第四十六話 「イブ前日」
十二月二十二日。
八神はやては桜井侑斗とデネブの見舞いを嬉しく思いながらも、シグナム、ヴィータが顔を見せてくれない事に寂しさを感じていた。
面会時間を過ぎるといつも一人になる。
「あーあー、流石にこうもずっとベッドから動けへん状態が続くと、退屈やぁ」
八神家の家主であり、ヴォルケンリッターと居候のゼロライナーの面倒を見るという大人顔負けなはやてではあるが、歳相応な少女だ。
正直にいえば若さゆえのエネルギーが身体にたぎっている事は言うまでもない。
「早く明日になれへんかなぁ」
今の彼女にとっての楽しみは面会可能時間に人と出会うことくらいになっている。
つまり、明日までやる事といったらテレビ見るか病食を食べて寝るくらいしかない。
窓越しの空をはやては見上げる。
茜色が眩しかった。
明日になるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
八神家ではシャマルがキッチンでクラールヴィントを起動させて会話をしていた。
「ええ、ここまでは上手くいってるわ」
『ああ。そっちに戻らなかった分、管理局もこちらを追いきれていないようだ』
会話相手はシグナムだった。
『……主はやては寂しがってはいないか?』
顔を合わせていない事に罪悪感を感じているのかシグナムがうかがってきた。
「私には一言も……。お友達や侑斗君、デネブちゃんがよく来てくれてるみたいだから……」
シャマルはありのままを報告するが、はやてが内心ではシグナム、ヴィータ、ザフィーラに会えない事を寂しがっているのは間違いないと確信している。
『そうか。だが心配させてもいけない。数日中に一度戻る』
「うん。気をつけて……」
『ああ……』
そう告げると、シグナムの通信が切れた。
岩山が目立つ次元世界の空をシグナムが一人、飛翔していた。
手ごろな場所で羽を休めるようにして着地する。
騎士甲冑を纏っていても、重々しい音は鳴らない。
右脇に抱えていた『闇の書』を両手に持つ。
パラパラパラパラとページを慣性に従うままに捲られていく。
文章が刻まれており、空白となっているページが少なかった。
「残り六十ページ」
九割方完成しているが、ここまで来ると大物であれ小物であれ、めぼしい対象が少なくなっているのも確かだ。
だがそれでもやらなければならない。
完成まであと少しなのだから。
(待っていてください。主はやて……)
シグナムは休憩を終えると、再び青空へと飛び立った。
*
十二月二十三日。
世にいう『天皇誕生日』であり、いわゆる祝日である。
しかし、調べ物が大詰めに差し掛かっている二人にはそんなものはなきに等しいものだった。
ユーノ・スクライアとウラタロスは『闇の書』の調査をほぼ完了したが、結論からいってしまえば誰もが悲しまずに済む解決法というものは見当たらなかった。
「『闇の書』に関してはこれ以上は調べようがないね……」
「ええ、でも収穫はありましたよ。あとはもう一つの事だけは完璧に終わらせたいですね」
ユーノの言う『もう一つの事』とというのは仮面の戦士の事だという事はウラタロスには理解できていた。
「エイミィさんが言うには、仮面の男の個人としての能力はクロイノはもちろんの事、リーゼさん達よりも上なんだってさ」
ウラタロスはエイミィ・リミエッタから入手した情報を呈示した。
「その映像って見れます?」
ユーノはその映像を見たわけではないのでわからない。
もしかしたらその映像を見る事で何かに気付くかもしれない。
「エイミィさんに聞いてみようか?」
アースラへと移動したユーノとウラタロスはエイミィに頼んで仮面の男の映像を凝視していた。
「何か気づいた事でもあった?」
エイミィがキーボードを操作しながらじっと見ている二人に縋る。
「これって最初になのはやモモタロスさん達がいた世界に現れて、その後にフェイトや良太郎さんがいた世界へと移動したっていう順序で間違いないんですよね?」
「うん。映像に表示されている時刻からしたらそういう風になるんだけどね……」
エイミィの言うように、なのはが出向いた世界に表示されている時刻とフェイトがシグナムと交戦した世界の時刻を見ると、明らかになのはがいた世界にいた時刻の表示の方が早い。
「最速で転移しても二十分はかかるんだけど、わずか九分で転移してるんだよねぇ」
