仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第四十七話 「旅立ちの汽笛が鳴る」

十二月二十四日 クリスマスイブ。

 

太陽系第三惑星を見下ろすかたちで広大でかつ果てがないとも思われる漆黒の宇宙空間に次元航行艦アースラは佇んでいた。

クロノ・ハラオウンが必死な表情でキーボードを叩きながら調査をしていた。

その仕種は専門家ともいうべきエイミィ・リミエッタに比べればたどたどしいものだが決して鈍くはない。

モニターに映し出されるのはギル・グレアムについてだ。

(僕の思い過ごしであってほしい)

クロノはそう願いながらも調べていく。

だが、現実は甘くなくクロノの『思い過ごし』は現実味を増していくばかりだった。

(良太郎やユーノ、ウラタロスが提督やリーゼ達を疑っているような眼差しで見ていた事が間違いだという証拠を調べていたというのに……)

カシュッというドアが開く音が聞こえたので、クロノはモニターに映っている全てを消す。

「ん、あれ?どうしたの?クロノ君」

「クロノが調べ物?珍しいね」

「いかがわしいデータでも調べてたんじゃないの?例えばエイミィさんのスリーサイズとかさ?」

エイミィとクロノが訝しげな表情をする中、ウラタロスはセクハラ的な発言をする。

「ええっ!?クロノ君、私のスリーサイズなんか調べてどうするの!?」

「クロノ、いくらなんでもそれはどうかと思うよ……」

エイミィは胸元を押さえながら顔を赤くしてクロノを睨み、ユーノ・スクライアはやれやれという感じで呆れながら言う。

「そんなわけないだろ!!貴方達は僕をどんな風に見ているんだっ!?」

勝手にムッツリスケベにされては叶わないとクロノは感じ抗議する。

「まぁ冗談なんだけどね」

「クロノもいい加減慣れた方がいいよ」

「そーそー、適応は大事だよ。クロノ君♪」

一体と二人はクロノの狼狽振りを見て満足したのかサラリと受け流す。

「『闇の書』に関するユーノのレポート、なのは達にも送っておいてくれたか?」

クロノは気を取り直してエイミィを見る。

「うん、送ったよ。なのはちゃん達も『闇の書』の過去については複雑な気持ちみたい……」

エイミィは沈む表情でクロノに報告する。

「そうか……」

そう言うと、クロノは部屋を出ていった。

 

「さて、クロイノが何を調べていたか見てみようか?エイミィさん、できる?」

ウラタロスが切り出してエイミィに頼む。

「まっかせてよ♪」

エイミィは目にも留まらぬ指使いでキーボードを叩く。

モニターには先程までクロノが調べていた情報が次々と出現していく。

明るみになればなるほどエイミィは目を丸くするが、ユーノとウラタロスは特に驚いてはいなかった。

「クロノもやっぱり気にしてたんですね」

「考えてみたら異常といえば異常だからね。リンディさんがいるのに提督さんがわざわざ出張るなんて含みがないとやらないと思うしね……」

ウラタロスの意見にエイミィは首を傾げていた。

「そうなの?みんなで協力し合えば事件だって早く片付くと思うけど……」

エイミィの言っている事は正論だとウラタロスは思う。

本来はそうあるのが普通だとも思ってしまう。

「まぁ、そういかないのが人間だと思うよ。事件解決より自分のメンツにこだわる人間のほうが多いんだよ。僕達の住んでいる世界ではね」

ウラタロスの言っている事は間違いなく起こっている『現実』だった。

「ん?」

ウラタロスはある項目に目を止める。

「何か見つけたんですか?」

ウラタロスがただ単にそのような声をあげるわけがない事をユーノは知っている。

「エイミィさん、あの項目拡大できない?」

「ああ、コレ?はいはーい」

エイミィはウラタロスが指差す項目を拡大させる。

グレアムの預金口座には毎月、決まった額が振り込まれていた。

額にしてみれば高官ならば微々たるものだが、中管理職で渋るものであり、下士官ならば間違いなく手が出せないものだった。

「振込先が世界名:第九十七管理外世界で八神はやてとなってますね」

ユーノが代表して読み上げていく。

「良太郎に連絡だね」

ウラタロスは野上良太郎に報告する事にした。

 

 

