仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第三十四話 「侑斗とデネブ 八神さん家の裏事情を知る」

桜井侑斗とデネブが八神家に居候してから三日が経過した。

その間、侑斗とデネブはイマジンと一度も遭遇していなかった。

ゼロノスカードを使うことがないというのはありがたいといえばありがたいが、どこか肩透かしを食らったような感じがした。

侑斗の八神家での仕事はというと、庭の草むしりに風呂場の清掃に洗浄後の食器を食器棚にしまうことなどだ。

現在は午前なので、一人で軍手を手にはめて草むしりをしていた。

「何か久しぶりだよなぁ。こういう肉体労働」

悪い気分ではない。むしろ久しく忘れていた心地よい気分だ。

「うーん。運動不足か?俺」

しゃがんでいたが、立ち上がって軽く伸びをする。

自問したが答えてくれる者はいないと思っていたが、

「ならば少し付き合え」

背後から女性の声がした。

「シグナム……」

竹刀を一振り自分に向けて投げてきたので、反射的に手を出して受け取る。

「ゼロノスの力を見てみたいというのが本音だが、事情故に仕方があるまい。それともゼロノスにならないと戦えないのか?」

「言ったな」

シグナムの挑発じみた口調に侑斗は挑戦的な笑みを浮かべて、竹刀を構えた。

 

デネブはというとキッチンで朝食の味噌汁を作っていた。

味噌の香ばしい匂いがキッチンをはじめ、リビングにまで向かおうとしていた。

「あ~、いい匂い~」

ヴィータが味噌汁の匂いに釣られていた。

ザフィーラ(獣型)も床に伏せているが、匂いに釣られていたりする。

「よしっ!味見を頼む」

デネブはごつい手には似合わない小さな皿に味噌汁を入れて、八神はやてとシャマルに渡していた。

はやてとシャマルは同じタイミングで味噌汁をすする。

ゴクリという音が二人の喉下から聞こえた瞬間、二人の眼は大きく開いた。

二人の反応は極端なものだった。

シャマルは陰を漂わせて落ち込み、はやてはむむむっと真剣な目つきをして味噌汁が入っていた食器を見ていた。

「ま、負けた……。この味は今の私では到底引き出せない味だわ……」

シャマルは自らの力量では太刀打ちできないと敗北宣言をした。

「こ、この味!?世界は広いわぁ」

はやてはただただ感心し、世界は広いと実感する事しか出来なかった。

「料理には自信がある!」

デネブは胸を張った。

「これなら、わたしの代わりにシャマルに教えても問題ないわ。いやぁこんな家庭的なイマジンさんやったら、大歓迎やで」

「はやてちゃん!?」

「ありがとう!八神!」

はやての発言にシャマルは驚き、デネブは頭を下げて感謝した。

 

中庭で草むしりをしていた侑斗は軍手を外して、竹刀を両手に持ってシグナムと剣を交えていた。

実状としてはシグナムは侑斗の振り下ろす竹刀を難なくかわしているだけであり、侑斗はどこか振り回されているようだった。

(竹刀なんて戦うようになってからも持ったことがないよな……)

ゼロノスとして戦う以前からも腕っ節はそこそこ自信があった。

だが、それはあくまで素手での話だ。

ゼロノスになってからの武器を用いて戦闘を行うようになってもプライベートでは武器を用いての訓練は一度もない。

両手に握られている竹刀を見る。

Zサーベルを振りなれているせいか、どうも軽すぎて勝手が利かない。

両手に重量感がなさすぎるのだ。

だからこそ、さっきから攻撃を仕掛けるがどうにも空を裂く感じでシグナムを捉えることが出来ない。

「お前の持つ武器は竹刀のような片手剣ではなく、両手剣タイプと見えるな。竹刀の軽さに振り回され、従来の動きが出来ていないといったところか?」

「ったく、お見通しかよ……」

侑斗は自分が抱えている問題を指摘されてしまう。

竹刀を正眼に構えて、じりじりと間合いを詰める。

シグナムは右手で右脇に構えている。

「こちらから行くぞ!」

シグナムは侑斗との間合いを詰めると同時に、竹刀を両手持ちにして上段に構えて振り下ろしてきた。

(武器が俺の勝手にならない以上、運動能力でカバーするしかないか……)

