素早く降りて二人の前に立ち、右手をかざして黄金の魔法陣を展開させる。

「レイジングハート!」

なのははフェイトの前に立ってレイジングハート・エクセリオンを構えると同時にカートリッジロードする。

ガシュンという音を立てながらも、カートリッジの空薬莢が三個排出された。

レイジングハート・エクセリオンが電子音声で発してから、ヘッドから桜色の障壁が出現した。

フェイトもなのはも表情に余裕はなかった。

「こりゃあ、あの二人は俺等を守ってくれる余裕はなさそうやで」

「どうしよう?僕達このままじゃ真っ黒コゲになっちゃうよ!」

クライマックス電王はキンボイスを発してからリュウボイスで最悪な事態を口に出してしまう。

「センパイ?」

ウラボイスで一言も発しないモモタロスを訊ねる。

(モモタロス?)

深層意識の良太郎も先程から何も言わないモモタロスに訊ねる。

「腹括れよ?テメェ等ぁ!!」

なのはの前に立ってからDソードを地に突き刺してから、チャージ&アップスイッチを押してからパスをターミナルバックルにセタッチする。

『チャージ&アップ』

電信音声が発した直後に電仮面ソードを除く電仮面がデンレールとターンブレストを利用して、左腕へと移動していく。

先頭に電仮面アックス。二番目に電仮面ガン。そして最後尾に電仮面ロッドという順番に左腕に装着されていた。

バチバチバチバチと左腕にフリーエネルギーが収束されていく。

そして、中腰にして両脚を地面と一体になるような感覚で踏ん張る。

桜色の余波との距離が数十センチになった時。

「うらああああああああ!!」

クライマックス電王は左拳を振り上げて一直線に迫ってくる桜色の余波に向かって繰り出した。

ブォオオオオオオンという荒々しい風が吹き荒ぶ。

「ぐううううっ!!」

ズルズルと踏ん張っている足が下がっている事がわかった。

「この野郎ぉぉぉぉぉぉ!!さっさと消えちまいやがれぇぇぇ!!」

振り上げた左拳に更に力を入れるために、両脚をゆっくりとだが歩を進める。

「お、押し返してる!?」

「無茶苦茶すぎるよ……」

なのはとフェイトは防御に専念しながらも、先頭に立っているクライマックス電王のデタラメな行動に驚きの声をあげてしまう。

やがて余波は完全に消えたとき、そこには抱き合っているアリサとすずか。防御魔法で防ぎきったなのはとフェイト。そして、『攻撃は最大の防御』という格言を実行して全身に煙をたたせていたクライマックス電王がいた。

 

 

四つの光球が闇意思が展開した結界の外からこれまでの戦闘を見下ろしていた。

「『闇の書』は完成したようですが、まだ取りにいかないのですか?」

光球の一つが先頭に佇んでいる光球に訊ねる。

「焦んじゃねぇよ。アレは言ってしまえば超危険物だぜ。焦って手に入れて俺達が大火傷したら元も子もないだろうが。何のために半年も待ったと思ってるんだよ」

光球はこれまでの事を振り返りながらも、光球を窘めた。

「しかし、電王に取られたら元も子もないんじゃないの?あなたの努力も全て水の泡よ?」

光球の一つがそれでも納得していないようだ。

「完成はしたけど、アレにはまだ厄介なモノがあるはずだぜ。ソレがなくなるまでは手を出す事は許さねぇ」

光球は同じように窘めた。

「しかし小娘二人とオマケ達はどうとでもなるが、電王は邪魔になるな。今すぐにでも我々が始末しようか?」

光球の一つが電王討伐を表明する。

「好きにしろ。ただし戦うからには必ず倒せ。負けておめおめ帰ってきやがったら俺が直々に葬ってやるからな」

光球が脅し文句を告げると同時に、三つの光球は闇意思の結界の中へと入っていった。

 

 

桜色の魔力砲の余波が完全に収まり、クライマックス電王は腰を下ろしていた。

防御魔法で身を守っていたなのはやフェイトと違い、ほとんど『賭け』に近い行動なのでそれなりにダメージはあったようだ。

まだ全身から煙がたっていた。

「ふぅ。何とか防ぎきったけどよ。やっぱダメージありだぜ……」

突き刺さっているDソードのグリップを握って立ち上がって四人組のことの成り行きを見ることにした。

アリサとすずかは自体が把握できない表情をしており、なのはとフェイトは隠し事が露見したために申し訳ない表情をしていた。

「もう大丈夫……」

フェイトが安心させるように告げた。

「すぐ安全な場所に運んでもらうから、もう少しじっとしててね!?」

なのはが怖いかもしれないけど、もう少しだけ耐えてほしいと告げていた。

「チッ。鬱陶しいのがきやがったぜ……」

クライマックス電王が睨みつける先をフェイトも見ると、そこには三体の人影が見えた。

ソレがハッキリすると、『人』ではなく『怪人』だということがわかった。

こちらに向かって三体の怪人がゆっくりと歩み寄ってきているのだ。

「まさかアレって……」

(そのまさかみたいだね。フェイトちゃん、なのはちゃん。エイミィさんに一刻も早くアリサちゃんとすずかちゃんを安全な場所に運ぶように言って!)

「うん!」

「わかりました!」

深層意識の良太郎がフェイトとなのはに告げると同時にクライマックス電王は歩み寄ってくる三体のイマジンに向かっていった。

間隔が短くなると三体のイマジンは歩を止めていた。

こちらが来るのがわかったからだろうとクライマックス電王は推測した。

ゴリラの姿をしたゴリライマジン。

シマウマの姿をしたゼブライマジン。

キリンの姿をしたジラフイマジン。

「このタイミングからすると、お前達黒幕繋がり?」

「それやったら洗いざらい全部吐いてもらおか?」

「言っちゃえ!言っちゃえ!」

クライマックス電王の右肩、左肩、胸部が上下に揺れていた。

Dソードを三体のイマジンに突きつける。

 

「さっさと来やがれ!三匹まとめてバーベキューにしてやるぜ!!」

 




次回予告

第五十一話 「夢での戦い。現実での戦い 前編」

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