『翠屋』でアルバイトをしている野上良太郎は床をモップ掛けしていた。

モップで磨かれた床はピカピカと光沢が帯びている。

モモタロス、キンタロス、リュウタロスはそれぞれ着ぐるみを着用して店前でビラ配りをしていた。

コハナは厨房でひたすら皿洗いをしていた。

良太郎は席に着いている客層を見る。

終業式が終わって、即座にここに訪れている学生がチラチラと目立つ。

カップルで来ていれば、一人寂しくヤケ食いをしにきた者もいる。

ズボンのポケットから着メロが鳴る。

「良太郎君、電源をオフにしろとまでは言わないがマナーモードにするように」

カウンターでサラリーマン相手に談話している高町士郎が注意する。

「すいません」

良太郎は自身に非があるので素直に謝罪する。

モップを動かす手を止めてケータロスを取り出す。

「ウラタロス?」

着信履歴を見てみると、ウラタロスだった。

本音を言えばすぐにでもかけたいのだが、昼休みになるまで待つ事にした。

昼休みとなって、フロアから裏口に移動した良太郎はケータロスでウラタロスに連絡を取る事にした。

『あ、良太郎』

「どうしたの?何か新しい事でもわかった?」

『ボクちゃんと前に会った時にさ、『あしながおじさん』の事言ってたよね?』

「うん。もしかして正体わかったの?」

『良太郎は粗方の見当はつけてたんでしょ?』

「まぁね。あくまで僕の推測の範疇だから偉そうにはいえないしね。で、『あしながおじさん』の正体はやっぱり……」

良太郎はウラタロスの答えが自分が推測で導き出したものと一致した時、はぁと息を吐くしかなかった。

別段嬉しくも何ともないのだから無理もないことだ。

 

午後四時二十五分、海鳴大学病院。

「ザフィーラは外か?」

桜井侑斗は病室にはいない大型狼の所在を訊ねる。

「ええ。流石に入れませんから」

「たまにあいつを不憫だと思ってしまう。動物姿だとペット持ち込み禁止に引っかかるし、人の姿だとかえって怪しまれてしまうからな」

シャマルが苦笑いを浮かべ、シグナムがザフィーラの境遇に同情していた。

「ザフィーラが誘拐されるかもしれないから見てくる」

特に病室で侑斗同様に椅子に座っていたデネブはザフィーラを見てくるとして、病室へ出て行った。

「ザフィーラを誘拐しよーとするヤツなんていねーのに。はやて、ごめんね。中々来れなくて」

「ううん。元気やったか?」

はやては怒る事もなく、ヴィータを撫でながらデネブキャンディーを渡す。

ヴィータはデネブキャンディーを受け取って口の中に放り込む。

「うん。むっちゃ元気!!」

口の中でデネブキャンディーをカラコロ転がしながら笑顔で言う。

窓際にいるシグナムとシャマルもそんな後景に笑みを浮かべていた。

 

「しっかし凄い数になっちゃったわよね」

アリサ・バニングスが言うように今、海鳴大学病院に向かっている人数はどう見ても『お見舞い』に行くといっても信じてもらえない人数である。

友人である月村すずか、高町なのは、フェイト・テスタロッサを始めとして、フェイトの知り合いである良太郎にその身内でもあるモモタロス、キンタロス、リュウタロス、そしてやる事を終えたとばかりに戻ってきたウラタロスと総勢九人なのだから。

大学病院の入口が見え始めた頃だ。

良太郎やモモタロス達にはいやでも見覚えのある存在が巨大な狼の隣に座っていた。

「おい、アレっておデブじゃねぇか?」

「本当だ。来てたってのは知ってたけど何だかんだで会う機会なかったよね」

「何か巨大なワンちゃんと一緒におるで」

「おデブちゃーん!!」

イマジン四体が駆け寄る。

「おお、みんな!!久しぶり!!」

デネブが嬉しそうに手を振っている。

その様子はとても初対面とは思えない。

「良太郎さん。あのデネブさんももしかして……」

良太郎は、なのはの質問に「なのはちゃんの推測どおりだよ」という思いを込めて首を縦に振った。

「みんな、先行ってるからね」

良太郎がデネブと談話しているイマジン四体に告げると、子供達をつれて病院の中に入っていった。

 