判断と同時に後退もせずに、右足を九十度後ろに運んで体制を変えて避ける。

竹刀を振り下ろされた時に生じた風が、侑斗の前髪を揺らす。

(何て威力だ……。竹刀とはいえまともに食らったら無事じゃすまないな……)

シグナムが繰り出す袈裟、逆袈裟、突きを身体能力を駆使して侑斗は避けていく。

(イマジンより身体能力は劣っていても、人間だからきちんと頭使って戦ってくるからイマジンよりやり辛いったらないぜ……)

侑斗は右手で握っている竹刀を見る。

(使えないなら持ってても仕方ないよな)

侑斗はあることを決断した。

「これで終わりだぁ!!」

シグナムが今まで繰り出した攻撃の中で一番鋭い突きを繰り出した。

侑斗は右手の竹刀を放り捨てた。

竹刀はカシャンというような音を立てて、地に落ちる。

竹刀の先が侑斗の喉元に来るまで数センチ。

両手が考えるより先に本能的に動き出した。

竹刀に向かって掌を向ける。

そして、向かってくる竹刀を同じタイミングで両掌を叩き付けた。

パシンという音が鳴る。

竹刀の先は侑斗の喉元を突く事はなかった。

両掌で竹刀をキッチリと押さえて停めていた。

「ふぅ……。間一髪だったな」

「だが、私の本気の突きを停めるとはな。実力は本物のようだ」

「当たり前だ。俺は強いからな」

侑斗は自信に満ちて言いながら、竹刀を押さえていた両掌を離す。

「そのようだな」

シグナムも笑みを浮かべて、突いていた竹刀を引き戻す。

(こいつ、もしかしてモモタロスと同じタイプか……)

「なぁシグナム」

侑斗は自分の足元に転がっている竹刀を拾う。

「何だ?」

「俺と同じ様に変身できる奴を一人知っているといったら、お前どうするんだ?」

自分の見立てが間違っていなかったら、彼女の答えは決まっている。

「いるのならば是非とも会ってみたいものだな。欲を言えば手合わせもしてみたい。それで誰だ?お前と同じ様に変身できる者とは」

シグナムの反応は侑斗の予想通りだった。

彼の眼が曇っていなければシグナムの瞳は輝いていた。

 

「野上良太郎。電王だ」

 

侑斗は答えると、手にしていた竹刀をシグナムに返して玄関へと向かっていった。

 

朝食を食べ終えた侑斗は、地理を把握するために一人で海鳴の街を歩いていた。

デネブは、はやてとシャマルに料理の指導をせがまれていたので放っておく事にした。

シグナムとザフィーラはそのままどこかへ出かけるといって、ここにはいない。

ヴィータはゲートボールのスティックを手にして、公園に行っている。

どうにも先程から身体全身にチクチクと感じるものがある。

チクチクの先に視線を向けると、急になくなる。

(なんなんだよ。居心地悪いな)

敵意や殺意といったものではない。

だが侑斗にはそれが何なのかはわからなかった。

しばらく歩いて、風芽丘図書館に入る。

ここで、海鳴市で起きた過去の奇妙な事件に眼を通していく。

侑斗は『イマジンが関わっている』という前提を視点にしている。

「何回、目を通してもイマジンが関連してる事件とは考えにくいよな」

図書館内なので、小さな声で呟く。

机に広げている本を閉じて、本棚へと戻していく。

腕時計で時間を見る。

「戻るか」

外食をするつもりはないので、八神家へと戻ることにした。

八神家へと帰宅する中で、公園から見知った少女が出てきた。

「ん?オマエかよ……」

「今帰りか?」

見知った少女---ヴィータが侑斗と視線が合う。

表情はむすっとしたものであり、何でこんな表情をしているかはおおよその見当はついていた。

彼女はシグナムやシャマル程、自分に心を許していない。ザフィーラに関してはどうなのかはわからない。

「ああ」

ヴィータは短く答えて、スタスタと帰路を踏み出した。

早足で歩いているのだろうが、侑斗は難なく追いついてしまう。

一歩の幅が違うのだから当然といえば当然だ。

(何か話したほうがいいのか。こういう時……)

