仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第三十二話 「はやて 仮面ライダーゼロノスと名付ける」

時刻としては午後。昼食目当てのサラリーマン等で飲食店はごったがえしているだろう。

「八神。寒くないか?」

桜井侑斗は車椅子を押しながら、八神はやてに体調を訊ねていた。

「ううん平気やよ。ありがとうな侑斗さん」

はやては侑斗の気遣いに笑顔で感謝する。

「お前が風邪引くとヴォルケンリッター(あいつ等)がうるさいからな」

侑斗は照れ隠しのように言う。

「ふふ。侑斗さん、また照れ隠し?」

はやては侑斗がこういう事を言う時、自分のことを親身になって心配してくれているのだという事を知っていたりする。

「侑斗。素直になった方が八神はもっと喜んでくれる!」

「俺はいつも素直だ!」

デネブが言うと、侑斗は大声で反抗した。

はやては漫才かお笑い番組を見ているかのように笑っていた。

「なぁ八神」

「ん?どうしたん侑斗さん」

侑斗が声をかけてきたので、はやては何事かと思っているようだ。

「お前等と出会って一ヶ月越えてるんだよなぁ」

侑斗は感慨深げな声で言う。

「長いようで短いような気もするなぁ」

デネブも侑斗と同じ様に感慨深げな声を上げていた。

「わたしにしたら短すぎるくらいやで。でも、侑斗さんとデネブちゃんと一緒におると随分経ってるような感じがするわぁ」

はやても感慨深げな声を出していた。

 

 

十一月一日。

海鳴の夜空の一部が歪み、そこから地上に向かって線路が敷設されていく。

線路の上を緑色が目立つ二両編成の『時の列車』、ゼロライナーが走っていた。

侑斗とデネブは二両目の『ゼロライナー・ナギナタ』で二人寂しくババ抜きをしていた。

以前までデネブは侑斗とゲームをしている時、侑斗に勝たせていたが最近は堂々と全力で戦っていた。

理由としては、侑斗が『お前も全力でやれ!』の一言だったりする。

「やっぱり、二人でババ抜きってのは何かつまらないな」

侑斗が現在、ジョーカー---ババを持っていた。

「ババを持っている相手なんて考えなくてもわかるからな」

デネブはごつい手で、侑斗が持っているカードの一枚を選ぼうとする。

「これだ!」

デネブが一枚引くとそれはババだった。

「ああぁ!!」

デネブは悲鳴を上げてしまう。

「よしっ!」

侑斗は小さくガッツポーズを作って喜ぶ。

「ぬぬぬぬぬぬぅ」

デネブは雪辱を晴らすために、トランプを背の後ろに隠して適当にシャッフルする。

そして、侑斗の前に出す。

「さぁどうだ?侑斗」

侑斗はデネブの手で扇のようになっているカードを一枚ずつ凝視していく。

「上手く隠したつもりだろうけど、な!」

侑斗は一枚を引くと、ダイヤの10だった。

「よし!」

侑斗の手にはスペードの10があったので、山に捨てる事が出来た。

「ん?そろそろ着く頃だな」

「そうみたいだ」

侑斗とデネブは自身に掛かる重力でゼロライナーが地上に車輪を停めようとしている事がわかった。

その二分後にゼロライナーは停車した。

ゼロライナーが停車したのは海鳴市の空き地だった。

人が入り込むには十分な大きさをしている土管が三つほど積まれているだけで、空き地としてほったらかしにするには少々贅沢とも思える。

ゼロライナーがすっぽりと納まっても、お釣りが出るくらいの大きさなのだから。

ゼロライナー・ナギナタのドアが開き、侑斗とデネブが降車した。

一人と一体は身体をほぐすためか、軽く伸びをする。

「ここが別世界か……」

「俺達が住んでいる世界と同じだぁ」

侑斗とデネブは海鳴の夜空を見上げて、口を開いた。

「それでどうする?侑斗、オーナーさんが言っていた『時間の破壊』の原因は明日から捜す?」

デネブの言葉に、侑斗は携帯電話をズボンのポケットから取り出して時計を見てから、またズボンのポケットにしまう。

「そうだな。捜すにしても何が原因で『時間の破壊』が起こるかもわからないんだしな」

侑斗の言葉が合図になったのかデネブはいそいそと就寝のための寝袋をゼロライナーから取り出していた。

侑斗は寝袋に入り込み、デネブもまた専用の寝袋を用意して土管の中で就寝した。

 

