仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第四十二話 「進む出来事と元通り」

昼夜の感覚がまるでない次元空間にある時空管理局本局。

アースラは発着場で停まっている。

野上良太郎はアースラの数ある一室でコハナに負傷した左手の手当てを受けていた。

コハナは慣れているのか手際がいい。

包帯を巻いて、クリップで留める。

その横のベッドにはフェイト・テスタロッサが眠っている。

「はい、できたわよ。良太郎」

「ありがとう。ハナさん」

良太郎は拳を作ったり、開いたりを何回か繰り返していた。

「包帯するほどのものじゃないと思うけど、一応念のためね」

「うん。わかってる」

良太郎はそう言いながら椅子から立って、隣で眠っているフェイトを見る。

一向に起きる気配がない。

「リンカーコアって体内にあるものだから、抜かれたりすると体力を相当消耗するのかしら……」

コハナの問いに、良太郎は答えられない。

リンカーコアを持たないのだから、イメージできずよい言葉が出ないのだ。

「………」

「良太郎?」

「何でもない。みんなのところに行こう」

良太郎とコハナは部屋を出た。

フェイトはやはり閉じている瞳を開かなかった。

 

アースラにあるミーティングルームには主な面々が席に着いたり、壁にもたれたりしていた。

「フェイトさんはリンカーコアにひどいダメージを受けているけど、命に別状はないそうよ」

リンディ・ハラオウンの言葉に室内にいる誰もが胸をなでおろす。

席に着いているのは高町なのは、アルフ、クロノ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタ、ロッテ、アレックスの六人とリンディの七人である。

壁にもたれているモモタロス、キンタロス、リュウタロスは胸をなでおろしていたが、すぐさま真剣な表情をしていた。

行動そのものが笑いのネタになる彼等だが、今は一片たりともそのような雰囲気はない。

三体から溢れ出す風格はまさに『戦士』だった。

「わたしの時と同じ様に、『闇の書』に吸収されちゃったんですね……」

体験済みであるなのはにはフェイトがどのような状態に陥っているかは安易に想像できた。

「アースラの稼動中でよかった。なのはの時以上に救援が早かったから……」

「だね」

クロノの素直な意見にロッテは首を縦に振る。

「二人が出動してしばらくして、駐屯地の管制システムがクラッキングで粗方ダウンしちゃって……」

エイミィがいつもと違う暗い声色で、状況を話し始める。

「それで……、指揮や連絡が取れなくなって……ごめんね。私の責任だ……」

エイミィは今回の失態に責任を感じ、暗い表情で謝罪をした。

「だからクロイノの姉ちゃんからもらったコレ、途中で使えなくなってたってわけか」

モモタロスの手には先程まで使っていたトランシーバーが握られていた。

「コレ自体が壊れたわけやなかったんやな……」

キンタロスはトランシーバー自体の故障と見ていたようだ。

「エイミィちゃんのお仕事を誰かが邪魔したの?」

リュウタロスは状況を把握したようだ。

「んなことないよ。エイミィがすぐにシステムを復旧させてたからアースラに連絡が取れたんだし、仮面の男の映像だってちゃんと残せた」

ロッテはキーボードを叩いて、宙に『フェイトの胸を貫いている仮面の男』の映像を出した。

誰もが表情を険しくして見ていた。過去の映像とはいえ味方がやられる姿を見て、気分のいいものではない。

「良太郎がこの場にいなくてよかった……」

アルフが誰にも聞こえない声でボソリと呟いた。

 

良太郎はコハナと共にミーティングルームへと向かっている途中だった。

ズボンのポケットから着メロが鳴り始める。

「ん?」

ケータロスを取り出して通話状態にする。

「もしもし」

『あ、良太郎。僕だけど……』

「ウラタロス。どうしたの?」

『今、どこにいるの?』

ウラタロスは良太郎の質問に答える前に更なる質問をする。

「アースラの中だけど……」

良太郎は周囲を見ながら、答える。

『そっか。無限書庫に来てほしいところなんだけど、わかった事を手短に言うよ』

わかった事とは恐らく、『闇の書』の素性ではなく自分が気にかけている管理局内部にいると思われる妨害者の事だ。

良太郎は固唾を呑んで、ウラタロスの結果報告を待つ。

『まずリーゼさん達が提督さんの使い魔だって事は知ってるよね?』

「うん。一緒に局内回ったしね」

ウラタロスが言う『提督さん』とはギル・グレアムの事だということはすぐにわかった。

『なら話すよ。まずね、ロッテさんもアリアさんもアリバイが完璧とは言えないね』

「アリバイが完璧じゃない?」

『うん。僕とユーノはロッテさんと一緒に無限書庫にいたんだけど、ロッテさんは途中でどこかに出かけたみたいだね。アリアさんはそれよりも前にクロイノの所に行ったみたいだけどね。それもアリバイとしてはどうかと思うけどね』