まさに不可能を可能にしたといわんばかりのことだ。
「ただの人間がしたことならば種を明かせばすごく簡単な事なんだけど、魔法が絡むと余計難しくなりそうだねぇ」
嘘や騙しを見抜くウラタロスにしても魔法が含まれると難度が一気に増すとぼやく。
「エイミィさん。記録した映像の中で動作
アクション
を取っているものってありますか?」
ユーノは仮面の男が動作を撮っている映像を見たいと進言する。
「ん?動作を取った後ならあるけど……」
「お願いできます?」
「はいはーい」
カタカタタタタとキーボードを叩きながら、エイミィは映像を切り替えていく。
その映像とはフェイト・テスタロッサが胸元を貫かれている映像だった。
「うわ……」
「調査とはいえ、繰り返して見るものじゃありませんね」
仲間が被害を受けているシーンを見て、二人とも拒否感を露にしてしまう。
「左手ですね……」
「それがどうかしたの?」
ユーノはウラタロスに答えることなく、ズボンのポケットから携帯電話を取り出して発信先は『高町なのは』と表示されていた。
「もしもしなのは、今暇?」
『ユーノ君?どうしたの?急に』
「実はなのはに一つだけ思い出してほしい事があるんだけど……」
ユーノはなのはの言葉に真剣に耳を傾けている。
「うん……うん」
一文字も聞き逃さない勢いで。
「うん……。わかった。ありがとう、なのは」
聞ける内容は全て聞けたのでユーノは携帯電話をポケットにしまいこんだ。
そして、ウラタロスとエイミィを見てからユーノは口を開いた。
「仮面の男の最速の謎が解けた」と。
時空管理局本局に戻ったユーノとウラタロスは最後の確認のためにある二人を呼び出して、合流する休憩所へと向かっていた。
「ねぇユーノ。僕はユーノの推理が間違っているとは思わないけど、ソレでグラつくとは思えないよ」
「証拠らしい証拠は何一つありませんからね。でも、揺さぶれるとは思いますよ。僕達は正規の局員じゃありませんから、現職の管理局員を裁く権利なんてありませんしね」
「捕まえるのはクロイノの仕事ってワケ?」
「証拠があれば、ですけどね」
証拠がない以上、いくらクロノ・ハラオウンでもその二人を裁くことは出来ないだろう。
「さてと、やりますか。ユーノ」
「はい!」
ウラタロスの促しにユーノは乗って、気を引き締めて返事をした。
合流する休憩所には二人にとっては予想外の人物もいた。
ギル・グレアムである。
そして、リーゼ姉妹もいた。
「わざわざ来てくれてごめんね。二人とも」
ウラタロスがそう言いながら、側にあった自動販売機でジュースを五本購入する。
グレアムは右手で受け取り、アリアも右手で、ロッテは左手で受け取った。
(これでユーノの推理は確実だという事が立証されたってワケだね。さて、これでバイバイってワケにはいかないから、予定通り揺さぶってみますか)
ウラタロスとユーノはかねてからの予定を実行する事にした。
「実はですね。アースラスタッフの妨害をしていると思われる通称『仮面の男』について『闇の書』の調査の合間に調査しているんですよ」
ユーノから切り出した。
「ほぉ。リンディ提督やクロノ達の邪魔をする者がいると?」
グレアムが興味深そうに話に乗り出す。
「そうなんだよねぇ。ソイツはね、『闇の書』の完成を促してるんだ。しかも僕とユーノの見立てではソイツは管理局側の人間の可能性が高いって事になってるんだよね」
ウラタロスがこれまでに得た情報を端的に打ち明けた。
彼のいつものインテリじみたポーズは崩れていない。むしろ、こういう場面でこそ彼のポーズは映えるのだ。
「ほぉ」
グレアムは記憶に留めているのだろう。
「でもまぁ、その仮面の男は多分だけど良太郎とは二度と戦わないだろうね」
ウラタロスが確信を持って言う。
「何故だい?」
グレアムの瞳の中の何かが動いたように、ウラタロスとユーノには見えた。
「怖いからですよ。僕も聞いた話ではその仮面の男は良太郎さんに骨の髄まで恐怖を植えつけられたみたいですよ。だから戦わないというより、戦いたくないと思うんです」
ユーノは更に仮面の男の心情を抉るような一言を告げる。
「ねぇ、どうしてそんな話を私達に?」
アリアがウラタロスとユーノの真意を探ろうとする。