十一月二日。

侑斗とデネブはゼロライナーを『時の空間』に停車させてから、海鳴の街を歩いていた。

「手掛かりゼロだからなぁ。雲を掴むような話だ」

「侑斗。雲は掴めない」

侑斗の言葉にデネブは実際に右手を掲げて、雲を掴もうとしていた。

掴めるはずがないので、デネブの手は空気を掴んでいるだけだ。

「バーカ。例えを実践するな」

侑斗はデネブの行動に呆れながらも、今後の事を考える。

今までの事件のように首謀者がわからない。

聞き込みをしようにも「『時間の破壊』を起こそうとしている奴を知らないか?」と正直に訊ねても、相手にされないか警察に事情聴取されるのが関の山だ。

情報を入手するにはあまりにも手段が限られている。

「『時間の破壊』の原因究明も大事だが、まずはここの地理や文化を知る事が大事だな」

「侑斗?」

デネブには侑斗が何故そのような事を言うのかが理解できない。

「デネブ、今回は長期戦になるぞ。得られる事は得た方がいい」

「了解!」

侑斗とデネブは最寄のコンビニに入って、地図を購入した。

公園には赤ん坊を抱いた奥様方とゲートボールをしている老人達がいた。

公園のベンチに座って、コンビニで購入した地図を広げる。

「名前は海鳴市で、街の規模としてはそこそこ発展してるな」

『田舎』と呼ぶには『都会』であり、『大都会』と呼べるほどの大都市ではない。

大まかな事を理解した侑斗は地図を畳んで、ベンチから立ち上がる。

「侑斗、次はどこに?」

デネブが行き先を訊ねる。

「図書館」

侑斗は短く答えると、頭の中に入っている海鳴市の地図を頼りに海鳴図書館へと向かっていった。

 

海鳴図書館は平日にも関わらず、賑わっていた。

なお、この場合の『賑わっていた』とは人がたくさん来館している事を指しており、決して喧騒を意味しているわけではない。

図書館で騒いでいたら他の来館者から冷たい眼差しを受けるのは間違いないからだ。

侑斗は海鳴市のここ数ヶ月の出来事を知るために、過去の記事を手当たり次第に本棚から取り出して、デネブに持たせていた。

「侑斗。これは多すぎるんじゃ……」

デネブは持たされている量を見て侑斗に告げる。

「あのな、全部見るわけじゃないんだ。『時間の破壊』と聞いて俺達が動かなきゃならないときてる。そうなってくると一番に考えるのは何だ?」

侑斗はクイズのようにしてデネブに言う。

「うーん……」

デネブは本を持ったまま、考える。

「あ、わかった!イマジンだ!」

正解だと思った答えをデネブは大声で言う。

「バカ!声がでかいんだよ!」

侑斗は大声で注意をしてしまう。

じとーっという視線をあちこちから感じる。

「「……すいません」」

侑斗とデネブは無言の眼差しに耐え切れずに、謝罪した。

本棚から取り出した本を机に置いて、侑斗とデネブは本を広げていた。

分厚い本だが、目当てとなるテーマがわかっている以上ページはパラパラと捲られていく。

侑斗とデネブが焦点に当てているテーマは『事件』だ。

それは『いじめ』から『殺人』まで何でもだ。

三時間後。

侑斗が最後の一冊を閉じた。

「はぁ。イマジン絡みと思われる事件は全くないな」

「一時的な自然脅威や街を蹂躙する怪植物なんてのもあったが、どれもイマジンが繋がっているとは思えない……」

侑斗とデネブは意気消沈していた。

本当に手掛かりらしい手掛かりがない。

出口のない迷路をさ迷っているようなものだ。

「……デネブ。片付けに行くぞ」

「……了解」

重い足取りで侑斗とデネブは取り出した本を本棚へと片付けていった。

外は夕方となっており、カラスが鳴き始めていた。

 