デネブならズレた感覚ながらもそういう行動を取るだろう。

だが、自分は年下の女の子と器用に会話するほどボギャブラリーが豊富なわけではない。

「なぁ……」

「何だよ?」

ヴィータが睨むような視線でこちらを見てくる。

「八神には両親はいないのか?」

自分とヴィータに共通する話題といえば家主のはやてだけだ。

「二人とも死んだんだって」

「そうか……」

侑斗の質問にヴィータは無愛想ながらも答えてくれた。

ヴィータを見てから、他の二人と一匹の狼を思い浮かべる。

(こいつ等、どう見ても八神と親戚とは思えないよな)

根拠はない。だが、何故かはわからないがそう思えて仕方がない。

訊ねる事は野暮なので、胸の内に秘めておくことにした。

(ダメだ。話すネタが出てこない……)

二人は沈黙状態で八神家へと歩を進める。

ジャケットのポケットに手を突っ込むと、何か丸いものが二つあった。

何なのか取り出してみると、デネブキャンディーだった。

(美味いって言ってたから大丈夫だよな)

「なぁ」

「何だよ?」

侑斗の声にヴィータは面倒臭そうに顔を向けてきた。

「コレ食べるか?」

侑斗は右掌に乗っているデネブキャンディーを見せる。

「なぁ、聞いていいか?」

「何だよ?」

デネブキャンディーを見ながらヴィータが侑斗に訊ねだした。

「このキャンディーってどこに売ってるんだよ?ギガうまなのに、何でコンビニにもスーパーにも売ってねーんだよ?」

「あー、売ってたら買おうって考えてるかもしれないど売ってないぞ。コレ」

侑斗は正直に打ち明けた。

「え?じゃあ、おデブはどこで仕入れてるんだよ?」

「仕入れるも何もデネブが作ってるんだぞ。このキャンディー」

「マジかよ!?」

衝撃の告白に、ヴィータは眼を大きく開ける。

「そういや、今日の朝ごはんを作ったのもおデブなんだよな?」

「ああ。俺はその現場は見てないがあの味はデネブのものだからな」

「なあ。ほんとぉぉぉぉに、おデブはイマジンなのか?あんな着ぐるみ着てる人間とかじゃねぇのか?」

ヴィータの中でイマジンは凶暴な怪人として定着しているのだろう。

だが、デネブがそのイメージを徹底的に崩しているのだ。

「間違いなくイマジンだ」

「はぁぁぁぁ。やっぱそうなんだ。あたし等を襲ったイマジンと全然違うからさぁ」

侑斗の答えにヴィータは予想していたので一息吐いて、納得した。

「だが事実なんだから受け入れるしかないだろ」

侑斗はデネブキャンディー一個をヴィータに渡してから、残った一個を自分の口の中に放り込んだ。

「ありがと……」

ヴィータもデネブキャンディーを口の中に放り込んだ。

「美味ーい!!」

ヴィータの感想が海鳴の青空に向かっていった。

 