夕方となると、足の自由の利く病人、いわゆる怪我人や内科系に関わる病人が廊下を歩いていた。

病院内は寒くはないが、決して温かいわけでもない。

コートなどの暖房着を着用して問題ないくらいだ。

(最近はあまり行かなくなったけど、あんまり何度も行きたいものじゃないなぁ)

電王になりたての頃は結構入院していたが、最近はあまり通っていない。

名前を知られて常連になりたくないところの候補としてはすぐに浮かび上がる。

「はやてちゃん。驚くかな?」

「絶対驚くわよ。完全なサプライズなんだから。なのは、フェイト。顔に出しちゃダメよ?あんた達、すぐに顔に出るんだから」

「「う、うん」」

発起人のすずかは不安がるがアリサは安心させるように諭し、なのはとフェイトに『秘密』がある事を顔に出さないように釘を刺す。

「ここか……」

五人は足を停めた。

入口には『八神はやて』という札が貼られていた。

 

病院の外ではイマジン五体とザフィーラ(狼)がいた。

「モモタロス、だったか?何故離れている?」

ザフィーラが自分からそれとなく距離を置いているモモタロスに訊ねる。

「う、うるせぇ!俺の勝手だろうが!」

モモタロスはザフィーラが犬ではなく、狼だと認識していても怖いものは怖い。

何故なら自分が近寄った途端にアルフのように『こいぬフォーム』になるかもしれないと考えているからだ。

(冗談じゃねぇ。コイツ明らかに獣女と同じタイプじゃねーか!俺が近寄った途端に『こいぬ』なんざなってみやがれ!俺は一生分のシマウマ背負っちまうぜ!!)

これはモモタロスの心中なので、誰も突っ込まないがシマウマではなく、トラウマである。

「センパイは犬がダメなんだよ。こんなに大人しいのに」

ウラタロスがザフィーラを撫でる。

「ホンマやで。アルフと似たようなタイプやのに何か品格みたいなもんを感じるで」

キンタロスがザフィーラをじっと見ながら率直な感想を述べる。

「ザフィーラはシャマルちゃんのペットなんだよ」

「ペットではない。仲間だ」

リュウタロスの誤った解釈にザフィーラは訂正する。

ここにいる誰もがザフィーラが喋っている事に関して不思議がる事はない。

何故ならアルフを見ているし、この病院に『闇の書』の主がいるという事はわかりきっているからだ。

ザフィーラとしても『演技』をする必要がないということだ。

「デネブ。この者達はお前と桜井の知り合いだが、大丈夫なのか?主にご迷惑がかかることは?」

見るからに怪しすぎる四体のイマジンに対してザフィーラは、はやてに危害が及ぶのではないかと心配する。

「それは大丈夫。野上もモモタロス達も八神に危害を加えたりはしない」

「おい、おデブ。俺も良太郎のところに行ってくらぁ。ソイツ等頼んだぜ」

モモタロスはザフィーラとデネブを相手に盛り上がっているウラタロス、キンタロス、リュウタロスを置いていった。

 

「こんにちはぁ」

コンコンとすずかが病室入口でノックをしていた。

『はぁい。どうぞぉ』

聞き覚えのない声---この声の主が『闇の書』の主である八神はやてなのだと良太郎は睨んだ。

「「「「「こんにちはぁ」」」」」

五人が同時に病室に入る。

「あ、今日は皆さんおそろいですかぁ」

すずかは全員を知っているので、そのような台詞を言うことができる。

病室には、はやて、シグナム、シャマル、ヴィータ、侑斗がいた。

「こんにちは。初めまして」

アリサが入室しながら礼儀正しく挨拶をする。

なのはとフェイトは目を丸くする。

シグナムが警戒し、シャマルはオロオロする。

良太郎も侑斗も目を丸くするしかない。

はやてはいつもと違う家族の反応に把握するために両者を見ている。

「すみません。お邪魔でしたか?」

アリサが家族水入らずに水を差してしまったのかと思ってしまう。

「あ、いえ……」

「いらっしゃい。皆さん」

「すまないな」

シグナム、シャマル、侑斗が何事もなかったかのように体裁を取り繕う。

「なぁんだ。よかったぁ」

すずかが安心し、刻一刻と時間は進んでいく。

「ところでみんな、今日はどないしたん?」

はやてとて休学中とはいえ、学校行事の大まかな流れは把握している。

今日は終業式なので、通知簿見せて褒められるか怒られるかして家族団欒がベターな展開だと踏んでいるくらいだ。

すずかとアリサは顔を見合わせて笑みを浮かべる。

「「せぇーのぉ!!」」

そして手元を隠しているコートを払いのけた。

二人の手には綺麗に包装された大きな箱が現れた。

 