夕方となると、下校する学生や夕飯の支度をするためにスーパーに行こうとする主婦などがちらほらと目立っていた。

「侑斗、明日からどうする?手掛かりになりそうなものは今日一日で全部出し尽くしたわけだし……」

「………」

デネブの言葉に侑斗は反応しない。

正直参っているのだ。

今までの事件の場合、それなりに怪しげなヒントのようなものはあった。

だが、今回はそれすらない。

相手の出方を待ってからでは遅いのはわかるが、今回はそれしか他に術がないのかもしれない。

(『時間の破壊』を誰がやるかだよな。イマジンなのかそれとも『時間』の事を知っている人間か、か)

過去に関わった事件として首謀者は大まかにこの二種類に分かれるだろう。

「なぁデネブ」

今まで黙っていた侑斗は口を開いた。

「なに?侑斗」

「野上達は別世界(ここ)に来た時、別世界(ここ)の隠れた事実みたいなものに関わったんじゃないのか?」

「隠れた事実?」

デネブは訊ね返し、侑斗は首を縦に振る。

「ああ。あくまで推測だけどな。普通に調べても何もでないんだ。別世界の隠れた事実が『時間の破壊』に関係していると考えてしまうけどな」

普通に海鳴市で起きた『事件』を探っても、何も出なかったのだ。

そうなれば都市伝説や噂話にすがった方が、『隠れた事実』に行き着くかもしれない。

「お前、確か言ってたよな?えーと」

侑斗は右人差し指を眉間に当てて図書館でデネブが言ってた事を思い出そうとしている。

「そうだ。街を蹂躙した怪植物だ!」

「確か、その記事は最後は桜色の光と共に怪植物は消滅したとか書いてあったような……」

デネブも思い出しながら言う。

「桜色の光?何だソレ?」

「わからない……」

侑斗は腕を組んでそれが何なのかを考えるが、デネブが言ったようにわからないものはわからない。

 

 

侑斗は車椅子を押しながら、デネブと談笑しているはやてを見ていた。

(今思えば本当に運がよかったとしか言いようがないな)

日頃から「俺は強いし、運もある!」と公言する侑斗だが、別世界に来て当初は本当に運にすがるしかなかった。

「ん?どうしたん。侑斗さん」

はやてが侑斗の視線に気付いたのか、顔を侑斗の方に向ける。

「何でもない。気にするな」

「?」

はやては、わからないという表情を浮かべるしかなかった。

 

 

はやてはシャマルに車椅子を押してもらいながら、ヴィータを連れてスーパーで買い物をしていた。

現在ヴィータはお菓子売り場やアイス売り場へと足を運んでおり、はやてとシャマルは夕飯の献立を話し合いながら食品売り場をショッピングカートに買い物カゴを載せて押していた。

「今日は何にしたらええと思う?シャマル」

「そうですねぇ。昨日はお鍋にしましたから、今日はカレーとかにしたらどうでしょう?」

「そうやね。辛いものはここんところ、ご無沙汰のような気がするしカレーにしよか」

「ヴィータちゃん。喜ぶでしょうねぇ」

はやてとシャマルは本日の夕飯を決めると、そのための食材を探す事にした。

「はやてぇ。コレ買っていい?」

ヴィータがいつも食べているカップのアイスを一つ持ってきた。

それは今まで見たことがないものだと、はやては記憶している。

「ヴィータ、新作か?」

「うん!だから買っていいでしょ?」

はやてに訊ねられて、ヴィータは素直に肯定してから陳情した。

「しゃあないなぁ。あんまり食べ過ぎたらあかんで?」

はやての言葉は「買ってよし」と同じ意味を持っていた。

「ありがとぉ。はやて」

ヴィータは即座に手にしたアイスを買い物カゴの中に放り込んだ。

「ヴィータのアイス好きは筋金入りやね」

「そうですねぇ」

ヴィータの後姿を見ながら、はやてとシャマルは微笑んでいた。

 