午後となり、テレビではサングラスをかけたスーツ姿の男が観客に向かって「そうですねぇ」と言わせる番組が始まっていた。

はやては特に好んで見るわけではないが、退屈しのぎにはなるのでテレビを付けているのだ。

デネブがシャマルに料理を指導しているため、はやては時間が空いて寛ぐ事が出来るのだ。

「デネブさん。シャマルはどうや?筋は悪

わる

ない思うんやけど」

はやてはデネブにシャマルの腕前に関する評価を訊ねてきた。

「八神の言うように、悪くないと思う。ただ……」

「ただ?」

「俺や八神と同じ材料なのにどうして不味くなるのかがわからない」

「あ、やっぱり」

デネブの素直な感想に、はやては納得した。

かねがね思っていたことだ。

はやてとデネブはシャマルを見る。

その視線は「何故?」と訴えているようにも見えた。

「私にだってわかりませんよぉ!」

シャマルは涙目で抗議するが、作った当人がわからないものを自分がわかるわけがないと、はやては思ってしまった。

 

オレンジ色の空から黒色へと海鳴の空が変化した。

リビングには侑斗、デネブ、はやて、ヴィータ、シャマルが各々行動していた。

はやてとシャマルは洗濯物を畳んでおり、侑斗とデネブとヴィータはトランプでババ抜きをしていた。

侑斗は、はやてから借りた本を読みながらババ抜きをしながら壁時計を見た。

「悪い。俺はリタイアだ」

侑斗はそう言うと、足元に伏せているトランプをすべて表にさらしてギブアップ宣言をした。

「侑斗?」

「風呂掃除をしなきゃいけないんでな」

そう言うと、侑斗は風呂場へと向かっていった。

「おデブどうする?あたし等で続けるか?アイツのカードを二人で分けて……」

「うーん。二人でするババ抜きのつまらなさはよく知ってるから違うゲームをしよう」

「そだな。じゃあ何する?」

「何しようか……」

一人と一体は次に何をするか考え始めていた。

リビングに向かって二種類の足音が鳴った。

「ただいま戻りました」

「ワン!」

足音の主は外出していたシグナムとザフィーラだった。

夕飯は、デネブが作った天ぷらだった。もちろん、天つゆもデネブのお手製である。

「「「「「「いただきます」」」」」」

テーブルに座った六人(五人と一体)が手を合わせて食材に感謝してから食べ始めた。

食卓についている誰もが、デネブの味に称賛していた。

ザフィーラも犬皿に盛り付けられている天ぷらをガブガブと食べ始めた。

「デェネェブゥ!!」

侑斗は天ぷらを一口かじってから、箸をテーブルに叩きつけてから隣で座っているデネブを睨みつける。

「お前、椎茸入れたな!!」

「あ、やっぱりバレた?」

「バレるに決まってるだろ!思いっきり椎茸じゃねぇか!」

侑斗は椎茸の天ぷらを指差していた。

「桜井さん。好き嫌いはアカンよ」

「大きくなれませんよ?」

「強くなれないぞ?」

「なっさけねーなー。あたしでも食べれるんだぞ?」

女性陣がデネブに加勢するようなコメントを侑斗にぶつけてくる。

ザフィーラは黙々と食べている。

女性陣+デネブの視線が痛い。

「……わかったよ。ったく食べればいいんだろ」

観念した侑斗は椎茸の天ぷらを天つゆつけて、口の中に放り込んだ。

「やっぱり椎茸は嫌いだ……」

侑斗は何ともいえない表情を浮かべていた。