「「サプライズプレゼントォ!!」」

 

すずかとアリサは同時に発して、はやての前に出した。

はやても最初は事態を把握できなかったが、理解してくれると喜色の表情を浮かべる。

「今日はイブだから、はやてちゃんにクリスマスプレゼント!」

すずかは一応理由を説明した。

「はわぁ、ほんまか?ありがとうなぁ」

はやてはプレゼントを受け取りながら、感謝の言葉を述べる。

「後で開けてみてね」とアリサは言うなど、三人は和やかな雰囲気を醸し出している。

だが、良太郎、フェイト、なのは、侑斗、シグナム、シャマル、ヴィータは別の雰囲気が噴き出ていた。

なのはとフェイトはどう対処したらいいのかわからないので、年長者である良太郎を見上げる。

良太郎は「出方を窺おう」という意味を含めて首を横に振る。

なのはは自分に対して、明らかに『敵意』を感じたので、その先を追ってみる。

ヴィータが今にも掴みかからない勢い含めた瞳で睨んでいた。

なのはとしては居心地がどんどん悪くなる。

それはフェイトも同じだ。

良太郎にしてみてもこの空気はよくない。何とか打破したいと思うのだが、突破口を切り出せない。

「どないしたん?なのはちゃん、フェイトちゃん」

今ひとつノリが悪いなのはとフェイトを、はやては心配する。

「ううん。なんでもないよ」

なのはは精一杯体裁を取り繕う。

「ちょっとご挨拶を……、ですよね?」

フェイトが上手くなのはをサポートするようにして、シグナムとシャマルに視線を向ける。

「あはははぁ」

なのはは苦し紛れに笑うしかない。

「はい」

「みんな、コートを預るわ」

シグナムとシャマルもフェイトの『演技』に乗ってくれた。

「「「「はぁーい」」」」

仲良し四人組はシャマルの言葉に乗った。

シャマルはクローゼットを開けながら、ある事(...)を施していた。

「念話が使えない。通信妨害を?」

シャマルの施した事に気付いたフェイトはコートをハンガーにかけているシグナムに目を向ける。

もちろん、この台詞は他者には聞こえない。

「シャマルはバックアップのエキスパートだ。この距離なら造作もない」

シグナムは種明かしをサラリとする。それだけ自信があるというのだろう。

「お前も下手な動きはとらない方がいい。お前と桜井が戦う事はないだろうが、仮面ライダーだとバレるのは得策ではないだろう?」

釘を刺すようにして良太郎に警告するシグナム。

そう言われたら良太郎は首を縦に振るしかない。

「あ、あのえと……そんなに睨まないで」

なのはは居心地が悪くなり、ヴィータに抗議してみる。

「睨んでねーです。こーいう目つきなんです」

棒読みとしかいいようがない口調でヴィータは、なのはに言う。

「うぅ……」

なのはとしてみても睨まれても仕方がない関係なのだからと、理屈では理解できるのだがやはり戦闘中でもないのに敵意を向けられると自分が加害者みたいに思えてしまう。

 

「こらヴィータ!!嘘はあかん!」

 

はやては、なのはに対して睨みをやめないヴィータの鼻を摘む。

「んがんがぁぁぁ」

「悪い子はこうやで!」

はやてはヴィータの鼻を摘みながら、警告をする。

摘まれながらヴィータは首を縦に振る。

「お見舞いしてもいいですか?」

フェイトはシグナムに窺う。

「ああ」

それは了承だとフェイトは受け取ることにした。

 