そんな後景を海鳴の夕焼け空から見ている三つの光球があった。

「すでに五ヶ月か……」

彼が別世界に来てから既にそれだけの時間が経過していた。

「何故『闇の書』とやらを手中に収めないのですか?」

光球の一つが丁寧語で自分の前にいる光球に訊ねる。

「今の『闇の書』は未完成そのものだ。そんなものを手中に収めても何の意味もない」

光球は『闇の書』の起動時から現在に至るまでの経緯を大体把握している。

はやてとヴォルケンリッターの会話を聞いて、情報を得たのだ。

『闇の書』は起動しただけで、力を発揮するには不十分すぎるという事を。

現マスターが『闇の書』の完成を望まない事を。

その現マスターが芳しくない状態に陥っている事を。

ヴォルケンリッターが現マスターに内密で『闇の書』の蒐集活動をしている事もだ。

光球は自分に向けて丁寧語を放った光球を見る。

全身が震えていた。

それだけで、どうしたいのかという事が理解できた。

そして、ある仮説が浮かび上がり、検証してみる事にした

「ある事を確認したい。『闇の書』を奪ってこい。方法は任せる」

「先程、今の『闇の書』は手中に収めても無意味だとおっしゃいませんでしたか?それに方法は任せるという事は、小娘の処遇は好きなようにして構わないということですか?」

「ああ。煮るなり焼くなり好きにして構わんぞ。むしろその方が俺が確認したい事がよりハッキリするだろうしな」

「では、行って参ります!!」

光球は言うと同時に、地上へと向かっていった。

「主が危険に直面した時、『闇の書』はどう出るか……。見ものだな」

光球は高みの見物としゃれ込むことにした。

 

スーパーを出て、道草をすることなく八神家へと戻ろうとするはやて、シャマル、ヴィータ。

「悲鳴?何やろ?」

はやての耳に突如、人悲鳴のようなものが入ってきた。

ヴィータとシャマルは守護騎士として主を護るようにして、はやての前に立つ。

「ヴィータ?シャマル?」

はやての呼びかけに二人は反応しない。

二人とも普段は見せないような表情をしていた。

「シャマル。はやてを頼んだぞ。あたしはちょっと見てくる!」

「わかってるわ。ヴィータちゃんこそ無理しないでね」

「わーってるよ!」

ヴィータはそう言うと、悲鳴が聞こえてくる方向へと駆け出した。

「ヴィータ!?」

「ヴィータちゃんは様子を見に行きました。はやてちゃんに危険が及ぶものがあったら、進路を変更しないといけませんからね」

戦って蹴散らすという方法もあるが、内々で蒐集活動をしている手前としては大っぴらに騎士服着用して戦うわけにはいかない。

「危なくないやろか……」

はやては心配げな表情をしている。

「大丈夫ですよ。危なくなったらすぐこっちに戻ってきますから」

シャマルは、はやてに安心させるように告げた。

 

ヴィータは悲鳴のする方向に足を運び、何が原因なのかを探ろうとしていた。

電柱の陰に隠れてこっそりと見ている。

その原因はあっさりと見つかった。

「な、何だよアレ!?」

ヴィータが見たものは二足歩行で道を堂々と我が物顔で歩いている、着ぐるみにしては愛想の欠片もないアザラシをモデルにした何かだった。

両手にはサイという琉球古武術などで使用する武器が握られていた。

しかも歩き方が普通の歩き方ならば一般市民の方々も悲鳴を上げたりはしないだろう。

チンピラや極道の方が自らを誇示するための歩き方をしているので、異形な外見も重なって悲鳴を上げさせたのだろう。

「魔法生物とかじゃねぇよな……」

ヴィータは経験上、そう判断できた。

無論、この時の彼女に『イマジン』という単語が出てくるわけもない。

お化けアザラシ(命名者:ヴィータ)がこちらに寄ってくる。

(やべ。気付かれた!?)

そして、電柱に向かってサイを突き刺した。

刺された箇所から亀裂が走って、電柱は粉々になる。

粉塵が舞う中から、お化けアザラシが自分の前に立っていた。

「そこの小娘。『闇の書』の関係者だな?」

「さ、さぁな。知らねぇよ!」

強い否定が逆にお化けアザラシの確信を得る結果になる事をヴィータは気付いていない。

(逃げ切れねぇ。シャマルに知らせて、はやてをこっちに来させないようにしないと!)

ヴィータは念話の回線を開いて、シャマルにこの事を伝える事にした。

(シャマル。あたしだ!手短に言うぞ。今こっちにはお化けアザラシがいるから来るなよ!)