「さぁ、何でだろうねぇ。何せこんな話しても誰も信じてくれないと思うしぃ、僕達正規の局員じゃないからさ、下手すると取り合ってくれないと思うんだよねぇ」
「クロノの手柄に貢献してあげてもいいんですけどねぇ」
ウラタロスの食えない態度に釣られる様にユーノも似たような口調で話す。
「だったらさぁ、クロスケに教えてあげたらいいじゃん。あいつだってただの頭でっかちじゃないんだしさぁ」
ロッテがクロノの人格を評価しながら、二人に教えてあげたらいいと進言する。
「あ、ウラタロスさん。そろそろ作業に戻りましょう」
「え?もうそんな時間なの?しょうがいないかぁ。じゃあ提督さん、リーゼさん。お仕事頑張って」
ユーノが携帯電話に表示されている時刻を見てウラタロスに告げると、二人はその場から立ち上がって去っていった。
三人の姿が完全に見えなくなると、ウラタロスとユーノは周囲をキョロキョロしてから大きく深呼吸をした。
「上手くいったと思います?」
「多分ね。僕達の話は関係ない人間が聞けば笑い話になるけど……」
「関係のある人間が聞けば内心穏やかにはいられない、ですよね」
「そういう事。さ、戻ろうか」
「はい」
ウラタロスに促されるようにして、ユーノは歩き出した。
地球のしかも日本の祝日に疎いフェイトとアルフにしてみれば思わぬラッキーデイであった。
現在、ハラオウン家には野上良太郎、フェイト、アルフの三人しかいない。
夕方となり、冷蔵庫の中を三人で物色する。
「アルフさん、ドッグフードを冷やすのはやめてって言ってるのに」
「あ~、何すんのさ!?良太郎、あたしの夜食を!」
「あ、クロノが買い溜めしてるお菓子だ」
フェイトがクロノが買い溜めしている携帯食料を手にしてから、冷蔵庫へと戻す。
「リンディさん達はどうするって言ってたの?」
良太郎はここにはいない三人がどのようにして食事を済ませるのかをフェイトに訊ねる。
「今日はアースラで食べて帰るからいらないって」
「そっか……」
フェイトの返答に納得してから、良太郎はまた渋い顔をする。
「良太郎、どうしたの?」
悩んでいると察したのか、フェイトはうかがってみる。
「うーん。いくら考えても今日何を作ろうか浮かばないんだ」
良太郎はお手上げといわんばかりに打ち明けた。
「なら食べに行こ!肉がいい!!」
アルフが尻尾を揺らしながら、進言する。
「お鍋もいいけど焼肉もいいよね……」
フェイトも肉関連で賛成しているのか、その中で食べたいものを二つ上げた。
「そうしよっか……」
良太郎としても二人の意見に異議を唱える気はないので、その案を通そうとした時だ。
電話が鳴り出し、一番近くにいたフェイトが受話器を取る。
「もしもし、ハラオウンです。あ、なのは。え?いいの?うん、わかった。三人で行くよ。それじゃあ後でね」
受話器を電話機に置く。
「さっき、なのはから電話がかかってたんだけどこれから一緒に食べない?って誘いがあったから三人で行くって言ったけどよかったかな?」
フェイトは良太郎とアルフに言った。
「僕は問題ないよ。寧ろ願ったり叶ったりだし」
「あたしもー。ところでフェイト、三人って事はあたしこの姿のままでいいのかい?」
「大丈夫だよ。なのははちゃんとアルフが子犬で来る事わかってるから」
フェイトが笑顔でアルフに安心させるように言う。
「ふーん」
アルフは納得してから人型から子犬へと変身した。
「さぁ、行こう!夕飯があたし等を待ってるよっていうか、なのはん家ってことはモモタロ達もいるから奪い合いになるよ!」
アルフの発言に良太郎とフェイトは互いに笑みを浮かべていた。
高町家に到着すると高町姉妹とコハナが夕食のおかずを道場へ運んでいく姿が見えた。
運んでいくる二人に声をかけるのは気がとがめたので、その後から皿を慣れた手つきで運んでいる高町桃子が見えたので、
「「こんばんは」」
「わん!」
良太郎とフェイト、アルフ(子犬)が挨拶した。
「二人ともいらっしゃい。会場は道場だから道場に行ってね」
桃子が二人と一匹に夕飯の会場となる場所を呈示すると、道場へと向かった。
「あ、良太郎だぁ。フェイトちゃんにワンちゃんもいるよぉ!」
炊飯器を運んでいるリュウタロスが片手を振りながら、道場へと向かっていった。
「遅ぇぞ良太郎」
小型のテーブルを持っているモモタロスは相変わらず口は悪いが、歓迎している。
「モモの字、早よ進まんかい!後が支えてるやろうが!」