「ロッテさんがどこに行ったかなんてわかる?」

当然の質問を良太郎はウラタロスに投げかける。

『そこまではわからないよ。ただね、エイミィさんに描いてもらった仮面の男のモンタージュをユーノと一緒に局の人達に聞いてみたんだけどね、こんなヤツはいないらしいよ』

「いない?」

『うん。それどころかユーノがフェレットに変身するような変身魔法を使って、この姿だとしたら捜すのはほぼ不可能に近いってさ』

「魔法を用いた変装か……。普通に捜すのは無理なんだね」

捜索対象そのものの存在が曖昧なものだとわかると、良太郎には『落胆』の雰囲気が纏わりつき始める。

『そうなるね。あとこんな情報も聞いたんだけど……』

ウラタロスが仕入れた情報を良太郎は真剣に脳内に記憶していく。

「わかった。ありがとう」

良太郎はケータロスの通話状態を切ってズボンのポケットにしまいこんだ。

「ウラ、何かいい情報でも仕入れたの?」

「うん、まぁね」

良太郎とコハナは先程よりもペースを上げて、ミーティングルームへと向かった。

 

ミーティングルームではつい前に起こった出来事について話し合っていた。

「でも、おかしいわね。駐屯地の機材も管理局で使っている物と同じシステムのはずなのにそれを外部からクラッキングできる人間なんているものなのかしら……」

リンディは信じられないというような表情を浮かべている。

「そうなんですよ。防壁も警報も全部素通りで、いきなりシステムをダウンさせるなんて……」

エイミィにしてみればそんな得体の知れない存在が敵に回るのかと思うと気が気でないようだ。

「ちょっとありえないですね……」

アレックスもエイミィの意見に同意した。

ピシュンという音がして、ドアが開く。

良太郎とコハナが入ってきた。

「良太郎さん、怪我の方は?」

「大丈夫です。ハナさんに手当てしもらいましたから」

包帯を巻かれている左手をリンディに見せた。

「大事無くてよかったわ」

他の面々も明るく迎えてくれる。

良太郎とコハナは三体のイマジンがいる場所まで移動した。

そして、良太郎は三体のイマジンを手招きする。

「何だよ?良太郎」

「どないしたんや?」

「なになに?どうしたの?」

良太郎は三体のイマジンに囁くような小さな声で告げる。

 

「後でここに残ってほしいんだ。ウラタロスがいい情報を教えてくれたんだ」

 

と。

エイミィとアレックスは今後の対策を言っているが、絶対の自信を持って言う事ができない。

管理局のシステムに絶対の自信を持っていたからこそ、今回の事にショックを隠せないようだ。

「それだけ、凄い技術者がいるってことですか?」

なのはが口を開いて考えられる可能性を口に出した。

「もしかして、組織だってやってんのかもね……」

ロッテもなのは同様、考えられる可能性を口に出した。

「君の方から聞いた話だと状況や関係が今ひとつ掴みにくいんだが……」

クロノが隣に座っているアルフに訊ねてみる。

「ああ。あたしが駆けつけたときには仮面のヤツはいなかったし、フェイトを抱きかかえているシグナムがいて仮面のヤツと戦ったと思われる良太郎がこっちに歩いてきたくらいさ……」

アルフの様子がおかしかった。

怖い何かに出くわしたのか両腕で震えを押さえていた。

「アルフさん、どうかしたんですか?」

なのはがアルフの心配をする。

「あ、ああ。何でもないよ」

アルフは平静を装う。

「アレックス!アースラの航行に問題はないわね?」

リンディが立ち上がり、アレックスに確認する。

「ありません」

アレックスは即答した。

「では予定より少し早いですが、これより司令部をアースラに戻します。各自所定の位置に」

リンディの号令で主な面々が返事する。

「それと、なのはさんはお家に戻らないとね」

リンディがなのはを見る。

「あ、はい。でも……」

なのはは返事はするが、歯切れが悪い。

フェイトの事を心配しているという事は誰にでもわかる事だ。

「フェイトさんの事は大丈夫。私達でちゃんと看ておくから」

リンディが元気付けるようにして、なのはに告げた。

なのははそれに応えるようにして、笑顔を作った。

 