(お化けアザラシ?ヴィータちゃん、何なのソレ?)

(あたしにだってわからねぇから、そういう名前で呼んでんだよ!魔法生物じゃねぇってことだけは確かだと思うけどよ!)

ヴィータはシャマルと念話しながらも、今の状況をどうしようかと考えている。

ここが蒐集活動をしている近辺の次元世界ならば戦闘形態になって迎え撃つことも可能だろう。

だが、ここは海鳴市。結界も張らずに自分が戦闘形態になる事で主であるはやてに迷惑をこうむる事もありえる。

(はやてが『親の関東冬のトド』で責められちまう!)

正解は『親の監督不行き届き』である。

ヴィータが最も望まない事だ。

自分が戦闘形態になるのは蒐集活動の時だけだと決めている。

ヴィータは、はやての身を案じるようにして視線を左へと向ける。

「なるほど、向こうにいるわけだな」

お化けアザラシはヴィータの眼の動きを見逃さなかった。

そのまま、はやてのいる方向に足を進めていく。

「待ちやがれ!」

ヴィータはそう言うと同時にお化けアザラシに飛び掛る。

「邪魔だ」

お化けアザラシが、サイを左手に持って右手で拳を作って素早く繰り出す。

「がほぉっ」

ヴィータの腹部に剛速球を打ちつけられたかのような衝撃が走る。

そのまま、背中を壁に叩きつけられずるずると落ちていった。

(は、はやて……)

 

「ヴィータ、どうしたんや?シャマル!」

中々戻ってこないヴィータの心配が限界を超えて、はやてはどこか焦りと苛立ちが混じった声でシャマルに問う。

「お化けアザラシと遭遇して、そこから念話で連絡を取ろうにも何も……」

「お化けアザラシ?もしかして『怪人』かもしれへんね」

はやてが深刻な表情をしている。

「はやてちゃん。怪人って何なんですか?」

聞き覚えのない単語に疑問顔をシャマルは浮かべている。

「怪人っていうのはね。えーっと二足歩行なんやけど人の姿してへんモンスターみたいなもんかなぁ」

はやてとて、『怪人』をきちんと説明できるわけではない。

彼女が知っている『怪人』の知識は本に書かれていたことなのだから。

誕生経緯に関しては不明点が多すぎるものだったが。

「シャマル、ヴィータから何にもあらへんって事はその怪人アザラシ(命名者:はやて)に襲われたんかもしれへんで!」

はやてはそう言いながら、車椅子のタイヤを回していく。

「はやてちゃん、どこいくつもりですか!?」

「決まってるやろ!ヴィータをほったらかしになんかできひん。助けに行くで!」

シャマルが呼び止めるも聞かず、はやては怪人アザラシとヴィータがいる場所へと向かっていった。

 

 

「お化けアザラシに怪人アザラシか。イマジンという名称がなければそう捉えられても仕方ないな」

ヴィータやはやての呼び方に侑斗はケチをつける気はなかった。

自分とて『イマジン』という名称を知らなければそのような名称で呼んでいたと考えられる。

「俺はイマジンが相手でよかった。お化けでは対処のしようもないからな」

デネブは心底相手がイマジンでよかったという安堵の息を漏らしていた。

「デネブちゃん。お化け苦手やもんね」

はやては、デネブが季節外れの怪談特集をテレビでしていたときに布団に(くる)まっているデネブを思い出していた。

「お化け以上の見てくれなのにな……」

イマジンの生態はよくわからないというふうに侑斗は呟いた。

 

 