夕食を終えて女性陣の入浴後に入浴した侑斗は、はやての父親が使っていたパジャマを借りて着ていた。

「ピッタシみたいやね。よかったわぁ」

「いいのか?」

「構へんよ。タンスの肥やしにするくらいなら着てもうた方がパジャマも喜ぶって」

侑斗はパジャマをジロジロと見ている。

「どうしたん?もしかして趣味やないん?」

はやてが不安そうな声を上げている。

「いや、久しぶりに着ると思ってな。ほとんど野宿に近い生活をしていたから」

「そうなん?ここに居る間はお父さんの服なんかは好きに着てええで」

「わかった」

はやての言葉に侑斗は頷いてから、リビングのソファに寝転がる。

「そういえばあいつ等は?」

「みんななら先に寝たで」

はやてが侑斗に掛け布団を渡してくれた。

「だったら、お前も早く寝ろ。子供の夜更かしはあまり褒められたものじゃないからな」

掛け布団を受け取ってから侑斗は、はやてに早く寝るように促す。

「うん、わかってる。わたしももう少ししたら寝るわ」

はやては車椅子を操って私室へと向かっていった。

その背中を見送りながら、侑斗は既に就寝していると思われる三人と一匹のことを考えていた。

「侑斗?」

キッチンで作業を終えたデネブが侑斗の側に寄る。

「デネブ、眠いか?」

侑斗はちらりとデネブを見てから訊ねる。

「まだ起きれる」

「なら少し付き合え」

「?」

デネブは侑斗の意図がわからなかった。

 

二階から床がきしむ音が聞こえた。

ソファで寝転がっていた侑斗は起き上がる。

パジャマの上に防寒用として、ジャケットを羽織っている。

「行くぞ。デネブ」

「了解」

侑斗とデネブは小声で玄関まで音を立てないように抜き足差し足忍び足で移動する。

玄関のドアを音を立てないようにゆっくりと開いて、素早く外へと出た。

「侑斗、本当に出るのか?」

「八神とあいつ等は一枚岩のように見えるが、妙なズレみたいなものがある」

十一月なので、秋といってもジャケットを羽織っただけのパジャマだと少々身に染みる。

「ズレ?」

「あいつ等はズレを生じさせてもやらざるをえない何かがあるんだろうし、多分だけどズレの原因は八神だと思う」

侑斗は表札が掛かっている壁にもたれて腕を組む。

「八神が?」

「何が原因かまではわからないがな。だからこそ、聞いてみるのさ」

侑斗は瞳を閉じてからもう一度開く。

 

「さっさと出てこいよ?聞きたいことがあるんだからな」

 

侑斗が言った直後、玄関のドアが開いてヴォルケンリッターが覚悟を決めたような表情で出てきた。

 

侑斗、デネブ、ヴォルケンリッターは八神家から離れて近くの公園へと場所を移していた。

シグナム、ヴィータ、シャマルはベンチに座り俯いていた。

ザフィーラはおすわりの姿勢をしていた。

侑斗とデネブは三人の前に立っていた。

「最初に言うが、この事を俺達は八神に言うつもりはない」

「「「え?」」」

ベンチに座っている三人は俯いていた顔を上げた。

「どういう事だ?桜井」

ザフィーラが代わりに侑斗に訊ねてきた。

「居候させてもらう時に言わなかったか?俺達は未来から来たんだ。だから、ここでの出来事は俺達にとっては『過去』でしかない。それに俺達は『過去』を無作為に変えてはならないって事も知ってるから何も出来ないんだ」