主な面々がいなくなり、ミーティングルームはがらんとしていた。

だが、決して無人ではない。

良太郎、モモタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナ、リンディが残っていた。

今度は席が余っているので、全員座っている。

「リンディさんは、駐屯地の管制システムのダウンについてはどう思ってるんですか?みんなが言うには外部がやったと言ったみたいですけど、それ、リンディさんの本音じゃないですよね?」

良太郎は自分がいない間に言った考えはリンディの本音ではないと言う。

「そうね。下手な事を言って不安を煽らない様にしたかったから言ったけど、良太郎さんには見抜かれてしまうわね」

リンディはお手上げといったポーズを取って、本音ではないと認めた。

「クロイノの母ちゃん、嘘ついてたのかよ?」

「モモ、ストレートすぎよ」

「いいのよハナさん。変に取り繕われるより、ストレートに言われる方がしこりは残らないもの」

リンディはモモタロスの一言に落ち込むどころか、笑顔になっていた。

「でも、何でそんな嘘を言う必要があったんや?クロイノの母ちゃん」

キンタロスも疑問に感じたのかリンディに訊ねる。

「私があの場で推測や憶測でクラッキングを行ったのは管理局の人間と言ってしまうわけにはいかないわ。指揮を取る者が一番やってはいけない事はクルーの指揮を下げるような事を言う事と、確たる証拠や証明も出来ない状況で軽はずみな事を言う事なのよ」

「へー、そうなんだぁ。艦長さんって大変なんだね~」

リュウタロスはリンディも色々考えているんだなぁと感心していた。

「そうなのよ。大変なのよ」

リンディがリュウタロスの言葉に素直な感想を述べた。

多分、本音だろうなぁと誰もが思った。

「それで先程も出てた仮面の男の事なんですけど……」

「ええ。良太郎さん達の調査では何かいい情報でも見つかった?」

リンディにしてみても、得体の知れない相手の正体がわかるかもしれないのならありがたい事だ。

「仮面の男の服装や初めて現れた時にクロノを狙った事から、管理局内部の人間だと考えてました。そこでエイミィさんにモンタージュを描いてもらい、ウラタロスとユーノに調べてもらってたんです」

良太郎の台詞にリンディは目を丸くしていた。

「ユーノ君もこの調査に絡んでたの!?」

「はい。志願しましたから」

「良太郎、続き言えよ。続き。あのお面野郎の正体みてぇなもんがわかったんだろ?」

モモタロスが急かす。

「うん。ウラタロスが言ってたんだけど、仮面の男は管理局内には存在しない事がわかったんだ」

「「「「存在しない?」」」」

イマジン三体とコハナが同時に声を上げる。

「変身魔法による仮初の姿、という事ね」

リンディの答えは正解であり、良太郎は首を縦に振った。

「じゃあ、クロイノの姉ちゃんが描いてくれたアレ、役に立たねぇって事かよ?」

モモタロスの結論じみた台詞にも良太郎は首を縦に振る。

「クロイノの姉ちゃんも最初からハズレ掴まされとったワケやなぁ」

キンタロスも腕を組んで自分達が完全に後手に回っていると理解した。

「変身したヤツの正体ってわからないの?クロイノのママさん」

リュウタロスがリンディに訊ねる。

「そうねぇ。私も変身魔法はさほど詳しいわけじゃないから対策らしい対策となると……」

リンディも首を捻っている。

「ウラタロスが手に入れたもう一つの情報なんですけど、変身魔法時に受けたダメージは元の姿に戻っても残るって聞いたんですよ。それってヒントになります?」

良太郎がウラタロスから仕入れた情報を皆の前で告げると同時に、この部屋の中にいる唯一の専門家であるリンディに訊ねる。

「でも良太郎。回復とか治癒とかの魔法を使われたらヒントにならないんじゃ……」

「いいえ。ハナさん。回復や治癒でも受けたダメージを完全に隠す事は出来ないわよ」

リンディがコハナの推測にいち早く反論した。

「どういうこっちゃ?」

キンタロスが疑問の言葉を出す。

「恐らく良太郎さんを含め、ここにいる全員は魔法は何でもできる便利なものと思ってるかもしれないけど実際には長所と短所があるのよ。だから、魔法で回復や治癒を施しても外面の傷は消せても体力はむしろ傷を負ってるとき以上に消耗してるはずよ」

「何で~?」

リュウタロスも首を傾げる。

「魔法における治癒や回復というのは、人の中にある回復する機能を促進させてる部分もあるから、その分体力も使うのよ。だから外見が無傷なのに妙に身体を気遣っている節がある人が怪しいでしょうね」

リンディの言葉がその場にいる誰もが今後の行き先を決める事となった。

 