「!!」

侑斗は別世界では初めての感覚が走った。

それは本世界ならよくあるといえばおかしいが、それなりにある感覚---イマジンの感覚だからだ。

「侑斗?」

デネブは侑斗の表情及び纏う雰囲気の変化に気付いた。

「イマジンだ!とにかく行くぞ!」

「了解!」

侑斗とデネブはイマジンがいる方向へとまっすぐに向かっていった。

目的地に向かう中で、デネブは横で走っている侑斗に気になっていた事を問うことにした。

「侑斗、何故別世界にイマジンが?」

「さぁな。イマジンが別世界にいる理由は考え付くだけで二つあるがな」

「二つも?」

侑斗は頷いてから答える。

「一つは俺達と同じ方法で別世界に来たイマジン。もう一つは俺達の世界と同じ条件で出現している別世界

のイマジンだ」

侑斗がイマジンが出現できる可能性を述べると、前を向いて歩幅を広げて走る速度を速めた。

「区別はつくと思うか?」

侑斗はイマジンの分別がつくかどうかを訊ねる。

「つくと思う。本世界(俺達)側のイマジンなら電王やゼロノスを知らないはずがないから、別世界のイマジンならそういう知識はないと思う」

「なるほどな。イマジンの台詞で決まるってわけか」

「うん」

それ以降は一人と一体は一言も話さずに全力で走り出した。

目的地に到着すると、一人の少女が壁に手をつけてゆっくりとだが立ち上がろうとしていた。

「デネブ」

侑斗は助け起こす手伝いをするようにという意味を込めて、名を呼んだ。

「了解」

デネブは侑斗の意図を理解しているので、それだけで行動に移した。

「大丈夫か?」

デネブがしゃがんで少女---ヴィータの前に手を差し出す。

「あ、ああ。てか、何なんだよオマエ?」

ヴィータは両目をパチパチさせてデネブを見ている。

「デネブです。初めまして」

しゃがんでいたデネブは立ち上がって、頭を下げた。

「あ、コレどうぞ」

そう言ってどこから持ってきたのかバスケットからデネブキャンディーを一個、ヴィータに渡した。

「あ、ああ」

ヴィータは怪訝な表情ながらもデネブキャンディーを受け取る。

侑斗は粉々になっている電柱を見てから、ヴィータの前に立ってしゃがむ。

「この電柱、天災じゃないよな。誰がやったかわかるか?」

「お化けアザラシだ」

ヴィータは自分が見たものを自分の名称で告げた。

「お化けアザラシ?侑斗、もしかして……」

「間違いないな。それでそのお化けアザラシはどっちに行ったんだ?」

デネブと侑斗は顔を見合わせてから納得すると、ヴィータに向かった先を訊ねる。

「このまま、真っ直ぐに……」

ヴィータは右腕を強く打っているのか左腕でかばうようにしている。

「そうか。デネブ、この子の傷の手当てを頼む」

「了解!」

デネブに指示をしてから、侑斗は目的の方向へと向かおうとするが、ヴィータが呼び止めた。

「ま、待てよ。あたしも連れてってくれ!お化けアザラシは、はやてをあたしの家族を狙ってるんだ!」

強い眼差しでヴィータは侑斗を見つめてくる。

(イマジンに狙われる理由がこの子の家族にはあるのか?)

「侑斗……」

デネブはヴィータと侑斗を交互に見る。

「わかった。デネブ、その子の事頼むぞ。俺は先に行くからな」

侑斗はまた目的地に向かって走り出した。

 

「あれが怪人アザラシ!?」

「本当に怪人ですよ!?はやてちゃん!」

はやてとシャマルの前に、怪人アザラシがサイを構えて立っていた。

「お前が『闇の書』の主だな?」

確認するように怪人アザラシがはやてに訊ねる。

はやての前に立つシャマルに訊ねないのは、上下関係を見抜いてのことだろう。

「だ、だったら……な、何なんですか!?」

はやては精一杯の虚勢を張る。

逃げようにも完全に眼前の怪人アザラシが放つ雰囲気に呑まれて、逃げられる状態ではなくなっている。

「ある方から『闇の書』を奪うように言われたのだ。『闇の書』をよこせえええええ!!」

怪人アザラシがはやてとシャマルのいる方向に詰め寄ってくる。

「させないわ!」

シャマルが両手を広げて通さないようにして、はやての前に立つ。

「邪魔だ!」

怪人アザラシの右裏拳がシャマルの右こめかみに直撃して、シャマルを左へと飛ばす。

シャマルはそのまま重力に逆らうことなく、宙から地へと落ちていった。

「シャマル!」

はやてが名を叫ぶが、シャマルは地面でグッタリと倒れて起き上がる気配はない。

「さて、残るはお前だけだ」

サイの切先をはやてに向ける怪人アザラシ。

はやては睨んでいるが、全身が震えていた。

「『闇の書』を渡さないと、お前が死ぬ事になるぞ」

『闇の書』を渡すという事はヴォルケンリッターと別れる、つまりまた一人ぼっちになるということだ。

「い、嫌です!」

はやては否定をした。

全身を震えながらも、はやては怪人アザラシを睨んでいる。

「だったら死ねぇぇぇぇ!!」

怪人アザラシが両手を振り上げてから、さらに間合いを詰める。

 