モモタロスが持っているものより大きいテーブルを持っているキンタロスが急かす。
「わあってるよ!ったく!まだ家にバカ兄貴ととっつぁんがいるぜ」
「わかった。ありがとう」
モモタロスが高町恭也と高町士郎が既に道場にいると告げると、作業を続行していた。
「わたし、なのは達を手伝ってくるね」
「うん」
フェイトがなのは達の手伝いに行くと告げると、道場の中へと入っていった。
高町家の中に入ると、士郎と恭也が箸だの器だのを持っていた。
「来たか」
「いらっしゃい」
二人は自分の顔を見ると挨拶をしてくれた。
「こんばんは」
良太郎も返す。
「良太郎君、手は空いてるかい?」
「はい」
士郎の問いかけに良太郎は即答する。
「なら悪いがジュースと酒を持ってきてくれないか?」
恭也が顔を動かして冷蔵庫に向けてサインを送る。
「わかった」
良太郎は冷蔵庫を開けてジュースと酒、そして飲料を入れる為の紙コップを持って道場へと向かった。
道場内は賑やかになり、涎が出そうなご馳走が並んでいた。
既に涎を垂らしているのが三体程いたが。
「みんな、涎出てるよ」
良太郎は苦笑いしながら口元の涎を拭くように三体に言う。
「るせぇ。俺達の腹はすでにクライマックスなんだよ!」
モモタロスに決め台詞を変えた一言で返されてしまった。
キンタロスとリュウタロスも首を縦に振っている。
全員が決まった場所に座る。
「おお、美味そうだなぁ」
「フェイトちゃんも良太郎君もたくさん食べてね」
士郎が第一印象をもらした後、桃子がフェイトと良太郎に無礼講だと告げる。
「はい。ありがとうございます」
「どうもすいません。僕までご馳走になっちゃって……」
フェイトは笑みを浮かべて返すが、良太郎はどこか申し訳なさそうに言う。
「いいのよ。良太郎君も遠慮しちゃ駄目よ?」
「はい。ではお言葉に甘えます」
ここで渋ったら野暮なので良太郎は素直に返す事にした。
アルフは既に肉(マンガ肉)を咥えていた。
恭也が取り皿を人数分回していく。
「フェイトちゃんはクリスマスイブはご家族と過ごすのかい?」
「はい。えと、一応は」
士郎がの問いかけにフェイトはどこか後ろめたい部分がありながらも、答えた。
「そう……」
「ウチは今年もイブは地獄の忙しさだな」
桃子がフェイトのイブの予定を聞いて頷きながらも、士郎は毎度訪れるとはいえ愚痴をこぼす。
「客商売なら仕方がないですよね」
良太郎も『ミルクディッパー』で似た経験があるので、士郎の愚痴に対して心中察する事が出来た。
「わたし、今夜のうちに値札とポップ作っておくから」
なのはが慣れた感じに言う。
「お願いね。私達は今夜しっかり寝とかなきゃ!」
美由希は明日に備えての体力温存のために早めに寝る事を宣言する。
フェイトには何故美由紀がそのような事を言ったのかがわからないのでキョトンとしている。
「『翠屋』のケーキ、人気商品だからイブの日はお客さんいっぱいなの」
なのはが『翠屋』のイブに起こる事情を説明してくれた。
「それにね、イブを過ごす恋人同士とか友達同士のために深夜まで営業してるんだよ」
美由希がなのはの説明に更に補足をしてくれた。
「そうなんですか」
フェイトは納得する。
「恭ちゃんはいいよね~。店の中で忍さんとずーっと一緒だし~」
恭也にもたれかかるような態勢をとりながら美由希はからかう。
「それは別に関係ないだろう……」
図星なのか恭也は強く否定しようとはしない。
「カメがいねぇとこういう時は何にも言えねぇな」
恋愛ごとではモモタロスはからかいの言葉を出す事もできない。
「そうやなぁ。カメの字、大丈夫やろか?」
キンタロスは単身本局にいるウラタロスを心配する。
「カメちゃん、頭いいから上手くやってんじゃなーい?」
ウラタロスは自分達の中で一番頭がいい事をわかっているリュウタロスは上手く乗り切ると信じているのか気楽なものだった。
「まぁアンタ達よりは上手くやるから下手に心配するのは疲れるだけよ」
コハナは要領のよいウラタロスの事だから大丈夫と思っているらしく、不安な表情を浮かべる事はない。
「アリサちゃんとすずかちゃんの予約分はちゃんとキープしてあるからね」
桃子がなのはが危惧していた事を見越したかのように笑顔で安心させるように言う。
「うん!」
なのはは満足して首を縦に振る。