一時期、緊迫した空気が流れたが今は何とかゆるやかにではあるが穏やかな空気が戻ってきた。

今まで黙って座っていた侑斗が席を立つ。

「侑斗さん、どないしたん?」

「八神。お前友達とゆっくりしてろ。俺はそこにいるお兄さんに用があるんでな」

侑斗はそう言うと、良太郎を見る。

誰もが良太郎に注目する。

ある者は好奇の眼差しで、またある者は警戒の眼差しでだ。

「侑斗さん」

はやては侑斗を手招きする。

「何だよ?」

侑斗はまたはやての側に寄る。

「もしかして、あの人も仮面ライダーなん?」

「鋭いな。お前……」

はやては自分が思ったことをただ単に侑斗にぶつけただけだ。

侑斗は『はい』と受け止められる台詞を吐くしかない。

「八神。わかってると思うが……」

「わかってるて。誰にも言わへんよ」

「お前が賢くて助かるよ」

「それ、褒めてるのん?」

「ああ」

侑斗はまた席を立ち、良太郎の側まで歩み寄る。

「話がある。ちょっといいか?」

「わかってる」

良太郎も侑斗の申し出に応じるつもりだった。

 

モモタロスは病室内を迷っていた。

元々病院というものは様々な専門医のために設けられている部屋や細かい検査をするために機器を置いている部屋などもあり、患者の受け入れのためにも部屋と呼ぶものは多い。

そうなると自然と建物全体も大きくなり、方向感覚のない者や初めて訪れた人間は間違いなく迷子になるだろう。

ましてや良太郎のところに行くと息巻いてはいても、良太郎が現在病院内のどこかにいるというだけで手掛かりらしいものはない。

「そういや、おデブがいたっつーことは、臭いを辿れば何とかなるんじゃねーか?」

モモタロスは知恵を振り絞って鼻をクンクンする。

病院内にデネブ以外のイマジンがいた場合、この方法は使えない。

「お、何とか残ってるぜ」

モモタロスが臭いを辿りながら歩を進めていく。

鼻をクンクンしながら階段を上っていく。

見知った二人に出くわした。

良太郎と侑斗だ。

「良太郎に侑斗じゃねぇか……」

「モモタロス?どうしたの?」

「あー、オマエんとこに行こうとしたんだけどよ……」

モモタロスは後頭部を掻きながら打ち明ける。

「だったらなのはちゃん達のところに行ってあげて。フェイトちゃんと二人だから蛇に睨まれた蛙状態なんだよ」

「ったく、しゃーねーなぁ」

モモタロスは了承しながら侑斗を見る。

「久しぶり、だな」

「元気そーじゃねーか?オメェ百科事典の持ち主んとこにいたんだったよな?」

「……ああ。そうだ」

侑斗はモモタロスの言う『百科事典』が『闇の書』だと理解してから肯定の返事を返す。

モモタロスはしばらく侑斗を見てから、「んじゃあなぁ」と言って、その場を離れることにした。

「アイツ、絶対厄介ごと持ち込んでるぜ……」

そのような事を言いながら、モモタロスは侑斗が何かを抱えていると確信しながら鼻をクンクンしながら病室へと向かった。

病室に入ると、自分が肩身狭いんじゃないと思って仕方がなかった。

女性しかいないのだから。

なのはとフェイトは自分が入ってくることでホッとし、アリサは何故かわからないが怒るし、すずかはそんなアリサをなだめ、はやては楽しそうに笑っていた。

ただし、シグナムとシャマルは警戒心を強めていたが。

(くっそぉ!こーいうのはカメが担当だろうが!!)

ウラタロスならこの場を問題なく過ごせるだろうが、自分はそういうわけにはいかない。

しかもその中でこっちをじーっと見ているのがいる。

ヴィータだ。

「はやて。ちょっと出てくるね」

ヴィータは、はやてに言ってから病室を出る。

またもじーっとこっちを見ている。

(ったく、何なんだよ)

モモタロスはヴィータの意図を理解した。

「悪ぃな。俺もちょっと出てくるぜ」

モモタロスはヴィータの意図が何なのかを探るためにも従う事にした。

 