 

砂漠での戦闘から翌日。

「う……ん……」

フェイトの閉じていた双眸がゆっくりとだが開き始める。

開き始めると、天井と人がぼんやりと映っていた。

やがて視界がハッキリしだすと、人が誰なのかはわかった。

リンディだ。

「フェイトさん。目が覚めた?」

リンディが優しく声をかけてくれる。

「リンディてい……と……く……?」

フェイトがゆっくりと口を開いてから、ベッドから起き上がろうとする。

リンディが起きるための補助をする。

「アルフ……」

アルフがベッドの側ですうすうと寝息を立てていた。

「アルフも昨夜からずっと貴女の側についていたから……」

リンディが詳細を説明する。

「え?あれ?わたし……」

フェイトは状況を把握するために、周囲を見回して自分が纏っているものも見る。

「ここはアースラの艦内。貴女は砂漠での戦闘中に背後から襲われて、気を失ってたの」

リンディが説明し始める。

(言われてみれば、あの後からの記憶が全くない……)

「リンカーコアを吸収されてるけど、すぐ治るそうよ。心配ないわ」

リンディは安心するように言う。

「そっか……。わたし、やられちゃったんですね……」

「管理局のサーチャーでも確認できなかった不意打ちよ。仕方ないわ」

リンディが励ますように言ってくれるが、負けたという事に違いはないし、どんな理由も言い訳にしかならない。

「それに、貴女の仇を良太郎さんが取ってくれたそうよ」

「え?良太郎がですか?」

フェイトにしてみれば信じられないというような表情を浮かべていた。

自分はここ最近、良太郎を避けていたのだ。

恋心を自覚した瞬間に内に秘めた気持ちが暴走する事を恐れ、今まで通りに接する事が出来なくなってしまった。

良太郎にしてみれば露骨に避けられているのだ。

不快な感情を抱くのは当然というのがフェイトの見解だ。

「アルフも直接見たわけじゃないから、どういう内容かまではわからないけどこう言ってたわ。良太郎さんをあんなに恐ろしいと感じたのは初めてだって……」

「そうですか……」

ふとフェイトは右手にぬくもりを感じたので見てみると、リンディが左手で握っていた。

「あ……」

それが何故か照れてしまい、頬を赤くしてしまう。

「あ、ごめんなさい。嫌だった?」

リンディは握っていた手を離して、謝罪した。

「いえ、嫌とかではないんですけど……、その……」

フェイトとしてみればどういえばいいのかわからない。

嬉しいけど、どこか恥ずかしいのだ。

「魘されていたから、ちょっとね。でもよかったわ。貴女が無事で」

リンディは笑顔を浮かべる。

「すみません。ありがとうございます」

フェイトは感謝の言葉を述べてから頭を垂れた。

「学校には家の用事でお休みって事で連絡してあるから、もう少し休んでるといいわ」

リンディの言葉にフェイトは首を縦に振り、厚意に甘える事にした。

フェイトは良太郎の事を考える。

(どうしよう。いつまでも良太郎とこんな状態なんて嫌だし、わたし一人じゃどうしたらいいかわからないし……)

正直、このままでいいとは思っていないのでリンディに相談しようと考えた。

「あの……リンディ提督」

「何?フェイトさん」

「えと……その……」

相談しようと決断してみたものの中々言い出せない。

「良太郎さんと仲直りしたいんでしょ?」

リンディがまるで自分の心を読んだかのように告げた。

「え?……はい」

フェイトは驚きながらも首を縦に振った。

「フェイトさんと良太郎さんの場合は喧嘩をしているわけでもないから、仲直りなんて言葉も正直微妙なものになるのよね。フェイトさんの初恋によるものだし……」

「は、初恋……」

リンディの発した『初恋』という言葉にフェイトはボンという音が出そうなほど顔を真っ赤にする。

自覚しているとはいえ、人に面と向かって言われると恥ずかしいものだ。

「フェイトさん。初恋によるものでも避けてしまった事を悪いと思うなら謝ればいいと思うし、伝えたい事があるのなら良太郎さんに打ち明けてみたらどうかしら?良太郎さんはフェイトさんの言葉を誠実に受け止めてくれると思うわ」

リンディは内に秘めたものをそのままにせず、表にさらけ出したらどうかと打診した。

「はい……」

フェイトは覚悟を決めた。

「お腹すかない?何か食べ物でも持ってきましょうか?」

「あ、いえ……そんな……」

「遠慮しないで。ね?」

リンディの押しにフェイトは負け、「お任せします」とだけ答えた。

 