「リンディさんからも予約いただいているからな。お楽しみに」
リンディも先手を打っていたことを知った良太郎は「さすがだなぁ」と感心するしかなかった。
「あ、ありがとうございます」
フェイトは照れながらも感謝の言葉を述べた。
その後、食事は相も変わらず騒がしかった。
おかずを巡ってモモタロスと恭也が一戦交えたり、それを沈めるためにアルフがモモタロスに近寄って昏倒させたり、なのはとフェイトが談笑したり、キンタロスとリュウタロスがその間にガツガツと食べていたがバレてモモタロスと恭也にシバかれたりなどしていた。
良太郎は美由希に色々と聞かれながらも、その光景を見て笑顔になっていた。
ハラオウン家の帰り道。
良太郎とフェイトとアルフは夕食の感想を述べ合っていた。
「あ、すずかからだ」
フェイトは携帯電話を操作する。
「明日、はやてにクリスマスプレゼントを内緒で渡すんだって」
「へぇ、サプライズをするの?」
「うん。すずかやアリサは乗り気だけど、なのはは迷惑がかかるかもって不安みたいだよ」
フェイトがメールの内容を告げている。
良太郎としてみればサプライズで成功する確率は五分五分だと考えているが、これが病人なら確率はグンと上がるとも思っている。
「フェイトちゃんとしては乗り気なんでしょ?」
「うん。そうだ良太郎、はやての側にイマジンがいたんだ。何か心当たりある?」
フェイトが初めて、はやてと知り合った際に病室にいたイマジンの事を思い出した。
「特徴はわかる?」
「うん。黒が目立つ感じでデネブって名乗っててね、あとキャンディーをくれたんだよ」
「大丈夫。そのイマジンは何も悪さをしないから」
良太郎にしてみればフェイトの説明で思い当たるのは間違いなく、彼しかいない。
「やっぱり良太郎の知り合いなんだ。てことは、はやての隣に座っていた人が桜井侑斗?」
フェイトは特に驚く素振りを見せず、更に気になることを良太郎に訊ねた。
「うん。デネブの横にいた人が男で僕と同じくらいなら間違いないよ」
はやてが『闇の書』の主であることをフェイトは知らない。
迂闊に伝えて『時間』に影響を及ぼすわけにはいかないという配慮だ。
「そうなんだ。てことは、はやての近辺に『時間の破壊』に関連する事があるのかな……」
フェイトがそこまで行き着くことを良太郎は感心すると同時に、こちらの目的にも気をかけていることが嬉しかった。
「多分ね……。それが何なのかまではわからないけど……」
『時間の破壊』に『闇の書』が関係している事は間違いないが、それをフェイトをはじめとする魔導師サイドに告げるとなると渋い顔になってしまう。
『闇の書』をイマジンが奪おうとした事、その後は完成のためにこちら側に妨害を仕掛けてきた事、明らかにイマジンが『闇の書』を得ようとしている事だけはわかる。
だがここでイマジンには何のメリットもない事がわかってしまった。
『闇の書』はマスター以外は扱えないという事だ。
つまりイマジンがヴォルケンリッターの蒐集活動を手伝っても何の意味もない事になる。
それが最大のネックとなっているのだ。
「良太郎?」
「アンタ、どうしたんだい?難しそうな顔してさぁ」
フェイトとアルフが見上げるかたちで不安そうな眼差しで自分を見ていた。いつの間にか真剣な表情を浮かべていたようだ。
「ああ、ごめん。何でもないよ」
良太郎は不安を取り除くように一人と一匹に言う。
「そう?だったらいいけど、何か悩んでる事があってね?力になれるかもしれないから」
フェイトが頼っていいという口振りで励ましてくれた。
「うん。ありがとう」
フェイトの励ましをありがたく思い、良太郎はフェイトの頭を撫でる。
「りょ、良太郎……。恥ずかしいよ」
フェイトは顔を赤くしてはいるが、満更でもないとアルフは二人のやり取りを見ながら思っていた。
「明日、はやてのお見舞いに良太郎やモモタロス達も来てほしいんだけど駄目かな?」
「大勢で行っていいの?」
「きっと喜ぶと思うよ」
「あたしも行きたーい!!」
その後、良太郎とイマジン三体もはやてのお見舞いに行くという事で話が進められた。
アルフも参加表明するが、ペット厳禁なので却下された事は言うまでもないことだった。
時刻は明日へと刻一刻と近づいていった。
忘れられないクリスマスイブへと刻一刻と。
次回予告
第四十七話 「旅立ちの汽笛が鳴る」