「侑斗の言うとおりなんだ。俺達は『起こってしまった事』には干渉してはならないんだ」

侑斗が答え、デネブが補足した。

「それじゃあ私達が今やっている事も……」

「ああ、変える気はない。だがな、何でそんな事をしているのかは聞かせてもらうぞ?」

シャマルの言葉を締めるようにして侑斗は答えるが同時に動機を求めていた。

「やんなきゃいけねぇんだよ……」

ヴィータが俯きながら低い声で言った。

「ヴィータの言うとおりだ。私達はやらなければならない。たとえそれが主の命に背く事だったとしてもだ!」

シグナムも侑斗と顔をあわせずに決意表明のようなものを吐く。

話す気はないらしい。

「八神に関係する事か?」

侑斗の言葉に三人と一匹は表情には出さないが、動揺してるのはすぐにわかった。

「シグナム。もう無理よ。話してしまいましょう」

「シャマル!お前何言ってんだよ!こいつ等が、はやてにチクるかもしれねーじゃんか!?」

「シグナム。どうする?」

シャマルは観念し、ヴィータは抵抗を続け、ザフィーラはリーダーの指示を仰ぐ。

「……わかった。全て話そう。主はやてに降りかかっている事、そして私達のことも全てだ」

シグナムは意を決して顔を上げて、口を開き始めた。

シグナムが全てを語り終えた後、侑斗は何も言わずに夜空を見上げた。

「俺も色々と体験したり、見てきたりしたが魔法に出くわすなんて思わなかったな」

これは本音だった。

彼女達がこのような場で嘘を言う必要性は無いのだから、真実なのだろう。

「お前達が人間でなく、プログラムと聞かされても不思議で仕方がない。どう違うんだ?人間と」

デネブはシグナム達を見るが、訝しげな表情を浮かべたままだ。

「どうって言われても……」

シャマルはデネブの質問に答えようとするが浮かばないようだ。

「それで『闇の書』のページを完成させたら、八神の病気は治るのか?」

侑斗は根拠を訊ねた。

「主はやてが『闇の書』の真の主となられれば、多分……」

シグナムの声には語尾辺り自信の色がなかった。

(賭けの域、なんだよな)

人生ここぞという時の勝負は殆どが『賭け』だという事は侑斗も身に覚えがある。

(未来の俺はその『賭け』に勝ったんだよな……)

桜井の事を考えてしまう。

「なぁ。本当に、はやてには言わねーのか!?」

ヴィータが侑斗に疑いの眼差しを浮かべながら念を押すように訊ねる。

「ああ。言うつもりはない。自分の身を削ってでも何かを守りたいという気持ちはわかるからな」

自分も削って戦うからこそ、彼女達の行動を責めようとは思わなかった。

実のない正義は実のある悪より性質が悪いことも知っている。

ここで彼女達を責める事はそういう事になる。

「感謝する」

ザフィーラがヴォルケンリッターを代表して短く侑斗とデネブに感謝の言葉を述べた。

「さて帰るか?冷えてきたしな」

「そうだな。風邪は引きたくないしな」

侑斗が座りっぱなしのヴォルケンリッターを促した。

デネブは場を和ませるように言う。

「帰るぞ」

侑斗の背後からシグナムがシャマル、ヴィータ、ザフィーラを促すように声をかけたのが耳に入った。

 

その翌日から、チームゼロライナーとヴォルケンリッターの距離が縮まった事はいうまでもないことだった。

シグナム、ザフィーラは相変わらず侑斗を『桜井』と呼んでいたが、声色は他人行儀ではなくなっていた。

ヴィータは『オマエ』と呼んでいたが『侑斗』と呼ぶようになり、シャマルも『桜井さん』から『侑斗君』へと変わっていった。

そんな変化を見逃さなかったはやても『桜井さん』から『侑斗さん』と呼び方を変え、デネブの事も『デネブちゃん』となっていった。

『闇の書』の蒐集の際には侑斗達は口裏を合わせたりなどして、偽のアリバイ証言などをでっちあげたりなどして、はやてにバレないようにヴォルケンリッターに尽力した。

表と裏の両方を上手く使い分けながらも時間は刻まれていき、時間の針は『現在』へと指していった。

 

 

青空に太陽が照り付けるが、冬のため太陽の光の恩恵が今ひとつ感じられない海鳴の昼空。

はやてが乗っている車椅子の押す速度を侑斗は緩めた。

八神家が肉眼で見えてきたからだ。

「侑斗さん。腕痺れたりせえへん?」

ずっと車椅子を押してくれた侑斗に、はやては気遣う。

「俺はそんなにヤワじゃない。腹が減ったから飯頼むぞ」

「わかってるて。侑斗さん、椎茸抜きでええんよね?」

「八神が侑斗の要望を応えてる?どうしたんだ?」

デネブが知っているはやては、侑斗の要望をかなえたりしない。

「侑斗さん。椎茸嫌いやいうけどなんやかんやで、いつも食べてるやん。だからたまにはええかな思うて」

「なるほどぉ」

デネブはポンと相槌を打って納得した。

「何か子ども扱いされてるような気がする……」

侑斗は愚痴りながらも、車椅子を押して八神家へと入っていった。




次回予告

第三十五話 「ユーノとウラの真相究明」

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