「あれから何か進展はあったか?」

病院の屋上で手すりに瀬を預けている侑斗は正面にいる良太郎に開口一番に訊ねた。

「『あしながおじさん』の正体はわかったよ」

良太郎は侑斗が望む情報のうちの一つを告げた。

「誰だよ?」

「管理局の人で名前はギル・グレアム。時空管理局顧問官で多分だけど凄い偉い人」

侑斗の眉がピクリと上がる。

良太郎が『多分』と付けたのは、彼が管理局の内情を殆ど知らないからだ。

「で、そいつ何者なんだ?」

「今は管理局に勤めているんだけど、出身地は地球でイギリスって言ってたね」

「八神の関係者にイギリス人はいなかったはずなんだが……、まさか……」

侑斗の推測を良太郎は首を縦に振る。

「『闇の書』がらみで八神さんに近づいたと考えるのが自然だろうね」

「エグい事するな。そいつ……」

侑斗は苦々しい表情でグレアムをそのように評価した。

良太郎はそれを非難しようとは思わなかった。

「だが、そいつは何でそこまで『闇の書』に執着するんだ?私欲で手にしても意味はないってわかってるはずだろうに……」

「ウラタロスから聞いたんだけどね。動機はあると思うよ」

良太郎はぶらぶらさせていた両腕を組む。

「何だよ?」

侑斗は両手をズボンのポケットに手を突っ込む。

「この人、以前に『闇の書』に関わって手痛い思いしてるんだ。多分それが動機だと思う」

「手痛い思い?誰かが死んだ、いや殉職したとかか……」

「うん」

侑斗の推測を良太郎は首を縦に振る。

風が二人の肌に触れる。身震いするほど寒気は感じないが、意識をハッキリさせるには申し分ない。

「切ないな……。俺達が今まで関わってきた事件とは違う……」

「そうだね……」

二人が今まで関わってきた事件---イマジン絡みの場合は契約者の契約内容で心情が決まるといってもいい。

最近本世界で関わった契約者としたらピギーズイマジンの契約者である菊池宏やマンティスイマジンの契約者である上原未来に関して言えば心情的には理解できなくはないが、呆れてしまうものだった。

何故ならどちらも自分の努力次第でどうにでもできたものだからだ。

それをせずにイマジンに責任転嫁をして、被害者ぶるのだから呆れられても無理はないだろう。

別世界で起こったイマジン絡みの方がまだマシと思ってしまったりする。

「だが、どんな理由があろうともそれが『時の運行』を乱すものなら止めなきゃならない。そうだよな?野上」

「うん」

侑斗と良太郎は夕陽を見上げるが、不思議と感動を持つ事はなかった。

 

海鳴大学病院の裏口にモモタロスとヴィータがいた。

階段に一人と一体が座っている。

「何の用だよ?赤チビ」

「赤チビじゃねぇ。ヴィータだ!いい加減憶えろ!赤鬼!」

「俺は鬼じゃねぇ!なのはもろくに憶えれねーヤツが偉そうに言うんじゃねぇ!」

互いに睨みあう始末だ。

口喧嘩が五分ほど続くが、互いに話が進まないと思ったのか中断する。

「で、何だよ?わざわざ俺に喧嘩売りに来たわけじゃねーだろ?」

「わかる事だけでいーから答えろ。オマエ等、はやてに何かしよーとか考えてねーよな?」

「はやてってのは百科事典の持ち主だよな?」

モモタロスは、『はやて』の名前を知らないため確認するようにヴィータに訊ねる。

「ああ、そーだよ。で、どーなんだよ?」

「俺達は侑斗やおデブと同じ理由で別世界に来てるんだぜ。百科事典の持ち主をどうこうしようなんて考えてねーよ」

モモタロスは嘘偽りのない意見を出した。

「信じていいんだよな?」

ヴィータは睨みながらも不安が混じった瞳で見てくる。

「嘘言ってもしゃーねーだろうが」

モモタロスはそっぽ向きながらも答えた。

「用はそれだけかよ?」

「いや、もう一個ある!」

ヴィータは階段から立ち上がって軽く飛んでからモモタロスの正面に立ってグラーフアイゼンを突きつけた。

「あたしはな、シグナムほどバトルマニアじゃねーんだよ。けどな、もうすぐ『闇の書』が完成して、はやてが元気になるって時にしこりを残すわけにはいかねーんだ!」

ヴィータの目つきが鋭くなり、瞳が輝いている。獲物を狩る狩人のように。

 

「決着をつけてやる!戦え!赤鬼!」

 

 




次回予告

第四十八話 「激突の赤!闇降臨」

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