アースラの艦内にある食堂に良太郎はいた。

食堂には良太郎しかいない。

厨房もがらんとしており、匂いも何もない。

「あら、良太郎さん」

「リンディさん」

フェイトが目を覚めるという連絡があるまで、自身にできる事は何もないと考えていた。

パスを開いたり、閉じたりといった行動を繰り返したりしていた。

「フェイトさん。目を覚ましたわよ」

「本当ですか!よかった……」

朗報を聞いて、良太郎は胸をなでおろす。

リンディは厨房を見てから、良太郎を見る。

「良太郎さん、何か作ってもらえないかしら?」

「え?何かって何です?」

リンディの曖昧なリクエストに良太郎は訊ね返す。

「フェイトさんが食べそうなものってことでどうかしら?」

「悩みますね……」

良太郎は腕を組んでながらも、厨房の中に入り込んで冷蔵庫を開ける。

食材は豊富だった。

「リンディさん、何人分作ればいいですか?」

作る料理が決まると、良太郎は何人分作ればいいかをリンディに訊ねた。

「そうねぇ。私も何も食べてないから四人分お願いできるかしら?」

「四人分ですね?わかりました」

良太郎は早速調理に取り掛かった。

料理が完成すると、リンディの分を渡して良太郎はフェイトがいる部屋へと向かった。

(大丈夫かな。僕が行って、また変な態度取ったりしないかな……)

フェイトがいる部屋に向かうまでの間に、良太郎はふとそのような事を考えてしまった。

避けられる事で不快に感じるより先に、寂しく感じてしまうことが優先される。

だが、行動しないよりはしたほうがいいのだ。結果はどうであれ。

ピシュンという音が鳴り、ドアが開くとベッドで寝ているフェイトとその側で眠っているアルフがいた。

「りょ、良太郎……」

フェイトは誰の手も借りずに起き上がる。

「よかった。思ったより元気そうで」

良太郎は丼三つが乗っかっているトレーをフェイトの左側にある棚に置く。

それからフェイトの右側にある椅子を持って、移動して左隣に座る。

「その……今まで、避けててごめんなさい」

フェイトは良太郎に視線を合わせて、頭を下げて謝罪した。

良太郎はフェイトの行動に目を丸くする。

「いいんだよ。何か事情があったんでしょ?多分それは僕には言えない事情でしょ?」

「え、えと……うん。でもちゃんと伝えるから。その時は聞いてくれる?良太郎」

フェイトの真剣な眼差しを良太郎は真剣に受け止める。

「うん。わかった」

「ありがとう。良太郎」

フェイトは笑みを浮かべる。

「さてと、お腹減ったんでしょ?冷めたら不味くなっちゃうからね」

良太郎はフェイトに丼を渡して、蓋を開ける。

中身は以前作ったカツ丼ではなく、小間切れになった牛肉とタマネギが目立つ丼---牛丼だった。

「これって、良太郎が作ったの?」

「リンディさんに頼まれたんだよ。それに厨房にはシェフとかいなかったしね」

良太郎も自分の分の蓋を開けてからフェイトの分の蓋も受け取って、トレーの上に置く。

割り箸をフェイトに渡してから、自分の割り箸を割る。

「「いただきます」」

二人は合掌して、牛丼を食べ始めた。

良太郎とフェイトが食べる時、不思議と言葉を交わすことなく黙々と食べている。

それは食べる事が至上の礼儀であるように。

しばらくは室内に割り箸が丼に触れる音が聞こえた。

しばらくしてから二人は丼から目を離すようにして、顔を上げる。

「良太郎。ご飯粒ついてるよ」

「え、本当?」

「とってあげるね」

自身が取るより速く、フェイトが頬についているご飯粒を人差し指で掬うようにして取った。

それをフェイトは口の中に含む。

その表情は久しく見ていない笑顔であり、頬を赤くはしているが視線を外そうとはしていなかった。

「あ、ありがとう……」

今までとった事ない行動に戸惑いながらも良太郎は感謝の言葉を述べた。

「「ごちそうさまでした」」

二人は同時に合掌する。

フェイトは空になった丼を良太郎に渡す。

良太郎は空丼をトレーの上に置く。

「アルフさんの分はここに置いておくから、空になったら言ってよ。食堂に返しに行くから」

「わかった」

良太郎はトレーを持って、部屋を出た。

(よかった……。元に戻ったわけじゃないけど、よかった……)

良太郎は笑みを浮かべて食器を返却するために食堂へと向かった。

その足取りはとても軽かった。




次回予告


第四十三話 「電王とゼロノスのコンタクト」

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