「おりゃああああああ!!」

 

突如、男性の声がはやての耳に入った。

「げぶぅ」

怪人アザラシが男性に飛び蹴りを食らって前のめりに倒れた。

「え、え?」

はやては何が起こったのかわからない。

眼をパチパチしている。

「大丈夫そうだな。危ないから少し離れてろ」

眼前の男性---侑斗は自分に言ってから、注意を促す。

とにかく、怪人アザラシに蹴りを入れた以上仲間ではないなと判断した。

「は、はい。ありがとうございます」

はやては礼を言ってから、シャマルの側まで車椅子を操って移動する。

 

「やっぱりイマジンか……」

侑斗は予想が当たっていたとしても、特に嬉しそうな表情はしていない。

どちらかというと面倒くさそうな表情をしていた。

「来て早々、一枚使う羽目になるとはな……」

侑斗は自らのオーラを用いてゼロノスベルトを出現させて、腰に巻きつけて左側にある黒いケースを開いて、ゼロノスカードを一枚取り出す。

野上良太郎がいれば、任せられるのだが今彼はここにはいない。

そして、ここで怪人アザラシと呼ばれているイマジンと戦えるのは自分だけだ。

だから使うしかない。

(正直、別世界では初めてだ。いつもと同じ様になるかどうかもわからないがやるしかない!)

覚悟を決めてゼロノスベルトのバックル上部にあるチェンジレバーを右側にスライドさせる。

和風のミュージックフォーンが流れ出す。

 

「変身!!」

 

侑斗はゼロノスカードをゼロノスベルトのクロスディスクにアプセットする。

同時にチェンジレバーが左へとスライドした。

『アルタイルフォーム』

ゼロノスベルトが電子音声で発すると、侑斗の身体がオーラスキンに覆われ、オーラアーマーが装着されていき、銀色のデンレールは金色へと染まっていく。そして牛の頭が頭部のデンレールを走って固定位置になると停まって電仮面となっていった。

緑色のフリーエネルギーが吹き出てから、右手を天に向かってかざす。

「はっ!!」

同時に空が雨雲に覆われ一筋の雷が落ちた。

落ちたアスファルトは小さなクレーターが出来ていた。

侑斗はゼロノスへと変身が完了した。

専用ツール、ゼロガッシャーの右パーツをホルスターから外して左パーツに縦に差し込んで、ホルスターから引き抜いて宙で振りながら、フリーエネルギーで巨大化する。

Zサーベルの切先が地に刺さってから、ゼロノスは怪人アザラシ---シールイマジンを右人差し指で指して宣言した。

 

「最初に言っておく。俺は別世界でもかーなーり強い!!」

 

はやては侑斗の変身を一部始終見ていた。

(あれってあの本に書いてあったヒーローと姿は違うけど、何か似てる……)

はやてはとある本を一週間に一度は必ず読んでいた。

タイトル名は『太陽の王子は大いなる闇を切り裂く』

その中に、一人の青年が変身してヒーローになると書かれていた。

ヒーローの名はというと。

「もしかして、仮面ライダー?」

はやての言葉にゼロノスは反応する。

「仮面ライダー?何だよソレ。俺はゼロノスだ」

ゼロノスは仮面ライダーであることを否定した。

(ゼロノス?あれ?でも本に書いてあったヒーローも仮面ライダーの後ろに長い名前がついてたような……、そや!)

はやては何かを思いついてからゼロノスに向かって言う。

 

「なら、仮面ライダーゼロノスや!」

 

ゼロノスが仮面ライダーゼロノスへと変わった瞬間である。




次回予告

第三十三話 「侑斗とデネブ 八神さん家の事情を知る」

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